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2016年4月号より

Mr.クオリティが挑む“ホンダらしさ”の追求|月刊BOSSxWizBiz
福尾 幸一 本田技術研究所社長

福尾 幸一 本田技術研究所社長

ふくお・こういち 1955年生まれ。78年本田技研工業入社。2002年購買本部四輪購買二部長、05年品質・認証担当、執行役員を経て、10年常務執行役員。14年専務執行役員(現任)。同年11月四輪事業本部品質改革担当。15年本田技術研究所社長に就任。

2014年、新型フィット・ハイブリッドのたび重なるリコールを受けて、品質改革担当についたのが「Mr.クオリティ」の福尾幸一氏だった。開発体制の見直しを進めるべく、本社の専務と兼任で本田技術研究所に復帰。昨年4月、継続性の観点から研究所の社長として経営にあたる。品質改革とともに技術開発のあり方にもメスが入ることになった。

研究所内で異業種交流

―― 開発の現場である研究所から本社に行き、ふたたび社長という形で戻ったわけですが、以前とは変わった目線で見られたのではないですか。
研究所を出てから13年経ちました。私は本社の四輪事業統括という立場で事業を見てきたわけですから、研究所とは開発部門として日々付き合ってきたわけです。その意味では、研究所の有り様も見ていました。2014年の11月から急遽、品質に関わるところを再構築する形で5カ月間、研究所に入り、社長になりましたが、研究所がいま抱えている問題というのは、社長になってはじめて気づいたというものではなく、以前から難しさを感じていました。もともと研究所が独立会社として運営されてきたのは、日々の経済状況や本社の商売上の戦略とは別に、少し先の未来を見て新しい技術を仕込んでいくためです。例えば、基礎研究においては、二十年、三十年前から取り組み、ホンダジェットやロボット、水素燃料電池も実を結びつつあります。

―― その聖域と言える研究所が、本来の機能を発揮できていなかったから、福尾さんが社長として呼ばれたということでしょうか。
研究所としては、やりたいことがたくさんあります。それが十分にできているかと言えば、全部が全部、できるわけではありません。フィットの品質問題があった時も「やりたいこと」と「やるべきこと」という課題が見えてきました。やりたいことというのは、早くよい技術を世に出したいという思いです。世の中に問いたいんですね。しかし、各地域でビジネス上、こういう新しい商品が欲しいとなれば、やらなくてはいけないのです。結果的に研究所内での忙しさを招き、焦りを生む。そうならないために策を施すのが私のミッションです。ただ、すぐに解決策が出るものではありません。

アシモと福尾社長(青山ウェルカムプラザ)。

まずは研究所に対するビジネス上のプレッシャーがあります。そして新しいことを生み出さなくてはいけないというプレッシャー。近年のクルマは、単なるエンジンの改良や走りの追求ではなく、エネルギーやITといった広い領域が求められています。そのなかで手薄になった部分はある。やりたいことをやる会社ですから、その面でのモチベーションは高いですが、お客様に迷惑をかけない商品であっただろうか、というところが弱かった。そこは反省していかなければならない。

これを解決するには、実際にクルマに乗り、セッティングをし、技術を開発するメンバー全員が意識を持ち直すことが必要です。そのためには忙しさに焦ることなく、余裕をもって仕事をしなければいけません。本社にはビジネス上のことは少し我慢をしてもらう。新機種を遅らせる、止める、そういった取捨選択を本社や事業本部、世界中の各地域と議論を重ねてきました。開発は続きますから、次の日から楽になることはありませんが、徐々に実行ができていると思います。

研究所内で異業種交流

―― 研究所が考えるホンダらしい技術開発とはどういうものですか。
これは大変難しい。例えば、まだニッチな自動車産業に入った頃は、隙間が山のようにあって、先達がやっていない商品であり、技術であると「新しい、ユニークだね」と評価されました。過去のヒット作は、そこに「ホンダ」というブランドとセットになって「ホンダらしさ」というイメージが高まったと思います。あらためて、自動車を見ると、ユーティリティにしても性能にしても、あるいはハイブリッド技術にしても、各社が競って埋めて、そこに新しい商品、アイデアが出るのは難しくなっています。必然、ホンダらしいユニークさは、商品そのものでは語れなくなっている。

