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経営者インタビュー

2016年8月号より

テレマティクス保険で グローバルと地方の両面展開
あいおいニッセイ同和損保社長 金杉 恭三

あいおいニッセイ同和損保社長 金杉 恭三

かなすぎ・やすぞう 1956年生まれ。1979年早稲田大学卒業。大東京火災海上保険入社。2002年あいおい損害保険経営企画部長、08年常務役員、12年あいおいニッセイ同和損害保険取締役常務執行役員、14年MS&ADホールディングス執行役員(現職)、16年あいおいニッセイ同和損害保険取締役社長に就任。

昨年2015年3月にイギリスのテレマティクス自動車保険の大手BIG社を買収。今年4月には米国にトヨタ自動車との共同出資でテレマティクス自動車保険サービス会社を設立するなど、攻勢をかけるあいおいニッセイ同和損保。その新社長に就任した金杉恭三氏が目指すものとは何か。

財閥系にない個性で

―― 社長になっての抱負をお聞かせください。また、何から手をつけようかとお考えですか。
当社は2010年4月に三井住友海上との経営統合、10月にあいおい損保とニッセイ同和損保の合併と、会社の統合・合併を行いました。さらに13年に三井住友海上とグループ内でのホストコンピュータの統合を行うなど、やや内向きにエネルギーを使ってきました。そのため指標を見るとおわかりの通り、10年~13年の業績はなかなか上向きになりませんでした。しかし、15年度ぐらいから外向きにエネルギーが使えるようになり、収益面でも業界のトップラインと並ぶようになってきています。

現在、グループの中期経営計画(14年~17年)の第1ステージを終え、これから第2ステージに入るところですが、外向きにしっかりと稼いで成長していくというところで、今回、私が社長になりました。従いまして、この中期経営計画にそってやっていくことが、抱負であり、取り組んでいくべき点です。

加えて、損保上位3社は財閥系で、財閥系ではない私どもは4番手です。であるからこそ、財閥系にはない個性豊かな特色のある会社にしなくては生き残っていけないということを認識し、この個性を大切にしていくことも私の社長としての役割だと思っています。

―― 損保のなかで個性を出すといっても、商品的にも独自性を出すのは難しいのではないですか。
当社はトヨタ自動車さんに近い会社でそういった面でリテール、地域営業に強いのが特徴です。そこでこうしたリテールを中心にした自動車保険で個性が出せると思います。

加えて15年3月にイギリスのテレマティクス保険(IT技術を活用した自動車保険)の大手で世界でも最先端の技術を持つBIG社(Box Innovation Group)を買収しました。このBIG社のノウハウを活用してトヨタさんとグローバルに展開していきたいと思っています。

欧州では2020年にテレマティクス保険が自動車保険の30~40%になるという予測が出ています。テレマティクスがなければ、自動車保険はグローバルに戦えなくなります。BIG社の買収によって、当社はその最先端でやっていける。まずこれをしっかりとやっていくこと。

損保4社のなかで、地域密着のリテール営業に強みを持っているのは当社です。そこでこれを生かして政府が進める地方創生と連携しながら、自治体や当社が持つ地方銀行とのネットワークを活用し、地方にも力を入れていきたいと思っています。

強みはテレマティクス

―― 昨年、御社がBIG社を買収されたことで、日本の自動車保険も本格的なテレマティクス保険の時代に入りましたね。
テレマティクス保険というのは、自動車に車載器を搭載し、運転特性のデータを集め、それによって保険料を設定するというものです。これまで日本の自動車保険は、無事故割引制度がしっかりしていて、かつ、保険会社を変えても割引率を持っていけるポータビリティー制度が完備していました。そのため、テレマティクス保険を必要としませんでした。

