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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年3月号より

おせち事件から3年 カイゼン進めるグルーポン
根本 啓 グルーポン・ジャパンCEO

根本 啓 グルーポン・ジャパンCEO

ねもと・さとる 神奈川県出身。1989年慶應義塾大学経済学部卒業後、ソニー入社。2005年アマゾンジャパン入社。07年同社エレクトロニクス事業部長、10年7事業部門ディレクター兼統括事業本部長、12年アプリストア事業本部本部長を経て、13年5月グルーポン・ジャパン入社、8月に代表取締役CEOに就任。

3年前、正月のおせち料理で大騒動を起こしたグルーポン・ジャパン。時を経て、改めておせち事件と向き合い、再出発を誓った。グルーポン・ジャパンは何を改善し、どう変わろうとしているのか、昨年CEOに就任した根本啓氏に話を聞いた。

避けて通れない道

〔昨年11月21日、クーポンサイト大手のグルーポン・ジャパンが記者会見を行った。2011年1月に起こった「おせち事件」から約3年、同社がいかに改善をしてきたかを伝え、名誉挽回を図る場として、改めて事業説明会を行った。
「おせち事件」は、某レストランのおせち料理をグルーポンのクーポン券を利用して購入したユーザーに起こった悲劇のこと。ネット上の写真とはまったく別物の貧相なおせち料理が届けられたり、また配送の遅延で元旦に届かなかったりと、相次ぐ不手際にユーザーの怒りが爆発。非難が殺到し、社会問題にまで発展した。以降グルーポンでは、おせち料理を扱っていなかった。
この日の会見で、グルーポンは「夢のおせち」プレゼントキャンペーンの開催を発表。高級料理店の料理人・シェフの手による豪華なおせち料理をふるまうことで、新たなグルーポンをアピールする試みだった(取材日は12月25日)〕

グルーポン・ジャパンがサービスを始めたのは10年10月、わずか2カ月後の11年1月にあのような騒動が起き、それから多くの改善をしてきました。私がこの会社に入ってから7カ月程度ですが、この半年間でもいろいろと改善を進めています。ここでいま一度、我々のサービスについて、もっと多くのお客様に知っていただきたい。またクーポンを発行するパートナー様にも知っていただきたい。そこで我々の事業を説明させていただく場を設けたわけです。

今回、事業の説明をさせていただく際に、おせちに触れる必要はないのではないかという議論もありました。でも、おせちのプレゼントキャンペーンをしたからすべて信頼が回復する、事故が帳消しになるというわけではありません。我々が避けたとしても、社会で事件が風化しているわけではないですから、むしろ事故を受けて、我々がどう改善したかを紹介し、これからどのような取り組みをしていくのかを紹介したかったのです。

プレゼントという形であって、購入していただくのとは違いますが、いままでにないような夢のおせちを企画させていただき、間違いなく12月31日までにお届けするのがよいのではないかと。今回は31日までに配送可能なエリアということで、関東地方のお客様に限定させていただいたのですが、十数万件の応募があったことは、我々にご注目いただけたということで、素直に嬉しいことですね。

〔創業後、間もなかった11年当時、グルーポンは、おせち事件だけでなく、様々な不祥事を起こしていた。クーポンを発行する店舗との間で契約内容を変更したり、未契約のままクーポンを販売したり、契約数よりも多いクーポンを発行するなど、店側と訴訟に発展するケースも出てきていた〕

11年当時、どういったことがお客様のご迷惑になったのかを検証し、業務のあらゆるプロセスで改善を進めてきました。

例えば、営業の評価制度は、当初は売り上げこそが評価の一番の目標になっていました。それを、お客様の満足度を含めた評価制度へと仕組みを変えていきました。また、営業がとってきた契約の審査基準項目も30件から現在は200件以上にまで増えています。具体的には、パートナー様のメニューの内容は正しいのか、証明書は出していただいているのか、稼働率から見たクーポンの販売枚数は適切なのか、といったチェック項目があり、いまも増え続けています。

