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経営者インタビュー

「月刊BOSS」と、日本最大のビジネスマッチングポータルサイト「WizBiz」との提携に伴い、 19万社を超えるWizBiz会員の中から伸び盛りの企業を毎月1社をピックアップ。トップの事業への情熱に迫る。

2018年6月号より

【BOSS×WizBiz】リーダー育成にもテクノロジー人材開発の可能性を探る 人材育成サービス セルム社長 加島 禎二
人材育成サービス セルム社長 加島 禎二

人材育成サービス セルム社長 加島 禎二

かしま・ていじ 1967年神奈川県生まれ。上智大学文学部心理学科卒業後、90年、リクルート映像に入社。営業、コンサルティング、研修講師を経験。98年に創業3年目のセルムに参画し、2002年取締役企画本部長に就任、約1000人におよぶコンサルタントネットワークの礎を作る。08年常務関西支社長を経て、10年社長に就任。

人材育成の分野でも注目を集めているHRテック。人材開発の面から企業を支援しているセルムもその動向に注目している。次の経営リーダーを育てるには、どのようなテクノロジーが求められるのか、セルム社長の加島禎二氏に話を聞いた。

HRDテックで目指すもの

── 最近は人材育成にもHRテックを使おうという取り組みも増えてきました。セルムではこの動きをどのように捉えていますか。
かつてインフォメーション・テクノロジー(IT)という言葉が流行りましたが、HRITすら日本企業は導入してこなかったなかで、いきなりHRテックと言われて、どこから手を付けていいのかわからないという企業が多いのが現状だと思います。欧米企業では、ITを使って人事をマネジメントするのは大きく3つあって、リクルート、パフォーマンス、タレントをそれぞれマネジメントする時に、特にグローバルで展開している企業ではITのシステムを入れようという当たり前の発想でした。でも日本の場合は、現地はM&Aをした会社だったり、横串でITを入れようという発想がなかったのです。人事機能も人事制度もまったく違うのにITだけ入るわけがありません。人事情報のデータベースがあるくらいで、マネジメントしようとは思ってなかった。そこにビッグデータやAIと言われても、「何から手を付ければ?」という感じだと思います。

私はテクノロジーの専門家ではないので、どうHRテックというトレンドに向き合っていこうかと、2年ほど前から考え始め、気がついたのが、結局テクノロジーはそれを管理する人にとっての省力化でしかないということです。人を育てたり意思決定に使えるものではない。だからそれを人材開発の面からやろうと考えました。HRテックではなく、HRD(ヒューマン・リソース・ディベロップメント)テクノロジーです。ちなみに弊社のなかではHRDアクトロジーという言葉を使っています。アクトロジーとは、アクティベーションとテクノロジーの造語です。

―― HRDテックで目指すものは何ですか?
ポテンシャル人材の早期発見、組織成長スピードの加速化、個人別キャリアの最適化という、人材や組織を開発していくための領域を、テクノロジーを使って実現していく。従来、我々がやってきた分野を、テクノロジーを使ってできないか構想しているプロジェクトチームがありまして、営業にくっついてお客様と一緒に仕事をしています。

いくつかおもしろい話も出てきています。社名は出せませんが、A社さんでは、入社した時の情報と、どんな研修を受けて、どんな仕事をし、どんな上司に付いて、どんな勤務評価だったのかというスループットの情報、そして現在のパフォーマンスをそれぞれ分析して、どうしてこの結果になっているのか因子を探ってほしいという分析。またB社さんでは、入社時のSPIの結果と現在のパフォーマンスの相関があるのかどうかデータ分析をしてほしいという依頼などがあります。

また弊社では将来の経営者候補のための経営塾を年間115本開いていますが、その最後はプレゼンテーションやスピーチで終わります。この音声をすべて録って、機械学習をさせています。リーダーのスピーチをアセスメントできるアルゴリズムを開発しようという狙いです。役員や経営陣が聞いて面白くないと感じたスピーチでも、なぜ悪いのかわからなければ、直せません。リーダーはグローバルなパフォーマンスを発揮しようと思うと、ワクワクさせるスピーチで人を動かしていくのが必須のコンピテンシーになりますし、リーダーとリーダーの信頼関係で仕事を進めるのが欧米の習わしですので、一流のリーダーと当たり負けしないくらいのプレゼンスを発揮できないといけない。単なるプランニングの発表会で研修が閉まるのはよくありません。パワーポイントを使わずに3分間のスピーチをする教育プログラムで、しかもAIを使ってアセスメントできるようなツールができればいいと考えています。

