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2015年9月号より

先代より大幅“シェイプアップ” 受け継がれる「人馬一体」の志|月刊BOSSxWizBiz

四半世紀を超えるDNA

毎年、6月下旬から7月上旬にかけ、英国のグッドウッドで開催されるモータースポーツフェスティバル。英国は、「ロードスター」のような、2シーターオープンでライトウエイトスポーツカー発祥の地だ。4代目の新型ロードスター(現地名はMX-5)を現地でもデビューさせた、マツダ商品本部主査の山本修弘氏は、帰国したばかりで感慨深げにこう語り出した。

「グッドウッドに行くと、自分が小さい頃に憧れたクルマから最新のクルマまで、いろいろなスポーツカーが走っていてとても心地いいんですよ。私にとって至福の時間といってもいいですね」

ロードスターの開発過程での出来事や思いを書き留めた「巻物」を指さす山本氏。

山本氏はマツダのロータリーエンジン開発に20年携わり、ロードスターも初代を除いて開発に関わってきた、ミスタースポーツカーのような存在だ。同氏が続ける。

「“人馬一体”という考え方は(1989年デビューの)ロードスターから生まれ、いまやマツダ全車に宿るキーワードです。そういう意味で、ロードスターはマツダのブランドアイコンと言える。ライトウエイトスポーツでは世界一の販売台数を誇り、ギネスブックにも記録されていますしね。

最大の魅力は、軽快感、運転の意のまま感、開放感です。今回のロードスターは単なる4代目ではなく、トレンドに迎合するようなデザインでもありません。原点は軽量化でした。クルマを軽くすることは、すべての運動性能にプラスになります。また、オーバーハングをすべての部位で削ぎ落とし、コンパクト化しました。なので全長は、歴代の中で最も短くなっています。

そして、先代まではトランクやボンネットだけだったアルミ使用を、フロントフェンダーにも採用。ルーフを持たないオープンカーにとって、軽くて剛性の高いボディはとても重要です。エンジンも、1.5リットルで7500回転まで回し、エンジンサウンドを楽しむのが醍醐味です。運転の意のまま感には、エンジンをできるだけクルマの真ん中に、かつ低く置くことも効きました」

この4代目ロードスターは、タイヤを四隅ギリギリに配置してコンパクト化した効果もあり、写真で見るよりも実車のほうが、より塊感や曲線美を実感できる。強いて言えば、先代同様、全幅がわずかながら5ナンバーサイズを超えて3ナンバーになってはいるが、全幅がわずかであっても広いということはそれだけトレッドも広がり、クルマの走行安定性に直結する。

加えて、ロードスターは2012年から始まった、マツダの“魂動デザイン”ラインナップの第6弾(これまでは「CX-5」「アクセラ」「アテンザ」「デミオ」「CX-3」)だが、全車でフロントデザインの統一感が持たれている。モチーフとしたのは、チーターの精悍な顔や俊敏さ、躍動感ということで、いまでは一目でマツダ車とわかるほどだ。

これまで日本車は、商業的に成功すればモデルチェンジでキープコンセプト、売れなければデザインを激変させるというのが常で、よく言えば変わり映えするものの、メーカーとしてのブランドアイデンティティが感じられない遠因にもなっていたのだ。

その点、ブランドを確立しているベンツやBMW、アウディやフォルクスワーゲンは一目でそれとわかる。マツダは、車体剛性の高さから、昔から欧州、特にドイツ市場で強い日本車メーカーだったが、内装の質感も含めた魂動デザインの導入で、ドイツのメーカーとも渡り合えるブランド力を手に入れ始めているといっていい。

「クルマの顔って、街を彩る景色みたいなものですからね。極端な話、怖い顔をしたクルマが走っていると街って良くないし、正直、そんなにいかつい顔をして走らなくてもいいだろうというクルマがいっぱいあるでしょう。

BMWとかアウディは、ちゃんとしたブランドアイデンティティがあって、自分たちのDNAをクルマのフロント部分に持っているんです。だから変える必要がない。そこは、どんなブランドを目指すのかにかかっていると思いますね」

