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2016年4月号より

存在を期待される企業へ“ホンダらしい商品”を追求|月刊BOSSxWizBiz
「存在を期待される企業を目指す」と八郷 隆弘 本田技研工業社長

八郷 隆弘 本田技研工業社長

はちごう・たかひろ 1959年生まれ。82年本田技研工業入社。2007年本田技術研究所常務執行役員。08年購買本部四輪購買二部長、執行役員、10年購買本部購買二部長、11年鈴鹿製作所長、13年中国生産統括責任者、14年常務、15年専務を経て同年6月社長に就任。

昨年6月に社長に就任したのが八郷隆弘氏。ホンダは2016年3月期の業績見通しで売上高14兆5500億円と過去最高の売上高を見込みながら、営業利益では6850億円と、その利益率は4・7%にとどまる。度重なるリコールと相俟って、苦難の船出と言っていい。早急な改革が求められる立場に就いた八郷新社長はホンダをどう導いていくのか――。

現場力を引き出す

―― 就任後、約半年が過ぎて、改めて社長という立場で見たホンダはどのような会社でしょうか。
私はホンダに入社して本田技術研究所に二十数年在籍し、ほとんどの時間をクルマの開発に費やしてきました。その後購買に移り、取引先の現場を回る経験をし、鈴鹿製作所の所長を経て、欧州、中国に行きました。ホンダのなかでも現場に近い経歴だと思います。社長に就いて、改めて回ってみると、やはりホンダには現場力がある。個性あふれる人材が従事しています。この現場力をいかにうまく引き出してあげるかが、これからのホンダのカギになると感じています。現場で話をするなかで、一緒に頑張っていこうという声援もいただきましたし、現場が働きやすい環境をつくり、そこからモノが生まれてくるマネジメントをしていきたいと思いました。

私は主に四輪車事業に携わってきましたから、改めて二輪車、汎用の事業を見ると、お客様に根づき、世界中のいろいろなところでお客様の夢を提供している会社だと感じています。ホンダジェットも見に行きましたが、こんな業容の広い会社は、他にも類はないし、ホンダの強みになっていると思います。

―― ホンダのファン感謝デー等で、いわゆるホンダファンの声を聞くと、「ホンダらしい」クルマを出してほしいとの要望が強い。
ホンダらしい商品が欲しいとの声は、私どもにも届いています。我々が考えるホンダらしい商品というのは、1つは生活の役に立つもの。買っていただいた方の生活を変えて、さらに人生も変わるような、生活に密着した商品です。東京モーターショーでも発信しましたが、ホンダが二輪でスタートしたのはバタバタという自転車にエンジンを取り付けたものです。生活に密着している自転車を少しでも楽に乗れるよう、新しい生活を体験してもらおうと始めたものがスーパーカブになり、いまでも世界中で愛用されています。

就任後、初の東京モーターショーでスピーチする八郷社長。

四輪でも「N360」のようなクルマは、低価格で家族で楽しめる、新しいレジャー、新しい生活を提案する目的で開発されました。以降も環境に対応したCVCCエンジンや初代「オデッセイ」、「スッテプワゴン」といった新しい提案、最近では軽自動車の「N‐BOX」もそうです。北米で秋に出した「シビック」は、新しいCカテゴリのセダンです。デザインもハンドリングも、もう一回ホンダのFun To Driveをやり直そうと、次世代の環境対応と走りを両立するダウンサイジングターボという形で提案しています。生活に根づいた提案です。

もう一つは、モビリティの走りの追求です。ここでは「S660」、台数限定の「Type‐R」「NSX」と出してきましたので、これらを継続することによってホンダらしさがわかっていただけるのではないでしょうか。

―― ホンダらしい“走り”とはどのような認識ですか。
ストレスフリーで、運転することが負担にならない。スカッとする走り。移動するという目的で運転はしますが、ただの移動だけでなく、運転することが喜びとなり、楽しさや清々しさを感じる。お客様がポジティブになれるような走りが、ホンダらしい走りだと思って、そのようなクルマづくりをしています。

―― かつてのホンダのイメージは、他社がやっていないクルマを出す尖ったクルマづくりだと思います。最近は、いわゆる新提案のクルマがないことに不満を持つファンが多いのではないでしょうか。
メーカーとしては、出したクルマはしっかり育てることをやらなければいけないと思っています。2代目、3代目と継続的にクルマを作り込まなければ、買ったお客様ががっかりするでしょう。対して新しいチャレンジングなクルマの開発も手を抜いているわけではありません。

私は2011年に鈴鹿製作所にいました。軽自動車の開発生産、購買を一体にした「鈴鹿軽イノベーション」という軽に特化した部署を立ち上げ、そこから「N‐BOX」という従来にはなかった軽自動車をつくり、ホンダとしてNシリーズを新しい提案として打ち出しました。これは評価をいただいていると思いますし、ある程度の台数も稼げていると思います。グローバルで言えば中国では中国専用車を出し、インド、インドネシアでも地域に根づいている。

ただ、日本のお客様の期待に添えなかった車種が出たという反省はあります。新しい提案は自由で楽しいですが、自動車の場合は様々なメーカーからバリエーションが出揃っていることもあって、まったくの新提案は難しい。ですが、お客様からは「もっとインパクトのあるクルマを出してよ」という声をいただいていますので、ホンダらしいチャレンジをしていきたいと思っています。

