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2013年5月号より

ロングランの上げ相場入り 年内1万5000円も視野
楠 雄治 楽天証券社長

楠 雄治 楽天証券社長

くすのき ゆうじ 1962年11月生まれ。広島市出身。86年広島大学文学部卒業後、日本ディジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社。96年、シカゴ大学ビジネススクールMBA取得。同年A.T.カーニー入社。99年、DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)入社。2006年執行役員COO。同年、社長に就任。

今年に入り、個人投資家が株式市場に戻ってきている。流動性が高まるなか、デイトレーダーだけでなく、中長期の保有目的で資産運用を始める投資家も増えてきた。個人投資家の活性化は、証券会社の経営環境の好転に直結、特にインターネット証券各社は久しぶりの大相場に活気づいている。ネット証券大手・楽天証券社長の楠雄治氏に市場の動向と見通しを聞いた。(取材日は3月5日)

笑い止まらぬネット証券

―― 昨年末の総選挙以降、証券会社を取り巻く環境が大きく変わりましたね。
 取引高も相当増えています。ボリュームとしては、去年の8~10月がどん底でしたから、それにくらべると3~4倍。1月は、日によって5倍近い時もありました。そう思うと隔世の感がありますね。

―― 2月も引き続き維持しているようですが。
 2月に入って少し落ち着いてきた感じもありましたが、日銀総裁人事など、イベントをキッカケにマーケット全体、個人投資家も期待感で再び盛り上がってきています。

―― 次期日銀総裁候補には長年、デフレの責任は日銀にあると批判してきた黒田東彦氏が挙がっていますが、3月4日の衆議院運営委員会で所信表明すると、途端に株価が300円近く上がりました。やはり黒田氏の発言には市場も注目していたようですね。
 アベノミクスの「3本の矢」の1本目ですからね。期待感もありましたし、期待に応えるような人事が出てきましたから、投資家も本当にやりそうだなと、積極的に動き始めた感じですね。当然、金融政策だけでは経済成長できるわけではないですが、実際に金融緩和を実行していくという期待値は高い。

あとは財政政策と成長戦略ということになります。楽天グループ社長の三木谷(浩史氏)も政府の産業競争力会議に出ていますが、そこで規制緩和とセットで戦略が打ち出され実行されていけば、日本経済の長期の成長シナリオが描けます。

―― 三木谷さんの反応はいかがでしたか。
 役員会などでの話を聞いていると、ポジティブに捉えているようですよ。アベノミクスへの期待は大きいようです。

―― 証券業界の話をお聞きしますが、この第4四半期は各社ともいい業績になりそうですね。
 久々にいい数字が出そうですね。ネット証券はシステムとして、お客様の主体的な取引の行動をもって商売が成り立っている。こういう大相場になってくると、お客様が取引を再開されたりとか、頻度を増やしたりされる。トランザクション(一連の事務処理)も一気に増えます。

重要なのは増えた時に、きっちりと受けられるかどうかです。3~4カ月前まではかなりの低迷相場で、取引が少ない状況でした。そんな時でも、システムや人のインフラの部分で態勢を整えているのかどうか。逆に言えば、低迷相場の時に余裕がありすぎる状態でシステムを走らせていたわけで、過剰投資ではないかと思いながら構えていたところもあります。しかしこう大相場になってくると、構えておいてよかった。急増した取引を、収益としてすべて享受できる態勢を準備できていたということです。

 ネット証券各社はこの相場でも問題なく取引できていますので、エンジョイしているのではないでしょうか。対面になると人数の制約がありますから、そうはいきません。ネット証券の場合は受け切れる器があれば、すべて収益にできます。

さらには昨年、あまりに悪かったので、各社コスト削減を一生懸命やっていたんです。でもシステムの器は減らさない。そういう条件で大相場が来たので、コスト体質のいい状況で伸びてきたぶん、この1-3月は各社記録的な利益率を叩き出すと思います。

―― 個人投資家の数という意味ではどうですか。
 日本株だけで言うと、どん底期から3倍くらい増えています。コールセンターの電話が繋がらない状態になりまして、急遽、派遣社員などを増やして対応しました。人が増えれば必然的に稼働も増えますので、取引量はさらに増えます。

加えて、1月から東証の制度改正(委託保証金の計算方法等の見直し)がありまして、信用取引の資金効率がよくなり、回転しやすくなっています。使い勝手がよくなったうえに相場の要素が入って、さらに伸びたという感じですね。

貯蓄から投資へ

―― 問題はこの相場がどこまで続くか、だと思いますが、どのように分析していますか。
 巷では夏までという話もありますが、私は長続きすると思っています。期待値も込みですけど(笑)。
東証の投資主体別の売買動向や財務省が発表する国際収支のデータなど、相場の需給をよく見ているのですが、05~06年の大相場と比較しても、同じくらいのボリュームで海外からのマネーフローが増えてきており、かなり本物だなと思いますね。05~06年の時でだいたい1年くらい続きましたので、今回は海外からの期待も大きいし、政府の政策もこれから出てくることを考えると、アベノミクスが成功するという流れになれば、半年どころか1年、2年続いてもおかしくない。

