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2015年9月号より

““魂動デザイン”の造形美をつくり出すプレス成型と塗装技術|月刊BOSSxWizBiz

プレス成型と塗装品質と

広島市にあるマツダの本社工場(宇品工場)で働く社員は総勢7000人。うち、現場の職長が200人強いるのだが、こうしたいわば現場監督たちが生産車種のデザインモデルを見る機会は、量産開始の少し前というのが普通だ。ところが「ロードスター」の場合、それが通常より8カ月も前倒しされた。ヴェールを脱いだ新型ロードスターを目の前にして、職長たちは次々にこう漏らしている。「かっこええのう!」「こりゃイカすで!」

が、我に返って冷静になると、今度は「こりゃ難しいで!」「これをワシらがどうやってつくるんかいのう!」という言葉に変わっていた。その傍らで、デザイン本部チーフデザイナーの中山雅氏はこう呼びかけたという。

「量産が難しいデザインなのは、デザイナーとして重々にわかっていますが、敢えてこうしています。このクルマは、工場の生産ラインから淡々とアウトプットされるような商品ではありません。工房から1台1台生み出すような、そんなクルマづくりを一緒にやってくれませんか。ロードスターというクルマは、現場の知恵や技、汗や力が詰め込まれれば詰め込まれるほど、お客様が乗って味わって感動していただける、そんな商品なんです」

そこまで聞かされて、200人を超える職長たちは意気に感じ、「じゃ、ウチの職場もいっちょやったるで!」と応じたのだった。

ここからは、本社工場主幹としてその職長たちの束ね役を担う、植松充氏に語ってもらおう。
「具体的に、これは難しいと思ったのは、フェンダーの絞りが歴代ロードスターに比べて格段に深くなっていたことです。これは(いまのマツダ車を貫く)“魂動デザイン”を表現するためにはどうしても必要なんですが、シャープに立ち上がったキャラクターラインが段々薄くなって消えていく。ふくよかで艶めかしいこうした形状な上、ボンネット、フェンダー、トランクの部分をアルミで作りこまなければいけない。そこに最大の難しさがありました」

ポイントは、造形美を作りこむ上でのプレス成型と塗装品質にあるという。植松氏が続ける。

「まずプレスの領域からお話ししますと、デザインのモデラーさんが粘土、つまりクレーモデルで、手先と目の力のよって0.1ミリ単位の微妙な曲面を作り上げています。彼ら彼女らはまさに匠の技を持っているわけです。しかし生産現場の我々からすれば、それは粘土での話であって、自分たちはアルミを多用した、走りのいい“実車”を作らなければいけない。

アルミに関してはとにかく知見が少なくて、アルミ特性は鉄に比べて非常に伸びにくく、一見、軟らかいんですが、曲げるまでは硬くて、曲がりだしたらふにゃっと曲がる。で、曲がった後、またふわっと戻ってくるスプリングバックがあって、なかなか美しく、しわや歪みなく寸法通り作り出すのが難しいんです。実際、トライプレスを行いますと、あれっ?っていう箇所にしわや歪みが残ることになります。

そこを丁寧に、根気強く仕上げていってくれたのが匠の職人たちで、デジタル技術を使って現物をスキャニングし、データ化していく。その結果、熟練の技で、シミュレーションを超える最適な金型形状を作り込んでくれました。アルミでも造形美が崩れない分岐点を数値化し、維持・管理できたことによって、均一で美しい魂動デザインが提供できたのです」

無理、無駄、ムラを徹底的になくしたのが、マツダ自慢の混流生産だ。

ロードスターは、ヘッドランプからフロントフェンダーの頂点を経て、リアタイヤの前でいったん収束し、そこからリアフェンダーの頂点に跳ね上がって後方へ抜けていく、緩急のあるラインがデザイン上のひとつの魅力になっている。「そういうシャープなラインが光沢感や陰影感を生み出しているわけですが、それを生かすか殺すかは、塗装の滑らかな仕上がりにかかっているのです」

遠目にはきれいに見える光沢ラインでも、至近距離からじっくり眺めると、光沢ラインがクッキリ通る、いわゆる平滑性が確保できない。流面形を持つロードスターの塗装は、ほかの車種のそれとはレベルが違うのだ。

