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2017年4月号より

旅行業を軸に多角経営が加速 M&A推進で年商1兆円狙う|月刊BOSSxWizBiz
澤田秀雄 エイチ・アイ・エス会長兼社長(兼ハウステンボス社長)

澤田秀雄 エイチ・アイ・エス会長兼社長
(兼ハウステンボス社長)

さわだ・ひでお 1951年生まれ。73年旧西ドイツのマインツ大学留学。帰国後の80年エイチ・アイ・エスの前身となる、インターナショナルツアーズを設立。90年エイチ・アイ・エスに商号変更、96年スカイマークエアラインズ(現・スカイマーク)を設立。2004年社長から会長に。07年澤田ホールディングス社長に就任。10年ハウステンボス社長。16年11月、12年ぶりにエイチ・アイ・エスの社長に復帰した。

2016年11月、12年ぶりに社長に復帰したエイチ・アイ・エス(以下HIS)創業者の澤田秀雄氏(会長も兼務)。同氏の起業家としてのパイオニア精神、アドベンチャー精神は、65歳のいまも横溢している。HISで格安航空券というジャンルを切り開き、寡占の航空業界にスカイマークエアラインズ(現・スカイマーク)で風穴を開け、赤字続きだったハウステンボス(以下HTB)では再建請負人を任されて見事に蘇らせた。

さらに近年は、効率性を極めたサービスロボットをHTB内のホテルに導入し、この3月にはその「変なホテル」の2号店が舞浜エリア(千葉県)にオープンする。さらに昨春、電力小売り自由化で新電力会社のサービスも立ち上げ、最先端の植物工場構想もある。加えてHTBに近い無人島を購入し、水上ホテルの事業化も視野に入ってきた。また、昨年末にはカジノ解禁に伴ったIR法(統合型リゾート整備推進法)が成立するなど、事業環境に追い風も吹き、同じ昨年末、宇宙旅行時代をにらんでベンチャー企業にANAホールディングスとともに出資。

このほか、別会社で金融事業や投資事業を司る澤田ホールディングスにおいては過去、モンゴルやロシアの銀行を買収して金融事業の収益に貢献するなど、事業範囲は年々拡大の一途を辿っている。一方で、祖業の旅行ビジネスはやや踊り場にあり、そのタイミングで澤田氏は社長に舞い戻った。社長復帰の狙いから今後の事業構想までを同氏が語る。

12年ぶりの社長復帰の理由

── HISの社長に復帰されて、HTB(長崎県佐世保市)にいる時間は以前よりも短くなりましたか。
前は月の半分ぐらいは向こうでしたが、いまは3分の1ぐらいですね。HTBの社長になって、もう6年以上が経ちましたし。

── まず、社長に復帰された狙いや思いから改めて聞かせてください。
大きく言えば、核になる旅行ビジネスだけでなく、電気の販売やロボット会社の設立、ホテル展開等々、HTBも併せてかなり総合的な会社になってきましたから、ここで1度、串刺しというか組織再編をしないといけないなと。私が社長に戻ってきちんとカンパニー制にしようというわけです。それと、敢えて言えばここ2、3年、HISの業績が伸び悩んできていますので、再び2桁成長に戻そうということ。その2つですね。

── 言われるように事業範囲が多岐にわたり、今回の組織改編の延長線上には、持ち株会社化も視野に入れているのでしょうか。
持ち株会社化には2、3年時間がかかっちゃいます。そんな悠長なことは言っていられないので、まずはいろいろな部門をカンパニー制にしていこうというわけです。もう少し権限と責任を下に落として、スピード感を持った経営、世界を見渡した経営をやっていかないと時代に乗り遅れますから、そういう意味での組織再編ですね。