「こうすればいいのに」と誰もが思っていても民主党政権でできなかったことを、安倍政権でやろうとしている。それも用意周到に手を打ち、アメリカの協力も取り付けて、段取りよく好材料を提供していますね。

―― 1月はダボス会議、G20と国際的な会合のなかで、他国から大きな批判の声が上がらなかったことが大きいですね。
 アメリカも日本に戻ってきてほしいんでしょうね。TPPも、アメリカの立場なら日本が参加しなければ意味がないと思っているでしょう。世界第3位の経済大国が参加しなければ、アジアにおける中国への対抗軸にならないので、TPPに参加させるための環境づくりをしているのでしょう。お互いにWIN-WINだからサポートに入るということだと思います。

重要なのは、いまはみんなが協力的にサポートしてくれていますけど、そのあとに日本が自立して成長できるようなモデルを作れるか。社会が安泰になるには、雇用の安定が不可欠です。日本の製造業は円安で追い風になっているように見えますけど、コスト競争力上は海外に生産を置かざるを得ないために、それほど雇用を増やせるわけではありません。内需型のサービス産業で雇用創出をしていくことにならざるを得ない。そのためにはいろんな規制を緩和して、新しいベンチャーや新しいサービスが生まれてくる環境をつくり、全体の雇用創出に結びつけていかなければいけない。

アメリカはクリントン政権時代に、新規産業が興りやすいようにいろんな規制緩和をして、ITと金融が伸びていきました。ところが、ITと金融では雇用は限定的だったんですね。しかし、景気がよくなって内需が充実したから雇用を生んだ。先進国で雇用を生むには、新しい小さな企業でもいいので、生活を充実させるような産業が興ってくる状況をつくるべきです。

―― 暮らしを安定させるという意味では、年金が怪しくなってきた現在、貯蓄から投資へという流れが必要という見方もあります。
楠 年金の受給開始年齢がどんどん引き上げられる中で、将来の生活資金をどう確保するかが重大事になってきます。日本で401k(確定拠出年金)が始まって10年ですが、残高はたったの5兆円。しかも6割は預金ですから、まったくうまくいっていない。これは制度の硬直性や、主婦や公務員はダメといった対象者が限定的なのが足かせになっている。もっとローコストでフレキシブルな年金制度をしっかり設計して導入していかなければいけません。年金制度が充実して、自己努力できちんと資産形成ができるようになるべきです。

来年から日本版ISAという新しい制度が始まります。年間100万円までは投資信託や上場株式の配当所得、譲渡所得が非課税になるというもので、最大5年間、合計500万円まで非課税になります。これは投資を始める一つのキッカケになると思いますが、長期の資産形成で、さらに20年30年を見据えた私的年金制度を確立して、公的年金の不安への対策を打つべきだと思いますね。

海外分散投資の時代

―― 楽天証券では海外の金融商品に力を入れてきましたが、日本株が元気になったことによる他の金融商品への波及効果はありましたか。
 やはりマザーマーケットの日本市場が元気になることは大きいですよ。個人投資家が参加しやすくなりますから、日本株だけでなく投資信託や日経225先物、為替なども盛り上がってきています。

むしろ、こういう時だからこそ、海外のプロダクトに力を入れて、お客様の投資先を増やしていくことが重要だと思っています。為替リスクもありますから、個人のポートフォリオもグローバルに分散しておかないといけない時代になっている。

11月中旬以降、日本人にとって一番パフォーマンスのよかったマーケットはどこだと思いますか?

日本株は11月中旬から2月中旬までに、日経平均で約30%上がっています。これはすごいことです。ところが、タイのマーケットのパフォーマンスは、40%超。11月中旬にバーツベースでタイの株式に投資をしていたら、いま日本円に戻すと40%以上のパフォーマンス。半分は円安で、半分はインデックスのパフォーマンスです。

グローバルには、為替はこれからも円高になったり円安になったりしますから、そういう為替のタイミングを見ながら、成長市場を選んで投資をしていく。日本は成熟国家ですから、基本的にGDPの成長は、ほぼゼロ。せいぜい2~3%です。海外を見渡してみると、単純に長期投資で、成長経済に投資をする。その国が強くなれば相対的に円安になり、リターンすればかなりのパフォーマンスが得られる。こういう機会をお客様に提供していくべきだと考えています。

―― いま注目すべき国はどういった国でしょう。
 やはりASEANなんですよ。タイ、それからインドネシア。お客様もよく見ていて、ウチのASEAN株の収益はアメリカ株を抜きそうなくらい伸びています。

―― 最後に、今年の株価の見通しはどう見ていますか。
 期待を込めて(笑)。今年ずっとアベノミクスがうまくいき、トピックスがタイムリーに然るべき順序で、いい形で出てくれば、1万5000円を超えるところまで上がってもおかしくないと思います。06年は1万8000円まで行きましたし、当時よりも日本企業の収益力はよくなっています。成長機会さえつかめれば、まだまだ利益も上がる。1万8000円も夢ではないですよ。

(聞き手=本誌・児玉智浩)

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