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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2013年9月号より

賃貸と思えぬ仕様を連発「女性目線」の商品を徹底

4つのテーマを設定

レンタカーやカーシェアリング市場の拡大で、所有から利用へのシフトが指摘されて久しい。それは住宅にもいえることで、持ち家派と賃貸派の比較でも、収入や家族構成の増減によって住まいを替えやすい賃貸派が、ジワジワ増えているのだ。

賃貸住宅事業担当が長い、堀福次郎氏。

この稿で取り上げる大和ハウス工業も含め、住宅メーカーの事業には、顧客の注文を受けて建設する戸建て住宅と、地主などが家賃収入を得るための賃貸住宅とに二分される。当然、賃貸派の増勢もあって賃貸事業は各社、拡大傾向にあり、中でも大和ハウスは従来から力を入れてきた。戸建て住宅に比べると地味な存在に映りがちだが、営業利益に占める賃貸住宅事業の割合は高い。

他社との比較で言えば、たとえばへーベルハウスで知られる旭化成の賃貸住宅(へーベルメゾン)は、どちらかと言えば、東京23区内にこぢんまりとした土地を持つ地主が、3階建て住宅を作ることが多いのに対し、大和ハウスはもう少し郊外の土地のオーナーに強い。その分、敷地が広く、建物も大きい物件が多いという。

大和ハウスは近年、他社とは一味違う仕様やサービスに重点的に取り組んできた。集合住宅事業の担当が長い、同社の堀福次郎・取締役常務執行役員はこう語る。

「土地をお持ちで建物を建ててくれる方が我々の契約先だから、いままでは、いわば家主目線の商品作りが多かったんです。でも、土地のオーナーが気に入った住宅を作ったとしても、空室が多ければ家主は心配してしまう。だから、お客様はあくまで入居者なんです。入居率100%なら、当然家主も満足します。

そこで我々が着目したのが、女性目線を重視した商品企画です。女性のほうが男性より部屋をきれいに使ってくれる可能性が高いし、ご夫婦で入居される場合、家具やクルマなどと同様、決定権があるのは奥さまのほうです。ですから、女性を意識した部屋を作っていけば成約率も高くなります」

その取り組みの第1弾が3年前の2010年8月。セコムやALSOKと組んで防犯面を強化、ホームセキュリティを標準搭載した賃貸住宅を発売した。住宅回りでも、1階のベランダに干してある洗濯物が、脇の道路などから見えにくくなるよう、植栽に工夫を凝らしたりもした。こうした点は、分譲マンションでは当然かもしれないが、賃貸マンションやアパートではまだ、スタンダードとは言い難い。

「その住宅が順調で、発売から1年で2万世帯分ぐらい売れました(直近では7万世帯超え)。そこで、次は女性目線の室内にしようと考え、4つのテーマを設定した。1つはウォークインクローゼットの設置による、収納の充実です。収納スペースを、室内面積の10%以上取ることにしました。2つ目が大容量のシューズクロークで、ブーツやゴルフバッグなども、すっきり整頓できます。

3つ目が洗面化粧台を可能な限り広く取ること。女性の化粧品の平均所持数は30個だそうで、化粧台を広く取ると喜ばれます。鏡も分譲仕様に変更。さらに4つ目がバス。女性の平均入浴時間は1時間。となれば、バスタブで足を伸ばしたいでしょう。そこで、当社は供給住宅の6割ぐらいを、業界でも大きい1坪タイプである、16×16サイズのバスにしました」

今年6月からは、エアシャワーと防犯機能を備えた住宅商品を提案。

いやはや、分譲マンションでもこれだけの設備をすべて完備した物件はそんなに多くはないだろう。そうなると気になるのは家賃だが、
「ホームセキュリティを入れても
賃料は上げていません。ただし、共益費で月額2000円ぐらい上がりますが、エレベーターがあるマンションなら、共益費で月に1万円ぐらい取られるじゃないですか。ですから、まったく問題ないレベル」と堀氏。

大和ハウスの女性目線の徹底ぶりは、それだけではない。販促や広告宣伝用のカタログが一切ないのだという。では、営業マンはどうやって家主に提案し、どう消費者に訴求していくのか。

「これも業界で初めてだと思いますが、女性誌の広告誌面をお借りして、それも広告っぽくせずに、読者に抵抗感なくスッと読んでいただけるようにしました。読んでみたら、この賃貸住宅を提供しているのは大和ハウスだったのね、程度でいいのです。ですから、営業マンに持たせているのも、そうした女性誌。いま、4誌の女性誌とコラボレーションしています」

特許も申請中の新設備

そして商品面での第3弾が、今年5月末に発表した、粉塵・花粉などを吹き飛ばすエアシャワールームと防犯機能を兼ね備えた、女性に優しい住宅の集大成の商品だ。

「ヒントは、コンビニが“セーフティステーション”の役割を果たしていたことでした。たとえば暗い夜道でストーカーなどに追われ、怖い思いをした女性がエントランスに駆け込んでボタンを押すとドアにロックがかかり、同時に警備員がかけつけます。また警備会社にリアルタイムの画像が送られ、通報者と通話ができるという仕組みを開発したわけです。それと、分譲マンションではいろんなメーカーがつけている、エントランス脇のエアシャワー(大和は日立産機システム製を採用)を合体させました。

このセット設備はまだないので、特許も申請中です。花粉除去だけでなく、最近はPM2.5とか、海外から飛来してくる粉塵もあって需要は高いはずです」

大和ハウスでは、賃貸住宅の供給戸数は年間で3万戸ぐらいあるのだが、今回のシステムを装備した住宅を、順次増やしていけば社会貢献にもなり、家主にも喜ばれることから積極的に提案していくという。設置されるのは、店舗併用型の3階建て賃貸住宅商品で、付帯設備の販売価格は200万円。建物に付帯として年間500棟を販売目標とする。基本的には住人用サービスだが、防犯システムのほうは非常の際には、一般の人も利用できるという。

さて、大和ハウスの徹底した仕様やサービスの充実はわかったが、住宅ならば肝心要はハードの仕様。が、この点でもぬかりはないようだ。

「昨秋、木造および軽量鉄骨造の賃貸住宅では最高水準の床遮音性を備えた、『サイレントハイブリッドスラブ(SHS)50』を発表しました。軽量鉄骨造りは地震に強いのですが、欠点は軽いために上階の音が伝わりやすかった。賃貸入居者のクレームで一番多いのが、上下左右の音ですから。そこで当社のSHS50。いまはオプションですが、いずれは標準にしていきます」

(本誌編集委員・河野圭祐)

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