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2017年8月号より

eスポーツってなんだ?|月刊BOSSxWizBiz

ちょくちょく耳にするようになったeスポーツという言葉。そしてコンピューターゲームのプロ、億単位の賞金、ゲームがオリンピック競技に? ──ゲーム業界に押し寄せる新たな潮流とは?
本誌・小川純/撮影・横溝敦

ゲーム界のガラパゴス化

スポーツというとサッカー、野球や陸上、水泳といったものが思い浮かぶ。しかし、eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)といわれてパッとどんな競技か思い浮かぶ人はそう多くはないはずだ。

「eスポーツについては、その語源から説明しないとわかりづらいかもしれませんね」

こう話すのは日本eスポーツ協会(JeSPA)事務局長の筧誠一郎さんだ。

東京ビッグサイトで開かれた「LJL 2017 Spring Spilt Final」/c2017 Riot Games, Inc. All right reserved

「日本ではスポーツという言葉は『運動・体育』ととらえられますが、本来の意味は『楽しむ・競技』というものです。そのため欧米ではチェス、ビリヤードもスポーツとして認知されています。ですから、海で行うものはマリンスポーツ、車ならモータースポーツになります。これと同様にエレクトロニックの上で行われるものはすべからく『エレクトロニック・スポーツ』で、eスポーツというようになりました」

ここ最近eスポーツが注目される理由は、産業としての将来性、経済効果の側面からという理由もある。

ゲーム産業市場調査会社の米国Nwezoo社によれば、2017年のeスポーツの売り上げは756億円と推定され、20年には1636億円になると見込まれている。公表されている14年のFIFAの売り上げは2554億円だから、この数字からもeスポーツの経済効果の高さがわかるはずだ。

「韓国ではeスポーツの大会に数万人規模の観客を集めたり、大会の賞金総額もうなぎ上りで一昨年には賞金総額が20億円を超える大会も行われました」(筧さん)

この賞金総額20億円を超えるゲームとは『DOTA2』というもので、その内容を一言でまとめると、5人対5人で相手方の本拠地を取り合うというもの。日本でゲームというと、スーパーマリオやドラゴンクエスト、最近ではスマホゲームが思い浮かぶが、eスポーツはこれらとはまったく違ったゲームなのだ。日本は市場規模ではゲーム大国だが、その内容はズレており、世界の潮流からハズれ、ガラパゴス化が進みつつある。

また、高額賞金の大会が日本で開催できない背景には、景品表示法、風営法、賭博場開張図利などの法律が壁になっていると指摘されている。

では、eスポーツのゲームというのはどういったものか。

eスポーツのゲームに共通しているのは、どのゲームも対戦型で、スタート時にレベルの差はない。そのため日本で人気のキャラクターを成長させながら進めるドラゴンクエストなどのRPG系のゲームはeスポーツにはなりにくい。eスポーツのゲームはFPS、MOBA、スポーツ系、格闘系、OCG、RTSという6つの分類に分けられる(右参照)。この6つの分類がいわば種目にあたるというわけ。

なぜ、日本は遅れたのか

なぜ、日本は世界のeスポーツの潮流から遅れてしまったのか。それには日本独特のゲーム事情が大きく関係している。

「日本には優秀なゲーム機メーカーが多く、ゲームといえば、家庭内でこのゲーム機を使って1人、もくは家族や友だちと楽しんできました。しかも、最近までゲーム機は外に繋がらないスタンドアローンなものでした。しかし、海外のゲーム市場はゲーム機とPCが半々で、PCゲームはネットが繋がったことでチャットをしながら楽しむという文化が生まれ、ネットゲームへと発達。それが他者との競技、eスポーツへと進んでいきました」(筧さん)

もちろん、日本にもPCのネットゲームがなかったわけではない。2000年代のはじめごろ、ネットワークゲームが盛んな韓国から多くのタイトルが入ってきている。しかし、メジャーにはなりきれず、マニア的な存在として受け止められていた。

その後ゲーム機もネットで繋がるようになり、スマホゲームの広がりもあって、日本のゲーム環境が大きく変わってきた。さらに「eスポーツが注目された要因の1つは、海外の素晴らしいタイトルの1つのリーグオブレジェンド(LOL)が日本に入ってきたことです」(筧さん)というのが昨今の日本のゲーム事情だ。

eスポーツの盛り上がりを肌で感じているのが、eスポーツ専門番組「eスポーツMaX」(毎週木曜日午後8時~/同深夜0時30分~再放送)を担当するTOKYO MX事業部副部長の哘(さそう)誠さんだ。

