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2016年6月号より

フィンテックは“小粒” 国と銀行は発想を転換せよ|月刊BOSSxWizBiz

「最近のFinTechベンチャーは小粒だ」――。経産省のFinTech研究会でマネックスグループ社長の松本大氏がこう発言した。ブームとも言えるフィンテック企業のスタートアップに対し、警鐘を鳴らした形だ。その発言の真意はどこにあるのか、日本のフィンテックの現状と飛躍するための条件について松本氏が語った。

アプリケーション屋で終わるな

フィンテックはたいへん可能性がある産業だと思いますが、いちアプリケーションで終わってしまうのかどうか、これが重要なテーマだと思います。

どういうことかと言えば、いまのフィンテックは銀行とかかわっているケースが多いと思いますが、フィンテック企業が銀行をやっているという例はありません。いまのフィンテックは、銀行等の金融機関のいちアプリケーションになっています。

オンライン証券も一種のフィンテックだと思いますが、我々においては東証があり、ほふり(証券保管振替機構)があり、どの証券会社で買っても、同じ株が同じ値段で買え、ほふりに預けられるので安全。根幹の部分は公的な機関により供給されていますから、ユーザーは安心してどの証券会社からでも株の売買ができます。だから我々は野村證券等の大手証券会社と戦うことができた。ユーザーは手数料の部分や情報、使いやすさ等で選べばよかったわけです。サービスさえ持ち込めば、大企業と同じ土俵で戦えました。

フィンテックがこのままアプリ屋さんで終わるのか、銀行のサービスを揺さぶるような新サービスを作っていけるのか、が今後の課題です。

もうひとつ私が言っているのが、銀行、あるいは金融庁や経産省が、このフィンテックブームで優秀な人材がいる時に、ベンチャー企業をアプリ屋さんで終わらせておくつもりなのか、ということです。

「フィンテック企業が活躍できるフィールドを」と松本氏。

従来の銀行のサービスのこの部分までは銀行免許を取らなくてもフィンテック企業がやっていいよという形で、活躍できるフィールドをもう少し国、銀行が広くしていけば、もっと大きくなれる。フィンテック企業側の問題だけでなく、国と銀行がどれだけスペースを作ってあげるかにもよると思います。

ただ、銀行は国でもあります。何かあれば公的資金を使って助けてきた。これからもそれは明らかです。ですから銀行に真っ向から対立する勢力ができるのを国が助けるのは考えにくい。フィンテック企業が銀行を倒そうなんて日本では無理でしょう。一方で、銀行側も自分たちだけで思いつくアイデアや技術に限界を感じています。フィンテック企業にはさまざまなおもしろいアイデアがあるので、アプリ屋さんとしてこき使うのではなく、共存共栄していく道を考えていくべきでしょう。現状では、共存共栄というよりも、アイデアコンテストをやってあげるよといったアプリ屋さんとしての扱いに終わっています。国もフィンテックを推すのであれば、共存共栄の方向に行くように行政的に導いたほうがよい。フィンテックにより、広く金融機関のサービスがよくなるし、日本経済もよくなり、みんなにとってよい方向に行くことが望ましい。

というのも、フィンテック企業はそんなに儲かっていないんです。銀行はマイナス金利といってもメガバンク1行で1兆円の利益が出るほど儲かっています。たとえば決済のような儲かる部分は銀行が握り、フィンテック企業もがんばってはいるけれども、具体的には儲かっていない。銀行業務のなかで利益が出る部分を、銀行免許を持っていない企業でも要件を満たせばやってもいいと国が線を引き直せば、そこにもっとフィンテック企業が入り、アイデアが出てきて栄える。ところが、金融庁は銀行法を変えて、銀行がもっとなんでもできるようにする方向に行ってしまっている。逆なんです。

これまで国が育てようとして育った産業はありません。国が放っておいたバイクやカメラは世界一になり、国が守り抜いてきた金融や通信は世界で通用しない。金融庁や経産省が手を出すのではなく、銀行以外のプレイヤーができる範囲を広くすれば、なんのサポートをしなくても勝手に事業家が入ってきておもしろいことを始めると思います。

