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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2013年6月号より

サントリー看板の「天然水」最軽量、つぶしやすさがキモ

すべての原点は「水」

「水と生きるSUNTORY―サントリーは水の恵みをお届けする会社です。いい水がなければ、ウイスキーも、ビールも、清涼飲料も何ひとつ作ることはできません」

このPR文にあるとおり、サントリーグループを貫くキーワードは「水」。サントリーの創業者である鳥井信治郎は、「良い原酒は良い水が生み、良い熟成は良い自然環境なしにはあり得ない」という信念を持っていたからだ。

サントリー食品インターナショナル(以下サントリー)が「サントリー天然水」を発売し始めたのは1990年。10年後の2000年に一度、前年比で販売数量を落としたが、それ以外は一貫して伸ばし続けている。

特に東日本大震災があった2011年は、10年の5000万ケース強から一気に6250万ケースまで増えた。昨年はその数字もクリアし、6500万ケースが目前だ。もちろん、国内のミネラルウォーター市場ではシェアナンバーワンである。

「最軽量ペットボトル」を実現させた高田氏。

同社の天然水の水源は3カ所。南アルプス(山梨県甲斐駒ヶ岳山麓)、奥大山(鳥取県)、阿蘇(熊本県)がそれだが、圧巻は、水源涵養活動として「天然水の森」を全国13都府県16カ所で展開していることだ。その総面積は約7600ヘクタールにも上る。

こうしてミネラルウォーター市場で首位を走るサントリーだが、商品が大きな差別化がしにくい水だけに、価格面も含めた競争は、「エビアン」や「ヴォルビック」といった有名海外ブランド商品も入り乱れて激しい。さらに近年は、大手スーパーが格安商品を投入してもいる。

トップのサントリーにとって最大のライバルは、飲料業界の巨人である日本コカ・コーラだ。缶コーヒーではなお、サントリーは追う立場。さらに緑茶市場で2位につけるサントリーの「伊右衛門」をコカ・コーラの「綾鷹」が3位で追い上げている構図に似た状況が、ミネラルウォーター市場にも見える。

コカ・コーラの「い・ろ・は・す」がそれだ。同製品の発売は09年5月とまだ4年前のことだが、11年には4800万ケースを売る大型商品に育った。発売翌年には、みかんやりんごエキスを入れた派生ウォーターも投入、今年に入り、新聞広告で「フレーバーウォーター売上No.1 ブランド」と、サントリーを意識したコピーを使用していたものだ。

一方のサントリーも負けてはいられない。去る3月26日には、天然水のリニューアル発表会を行っている。サントリーグループは、どの商品についても低価格競争とは一線を画す方針を貫いているが、それはミネラルウォーターにもいえること。発表会の席上でも、サントリーの沖中直人・食品事業本部ブランド戦略部長はこう語っていた。

「際限なき価格競争では再投資していけません。天然水の価値で、そうした競争とはできるだけ一線を画したい。今回のリニューアルでは、ラベルも南アルプス、奥大山、阿蘇と3つ用意しました。3カ所それぞれで水の硬度が微妙に違いますし、水源訴求を強めることで水源価値も感じてもらおうということです」

ただし、そうしたラベルデザインや水源地を前面に出すだけではリニューアルポイントとしては弱い。そこで改良点として加えたのが、「植物由来原料を30%使用した独自開発の国産最軽量ペットボトルの導入」だった。そのとりまとめを行ったのが、本稿の主人公で、サントリービジネスエキスパートのSCM本部新包材技術開発推進部長を務める高田宗彦氏である。同氏は83年入社で過去、国内工場のライン立ち上げ、中国・上海近隣都市での飲料工場建設などにも携わった。

“ライバル超え”を達成

さて、まずはサントリービジネスエキスパートという企業の役割だが、同社はグループの原料調達や包装、生産技術、システム、物流などを横串しで共通化する、いわばグループソリューションビジネスを担っている。全部で6本部あり、その1つが高田氏が所属するSCM本部だ。