―― それは具体化してきているのですか。スピーチからリーダー育成のヒントが掴めれば面白いですね。
いまはまだ読ませているだけで、どんな因子が出てくるのか、わかりませんが、興味深い。私が着目したのは、研修のなかでこそ取れるデータがトレジャーだと思っています。なぜかと言うと、日常のデータはセンサーを付けられるわけでもないし、評価力がない上司が点数を付けたり、その時々の運不運もあります。そのデータに対しては、私は懐疑的です。360度評価ですら、やはり忖度して付けている。日常のデータは一切、その人の開発には役に立たないのではないかと思っています。

研修のなかで、自分の部門の成長戦略を話せとか、経営課題は何だとか、10年後に社長になった時の就任演説をしろとか、いくらでも課題は与えられます。ある程度要件が整ったなかで取るデータのほうが比較できますし、いいデータです。職場では、その人が社長になった時にどんな思いを持つかなんて、上司は見ていません。現場のデータは人材開発には関係がないと私は信じていますが、これをわかってもらうのは大変ですけどね。

日本企業らしい人材育成

―― 日本企業の場合、派閥人事や同族経営などで、本来のリーダーたるべき人材を登用しないことが多いですね。日本には不向きなシステムと言えるかもしれません。
外資系の場合はポジションの要件が定義されていますから、その要件に対してパフォーマンスを測ることができます。これはこれで科学的にロジックが通っています。日本の場合、そのポジションがどんな責任を持っているのかも不明確です。人事が透明になることの本能的な怖さはどこかに持っていて、HRテックも周辺的なコスト削減と同じ感覚でやりはじめている。まだまだ人事の本丸である経営人材の開発に行く感じではないですね。

日本でタレントマネジメントが普及しないのもそれが原因で、組織を設計する、ポジションを設計する、リーダーのコンピテンシーを測るということをやってきていません。ですから、研修の場でデータを取り、可能性を最大化することで、日本企業らしい人材育成のHRテックのやり方ができるのではないかと思います。タレントを型にはめるのではなく、その人そのものの良さをもっと活かして、成長を支援することが、タレントの開発になると思います。

―― 次の課長、部長など中間管理職を選ぶためのHRテックはどうですか。
課長を部長にする時の企業の悩みは、その部署で仕事ができると課長になってしまうことです。でも異動した先で課長ができるかというと、そうとは言えない。課長というのは、与えられた経営資源のポテンシャルを最大化して、業績を上げるプロフェッショナルな職能と捉えられるのですが、マネジメントができなくては、その事業が使い物にならなくなってしまう可能性があります。日本企業は現場が強く、人事部が昇格の権限を持っていないので、現場から課長、あるいは部長にしたいと言われると、よほどなことがないかぎりは通ってしまいます。人事ができるのは、客観的な専門家に判定をしてもらうアセスメント研修をやりましょうという関与くらいです。

アセスメント研修は、3日間くらいかけて、アセッサーなる専門家が様々なケース課題を与えて、どれくらい解けるかを測る。拷問です。その拷問のような研修を、もっとデータやAIを使って簡単にできないかと言っているのが、我々が提唱しているHRDテックです。この分野のテクノロジーが、もっと発展していけばいいと考えています。

働き方改革で生産性を上げようとすると、集合研修をやっている時間がないとか、eラーニングとか、どんどん軽薄短小に人材育成の施策を捉えがちです。それでは逆行してしまう。AIなどの機械が入ることで、人間の価値が試される時代に、価値を付けるところに対して軽薄短小な施策を打つことはよくありません。人間の価値を高め、成長させることが、もっと大事になりますから、研修を行い、データを取っていくことで、育つ可能性が大きくなることを知ってほしいですね。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

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