ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

経営者インタビュー

2015年7月号より

持ち株会社化から10年“阪阪タッグ”の相乗効果
阪急阪神ホールディングス社長 角 和夫

角 和夫
阪急阪神ホールディングス社長

すみ・かずお 1949年4月19日生まれ。神戸市の灘 高校を経て、73年早稲田大学政治経済学部卒。同年 阪急電鉄に入社。97年流通本部流通統括室長、98年 鉄道事業本部鉄道計画室長、2000年取締役入りし、 鉄道事業本部長、02年常務、03年社長。05年持ち株 会社の阪急ホールディングスを設立して社長、06年 阪神電鉄と経営統合して阪急阪神HD社長に。

沿線開発やターミナルデパートなどの先駆けと言えば阪急電鉄。 同社が持ち株会社化したのが10年前の2005年で、さらに同年、 阪神電鉄と村上ファンドが対峙したことから翌06年には両社 が経営統合、阪急阪神ホールディングスが誕生した。いまでは 私鉄再編のモデルケースになった阪急阪神HDの角和夫社長 に、10年の振り返りから今後の戦略までを聞いた。

持ち株会社化から10年

〔阪急阪神ホールディングスにとって、2015年は節目の年。昨年は宝塚歌劇100周年だったが、今年は大きな被害を受けた阪神淡路大震災から20年、持ち株会社の阪急ホールディングス誕生から10年だ〕

私が阪急電鉄社長に就いたのは03年でしたが、バブル時代の傷に苦労し、就任当初はその傷の深さに愕然としていました。社長になって2年が経過した頃、ようやく何とかやれるかなという自信ができ、それで阪急百貨店うめだ本店の建て替えを意思決定したのです。そこへ阪神電鉄と村上ファンドの問題が起き、阪神との経営統合という流れになりました。

もともと、阪急グループといえば小林一三というカリスマ経営者が興したこともあり、小林が存命中はグループ間を株で支配する必要がまったくなかったわけです。自立できる事業は自立させていくということで、百貨店や映画、興行事業もそうでした。グループ経営力はある意味、求心力というより遠心力を利かせて、それぞれ自主性をもってやってもらっていた。その上で、グループとして方向性を合わせる必要性が何かあれば、小林が一言言えばベクトルは合ったのです。

ですが、小林一三が亡くなって(1957年他界) 約50年が経っていたわけで、そうなると親子上場の問題も出てきます。たとえば、阪急電鉄もマンション分譲事業をやっていますが、同じように上場していた阪急不動産も手がけている。同じ阪急系でありながら、親会社も子会社も上場、そして同じマンション事業をやっている関係で、利益相反みたいなところがあったわけです。

それで親子上場をやめ、純粋持ち株会社を作ったのが05年です。阪急HDの下に阪急電鉄、阪急交通社、あるいはグループのホテルといった兄弟会社が並ぶようにした。そこに、阪神電鉄という兄弟会社が増えればいいと考え、経営統合を決めました。

〔阪急電鉄は主として梅田(大阪市)─三宮(神戸市)間の山側を走り、阪神電鉄は海側、その中間をJRが走る形で、阪急電鉄は富裕層を得意とし、阪神は庶民的という沿線カラーが指摘されてきた。阪急と阪神の経営統合から10年目のいま、ここまでの棲み分けやシナジーはどう総括するのだろうか〕

思い起こすと06年の4月以降、しばらくは各テレビ局が一斉に、「並行して走っている、ライバルの阪急と阪神が一緒になって統合効果をどうやって出すのか」という論調で報道しました。でも、当時から私は「まったく逆です。並行しているからいろいろなシナジーが出せるのです」と主張しています。

その1つが梅田の街作りです。お互いに梅田にターミナルがあってターミナルデパートを持っている。梅田を起点に山側を走る阪急と海側を走る阪神があるわけですが、“駅勢圏”というものが自ずとあって、海側に住んでいる方が、私は阪急が好きだからと、わざわざ阪急のエリアに来られることはないし、その逆もしかりです。つまり駅勢圏がそれぞれにあるわけです。