ただ、フィンテック企業の人は、こういうことを言わない。フィンテック企業は銀行と仲良くしなければいけないし、金融庁とも仲良くしなければいけないので、言えないんですよ、おそらく。だから、傍らにいる私たちが代わりに言う。私が「フィンテックが小粒だ」と言っているのは、フィンテック企業がダメだと言っているのではなく、いまのやり方のままだったら限界がありますよ、という意味です。

オンライン証券が既存の大手証券会社と戦えたのは、スペースが提供されていたからです。いまのフィンテック企業にSBIの北尾吉孝さんや松井証券の松井道夫さん、私のような荒い人間がいないという可能性もありますが、それ以上にスペースがあったことが大きい。

かつて証券会社を変更する際は、株券を預けてある証券会社から返してもらって、それを持って新しい証券会社にいかなければいけませんでした。セールスと顔を合わせて引き留めを振り切らなければならず、証券会社の乗り換えは非常にハードルが高かったのです。

それを野村證券さんが大きな心で名義書き換えの簡素化を認めてくれた。手数料の自由化があり、株券の電子化も視野に入っていたわけで、いろんな意味でスペースができることがわかっていました。私自身、手数料の自由化がなければマネックスを創業していません。99年10月1日から自由に手数料を決められると法律が変わり、それなら営業部隊を抱えず、インターネットでコストを下げれば安い手数料を提供できると私も始めたし、他の人も入ってきた。

戦えるスペースを与えよ

シンガポールでは、政府のなかにチーフ・フィンテック・オフィサー、いわゆるフィンテック大臣を作り、特区を作りました。フィンテックで2020年までにGDPを12%上げようと言っています。シンガポールが国内経済でそんなに大きくできるわけがない。つまり外から12%ぶんの経済をフィンテック経済として持ってきてしまう。特区を作るという発想はまさにそうで、規制を考えるのではなく、まずスペースを作ってしまおうと。そこに世界中から優秀な人材が集まってくる。

ある国はフィンテックでGDPを2ケタ伸ばそうとしているのに、日本は逆のことをやっている。いち国民として見た時に、銀行業界、あるいは国に対する怒り、フィンテック企業への応援と愛を込めて「小粒」という表現になったわけです。政治家や金融庁は、新しい成長戦略が欲しいのであれば、優秀でおもしろいアイデアを活用すべきで、そのためのスペースを作るべきです。お金をあげることではなく、補助することでもありません。活躍できる場所があれば、勝手に優秀な人間が来て伸びていく。お金もかからないし、難しく考える必要もない。そういう発想を政府が持てれば、変わると思います。

オンライン証券は株取引を変えた。(写真は東京証券取引所)

「棒ほど願って針ほど叶う」とウチのおふくろが言っていましたけど、大きく願って、それでも実現はほんの少ししかできないんです。マネックスだって、野村證券を超えたい、郵便局に代わる国民的金融インフラになると創業時から言ってきて、せいぜいこんなものです。フィンテック企業は、やはり根こそぎ変えてやるんだという考えで発信し、行政にぶつかっていき、そういう考えをメディアの人と話をして世論を作っていくことをやらないといけない。

もしかしたら、やった本人は潰されるかもしれません。だけど誰かがやって変えていかないと、小さいパイのなかで一番を争うようなことになってしまいます。もっとパイを大きくするようにしてほしい。

フィンテックに限りませんが、最近、ベンチャー企業が増えてきて、それについてはいい傾向だと思います。でも、みんないい成績を取ってやろうと思っている。オンライン証券は、失敗するかもしれないけどやらざるを得ない、失敗してもやり抜く、ドン・キホーテと言われても戦いに行くと言われたものです。もともと起業はドロップアウトの道でしたから、やるしかなかった。

いまのベンチャー企業の人はすごく優秀になって数も増えて、平均点はすごく高い。我々の時よりもいまの起業家のほうが、レベルが高いと思います。でも、みんなふつうに勝とうと思っている。先ほどの話で言えば、自分は金融庁に潰されても、ここは言わざるを得ないとか、そういう感じが少ない。これでは少なくともコミュニティは大きくなりません。フィンテックでなくても、日本のベンチャー企業はアプリケーション屋さんが多い。アメリカのITベンチャーは基礎技術から始めたうえでアプリケーションレイヤーもやっています。そういった意味でも日本は小粒なんです。

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