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2016年7月号より

【総論】中華マネーが買い漁る日本企業と不動産|月刊BOSSxWizBiz

三菱自動車にも食指

中国の爆買いが止まらない。

21世紀に入ってからというもの、中国の爆買いが世界経済を動かしてきた。少し前まで、その対象はエネルギーや食糧などの資源だった。人類史上まれに見る高度成長を遂げたことによって、中国はありとあらゆる資源を飲み込んだ。それによって原油価格は1バレル100ドルを超え、鉄鉱石などの鉱物資源も軒並み値が跳ね上がった。それに便乗した日本の総合商社は、わが世の春を謳歌した。

リーマンショックを境に、資源価格は下落に向かう。さらには中国の高度成長が一服したこともあり、さらに値を下げた。その結果、三菱商事、三井物産という日本の二大商社が赤字に転落したことは記憶に新しい。

それでも中国の爆買いは続いている。資源の次に買われたのは、海外の企業だった。

シャープは鴻海傘下に。右から高橋興三・シャープ社長、郭台銘・鴻海会長、新社長となる戴正呉・鴻海副総裁。

米フィナンシャルタイムスによると、今年1?3月の世界のM&Aの総額は6820億ドル。そのうちの15%、1010億ドルに中国企業が関わっていた。国別にみてもダントツの数字だ。昨年、中国企業によるM&Aの総額は1090億ドルで過去最高だったが、今年はわずか3カ月間でそれに匹敵するM&Aを行ったことになる。当然だが、5月時点ですでに昨年の実績を突破、このペースでいけば、年間で昨年の4倍にも達することになる。

最近でも、本田圭佑が所属するセリエAのACミランの優先交渉権を、中国企業が得たと話題になった。中国企業の外国企業の爆買いは、今後も衰えそうにない。メディアの中には、「バブル期の日本にそっくり」との論調も見られるが、その規模は問題にならないほどで、世界のM&A市場に中国マネーが入り込んだことによって、企業の買収価格が跳ね上がるという副作用も出てきた。

当然、その矛先は日本にも向かってきた。

33ページからのレポートにあるように、燃費の不正が明るみに出た三菱自動車は、日産自動車の傘下に入ることで生き残りをかけることになった。岡山県水島などの三菱自動車の企業城下町は、この結果にほっと一息ついている。

この問題が発覚した時、多くの人が、これで三菱自動車は終わった、と思った。過去の2度のリコール隠しにより信頼を失っており、3度目の不正に対しては、過去において救済の手を差し伸べた三菱グループもあきれ顔。しかも三菱グループ主要企業の業績が悪化していることもあり、三菱自動車の前途には暗雲が立ち込めていた。

そこで色めきたったのが、中国企業だった。

中国在住ジャーナリストによると、複数の中国自動車メーカーが、三菱自動車買収の検討を一斉に始めた。世界的に見れば三菱自動車のシェアなどたかが知れているし、日本国内においても存在感はない。しかし東南アジアにおける知名度は高いため、東南アジアを自分の庭と考えている中国企業にとって魅力的な会社だった。

しかも、三菱グループであることにも特別な意味があった。

「三菱グループは、日本の経済成長に合わせて大きくなってきた企業グループです。三菱重工などは、軍需産業の担い手でもあり、日本株式会社そのものでもある。それだけに、三菱の名の付いた会社、そしてスリーダイヤのエンブレムを持つ会社を傘下に収めることは、日本そのものを支配下においたと同義なのです」(在上海ジャーナリスト)

三菱自動車は日産傘下となることが決まり、中国資本になることは避けられたが、今後も不祥事により、経営が傾いた企業の救済策として、真っ先に名前が挙がるのが中国企業であることは間違いない。

その典型が、シャープを買収した鴻海だ。液晶事業への過度な投資により苦境に陥っていたシャープは、4月2日、鴻海傘下に入ることが正式にきまった。1月に鴻海が、それまでの最有力候補であった産業革新機構を上回る買収条件を提示。その後、紆余曲折はあったものの、鴻海は4000億円近い資金を拠出することで最終的な合意をみた。