旅行業に関して言えば、いまはスマホやインターネットでの予約が増えていますから、我々もそちらに大きく舵を切らないといけませんので、旅行、ホテル関係の事業は今後、M&Aを拡大していきます(昨年末にはカナダの旅行会社、メリットホールディングスを買収)。直近では、店頭販売の比率がまだ6割から7割ぐらいありますから。ともあれ、業務がとても多くなってきていますので、カンパニー制にして小さな決裁も早く下に降ろして意思決定していくということと、HISという会社全体も大きくなって小回りが利きにくくなり、やはり決裁が遅くなってきていますから、その改革のために私が社長に戻りました。

カジノ有力候補地のHTB

── 昨年末、カジノ推進法案が成立しました。HTBもカジノの有力候補の1つですが、日本のあるべきカジノの姿も含めて、澤田さんはどう考えていますか。
ほかの国の事例を見ても、法案が通った後、3年から5年後にはカジノができているでしょう。たまたま、HTBは地方のカジノ候補地の中では最も条件が整っています。IR(インテグレーテッド・リゾート)ということなのでカジノだけではダメでイベントもということですから、その点でもHTBは有利です。佐世保市長も長崎県知事も地元の商工会議所も、一枚岩になって「ぜひ、誘致しよう」という活動をされていますので、カジノ誘致の可能性は高いと思いますね。

去る2017年1月30日、ロボット事業会社「hapi-robo st」の設立会見を行った澤田氏(左)。

もう1つ、大きく分けて地方のカジノと、大阪とか都市圏でやるカジノは若干、違うと思うんです。いまはシンガポールにもフィリピンにもマカオにもカジノがあって、ある程度、日本のカジノとして特徴をつけていかないといけないですし、大きな設備投資を伴う事業ですので、地方ではなかなか難しいと思います。

カジノをやるには2つの種類があって、モナコのようなヨーロピアン調の、アジアにはない格式のあるカジノにするのが1つ。HTBでは「ホテルヨーロッパ」などの格式ある施設も整っていますから、そこに少し足して作ればいいと思っています。

もう1つは、アメリカン式の大型カジノをやるかやらないかですが、これはマーケットにもよりますし、大型カジノは大阪でも、あるいは横浜や東京でもいいかなという気はしますね。ただいずれにせよ、何かで差別化していかないと、お客様は遠方からわざわざ来られませんし、カジノのノウハウは、ヨーロッパかアメリカのカジノ事業者と組んでやるしかないと思うんです。カジノは未経験の我々にはわからないことが多いですから、一緒になってやるという形にならざるを得ないでしょう。

── 以前、澤田さんは「首都にはカジノを置くべきではない」と言われていましたが。
大国の首都にはですね。ロシアならモスクワ、アメリカだったらワシントン、中国だったら北京。ドイツもそうですけど、大国の首都にカジノはない。だいたい首都から遠いところにあるんですね。首都、ないしその近隣にカジノを作った国は、ギャンブル依存症のような人が増えて、だいたい国力が落ちていきますから。

── HTBも新たな仕掛けとして、HTBに近い無人島の購入と開発、さらにその先には水上ホテルの展開も考えられていますね。
いよいよ無人島の開発が始まって、HTBも第2ステージに入っていきますからね。水上ホテルはまだテスト段階ですけど、今年の12月には海上でテストして、問題なければ本格的に展開していきます。移動式ホテルとなれば世界初でしょう。水上ホテルの前に先に無人島の開発をし、3年から5年後にはカジノができるかもしれない。カジノにはアウトレットモールも相性がいいですから、そういう施設が整ってきたら、HTBはもう1ランク、ポジションがアップするんじゃないでしょうか。

── もう1つ、HTB内で話題になった「変なホテル」(フロントにロボットを配置したり、ロボクロークやポーターロボなど大量にロボットを使用して効率性を最大化したホテル)の2号店がこの3月、千葉の舞浜地区にオープンしますね。
1号店がどんどん進化していますし、評判が非常にいいですから、2号店も成功するでしょう。マーケット的にも近隣にディズニーリゾートという、大きなマーケットがありますから。今後、国内で4号店ぐらいまで行けば、さらに世界展開ができると思います。将来的には100ホテルまでもっていきたいですね。

