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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2013年2月号より

モノづくりで大事な「現場、現物、現実」の徹底
岩部金吾(文化シヤッター会長)

岩部金吾(文化シヤッター会長)

いわべ・きんご 1932年広島県生まれ。56年法政大学経済学部卒業後、ハリウッド化粧品入社。59年文化シヤッター入社。64年取締役。89年社長に就任。95年相談役を経て97年から会長。社団法人日本シヤッター・ドア協会会長も務める。

近年、競争力の向上を名目に日本企業は生産拠点を海外に移し続けている。こうした企業経営に警鐘を鳴らすのが、文化シヤッターの岩部金吾会長。いまこそ日本的経営に立ち返り、「ものづくり」の技術と人を大事にする経営が必要だと説く。

ベトナムに進出

〔世の中が不景気になると比較的に影響を受けやすい業界の一つに、住宅・ビル向けの建材メーカーがある。業界第2位の文化シヤッターも例外なく厳しい環境下に晒された。建物が建たなければシャッター等の取り付けもなく、必然的に受注は減ってしまう。加えて、東日本大震災では資材不足から西日本でも住宅着工の件数が減り、自粛ムードは景気回復に大きく水を差すことになった。
そんななかでも文化シヤッターは2010年3月期の赤字決算から、12年3月期は売上高1023億円、営業利益27億円と、V字回復。今期見通しも売上高1120億円、営業利益50億円と増収増益を見込んでいる。
しかし、多くの日本企業が売り上げを海外に求めるなか、文化シヤッターの海外売上比率はまだ数%にも満たない。国内で利益を出すことに強いこだわりを見せる岩部金吾会長に、日本企業の経営者が持つべき姿勢について話を聞いた〕

ものづくりの世界では、人件費がどんどん上がり、原価では勝てないからと、海外の人件費が安いところを求める。円高でデフレ経済では、そうなるのは経済人としてよくわかります。でも大事なのは、やはり国内でどう利益を出すかでしょう。

我々も4年前にベトナムのハノイに現地子会社を設立して工場をつくり、海外進出をしていますが、国内の工場を削って海外に拠点を求めてきたわけではありません。もともと私自身があるロータリークラブに入っていて、その会長時代にカンボジアに小学校をつくるなど、ベトナムやタイ、インドには個人的な付き合いでお金を出したり、技術指導をしてきた経緯があります。

例えば、シンガポールの超高層ビルのシャッターやドアはタッカムという現地企業が携わったのですが、文化シヤッターがタッカムに対して技術指導を行ってきました。私も現地に行きましたし、その意味ではASEANには接点があったわけです。

ですから、ベトナムに工場をつくったのも、安い人件費を求めたのではなく、現地で建物を建てるのに必要なものを現地で製作して提供するためです。海外に行くなら、現地の社会に貢献しなくてはいけないんです。決して日本で安く売るという目的のために海外に行くわけではありません。

ベトナムなどの日系ホテルにもシャッターなど当社の製品が設置されていますが、よく、次はあの国に出そうとか、お声掛けくださることがあります。一度海外に進出すると、次から次に新しいところに出したくなるんでしょうね。また人件費の安さを実感すると、さらに安い人件費の国を求めていく。拡大していく一方です。

事業が大きくなることは悪いことだとは思っていません。ただ、安易な拡大は、人材が育たないのではないでしょうか。売り上げが増えれば資本の問題はなくなるでしょう。でも、人材をきちんと育成していかないと、企業としての質を低下させてしまうことになりかねません。当社にも海外部という部署はつくりましたが、現地のスタッフを含めて人材育成に注力しているところです。

創業精神を形に残す

〔文化シヤッターは2009年にサッシ大手の不二サッシに資本参加した。当時のメディアは、両社の資本業務提携を、リーマン・ショックに端を発した景気後退への対応策としての業界再編という論調で報じた。シャッター・サッシ連合による拡大路線という図式だ。しかし、岩部会長は一気に拡大する戦略はよしとしていない。M&Aによる急拡大には警鐘を鳴らす〕

不二サッシが当社入りましたが、単に資本を入れて規模を拡大していくような戦略は取りません。それぞれの会社には歴史があって、現在に至るまでの経緯があるわけですから、それを大事にしなくてはいけません。そして、必ずシナジー効果を出す資本提携でなければいけません。企業が企業を買って、文化も何もかもないがしろにして規模を手に入れるような買収は、うまくいくわけがない。我々は人を大事にします。その意味では中小企業的な経営の仕方にこだわっていきたい。

〔ここで言う中小企業的な経営とは何か。岩部会長は「人」にこだわって説明をする〕

先人の碑に献花する岩部会長。

大企業になってくると、常にルールがあって、縛りができてきます。組織としてはそれも大事なものですけど、半面、創造性や自主性、地域性などが失われてきます。大きな組織をまとめるのは難しいんです。企業にとって一番大事なことは何か。利益を出すこと、と言う人もいるかもしれませんが、やはり一番大事なのは「人」ですよ。“企業は人なり”で、本人の持っている自主性を尊重しながら、またそれを育成していかないとダメです。ルールに従って、言うことだけを聞けばいいというような、指示待ち人間を作ってはいけないんです。