鴻海が当初、シャープに提示したのは、(1)事業の切り売りはしない(2)従業員の雇用を保証する(3)経営陣はそのまま存続――というもので、シャープにとってはこれ以上にない条件だった。

しかしシャープが前3月期決算で2500億円強の赤字を計上し債務超過に陥ったこともあり、7000人規模の人員削減の検討に入った。国内だけでも2000人規模となる見通しだ。また、太陽光パネルについては、切り離す策が有力だ。さらに高橋興三社長は退任し、鴻海の戴正呉副総裁が後任に就くことも明らかになった。大半の取締役も退任する。つまり、鴻海が当初提示した条件は、次々と反故にされている。ここに、鴻海のしたたかさがある。

鴻海の郭台銘会長は、24歳で起業、一代で鴻海を世界最大のEMS(受託生産)企業に育て上げた。その売上高は15兆円を超える。ただしEMSの宿命で、鴻海は自社ブランドを持たない。また、利益率も4%以下と低い水準にとどまっている。次なる成長を遂げるためにも、世界に通用するブランドと、液晶に代表される世界トップの技術を手に入れたかった。その意味でシャープは格好の相手だった。

白物を売り急いだ東芝

シャープが鴻海入りするのが決まったのとほぼ同時期に、東芝の白物家電事業の売却も決まった。中国の家電大手、美的集団に、537億円で譲渡された。

経営不振に陥った東芝は白物家電を中国・美的集団に売却した。

今年はじめの段階では、東芝の白物は産業革新機構のもと、シャープの白物と統合するプランが描かれていた。ところがシャープの引き受け手として鴻海が有力となったことで、革新機構が手を引いた。そのため、東芝の白物は宙に浮く形となり、急遽、決まった相手が美的集団だった。東芝の家電事業は、赤字とはいえ、売上高は2254億円を誇る(映像事業を含む)。それをわずか537億円で売らざるを得なかった。それだけ東芝が追いつめられていた証拠でもある。

美的集団は、ハイアール、ハイセンスと並ぶ、中国家電大手3強の一角だ。その成長スピードは驚異的で、家電進出わずか20年で売上高は1兆円を上回り、現在、台数ベースでは世界第2位の家電メーカーとなっている。

ここまで成長できたのは、中国国民を相手に、低価格を武器に低品質の家電製品を大量に販売してきたからだ。しかしこの戦略もそろそろ見直さざるを得なかった。

前出の上海在住ジャーナリストによると、

「商品数は多いけれど、これといった商品がない。成長スピードもここにきて鈍ってきており、さらには商品の欠陥が次から次へと出て、信用を失いつつある。いままでの安かろう悪かろうが通用しなくなってきています」

美的集団にしてみれば、技術力を上げ、国際競争力のある商品を開発することが喫緊の課題だった。しかし独力ではむずかしい。そこに東芝の白物家電の売却話である。買収後も東芝ブランドの使用が認められている。それを考えれば美的集団の500億円の買い物は、むしろ割安だったのかもしれない。

シャープを傘下に収めた鴻海、東芝の白物家電を手に入れた美的集団。両社はそれぞれ、買収により技術とブランドを手に入れることに成功した。これを次なる飛躍につなげようという意図がそこにはある。

日本企業がバブル経済の破裂で疲弊して以降、数多くの企業や事業部が中国企業に買収されたが、相手が中国企業の場合、心理的な抵抗感を持つ人も多い。

しかし買い手が中国企業であろうと、買収された企業は、キャッシュを得るとともに、従業員の雇用をある程度は守ることができる。経営権が移っても、それによって企業が再生されるのであれば、歓迎すべきだろう。むしろ2000年代初頭のハゲタカと呼ばれた欧米系ファンドの企業買収と簒奪に比べれば、企業としての成長を目指しているだけ、はるかにマシともいえるのではないだろうか。