しかも、景気の浮き沈みの中、ほかの国内メーカーが不況のあおりを受けてオープンカー・スポーツカーの生産休止や再開を繰り返す中、ロードスターは1989年から四半世紀を超えて、車名も変えず、一度も生産休止することなく受け継がれてきた、貴重なクルマなのである。

思いを束ねる「志ブック」

ロードスターは、初代が1600ccのエンジンで今回も1500ccと、大排気量で高出力を出すのではなく、誰でもが肩の力を抜いて気軽にスポーツドライビングを、それもオープンで心地よい風を受けながらというのが一貫したポリシーだ。だが、それでもハイブリッド車や電気自動車、軽自動車などエコばかりがキーワードに語られるいまの世相では、ロードスターの開発には紆余曲折あっただろうことは、素人でも容易に想像がつく。

実際に山本氏にロードスターでドライブしてもらった。軽快感と車体の剛性感が見事にマッチしている。

「このクルマには2007年から携わりましたが、(その後にリーマンショックなどもあり)デザイン開発は少し遅くて、12年ぐらいからでした。先代よりAピラーを後ろに70ミリ引きたいというのが、デザインサイドの意思として提案がありましたが、エンジニアリング的にはかなり難しい。たとえばロードスターには助手席にグローブボックスがありません。つけると助手席の足元が削られてしまうからですが、それはできない。ならばグローブボックスを削るしかないと」

よく、部分最適でなく全体最適でという言葉を聞くが、大企業ともなれば総論賛成、各論反対で縦割り組織を横串しにするのは簡単ではない。そんな中、開発責任者である山本氏には宝物がある。このページの最初の写真にある、ロードスターの開発過程での思いや出来事を書き留めた「巻物」がそれだ。

「07年4月3日に開発プロジェクトをスタートさせました。4代目ロードスターは、先代に比べてベース車で100キロの軽量化を図って990キロ。1トンを切る重量ですが、開発過程では軽量化で800キロ台を目指したこともありましたね」

部門の垣根を超えて一致団結するには、全社を横断するシステムをきちんと導入することも大事だが、実際には、それぞれの部門スタッフのモチベーションを、どう高め続けられるかにかかっているのだ。

「開発の巻物は単なる記録ですけど、それとは別に『志ブック』というものがあるんです。しかも、製本してちゃんと作りました。開発もデザインも生産も販売も広報も、言葉にして思いを共有しようと。

書いてもらったのは総勢で302名になります。たとえば工場のプレス成型の匠は『匠の技とデジタル技術を融合させ、デザインが求める部品形状を作りこむことでプレス部品を芸術品に昇華させる』とまで思いを書き込んでいるんですよ。工場のメンバーが普通、こんなことを言いますか? 思いを誇りにしてやり切ることができたのです。この志ブックにはファイナンスや原価管理の人間も登場していまして、302名が全員、持っています」

山本氏はロードスターの開発責任者で、多くのメンバーの束ね役であると同時に、役員会議で承認を得るためのプレゼンを行う立場でもある。開発着手からの7年間で、役員に承認を得るまでの会議は、実に45回にも及んだ。

「一貫して言われたのは、『山本、いい商品をつくれ、そして儲けよ。でも資源は限られているから効率的に使え、無駄は一切許さんぞ』と。(円高局面では)『為替前提が甘すぎる』と叱られたこともありました。でも、ありがたかったのは、厳しくは言うけど、どうやったらいいかを役員の方々も考えてくれたことですね」

山本氏は、ロードスターの意義をこう定義する。

「このクルマは単なる移動手段ではない。逆に、移動手段ではないから、50年たってもずっと乗り継がれるクルマになる。人を運ぶだけのクルマはなくなるけど、人や荷物だけではなく、楽しみを運ぶクルマは意外となくならないはずなんですよ。」

ロードスターにはファンクラブも多く存在し、89年の初代で程度のいいクルマは、いまでも中古車市場で売れている。ファンの心を捉えて離さないのだ。

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