サイトのページをつくったあとの校正機能も、外注から内製に変え、責任を持ったチームをつくり、業種別の編集チームをつくって、正確にお客様に伝えられるような体制にしています。そしてパートナー様に、掲載前と後、内容に問題はないか、間違いはないかをお互いに確認するようにしています。契約をとる営業とは別に、パートナー様をフォローする部署をつくり、掲載直前には人員の手配などの確認、掲載後にはクーポンの使用状況や、我々から提供する管理画面の確認など、24時間ご連絡を受け付けられる体制にしています。

エンドユーザー様については、以前のお問い合わせはメールのみの受け付けで72時間以内の返信率が70%程度と、褒められた体制ではありませんでした。現在ではコールセンターでの対応を始め、24時間以内でのメール返信率は93.9%、受電率は97.9%にまで改善してきています。まだ数%でもご対応できていないお客様がいますので、不満に思われることは事実です。継続的に改善に取り組み、エラーを少なくして不満足度を少しでも減らすようにしていかなくてはいけません。

私が来てからの半年でも、別の切り口で、より多くの品揃えや多くのバリエーションを増やし、検索のしやすさや商品の選びやすさ、買いやすさなどの改善を進めているところです。

質の高いディールを

〔クーポンの利用自体は古くからあるものだが、ネットビジネスとして広く認知されるようになったのは、08年11月に米国でグルーポンが設立されてからだろう。ネットのマーケティングとECの普及から広まってきたものだ。そしてリーマン・ショック以降の世界的な景気後退が、クーポンサイトの利用を後押ししたと言えなくもない。節約志向にあったユーザーの「少しでも安く」というニーズに合ったからだ。しかし根本氏は、グルーポンは景気に左右されないビジネスモデルだという〕

本質的には、不景気でも好景気でも、いいものが少しでもリーズナブルな価格で手に入るほうがいい。コストとバリューの関係で、コストパフォーマンスが高いほうがいいというのは、景気がどちらでも同じではないかと思っています。

パートナー様にとっては、新しいお客様を含めて集客ができ、その際に少しアップセールがあって、一部のお客様にはリピートする。そのお客様はどこから、どの年齢層の方が来ているのかもわかりますし、再び集客する時にはまた私たちのプラットフォームを使っていただく。

エンドユーザーの方は、我々ができるだけ多くの、質のいいディールを揃え、ご紹介することで、安く簡単にすばらしいサービスを受けていただけます。

その意味では、我々が地道に質の高いディールを集めることの繰り返しが、結果的にお客様、パートナー様にご満足いただくことになる。不景気、好景気でもやることは変わらないかなと思いますね。

〔特に日本人は品質に敏感な文化をもっている。おせち事件でも発端は品質だった。質の高いディールへのこだわりはどのように実現させていくのか〕

お客様の満足度を測るために、利用後にアンケートを用意しています。その評価が一定の基準に達していないと、次からそのパートナー様のディールの販売を差し控えさせていただいています。もちろんそこで終わりではなく、お客様からの厳しい指摘を私どもとパートナー様で共有し、改善を助言させていただいています。改善すれば、再びよりよいサービスとして、お客様にご提供したい。

満足度が低いと、我々のサービス自体が使われなくなってしまいますので、一定の基準を設け、安かろう悪かろうというものが継続して掲載されないような仕組みにしています。

一方で、ディスカウントのメニューを組んだ時に、その価格でお客様が来店して、どのような採算になるのか、損をしないのか、どの程度儲かるのかを、パートナー様と事前にシミュレーションして共有したうえで契約していただく。集客だけの宣伝ではなく、採算に合って、ビジネスの拡大に繋がり、継続可能なモデルでなければ、パートナー様の再掲載のご意向に繋がりませんからね。もちろん、パートナー様に対しても、毎月定期的にアンケートをお願いしています。お答えによって、どの程度改善の余地があるのか、我々に対する満足度も測っています。