ただし問題は、中国資本傘下となって、経営がうまくいくかどうか。それについては次稿で詳しく触れることにする。

バブルの象徴も中国に

企業買収以上に最近目立つのは、中国資本による、日本の不動産の買収だ。

昨年11月、中国で宝石や不動産の販売を手がける、上海豫園旅游商城(豫園商城)が、北海道占冠村にある「星野リゾートトマム」を183億円で買収した。

バブルの象徴でもあった北海道の星野リゾートトマムも中国資本によって買収された。

トマムはもともとバブル経済の真っ最中に仙台の関兵グループが開発した一大リゾート「アルファリゾート・トマム」で、総投資額は2000億円とも言われていた。しかしバブル経済が破裂したうえに、北海道経済を支えていた北海道拓殖銀行も経営破綻。アルファリゾートも98年に自己破産に追い込まれた。その後、紆余曲折があったものの。2005年から星野リゾートが経営再建に乗り出した。

過去に数多くのリゾートの再建を手がけている星野リゾートは、スキーシーズンしか利用者がいなかったトマムを、オールシーズン楽しめるよう設備を整えた。その結果、観光客は徐々に増え始め、海外旅行客の増加も加わったおかげで、一時の低迷を完全に脱した。

豫園商城が、トマムを買収したのも、中国国民の間で北海道が大人気となっているためだ。北海道のスキーリゾートは、一時期、オーストラリアやニュージーランドからの観光客で賑わったが、いまでは中国人が取って替わっている。しかも冬だけでなく、夏の避暑地としても人気が高いため、北海道はいま、1年中、中国人観光客であふれている。

その背景には、中国人の所得が増えたことに加え、2008年に北海道を舞台にした映画が中国で大ヒットしたことで、北海道の風景に憧れた人が増えたことがある、とも言われている。「冬のソナタ」の大ヒットで、日本人の韓国旅行が激増したのと同じ現象が起きたのだ。中国企業が北海道に目をつけるのは当然といえば当然だ。

豫園商城が買収したとはいうものの、運営はこれまでどおり星野リゾートが行うため、日本流のおもてなしはそのまま存続される。さらに豫園商城は、今後、中国人富裕層を対象にコンドミニアムなどを建設、販売するとも言われている。

中国資本に買収されたのはトマムだけではない。トマムほどの大型案件ではないが、10年には洞爺湖畔にあるトーヤ温泉ホテルが中国企業に買収された。また同年にはスキーリゾートとして有名なニセコにある山田温泉ホテルがやはり中国資本傘下となった。

東京不動産視察ツアー

中国人が爆買いしているのはリゾート地の不動産ばかりではない。むしろ都心の不動産に対する関心のほうがはるかに強い。いまでは売りに出される億ションの2割は中国人が購入しているとの推計もある。都心の不動産価格は上昇を続けているが、それを支えているのが中国マネーだ。

都内の不動産屋が語る。

「最近では中国人だけを相手にした不動産屋も増えています。彼らは旅行会社と組んで日本の不動産視察ツアーも企画しています。そのツアーでやってきた中国人が、大して不動産を見ずに買っていく。あのパワーは恐ろしい」

「最近でこそ上海を中心に中国の不動産価格は高止まりをしていますが、経済の高度成長が止まったこともあり、いずれ下落に転じると見ている中国人は多い。彼らにしてみれば、資産をどうやって守るかが重要だ。そこで日本に目を向けた。中国の未来に不安を感じれば感じるほど、日本の不動産に資産をシフトしようという人が増えてくる」

バブル時代には、日本企業が海外の企業や不動産を次々と買収したことがある。ニューヨークのロックフェラーセンターも、ティファニー本店も日本企業の手に落ちた。いまそれと同じことを中国企業がやっているだけでなく、個人レベルでも日本の不動産を漁っている。

眉をひそめる日本人も多いだろうが、さりとて、この勢いは当面の間、衰退することはない。そうであるなら、むしろ前向きに、中国マネーをいかに日本経済に活用するかに目を向けるべきではなかろうか。

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