2つの私鉄がライバルでなく、一緒のグループとして大阪の百貨店戦争に立ち向かっていけたことは非常によかったと思いますね。統合の話が出た頃、阪神百貨店はすでに耐震補強工事にとりかかりかけていました。で、私は当時の阪神百貨店のトップにストップをお願いしたのです。

というのは、阪急と阪神が一緒になれば、まずは阪急百貨店を建て替える。その工事期間中は、阪急百貨店の売り場が半分になってしまう分、必要に応じて阪神百貨店のほうに売り場を移すことができます。そして、阪急百貨店の建て替えが完成した後で、今度は阪神百貨店を建て替えましょうと。阪神だけが古いビルでは、画竜点睛を欠く街作りになってしまいますから。

時間軸で言えば、阪神百貨店の建て替えは今秋から本格着工して、1期工事で2年半、ビルの西側を取り壊すのに1年、それからまた2年半の計6年かかり、上層のオフィス部分完成はさらにその半年後。つまり、全面開業は22年の春と、ちょっと時間はかかるんですが、グループの象徴になる新しいビルが向かい合ってできるのは、とても大きいと思っています。

ソフト面の街作りも重視

〔阪急、阪神とも、メインの鉄道ルートは梅田─三宮間だが、そのほかの沿線開発や鉄道の延伸といった分野ではどうか〕

阪神では、なんば線の新設が非常に良かったですね。尼崎から難波を結ぶので、梅田を通らずにショートカットして時間が短縮でき、かつ乗り換えの不便もなく、運賃も梅田経由より140円安くなりました。こんなに経済効果の大きい私鉄新線は珍しいと思います。いまだに定期のお客様が増えていますからね。一方の阪急のほうは、北大阪急行の延伸があります。

そういうハードの問題もさることながら、いま阪急と阪神で一緒にやろうとしているのは、沿線で教育、文化、安心といった街作りのキーワードになるソフト面なんです。たとえば「ミマモルメ」。これがいま10万人の会員まで増えました。サービスの1例を挙げると、ICタグを持ったお子様が登下校時に校門を通過すると、登録した保護者の方のアドレスにメールで自動通知するものがあります。

去る4月20日には、シニア向け会員制サロンの運営会社への資本参加を発表しました。ここの旅行、カルチャー、生活サポートや介護支援事業に我々も参画し、高齢者にもっと元気に街へ出てもらい、それによって健康年齢を上げていただく。あるいは認知症の発症を少しでも抑えていく。そういうアクティブな高齢者のための会員制クラブですが、こうしたソフト面からの街作りを重視しています。自治体間競争も沿線間競争も同じことで、住みたいと思ってもらえる沿線であり続けたいですし、それが最大にして唯一と言っていいくらいの経営戦略だと思います。

たとえば最近は大阪で、千里地区が住みたい街の上位にランキングされるようになりました。もっと言えば、梅田とか難波とか、以前では考えられなかったようなエリアが住みたい街になってきていると、マンションディベロッパーの調査で出てくるんです。職住近接もそうですが、大阪の街も以前より少し洗練されてきたのかなと。私の学生時代だと、阪神間に住んでいると大抵、三宮へ遊びに行き、大阪へは出なかったものですが、2年前にできた梅田地区のグランフロント大阪の大規模再開発エリアに代表されるように、最近は大阪もちょっと変わってきたかなと思います。

〔20年前の阪神淡路大震災では、阪急も阪神も鉄道が広域で分断され、自社のビルが倒壊するといった甚大な被害があった。三宮にある阪急のビルもこれまで仮設状態で残っていたのだが、今年度から建て替え計画も具体的に動いていくところまできている〕