「この番組自体は14年3月から放送が始まったのですが、ここ1、2年で固定のスポンサーが付くようになっています。また、一般の方も参加できるイベントを去年9月のゲームショーと同じタイミングで開いたのですが、500人以上が集まりました。また、今年3月に行ったイベントもオールナイトイベントだったのですが、入場者は350人集まりました。番組のプレゼント応募数も朝と昼の帯番組と同じくらい寄せられ、そういう意味では、番組的にも取り組んでいてよかったというような時期にようやく入ってきたように感じています」

5月21日には東京・新宿の「フーターズ」で番組スポンサー対抗戦の公開収録が行われた。これはイベントではないが、一般客も多い中でモニターにはゲームの対戦模様が映され、戦闘が激しくなると歓声が上がるなど、ナマの現場では予想以上の盛り上がりを感じさせている。

3つの団体

ここにきて急激に動き出した感のあるeスポーツだが、実は07年に大きな動きがあった。

JeSPA専務理事で、日本野球代表「侍ジャパン」のネーミングを考案した元電通の平方彰さんが当時についてこう話す。

JeSPA事務局長・筧誠一郎さん

「07年のマカオで開催された第2回アジア室内競技大会でeスポーツが正式種目になりました。当時、僕は電通の企画業務推進部長で、電通はJOCのマーケティングパートナーだったことから、竹田(恒和)会長から、eスポーツには協会もなく、OCA(アジアオリンピック評議会)にはJOCが選手派遣をしなければならないので、電通で協会を作れないかと相談があったんです」

この話を受けて平方さんは、西村康稔衆議院議員を委員長にした「日本eスポーツ協会設立準備委員会」を設立する。

「僕はゲームについては素人ですが、スポーツコンテンツという部分では、電通の中でも経験や実績もあります。そこでeスポーツをスポーツコンテンツとして考え始めました。しかし、はっきり言ってしまうとeスポーツはゲームのスポンサーイベントなんですよね。確かに当時も人気はありましたが、ゼネラルルールはありません。そこでeスポーツを広めるにはワールドスタンダードで考えることが必要で、それを実行するには、サブライセンスや肖像権、著作権といったことも視野に入れて取り組まなくてはならないと思いました。

その後08年に韓国・釜山でeスポーツのシンポジウムが開かれた際に、こうした考えを発表したんです。また、このとき韓国の音頭で国際eスポーツ連盟(IeSF)が設立されましたが、われわれは準備委員会でしたし、こうした国際組織はゲーム大国の日本が音頭を取らないと、という思いもあり、委員長の西村さんとも相談して参加はしませんでした。

その後も将来的にはeスポーツもIOCに加盟するならワールドスタンダードな視点で考えることが重要で、ゲームの人気だけや、メーカーの意向で仕様が変わってしまうのはまずいと言ってきました。結局、その枠が越えられず、スタックした状態になっていた。しかし、世界では億単位の賞金総額の大会が出るなどして注目が高まり、とにかく前に進めようと15年に一般社団法人としてJeSPAが立ち上がったというのがこれまでの経緯です」(平方さん)

現在、日本でのeスポーツに関する団体はJeSPAに加え、日本eスポーツ連盟(JeSF)、e-sports促進機構の3つの団体があり、それぞれが活動している。そのうちの1つ日本eスポーツ連盟はこれまでに韓国人プロゲーマーに日本でのプロアスリートビザを取得させるなどの実績を残す一方、IeSFにも加盟している。

eスポーツプロチームのデトネーション・ゲーミングの代表でJeSFの共同代表理事を務める梅崎伸幸さんは次のように話す。

「JeSFは、eスポーツチームや選手を大切にしている団体で16年11月にIeSFに正式加盟しています。そのため日本で唯一の国際的なeスポーツの窓口になっています。また、超党派の議員連盟と連携して、法改正にも積極的なロビー活動を行っています。JeSPAさんからはいろいろな話はきていますが、JeSPAさんはチームや選手からの不満が多いんです。近い将来は団体を統合といったこともあるのかとは思いますが、今はお断りしています」

一方のJeSPAの筧さんは次のように話す。

「JOCにどういうかたちで加盟するかなんですね。JOCには『国内統一団体を加盟させる』という規約がありますが、ゴルフの団体は5、6ありますが、日本ゴルフ協会がJOCに加盟しています。国際大会に参加する際は団体間で話し合って決めています。そういったやり方もあるので、団体同士が仲が悪いわけではないので話し合いで決められればと思っています」

また、前出の平方さんは協会として取り組まなければならないことがあるとこう指摘する。

「日本のゲーム喫茶は風営法で12時以降の営業は禁止されています。しかし、マンガ喫茶は24時間OKでそこでゲームをやっている人がいる。こうした法律改正や健全にeスポーツを楽しめる場所を作ること。また、学校教育、例えば部活動などにeスポーツが取り入れられるような活動をしていくことが重要です」

eスポーツが動き出したとはいえ、越えなくてはならないハードルはまだ残されている。

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