「塗装面が非常に滑らかで平滑でないと、艶めかしいラインが台無しになります。一見、滑らかなように見える塗装面は、吹き付けがばらつくと、うろこ状になったりぼやけたりする。そこを統一して、ピシッと一直線に陰影感を出したい。ベース塗料を吹き付けた後、何層かの塗膜を重ねることで、発色、反射、光沢、平滑という要素を作り込みます。

で、塗り方を美しくなるようにとことん研究した結果、微粒子化にチャレンジしました。吹き付ける際の粒子が大きいと、付着した後の表面にデコボコが残るので、この粒をナノレベルにまで微粒化する。そのためには、吹き付けの流速が速過ぎても遅過ぎてもいけない。最適回転数で制御する値を見出して、コンピュータプログラムに入れています。

塗装面の焼き固め方も、一番活性化する温度条件や時間を見極めましたし、平滑性と光沢は相反する特性なのですが、ここも調和するベストポイントを見出しています」

極められた混流生産

4代目ロードスターの開発テーマは「軽く、よりコンパクトに」だったが、植松氏が率いる生産現場としても、軽量化の追求によって材料、エネルギーなどの絶対量が減り、ひいてはそれが作業工程での負担軽減にもつながって、さらにクルマの運動性能も上がるなど、いいことづくめだった。が、言うは易しで、前述したようにアルミの多用化による軽量化では、知恵と匠の技が求められたわけだ。

リアに向けて跳ね上がっていく美しいラインには、植松氏以下、匠の技が詰まっている。

もうひとつ、FR(後輪駆動車)のロードスターは、FF(前輪駆動車)で乗用車を作って、そのプラットフォームを流用してSUV車などを派生させる手法とは根本的に異なる。いわば特別設計なのだが、「だからと言って高いお値段で提供するわけにはいきません。お客様に走る喜びを感じていただきながら、価格はアフォーダブルなものでないといけないのです」と植松氏。同氏はさらにこう続けた。

「共通部品もうまく使っています。ドアのアウターハンドルは、ドアパネルをデザイン的に工夫することで、SUVなどで使っているアウターハンドルをそのまま持ってきても、違和感のないものになりました。また、サイドマーカーも実は『RX-8』の流用部品。こうした、あまりわからないところで工夫をし、無駄なコストをかけず、かつお客様に乗っていただいても価値を下げない努力を随所に織り込んでいます」

部品の共通化だけではない。マツダでは、1つの生産ラインで複数のクルマを製造する“混流生産”が定着している。同じ車体組み立てラインに、ロードスターもSUVの「CX-3」も一緒に流れてくるのだ。これを可能にしたのは、どのタイプのクルマでも対応できる、汎用性の高い工作機を導入しているからだ。また組み付ける部品にしても、違うクルマが流れてきた際、瞬時に該当車種の部品をピックアップできるよう、プラモデルのキット箱のような部品入れが置かれている。

植松氏は、ロードスターの生産でまた1つ達成感を得た。

エンジンの組み立ても同様で、低燃費、特にカタログ値でない実燃費の高さで定評を得たスカイアクティブエンジンは、エンジン共通の工程を担うラインと、車種ごとに違う特殊工程ラインをうまく組み合わせることで、無理、無駄、ムラのない工程を実現した。

一般的に、新車発表会の席では開発責任者がそのクルマのプレゼンテーションを行い、同席したデザイン責任者がその後、デザイン解説をするのが普通だ。だがロードスターの場合、開発ストーリーと並んで、植松氏による生産面での秘話を披露しており、こうした試みは初めてのものだった。同氏は最後にこう結ぶ。

「工場サイドは、言われた通りに、設計図面通りにクルマをつくっていればいい時代は、もう終わりました。当社は、開発もデザインも生産も一緒になってクルマを世に出していく体制に変わりましたし、お客様に寄り添うクルマづくりという点では、まだまだこれからだと思っています。我々もいろいろなクルマの開発主査と同じレベルの目線、思考に足並みを揃えると。この流れをさらに強くしていきたいですね」

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