「軽量化なども含め、ペットボトル関連が遅れているという認識のもと、06年の3月末、ペット戦略プロジェクトチームが発足したのが始まりでした」

左が新ペットボトル。右は従来型のもの。右端は新ボトルをつぶした状態。

ペットボトルの軽量化競争はまず、2リットルボトルからスタートした。5年ほど前は40グラムが最軽量だったのだが、サントリー陣営は3年前に持ちやすさを損ねない形状で36グラムまで軽量化を進め、今年2月にはさらに30グラムを切る、29.8グラムのペットボトルを投入している。

ただし、2リットルとなると用途は家庭用がメインで話題的にあまり目立たない。主戦場は、やはり500ミリリットル市場のほうだ。この市場でプレゼンスを高めていたのが前述の「い・ろ・は・す」である。ペットボトルの重量は12.4グラムと最軽量で、飲みほした後、ペット容器を簡単につぶせるように設計されたことが、リサイクルや環境意識の高まりの中で話題になった。

「11年に、それまでの25グラムから一気に13.5グラムまで軽量化した時もすごく苦労したんですが、今回はそのハードルも超えて、11.3グラムという最軽量を実現することができました。ちなみに、それまでの13.5グラムがギリギリ、手でつぶせる重さです。ヒアリングしてみると、(「い・ろ・は・す」に)当社の評価は負けていました。つぶしやすさと軽量化は比例しますから、それなら最軽量を狙おうと考えたのです」と高田氏。

こうして、「い・ろ・は・す」に照準を定めたサントリーだが、人によっては、「ペットボトルがあまりに軽いと、持った時にペコペコとへこんで危なっかしく、持ちにくい」と言う人もいる。ただ、最大公約数の声となると、ペットボトルの“つぶしやすさ”は好意的に受け止める人が多いらしい。

つぶせるペットボトルはサントリー、コカ・コーラの商品以外、まだ思い当たらないが、実際に実現するとなるとなかなか難しい点も多い。

「軽量化における開発ポイントは3つ。もともと雪解け水という点で天然水を売り出したこともあって、氷や水の流れを表現したペットボトルデザインをできるだけ継承する意匠にすること。次いで、飲用時の持ちやすさと飲用後のつぶしやすさの両立。最後が流通時の様々な荷重に耐え得る、荷崩れしない強度設計ということでした」

軽量化ではコカ・コーラ陣営を追い抜いたサントリーだが、課題はある。今回のリニューアル商品は店頭の手売りのみで、自動販売機には、まだ対応できていないからだ。

「自販機では商品を横にして入れますが、横にした時の強度がまだ足りません。『い・ろ・は・す』は自販機にも入っています。コカ・コーラさんは、自販機の絶対数からいっても、ウチの倍はありますからね」

ペットボトルの強度というポイントでは、コカ・コーラは飲料業界で、まだ一歩先を走っているということなのだろう。

ただし、サントリーには軽量化以外でもう1点、「い・ろ・は・す」に勝っているものがある。やや地味な話題だが、提携する豊田通商のサプライチェーンを活かし、ブラジルのバイオエタノール用のサトウキビを原料とした、植物由来原料の安定的な調達が実現。結果、常時、原料の30%が植物由来原料のペットボトル製造が可能になった。従来は石油由来原料に負うところが多かったのである。

常時、原料の30%というレベルは「い・ろ・は・す」ではまだ達成できていない。同社の新聞広告の宣伝コピーを見ても、「容器にはシンボルである、植物由来原料を一部(5~30%)に使用した」とされ、使用数値に幅があるのが現状だからだ。包材開発において、環境負荷軽減という面でも訴求ポイントが確保できた点は大きいだろう。

「今後のさらなるテーマとしては、こうした軽量ペットボトルはまだ水で実現できた段階です。なので、まずは2リットルクラスの容器から向こう1年か2年かけて横展開、つまり緑茶や烏龍茶にも応用していきたいと考えています。『伊右衛門』は、独特な竹筒の形状ということもありますが、500ミリリットルボトルで言えば、今回の重量の倍ぐらい(20.5グラム)ありますから」

高田氏の視線は、すでにかなり先を見据えているようだ。

(本誌編集長・河野圭祐)

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