品揃えを増やす、バラエティを増やすというのは、言うのは簡単ですし、実際にやるのも簡単です。でもそれでサービスの質が落ちたら、何のためにやっているのかわからなくなる。質を高めながら、どう拡大していくのか、これは難しいですが、やらなくてはならないことです。

ソニー、アマゾンを経て

〔国内のクーポンサイトでは、リクルートの「ポンパレ」とグルーポンが大手として頭一つ抜けた存在だ。それを楽天の「RaCoupon」、ジャフコやKDDIが出資する「LUXA」、GMOの「くまポン」などが追う。競争が熾烈になっているなか、どう差別化を図っていくのか〕

我々は48カ国でサービスを行っていますので、パートナー様向けの管理画面やお客様とのインターフェースとして大事なアプリなどは、全世界共通でつくっています。日本だけでなく、米国や欧州からの要望も、全世界で汲み上げることができる。いろんな国で学んだことを、よりよいサービスとしてパートナー様にご提供できます。

サイトも日々改善が加えられているという。

お客様についても、例えば香港で流行ったレジャー案件など、新しいディールを全世界で共有できるようになっていまして、同じようなサービスを提供している施設を日本でも探してお客様にご紹介するということができます。また48カ国の宿泊施設がディールとしてあるわけですから、例えばシンガポールと連携して、日本のお客様にシンガポールのリゾート施設を提供しようという試みも少しずつ始めています。48カ国のネットワークを使って、より多くの選択肢をご紹介できるといいかなと思っています。

〔ひと言でクーポンといっても、いまや値引きだけにとどまらない。付加価値をつけたサービスも広まりつつあるという〕

「“WOW!”ディール」、つまりびっくりしてしまうようなディールも売られ始めています。例えばアメリカでは、ロッド・スチュアートさんのコンサートチケット+往復航空券+シーザーパレスで2泊+ご本人と楽屋で会えて一緒に写真撮影&サインというディールが2500ドルとか。お金を使えば買えるというものではなく、ふつうは買えないようなディールを紹介して日々の生活におどろきや楽しみを提供する。ブラジルだと、サッカーのネイマール選手とオンラインゲームで対戦できるクーポンも出ていました(笑)。

〔根本氏は昨年5月に社長に就任したが、前職はソニー、アマゾンといった経歴を持つ〕

ソニーでは、テレビのハードウェアのビジネスに携わっていることがほとんどでした。国内、北米、欧州で何かしらのテレビのビジネスに関わっていて、商品企画やマーケティングという業務にあたっていました。

アマゾンに転職したのは、2005年にアマゾンで働いている友人から紹介されたのがキッカケです。それまでは、インターネットを通じて電気製品を売るということにイメージがわかなかったんです。本当にそんなことができるのかと。ソニーでマーケティングをしている時は、数百というアイテム数を扱っていましたが、アマゾンはその桁数が3つか4つくらい違う。エンドユーザーも桁が5つか6つくらい違うような数を相手にしているわけです。ソニーの時は商品を通じて楽しさや便利さを届けられたらいいなと思っていましたが、今度はオンラインを通じて商品をお届けして、お客様の利便性が上がることに魅力を感じたんですね。

グルーポンも、キッカケは知人を通じた紹介でした。私の知人が違う国でグルーポンの仕事をしていて、他の国のマネジメントと話をしていくなかで、情熱を感じました。外から見てどういうサービスかは知っていましたが、数字的に業界が顕著に成長しているというわけではありませんでした。でも、品揃えやユーザーエクスペリエンス(ユーザが真にやりたいことを楽しく、心地よく実現できるかどうかを重視した概念)、価格付けなど、まだまだ改善できること、成長できる余地はあると感じたのです。お客様、パートナー様にもっと満足いただけるようなサービスができて、アマゾンとは違った形で楽しさやワクワク感、便利さが提供できるのではないかと。

お客様に、暇な時、何かの時に、まずはグルーポンを最初にチェックしてみようと思われるよう、志をもって取り組んでいきたいですね。

(構成=本誌・児玉智浩)

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