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経営者インタビュー

2015年2月号より

女性ファンも急増 新日本プロレスの復活戦略
手塚 要 新日本プロレスリング社長

手塚 要
新日本プロレスリング社長

てづか・かなめ 1972年生まれ。2010年ブシロード入社。12年米国法人に出向。13年帰国後、新日本プロレスリングに出向、執行役員経営企画部長に就任。同年9月社長に就任。

人気が低迷していた日本のプロレス業界にあって、売上高、動員数ともにV字回復をみせているのが新日本プロレスリング。2012年にカードゲームのブシロードの傘下に入り、約2年半で売上高が倍増。利益を出せる体質に転換してきている。従来のプロレス団体経営から何が変わり、どう変革が行われたのか。新日本プロレスリング社長の手塚要氏に復活戦略を聞いた。

「流行っている感」を出す

―― ブシロードが買収する前の12年1月期の決算では、売上高は約11億円でした。それが2年半後の14年7月期では約22億6000万円にまで倍増しています。何が変わったのでしょうか。
手塚 プロレスをビジネスとして見た時に、まず興行があります。そこにテレビの放映権料、グッズの収入、そこから派生するライセンスの売り上げ等があります。売り上げに関して言えば、最もよかったのが1997年、約40億円でした。それが11億円まで下がってしまった理由は明確で、動員人数が下がってしまったこと。人気が下がればソフトとしての魅力も下がり、放映権料も下がっていきます。それに伴って、グッズやゲームのロイヤリティも一気に下がっていきました。

これをもう一度、どう上げるかと言えば、すごくシンプルです。動員人数を上げることから始めました。その材料はブシロードが新日本プロレスをグループ化した時に、すでに揃っていたのです。それは「中身のおもしろさ」です。

当時、動員が下がってしまった原因を分析すると、K-1やPRIDEといった格闘技イベントが台頭してきたこともありますが、プロレス自体の魅力が下がったと感じた人が増えていったことがあります。エンターテインメントとしても、2000年代に入ってインターネットや携帯電話が伸びるなかで、その流れについていけなかった。苦しい時代に入っていきます。ところが、選手たちは努力をして、試合自体はどんどんおもしろいものになっていきました。

コンテンツはいい。ならばドカンと派手に宣伝すればよかった。ブシロードは設立7年の若い会社ですが、広告・宣伝に非常に力を入れています。その手法をそのまま使いました。

新日本プロレスにインターネット戦略は欠かせない。

V字回復できたのはプロレスだからでもあります。いまのメインの客層は30~40代の男性客です。この世代というのは、かつてプロレスに熱中したあと、離れていった人が多い。改めて来てもらうにはどうするかということで、「流行っている感」を出した。たとえば山手線の車体広告に宣伝を出したり、駅貼りの広告をしたり、テレビCMを流した。そうすると、原体験を持たれている人が多いので、また流行っているのかなと、興味を持ってくれる。こうして単純に動員が増えていったんですね。その仕掛けは現在も続いていまして、ほとんどの大会で対前年比105~130%で推移しています。

広告を見て来場した人は、試合がすごくおもしろくなっているので、また来たくなる。その時に人を誘ってくれるんですね。話題になればメディアも取り上げますし、選手もテレビや雑誌に出る機会が増える。メディアに出れば、流行っている感が増すので、お客さんがまた増えます。非常にいいスパイラルができています。お客さんが増えれば、テレビの放映権料は上がっていませんが、グッズの収入も増え、インターネット等のペイパービューでの視聴も増えてお金を生み出します。

―― 30年ほど前はゴールデンタイムにテレビ放送されていましたね。私自身、タイガーマスクに熱中した世代です。
手塚 私もタイガーマスク世代です。小学校の男子の話題はプロレスで、アントニオ猪木とジャイアント馬場が戦えば、どちらが勝つのかを議論したり、技のかけあいをして遊びました。こういう体験を持っている人がいるのは強みです。

―― 現在は毎週土曜に放送されているものの、深夜3時台と、子供が視聴できる時間ではなくなっていますね。
手塚 ブシロードが提供しているカードゲームに「バディファイト」がありますが、このイメージキャラクターにオカダ・カズチカ選手が起用されています。ゲームを通じてオカダ選手がテレビCMに出たり、コロコロコミック(小学館)に出たりしているので、子供に非常に人気があるんです。親御さんが試合会場に連れてきてくれるのを含めると、子供世代への訴求はできている。

問題は、高校生・大学生の男性です。この世代はプロレスに触れないまま来てしまっている。97年の売り上げがよかったのは、タイガーマスク世代がお金を使えるようになったからなんです。当時のテレビ放送は深夜1時頃でしたが、東京ドームで年4回も大会を開催したり動員力があった。

下がってきた理由の1つは、支えてくれる人たちがいたにもかかわらず、その時に次の開拓をしていなかったからです。この人たちが結婚して子供ができてお金が使えなくなり、次の世代がいないから売り上げが下がっていったというのが、2000年代半ばから、つい最近まで起きていたことです。