── 夢のある話の最たるものが、宇宙旅行の実現に向けて昨年末に会見をされた、ベンチャー企業(PDエアロスペース)への出資でした。宇宙機の商用運航開始の目標が2023年12月ということでしたが、遠いようで近いですね。
私はもう、7年ぐらい前から(PDエアロスペースに)援助してきたんですけど、このままじゃ遅い(笑)。これではアメリカのベンチャーに負けちゃいます。となれば人材も資金ももっと必要。じゃあ、増資しようと。アメリカでは宇宙ベンチャーはいっぱいありますからね。HTBでロボットを多用した「変なホテル」は、世界初でしたから世界のメディアが取り上げましたけど、宇宙旅行、宇宙輸送のような創造的なチャレンジも、もっともっとみんなでしていったほうがいいでしょう。

発電所も植物工場も

── HISグループ全体で見ると、本当に手掛ける事業が多くなってきましたが、多角化のこれからはどんな絵図を描いていますか。
5年後、10年後を見据えて、まずエネルギー問題ですよね。原子力や化石燃料に頼らないエネルギー会社を作りたい。その前段として、とりあえず販売網は持っておいたほうがいいと考え、電気の小売りに参入しました。販売網があれば、売り先が決まっているので後から発電所も造れます。エネルギー事業は大きく育てたいですね。

2016年12月1日、宇宙旅行時代をにらんでベンチャー企業に出資した澤田氏(左)。右端は片野坂真哉・ANAホールディングス社長。

2つ目はホテル。ロボットホテルは世界一、生産性が高いですから、これもいずれ世界展開していく。3つ目は今年、植物工場の建設が始まるんですけど、日本は人口が減っていくものの、世界はまだ増えていて気候変動も激しいですから、食糧不足の時代が来ると思うんです。

そこでいい植物工場を造り、進化していけば、世界のどんな気象条件の都市でも最先端の植物工場が造れるわけで、食糧不足に少しでも貢献できるでしょう。これもHTBの中に造ります。エネルギー資源と食糧が枯渇してくると、人類は歴史上、だいたい戦争しているんですよ。逆に言えば、この2つが潤沢なら紛争は減るわけですから。

4つ目が、そうした最先端工場の手助けをして生産性を上げるロボットです。つい最近、本格的にロボット会社(hapi-robo st)も設立しました。これは相当、面白いプロジェクトになると思います。この4つが、5年後、10年後に花開いていくプロジェクトですね。

── もう1つ、金融や投資事業を司る、澤田ホールディングスもあります。モンゴルやロシアの銀行を買収してきましたが、こちらの事業拡大はどうですか。
モンゴル銀行はモンゴルで首位の銀行ですし、いま、ATMを入れてどんどんシェアを伸ばしています。澤田ホールディングスの関連会社である、外為ドットコムも世界に出始めていますし、債権回収事業も成果が出始めました。今後もM&Aをしながら、育てるものは育て、売るべきものは出口戦略として売っていく形になるでしょう。HISグループはホテルや旅行関連事業、HTBは未来のビジネス、澤田ホールディングスは、どちらかといえば金融関係やM&A関係ですね。

── グループ全体の近未来像や事業の規模感はどう描いていますか。
今後、できれば5年ぐらいで、目標としては売り上げ1兆円、利益で1000億円ぐらいの企業集団にしたいなと思っています。HISはいま、5000億円強の年商ですが、1兆円ないと世界と戦えませんからね。で、その速度を上げるためには、時間を買えるM&Aが有効です。

考えてみれば、いままでのM&Aは先方から頼まれたものばかりでした。赤字の証券会社、赤字のモンゴル銀行、赤字のHTBをどうですか?と(笑)。でも、はたと気づいたら、攻めのM&Aのほうが面白いじゃないかと。お願いされたのは危ないのが多くて(笑)。もう、攻めのM&Aをそろそろやってもいいんじゃないかと思います。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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