―― ホンダは軽自動車や小型車で販売台数を稼いでいますが、必然的に利幅は狭くなります。タカタのエアバッグ関連等のリコールで圧迫している面はありますが、余剰生産能力も含め、営業利益率の改善はどう図っていくのでしょう。
ここ数年で言えば、品質対応の費用が従来より多くかかっています。品質対応はしっかりやっていきますが、一方で、グローバルでみると、我々は生産のキャパに対する販売、ここに開きがあります。固定費をいかに減らしていくか。国内販売を見ると、国内の生産能力は余剰になってしまいますので、輸出にもう一度ふっていく。特に北米は好調ですし、州によっては供給が足りないところもありますので、うまく国内の生産を活用していこうと思っています。新しいシビックの5ドアは欧州市場が中心ですから、欧州で集中的につくりグローバルに展開することにしましたので、他の車種は日本から持っていくことを検討しながら、国内の負荷をグローバルで補完する形にして固定費を下げていきたい。

グローバルモデルのシビックは、前回のモデルは価値が十分でなかったために早めのテコ入れが必要だったのですが、新しい提案をした今回のモデルは最初から競争力を持ち、価値観を高めて収益が確保できる形でスタートできました。同様にCR‐Vやアコードも競争力を踏まえた企画をして準備を進めています。商品としての競争力が高まれば、それをベースとする地域専用車の価値も高まりますので、四輪ビジネスの健全化、進化を進めていきたい。

―― フィットやヴェゼルではリコールを繰り返すなど、品質問題がクローズアップされました。熟成不足のまま市場に投入したとの声も上がりましたが、どのように改善が進んでいますか。
品質問題については、大変ご迷惑をおかけしました。その後のニューモデルについては販売を遅らせ、検証を十分にやりましたので、現在出している新型車からはしっかり品質を確保できています。新しい機種につきましても、企画段階から品質管理をし、研究所での開発段階、工場での量産への移行段階で第三者的な検証ができる体制にして対応を図っています。これまでは第三者的な検証ができていなかった部分がありますから、しっかり開発フローのなかに取り入れて、改善してきています。

苦しみながら強くなる

―― 昨季はモータースポーツの分野で、各カテゴリで残念な結果に終わりました。特にF1グランプリは注目が高かっただけに、負けたインパクトも大きいものでした。
F1は参戦1年目ではありましたが、みなさまの期待に応えられず、大変申し訳なかったと思っています。若い技術者を集め、新たな体制でスタートしましたが、開幕前のウインターテストでは我々のエンジンは初めてでしたし、マクラーレンも新しいプラットフォームでしたから、準備が間に合わずに時間切れでシーズンが始まってしまいました。我々の読みが甘かった。

シミュレーションをし、実際に走行し、確認するという流れのなかで、耐久性まで十分確認できずにレースに臨んだこともあり、前半は信頼性の面でかなり苦労してリタイアする場面が出てきてしまいました。エンジン自体の性能は我々のノウハウでよくなっていましたが、回生エネルギーの分野で熟成ができていない。ルール上、それをシーズン中に改善できないこともあって、後半は信頼性があっても、モーターを使うところがうまくできませんでした。ここの改善が今季の課題です。

我々の過去の歴史を見ても簡単に勝てたわけではありません。苦しみながら、段階を経て優勝できた。とはいえ、多くを言うより結果を出すしかない。レースは勝負事ですから、結果がすべてだと思っています。一日も早い表彰台を目指します。

ただ、現場の若い技術者は一生懸命、一戦一戦改善をしていましたし、若いだけあって成長も速かった。みなさまの期待に応えるべく、今季はひと回り成長した姿をお見せしたいと思っています。

―― 昨年末には、米国でホンダジェットの納入が開始されました。すでに100機以上の注文が入って、注目が高まっています。
創業者・本田宗一郎の夢をかなえたという思いもありますが、このプロジェクトに関わった人たちの思いが強かった。栃木県のツインリンクもてぎ内にある「ホンダ ファン ファン ラボ」に最初のプロトタイプが展示されていますが、これを見ると、二輪車や四輪車からスタートしている飛行機だなと実感できます。室内空間の考え方も「マンマキシマム・メカミニマム」というMM思想が表現されていますから、ホンダならではのジェット機が提案できたのかなと思います。航空機のビジネスは、かなり先行投資をして開発をし、機体を販売して、そのあとのメンテナンスが始まります。トータルで見てのビジネスになりますから、短期的に収益が出るものではありません。私の就任している期間ではない長い単位のビジネスになっていくと思います。セールスポイントは、四輪で培った室内の広さや静粛性、乗った時の快適性を追求している点です。人間を中心に考えたジェット機になっています。

―― 以前から言われていたことですが、トヨタのように台数を売るでもなく、メルセデスのようにプレミアムカーをつくるわけでもない。ホンダが目指す方向性はどこにあるのでしょうか。
台数かニッチか、という話はありますが、我々の目指しているところは、存在を期待される企業です。商品がいかに提案性を持ち、共感を持っていただけるかだと思います。ホンダの原点は生活に役立つ、生活を変えるところにあります。二輪、四輪、汎用に加えジェットも始まり、ロボティクスということで歩行アシストの商品も始めました。すべてのプロダクトで見れば、我々は年間で2800万人のお客様と接しています。その強みを活かし、生活が変わる提案をしていくことで、ホンダはさらに発展していきます。

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