結果として、この20年余りで企業が東京に本社を移す動きが起こったのは事実です。ですが、東京一極集中はもちろん良いことではなく、少なくとも東名阪はスーパーメガリージョンのような形にしていかないといけない。その中で当社の沿線人口はまだ増えていて、鉄道の輸送人員は減ってはいないんです。超高齢少子化の社会になると、選ばれる自治体、選ばれる沿線ということが非常に重要。また、都市部においてもコンパクトに機能を集約することが大事であるとずっと主張してきましたから、今後もその方向で街作りを進めていきたいですね。

財務強化も終わり、攻めへ

〔一方、人口減少が今後も加速する中で、5年後の東京五輪は訪日外国人を増やすビッグチャンスとなり、東京の百貨店はすでに訪日外国人たちによる爆買いで潤っている。関西圏も東京経由で、あるいは直接呼び込む形で、このチャンスを捉まえようと意気込む〕

今年は、おそらく訪日外国人が1500万人になろうかと思いますが、ここ4年で倍ぐらいのイメージでしょうか。一昨年に1000万人の大台を超え、昨年が1300万人超え。この強烈な伸びは当然、東京だけで受け切れるものではありません。関西の強みは24時間空港があることなので、観光だけでなく物流の世界でも強いですからね。

〔関西圏以外の、首都圏戦略や海外展開はどうか。首都圏で言えば、その先兵となるのがグループの東宝(阪急阪神HDが筆頭株主で持ち株は12%、阪急不動産が8%、H2Oリテイリングが7.2%)。東宝は映画興行が好調なうえ、不動産ビジネスも活況だ。去る4月17日には新宿コマ劇場跡地に新宿東宝ビルが完成し、ビルの屋上テラスに実物大のゴジラの頭部を再現し、話題に〕

小林一三の時代に、東京でもいろいろ事業を展開しましたしね。それを東宝が引き継いだ関係で、首都圏の不動産賃貸事業は東宝が担っているわけです。我々も東宝の劇場を借りる形で宝塚歌劇の通年公演をして、いい形で昨年、100周年を迎えることができました。

かつては双子の赤字ならぬ“3つ子の赤字”というのがあって、それが阪急ブレーブス、宝塚歌劇、宝塚ファミリーランド。つまり野球、歌劇、遊園地事業の3つが毎年、10億円を超える赤字を垂れ流す状況だったのです。その後、うち2つは撤退をして、宝塚歌劇は東京の通年公演が効いて黒字転換しました。

我々の沿線で成功した事業を東京でやるという部分では、マンションとホテルになります。ホテルは、私が社長になった時点で宴会やレストランビジネスはこれ以上はやらない、宿泊に特化したホテルをやろうと。

海外展開は、私が社長に就任して10年間、財務体質の改善を最大の経営管理指標にしてやってきましたので、たとえば貨物分野は海外で倉庫を持つことは一切認めず、ノンアセットで来ました。ただ、ようやく財務体質の強化も図れて、格付け的にもシングルAをいただけるようになり、負債倍率の面でも私鉄の中で3位グループまでは来ました。なので、今後はある程度、成長投資をやっていこうということで、インドネシアで物件を取得し、今後もASEANを中心に投資できればいいなと考えています。

〔阪急阪神に東宝を加えた企業集団という意味では、私鉄の中でも事業基盤は厚いが、今後の重点課題について、グループの頂点に立つ角氏はどう考えるのか〕

東宝で今年、初めて中期経営計画を発表させていただきました。東宝は非常にいいグループ企業になってきましたし、阪急百貨店も、うめだ本店の建て替えが非常にうまくいきました。電鉄も含めていま、グループが非常にいい流れの中にいるなと思います。

逆に言えば、3つの事業が揃ってこんなに順調な時期は過去になかったので、ちょっと慎重にならなければという思いがするくらいですね。長期的な経営戦略は次世代に任せていきますが、目先は、阪急百貨店なら中国でのプロジェクトを成功させないといけないし、当然、阪神百貨店の建て替えプロジェクトもそうです。まずは、足元の事業をしっかりと、実りあるものにしていくことだと思います。

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い