筋肉好き女性を射止める

―― レスラーの真壁刀義選手が情報番組に登場してスイーツを紹介していますよね。これも会社からの仕掛けなんですか。
手塚 たまたまです(笑)。「スッキリ」(日本テレビ系)という番組の甘いものレポートの枠が空いたので、たまたま放送作家さんが「スイーツ真壁」と名付けて登場したら、定着してしまった。でもリングではそういう顔を一切見せずに暴れているので、その対比がおもしろいんじゃないですか。真壁選手の個性であって、しゃべりもおもしろいですから、スイーツ関係の仕事が向こうから来るんです。本人ももちろん勉強していると思いますよ。おかげで経営側も意識するようになりました。

―― プロレス女子も増えているとか。若い女性を掴むマーケティングもされている。
手塚 最初は特に仕掛けはなかったんです。自然に女性が増えてきた。これも選手の魅力がきっかけだと思います。いまの選手は昔と違って、贅肉を削ぎ落として腹筋が割れているような体のつくり方をしています。以前は黒パンツ黒シューズがストロングスタイルの象徴でしたが、カラフルなタイツやきらびやかなガウンを着て、ポーズもかっこいいものを目指している。筋肉が好き、強い男性が好きという女性が自然と集まってきたんですね。こちらが意識して仕掛けるようになったのは、この1年くらいです。ファンクラブのイベントや女性向けの書籍を出したりし、集まりやすくなったと思います。

IWGPヘビー級王者でもある棚橋弘至選手(左)は新日本プロレスの看板選手として団体を牽引する。

圧倒的に女性に人気が高いのは、棚橋弘至選手、それから中邑真輔選手、オカダ・カズチカ選手ら。まだ実力的にはこれからの選手ですが、YOSHI-HASHI選手も女性人気が上がっている。サイン会で先頭に並んでいた女子高生に聞くと、「かわいい」と言う。彼は中村選手に弄られるのですが、そこが母性本能をくすぐったらしい。女性は試合とは別に、負ける姿もやられる姿も「がんばって」という対象になるんですね。私たち経営側は、移り気な女性客を離さないための施策を練らなくてはいけない。

―― 筋肉好きな女性というジャンルですか。
手塚 だいたい試合会場の3割くらいが女性なんですが、試合会場でサイン会をすると、棚橋選手には半分以上女性です。彼はサインと一緒にハグをしてあげるんですよ。終わるころ、彼のTシャツの肩と胸は口紅とファンデーションまみれ。見たい、触りたいという需要はあるんじゃないですかね。身体を見せて商売できる男性は世の中にどれだけいるか。ただ、ジャニーズ等のファン層とは明らかに違うでしょうね(笑)。

海外展開も視野に

―― 観客が増えてきたとはいえ、売り上げを伸ばしているのは新日本プロレスくらい。他団体との違いはなんでしょう。
手塚 やはり経営ではないでしょうか。昔からプロレスは社長兼レスラーでした。猪木さん、馬場さんしかりです。他の団体もいまだに社長兼レスラーはいます。新日本プロレスは、かなり前の段階から切り離しました。初代から猪木さん、坂口征二さん、藤波辰巳さんときて、4代目からは違います。私は7代目なんですが、プロレスラーでない人間が経営をみる違いがある。

昔は、レスラーですから選手と一緒に巡業をして、オフィスに戻った時だけ経営をみていた。メディアもテレビがメインで媒体も多く、取材を受けることで宣伝もしてくれたわけです。いまはプロレス雑誌も少ないですし、スポーツ新聞もかつてよりパワーが低下しているなかで、自分たちから発信しなければ誰も発信してくれなくなっています。

だからインターネット、フェイスブック、ツイッターとなってくるわけですが、これらもきちんと見て指示する人間がいないとできません。選手は試合に、経営者は経営に力を注ぐよう分業したほうがいいのではないか。確かに昔はレスラー兼社長のほうがスポンサー等のお金は集めやすかったと思います。でも昔と違ってお金を出してくれるところがなくなってきているのが現実です。

―― 売り上げが伸びているとはいえ、最盛期のまだ半分。今後、これを超えていくための仕掛けはどのように考えていますか。
手塚 とにかくお客さんを増やすには、プロレスを対世間に向けて見せないといけない。一番は、テレビの放送をもっといい時間帯にすることですが、こればかりは新日本プロレスだけの話ではありません。それ以外の方法では、早くて確実なのがインターネットです。興行である以上はライブビジネスですが、ライブの限界値は箱の大きさにあります。これを超えるには、インターネットやペイパービュー等、見る環境を整えることが重要です。ライブ配信や過去の試合の映像など、とにかく試合を見る環境を作りつづけなくてはいけません。これにより、会場に足を運びやすく、プロレスを身近に見せるインフラができてきます。

将来的には、海外展開は必須になってきます。14年はタイでの興行を行いました。ASEAN地域はプロレス自体がないので、突然現地に行っても何かわからないのが実情です。まずはプロレスを浸透させていくためにも、インターネットをはじめとしたインフラづくりが必要です。鍛えた体と体がぶつかり合って戦うのはわかりやすいですし、十分チャンスはあります。まだ構想の段階でしかありませんが、現地の人を新日本プロレスに入れてプロレスラーにするのも興味深い。

日本も最初は力道山がアメリカ人を倒すところからカタルシスが生まれ、アントニオ猪木、ジャイアント馬場という日本人のヒーローが生まれ、ぼくらのヒーローが海外の人間相手に戦っているという図式がありました。アメリカ人だけのものだったら根付かなかったかもしれない。普及を図るには現地のレスラーが必要でしょうね。

(聞き手=本誌・児玉智浩)

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