一方、欧米では日本のような保険料の割引制度が完備されておらず、新規のお客さまの事故歴がわからないなかで保険料を決めなくてはなりませんでした。そのためやや乱暴に言うと、高い保険料で保険を引き受け、事故がなければすぐに下げるというようなやり方でした。しかし、なかには1年だけ静かな運転をする方や、乱暴な運転でもたまたま事故を起こさなかったという方もいて、事故の有無だけでは判断できないところもあった。そこで日常の運転状況がわかる車載器を搭載し、データ収集するテレマティクスが生まれました。さらに欧米では、テレマティクスによって、運転の挙動をスコア化し、運転のアドバイスを行いそれによって保険料を下げるサービスも登場し、広がってきました。

―― そんななかでBIG社の持つ強みとはどういった点でしょうか。
ビッグデータを処理するアルゴリズムの技術。それと同時に膨大なデータを持っている点です。データが多ければ精度の高い分析を行い、正確な保険料や運転へのアドバイスができます。そういう点ではBIG社はイギリス国内のテレマティクスの30%、欧州でも最大規模のデータ量を誇り、約30億マイル走行データを持っています。

こうしたことを踏まえ、当社は4月にトヨタさんと共同出資で米国にテレマティクス自動車保険サービス会社を設立。自動車の運転データを集めて解析して保険だけにとどまらずマーケティングへの活用も進めていこうと考えています。

―― 国内では高齢者の事故が増えていますね。
これまでずっと無事故で割引率が一番高い方が突然、大事故を起こすというような案件が起きています。これは多分、突然運転がおかしくなったのではなく、以前から予兆があったと思うんです。こうしたこともテレマティクスの活用で、挙動のおかしいところを早めに発見し、運転に際しての注意やアドバイスを事前に行えるようになります。

高齢者の事故については、単に免許証を返上していただければよいというものではありません。むしろ、地方では自動車は欠かせない移動手段です。そのためにもテレマティクスを活用することで、末永く車の運転をしていただけるサポートが可能になります。欧米でのテレマティクスは、若者の運転に対するリスクを下げるものですが、日本では高齢者の運転に利用できないか研究中です。

社会の動きを見極めて

―― 火災保険の分野では、保険料の値上げが相次いでいます。
火災保険といっても今はほとんど自然災害に対する補償なんですね。これはみなさんもお感じになっていると思いますが、以前は異常気象も含めて自然災害は数年に1度ぐらいしか起きないものでした。しかし、最近では台風の被害、大雪や落雷などによる被害が年に何回も起きるようになっています。そのため保険金の支払いが増大しています。加えて大きな地震もたびたび起こっており、地震のリスクが大きくなっています。こうしたことはしっかりととらえていきたいと思っています。

―― 損害保険の分野では、個人賠償責任に注目が集まっています。
これまでは周りの方にご迷惑をかけても「すみません」と謝罪すれば済む時代でもありました。しかし、今後はそれだけでは済まない。だんだんとそういうことに対しても、金銭で補填をしていくということが進んでいくのではないでしょうか。そのため弁護士が関わる案件も増えていくと思います。

―― 離れて暮らす認知症の親の賠償責任の裁判で、御社の個人賠償保険が話題になりました。
この保険は従来の個人賠償責任保険の補償範囲を広げたものですが、新しいリスクがあればそれに対応する保険を作っていくことは重要です。特に高齢者の方のリスクが増えて賠償責任の範囲が広がれば、それに連携した保険は重要です。今回、認知症の親族の方の事故に対する損害賠償訴訟で注目されましたが、こうした社会の動きなどを見極めながら新たな保険にしていくことが重要で、今後もこうした問題に取り組んでいきたいと思っています。

―― 今後の解決すべき課題はどのようなこととお考えですか。
取り組むべき課題というのは、いろいろあると思います。なかでも一番はこれまで内向きだった気持ちをやっと外に向けられるようになったわけですから、まずはこれを社内に徹底して浸透させていくことです。

私が社長になって「明るく元気な社員が全力でお客さまをサポートする会社」ということを打ち出し、「全力サポート宣言」というのも掲げています。お客さまに対して「迅速・優しさ・頼れる」会社にしていきたいと思っています。

(聞き手=編集局長・小川純)

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