それから現場主義。中小企業というのは現場主義が当たり前。経営の価値観をどこに置くかといえば、一番目には、社員とその家族です。次に下請けを含む協力集団ですよね。「会社」というのは、ひっくり返して読むと「社会」です。企業は地域社会に属していることを忘れてはいけない。人を大事にし、地域社会に貢献していくという価値観でものづくりをしていけば、簡単に海外に移してしまえとは考えられないでしょう。

現場、現物、現実という「三現主義」は、ものづくりには欠かせないものです。私も若いころからよく現場に行きました。あまりに行くものだから「岩部は人に任せるのが嫌いな人なんだ」と言われたりもしましたよ。でも現場を見ないと使う人の気持ちもわからないし、新発見も生まれないでしょう。現場というのはおもしろいんです。その場を見ることで、新たな知識や発想が生まれてきます。そのようなことを繰り返すうちに、企業の価値観が養われてきたわけです。

中小企業的経営をするというのは、現場を実感することでもあります。大企業になると、経営幹部は机の上での仕事になってしまう。

文化シヤッター本社エントランスの大陶壁「文化の大河」。

〔文化シヤッターの本社に行くと、エントランスでは巨大な陶壁が迎えてくれる。そこは企業というよりも美術館のような雰囲気が漂う。2階には200人ほど収容できる多目的ホールも設置されている〕

陶壁は設計の人から大反対されましたけどね(笑)。文化シヤッターですから、文化の香りのするものがなければいけないと、国際的な陶芸家の鈴木五郎さんに制作していただきました。「文化の大河」というタイトルで、一人ひとりの文化の精神がやがて大河となり悠久の文化へと引き継がれていくという、永遠の願いを込めたものです。

2階には自由に出入りできるようにして、ホールを設置しました。と言っても、社内で使う行事というのは年にいくつもありません。ほとんどが外から来て使っていただいています。ピアノのコンサートなども開かれたりして、こういった形でも地域社会に貢献していこうと。

〔文化シヤッターの社是「誠実・努力・奉仕」には創業の精神が込められている。文化シヤッターの本社6階には「先人の碑」が建立されており、創業者である関本・東海両氏の胸像と、物故者の芳名板も設置されている。毎月第1営業日には物故者に献花、毎年4月に先人感謝祭を開催するなど、先人の偉業を偲ぶ心を大切にする〕

本社ビル6階には創業者の胸像がある。右が初代社長の東海亨氏、左が2代目社長の関本亘氏。

いまや創業者と一緒に仕事をしたのは、私だけになってしまいましたね。創業者の一人である関本さんは、絶対に指示をしない人でした。「岩部君、これ頼めるかなあ」と(笑)。要は「やれ」ということなんですけど、誠実な優しい人柄でしたね。

言葉として「誠実・努力・奉仕」と言っても、若い人がどのように理解をするのか。教えるのが一番難しいのが「奉仕」ですね。奉仕というのは思いやる心。「サービス」という言葉が日本に入ってきたときに日本語では「労役」と訳しています。労働をもって、即ち行為行動をもって、お役に立つのがサービス。その語源は時代とともに薄れてきていますが、「奉仕」はまさにこれなんです。好きな人のためには、役に立つことをしてあげたいと思うでしょう。経営幹部は、若い人に言葉だけで伝えるようではダメです。言葉の遊びではなく、自分の体質にしていかなくてはいけない。

創業者はまさに誠意誠実の人でした。ハートで社員にぶつかってくるんですね。リーダーは強くなければタフでなければ、やっていけませんよね。ただし、優しさがなければ、リーダーの資格はない。本当に強い人間は優しいんだよと。現代社会はそんな人間関係が薄れているのでしょう。だからこそ当社の経営幹部は、誠意誠実な行為ができる人でなければならない。

比叡山や高野山に行くと、大手企業の碑が立っているんです。私はそれを見て、伝統ある企業というのは、こういうものなんだと感じました。人間集団というのは、好き同士で集まるのもいいんだけど、組織のなかに1本の軸がないとダメなんです。会社には様々な経緯があって現在に至るという歴史があります。それを若い社員に伝えていないとしたら、上司が悪い。創業の精神というのは、きちんと形に表しておかなければいけないと思います。

企業の根幹にかかわることですから、本社ビルの6階に、先人の碑をつくりました。毎月1回献花式を行っていますが、言葉だけでなく、形にして精神を繋いでいくことも大事だと思っています。宗教色は一切ありません。故人を偲び、敬い、将来の成長を誓い合う場です。

日本の99%は中小企業です。中小企業は人と人の繋がりなくして成り立ちません。大企業になると個人の人間性、人間力が薄くなってしまうでしょう。ヒューマン経営ではないんですね。私は中小企業的な経営で、人を大事にする環境をつくっていく努力をしています。経営者の勲章はいかに社員を幸せにするかですから、難しいですけど、私は旗を降ろしません。

(構成=本誌・児玉智浩)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)


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