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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2016年8月号より

味も容器も刷新し キリンの「生茶」が逆襲

かつて緑茶市場でヒットしたキリンビバレッジの「生茶」。近年は、競合品に押されて存在感が薄かったが、今年3月にリニューアルした新しい生茶は、味も容器も一新して販売を大きく伸ばしている。何をどう変えたのか。

劣勢から一気に反転攻勢

飲料メーカーにとって、缶コーヒー、ミネラルウォーター、緑茶の3アイテムは中核商品。その中で緑茶市場は1990年代末まで、伊藤園の「お~いお茶」の独壇場だった。そこに待ったをかけたのが、2000年に登場してヒットしたキリンビバレッジの「生茶」。その後、04年にサントリーが「伊右衛門」を、07年に日本コカ・コーラが「綾鷹」を投入すると、両陣営が大きくシェアを伸ばしていく。伊右衛門は福寿園、綾鷹は上林春松本店と、ともに京都の老舗茶舗とコラボレーションして話題になった。

「モノづくりにこだわった」と笠井隆秀・商品担当部長。

一方、守勢に立たされた生茶はジワジワと押され、いつしか埋没したブランドになってしまう。もちろん、何度もリニューアルは試みてきたのだが、劣勢を押し返すには至らなかった。だが今春のリニューアルは違った。去る3月22日に投入した新しい生茶は、中身も容器も一新し、生茶の文字がなければ、従来商品とはまったくの別物ではないかと思えるほどだ。また、伊右衛門や綾鷹のように有名茶舗とのコラボといった選択はしなかった。キリンビバレッジマーケティング本部商品担当部長の笠井隆秀さんはこう語る。

「いまのお客様は、メーカーから何かを押し付けられることを嫌う。自分で情報を取り、自分の選択眼によって商品を選ぶ時代に、明らかに変わってきています。なので、世界のコンテストで何とか賞を取りましたみたいな話は、お客様にとってはどうでもいい。もう一度、モノづくりをしっかり見つめ直し、徹底的に商品を作り込むことに賭けました」

それくらいだから、生茶のプロジェクトチームは敢えて、生茶の過去のことを知らない精鋭たちが集められた。そこでのこだわりは、もう一度、緑茶を嗜好品の1つとして捉えた商品開発をしようということ。まずは中身の味、テイストに関わる部分から。従来の生茶は、ほのかな甘みに特徴があったが、そのアピールポイントは残しつつ、「味が薄い」と評されてきた点を改め、旨みと苦味のバランスが取れた、コクのある味わいと長く続く余韻を実現したという。そこでの技術的なキモは、従来の製法で淹れたお茶に、セラミックボールミルでかぶせ茶を微粉砕して加えるというもので、特許も申請予定だ。

「お茶の粉の作り方は、普通の粉砕方法だとジェットミルなんですが、今回はボールミルを使っています。ジェットミルだと文字通り噴射で細かく飛び散るだけですが、セラミックボールを入れることで茶葉を少し擦るんですね。そこで熱が発生し、香りや化学変化が起こる。旨みと苦味のバランスがうまく取れるんです。お茶の苦味は味覚上、わかりやすいのですが、同時に飽きられます。新しい生茶は味がしっかりしていながら後味もすっきりとして、毎日付き合えるものに仕上がりました」

好感度高いペット形状

こうして、従来品よりも濃厚ながらすっきりとした味わいを実現した。ただ、緑茶は競合品やその派生商品だけでなく、小売業者のプライベートブランド品も交じって、スーパーやコンビニの棚にところ狭しと並んでいる。せっかく中身を大刷新しても、消費者に手にとってもらい、実際に飲んでもらえなければその良さは伝わらない。そこで、新生茶の開発ではペットボトル容器の形状にもこだわった。左上の写真を見てわかるように、一見するとガラス製の瓶風で、商品棚を一瞥しただけで明らかに競合品との違いがあり、かなり目立つ。また目立つだけでなく、小型の瓶ビール風な雰囲気があるので、お洒落感もある。

吉川晃司さんを起用したテレビCMも印象的。

「我々やデザイナーが容器の形状で考えたヒントは、(キリンビールの)『ハートランドビール』のボトルでした。この形状を、瓶でなくペットで表現するのは強度上の課題があって、実はかなり難しいんです。当初のゴツゴツした形はダメ出しして、グループのパッケージ研究所の協力も得ながら、ようやく実現できました。ラベルの厚みも工夫して、ラベルを巻くと円筒形に近い形に見えるようにしています」

満を持して迎えた発売日の3月22日。店頭に並べられるやいなや、その新鮮なペットボトル形状もあって、商品を置くそばから消費者が手を伸ばす店が続出した。もちろん、見た目が新しいから、試し買いの需要は一定ボリュームはあるもの。それが二度三度、あるいは毎日のように買うリピーターになってもらえてこそ、初めて商品として成功したことになる。

お洒落なペット形状もヒット要因に。

「おかげさまで、発売2ヵ月で500万ケースを突破して極めて順調です。思っていた以上に、男性のヘビーユーザーが一斉に(競合品から生茶に)切り替わっていますね。お茶のユーザーって保守的で、なかなか定番商品から目移りしないとさんざん言われてきましたが、特に緑茶好きの男性が乗り換えている感じです」と笠井さん。

今後、しばらくは生茶本体を伸ばせるだけ伸ばし、その後、カフェインゼロタイプのものやホットにも広げていく考えだという。

新しい生茶のテレビCMも話題になった。起用した有名タレントには事前に味の特徴などは伝えず、飲んだ後の率直な感想をそのままCMに流した。そこには、虚飾やイメージに依存せず、商品力という直球で勝負するキリンビバレッジの矜持と自信がうかがえる。

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