ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年9月号より

機能性・利便性とリーズナブルな価格でビジネスマンのおしゃれを支える/東京シャツ 専務取締役 営業統括本部長兼商品本部長 渡部陽一

いまやビジネスマンのおしゃれの主役になったシャツ。これまでの白、ブルー、ピンクといった色や、ストライプ、チェックといった画一的な柄だけなく、そのファッション性は広がっている。そんなシャツ業界トップを走る東京シャツのものづくりの本質とは?

SPA事業に業態転換

ビシッとしたスーツの着こなしはさすが。渡部陽一さん

スーツのおしゃれな着こなしは、胸元のVゾーンをどう見せるかで決まるといわれる。そのためジャケット、ネクタイ、シャツの3つのアイテムの色、柄、デザインの組み合わせがポイントになる。

しかし、クールビズが導入され、ジャケットを着なくなり、ノーネクタイになると、シャツそのものがおしゃれの主役になった。

「クールビズも11年目、東日本大震災後は5月からノーネクタイになるスーパークールビズがはじまったことで、それまで実用的な商品だったシャツがファッション商品として注目を集めるようになりました。それまで襟のデザインは大別してレギュラー、ワイド、ボタンダウンという3つでしたが、いまは細かいものまで入れると50種類以上。襟のボタンが2つなど、デザインのバリエーションも増えて、それだけでデザインの幅が大きく広がっています」

こう説明するのは「BRICK HOUSE」「シャツ工房」などのブランド名で知られるシャツメーカーのトップ企業、東京シャツの専務・渡部陽一さんだ。

東京シャツは、1949年にワイシャツの製造卸企業として設立。現在は年間350万枚以上のシャツを販売する業界トップ企業だ。しかし、90年代の東京シャツは百貨店への製造卸業者としては2番、3番手の企業だったという。

「バブル崩壊後、百貨店さんの売り上げも落ちていき、取引先の整理が行われました。そこでうちは掛け率の交渉をされたり、はじき出されるようになりました」(渡部さん)
2000年には、売り上げのおよそ4割を占めていた百貨店のそごうが民事再生法を申請。東京シャツも事業の転換を迫られることになる。

「これまで通り百貨店さんと商売していても、自分たちの先行きが危ういのではないかということもあって、97年に大阪・梅田にオリジナル商品を扱う『シャツ工房』の1号店をオープン。売り上げもあったため、百貨店さんへの卸から、SPA(製造小売業)へと業態を変化させていったのです」(渡部さん)

キーワードは「求めやすさ」

東京シャツの製品を見ていくと、「機能性・利便性・経済性」が貫かれていることがよくわかる。

具体的には、東京シャツの製品はすべてが形態安定加工なため、洗濯後にアイロンをかける必要はなく、利便性に優れる。その一方で、形態安定加工は、天然素材と比べると、安価な商品と思われがちな面もある。そこで東京シャツでは、形態安定加工では難しいジャガード織りを組み込んだ高級感ある生地や、形態安定加工をしにくい柄の生地を使いファッション性の高いものにすることで、こうしたイメージを払拭した。さらに販売する形態安定加工のシャツに、明確な基準を設けている。

ラウンドカラー=価格2900円+税(左)/スキッパーボタンダウンカラー(中)、ホリゾンタルカラー(右)=価格はいずれも5300円+税(プレミアム)

「JIS規格では形態安定を5等級に分けていて、3級というのが一つの目安になっています。そこで当社は3.5等級を目標に、店頭に並ぶ商品はすべて3.2級以上になっています」(渡部さん)

機能性という面では、型崩れしやすい襟、前立て、袖口に特殊芯地を入れて、洗濯を繰り返してもしっかりとした仕上がりになるよう工夫した。とくにクールビズではノーネクタイのため、衿元が崩れてしまいがち。しかし、この芯地によって衿元は見た目にもスッキリとした状態を保てる。

また、最近はとくに「メイド・イン・ジャパン」にこだわる傾向が強いが、東京シャツはこれについてもこだわりはない。

「私たちは特に生産拠点について、日本にこだわっていません。お客さまにとっては、きちんとした品質で、デザイン性やファッション性にすぐれていれば、日本製ではなく中国製などであっても購入していただけると思っています」(渡部さん)

と経済性の観点からは柔軟にとらえる必要があるという。実際、同社のシャツの価格帯は2000円台から5000円台で、ボリュームゾーンは3000円台。品質を保ちながら価格を維持するために、さまざまな取り組みをしている。

また、商品構成では、1つの定番にこだわるのではなく、常に新しい商品を出し続けるという。

「オリジナルの店舗展開を開始したときから行っていますが、毎週、新しい商品を入れています。1種類の商品は売り切りで、その期間は1カ月半が目安です」(渡部さん)

もちろん、なかには売れない商品もあるが、それらは1カ月でセール品になる。その一方で、新しい商品を出し続けるというのが東京シャツのスタイルなのである。

「百貨店への卸をやっていた当時は、セール品があると新商品が売れないのではという思いもありましたが、リーズナブルなものであれば買っていただける。それに気づくのに3、4年かかりました」(渡部さん)

今年2月、東京シャツは日清紡の傘下入りした。安定成長のためには、素材開発と生地の安定調達は欠かせない。日清紡の下で安定的に素材を確保できるようになり、それも東京シャツの強みになる。構造不況といわれるシャツ業界で、成長を続ける東京シャツ。その挑戦は新たなステージに入ったようだ。

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