そのようななかで、今年で言えばスーパースポーツ領域の「NSX」、昨年の「S660」、環境技術で言えば水素燃料電池自動車などにアプローチできている。私がこの一年、言い続けてきたのは「広いでしょ? ホンダ」です。取材等では、主に四輪車のホンダと語られますし、実際のビジネスも約8割が四輪事業です。しかし実際は二輪があり、汎用があり、もっと広がってジェットがあり、ロボットがあります。ホンダの本質はその広さです。

私自身、四輪のエンジニアでしたが、研究所を出て購買を3年やり、6年間品質担当をやりました。二輪、四輪、汎用すべてです。そこで自分の知らなかった二輪や汎用の世界を見て、ホンダの広さを実感したのです。昔は小さい研究所でしたから、二輪や汎用を人が行き来していましたが、現在のように大きくなると、人が固定化されて、お互いが何をやっているのか、エンジニア同士が知らない状態になっています。

―― それぞれに壁ができてしまっていると。
そうです。アジアや南米では、小さなバイクを生活の道具として使っています。汎用を見れば、農機具をやっているし、水田に送る水ポンプも作っている。私はアキュラを担当していましたから、自動車ユーザーのなかでもハイレベル、ハイセンスな人たちがお客様でした。しかし実際は、生活に密着して我々の製品を使うお客様のほうがはるかに多い。汎用で600万人、二輪で2800万台、ほとんどが10万円前後というお客様です。この広さがホンダであり、本田宗一郎が最初に描いた役立つ喜び、暮らしを豊かにしたいという原点があるわけです。

それが、大きくなりすぎたがために、各部門が疎遠になってしまった。四輪の研究所にもバイクが好きで入った人もいますし、自動車よりも生活に密着した汎用に興味を持つ人もいるでしょう。そこで公募制で、エンジニアが行き来できる共同プロジェクトを始めています。ホンダの広がりをうまく使えば、新しいものができるという実感はあります。

―― 社内で異業種交流をするわけですね。技術者の自由度がさらに増していく。
募集をしてみたら、申し込みが多すぎて困っています。それはポジティブな面もあればネガティブな面もあって、きっと不満分子も多いんだなと(笑)。
いまの自分の仕事に限界を感じて新しい世界に行きたいという技術者もいるでしょう。特に四輪は大きな組織で1台のクルマをつくるビッグプロジェクトになる。プロジェクトリーダーや開発責任者になれば世間からも見えますし、クルマ1台をまとめる自負があります。しかし、実際にはその下でいろんな機能を担当している大勢の人がいて、自分が一つの歯車のように感じるエンジニアが出てきます。クルマづくりの達成感やお客様の喜びを肌で感じるチャンスが薄くなっている。エンジニアを新しい組み合わせのなかで活かしたい。手応えは感じていますし、そのなかから世の中に期待されているホンダならではの商品が出てくると思っています。

―― 環境対応も国によって基準が異なる等、たくさんのモデルを作るのと同じくらいの手間がかかります。こうしたなかで本社と研究所の関係は、今後どうなるでしょうか。
モデルの数だけでなく、単純なガソリンエンジンではダメですから、各国の規制に合わせた技術のバリエーションは大きな負担です。半面、新しいものを生み出す余裕も確保したい。この2つのバランスを取るのが、いまの研究所のマネジメントであり、本社との関係性の難しさだと思います。

私も本社側にいましたから、あれも欲しい、これも欲しいという思いはわかります。常に本社と研究所の主要なマネジメントが思いを共有して、ガマンしてもらうところも理解してもらう。絶対に安心できる開発、迷惑かけない図面、それが第一責務。ビジネス上、コストダウンしなければいけない商品もありますが、儲からなくても未来に続く商品もある。バランスが必要という共通認識はできてきましたから、本社に「それは違う」と訴える段階は過ぎたと思っています。

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