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2018年6月号より

人事が変わる! HRテック|月刊BOSSxWizBiz
時代は人材活用へ人事を変えるHRテック キャプラン社長 森本宏一氏

経営戦略こそ人事が重要

「HRテック」と言うと、ひどく斬新なものが誕生したように見えるかもしれない。しかし、人事分野、ヒューマン・リソースにテクノロジーを活用することは、すでに1980年代から始まっており、欧米を中心に人事の情報を一元管理するERPの活用が広まっている。これが現在で言うところのタレントマネジメントシステムに発展していることから、決して新しい発想ではないことがわかるだろう。ちなみに米国で「HRテック」という言葉が商標登録されたのは98年、20年も前の話だ。

キャプラン社長の森本宏一氏。

なぜいまHRテックなのか、その背景をパソナグループの総合人材会社キャプラン社長の森本宏一氏は次のように語る。

「働き方改革という風潮はありますが、いま日本において一番大切なのは人的資源、人的資産をもっと有効活用しないといけないことです。裏返すと、まだまだ眠っているタレントがいて、人材が埋没していますので、シニアや女性も含め、経営資源のなかで最も大切なものを活かしていこうというのが日本全体の背景としてあると思います。

ところが、従来のやり方だと実現できない。働き方改革と言うと残業を減らすとか効率を高めるとか、断片的に捉えられがちですが、本来の目的は人材を活用する仕組みを作っていくことです。そのために改革をし、テクノロジーも使いこなしていかなければいけません」

加えて、経営環境も大きく変化している。大企業だけでなく、中小企業もグローバル戦略で競争相手が海外企業に変化し、国内であってもモノづくり企業が金融やITサービスに参入するなど、他業種がライバルになることはめずらしくなくなった。かつてのような年功序列終身雇用では企業の成長は頭打ちになり、内外から人材を集めて戦わなければ勝負できなくなった。経営戦略、競争戦略こそ人事戦略を抜きには語れない。

「以前は人事の主流の仕事は労務管理、給与管理といったものでした。でもこれからの人事は戦略的に人材を採用し、タレントをいかに育成していくか。オペレーティブな仕事からプロアクティブ(攻め)な業務にシフトしています。オペレーティブなものにすごく時間とコストをかけてきたわけですが、ここをテクノロジーで解決できるなら、人事を変革のエージェントという本来求められる業務にシフトしていくことができます。ここまでは経営者目線。

一方で、現場では短期的に残業を減らしていかなくてはいけません。やはりテクノロジーが助けてくれることがわかってきましたので、現場目線から効率化を図ろうとHRテックを導入し始めています。日本全体の課題から、二軸で流れがきているように思います」

またテクノロジーの進化もHRテック導入の後押しをしている。ERPと言えば大企業が数億~数十億円かけて自社サーバーでシステムを構築するような高額なものだった。近年話題になっている勤怠管理や労務管理のクラウドサービスは、1アカウント月額数百円といったコストから始められる。加えて人手不足が叫ばれるいま、無理に採用コストをかけるよりもテクノロジーに代替してもらうほうが安く済むこともわかってきた。

「ベンチャー企業は人がいないので、最初の人事から最高のパフォーマンスを出すための有効な手段になっています。クラウドサービスは最小のコストから始められ、自社でやらずとも最高のセキュリティで守ってくれる。お試し期間を経て、成果に応じて機能を増やしていくこともできます。また、止めようと思えばすぐに止められることもメリットです。自社なら資産の除却とか、捨てるにも金がかかってしまいます。低コストですぐ始められ、使った量に応じて払う。テクノロジーの進化で、所有から利用への変化も普及している要因ではないでしょうか」

もちろんコストや効率化のメリットもあるが、最大のメリットは人事の限られた時間を他の業務に回せることだ。

「これまで人事は、いろんな数字や書類の処理、手続きに使う時間が仕事の6~7割を占めていたかもしれません。これからは社員のエンゲージメント(会社への愛着)や人材のモチベーションについて、いかに上司や人事が対面して作ってあげられるかという時代になりつつあります。ES(従業員満足度)は福利厚生や給料などが要素になりますが、エンゲージメントは会社が目指す方向や自分の仕事のやりがい、目標に対して精神的にもコミットメントしている状態になります。そこを上司や人事が演出していく。数字で評価するというよりも、数字を作るために気持ちの部分とスキルを含めて作っていくという本質的なところに時間を使っていくことができるようになります。人事の仕事は大きく変わっていくでしょう」

自社に合ったサービスを

もちろん、HRテックを導入したからと言って、必ず成功するというわけでもない。いくら経営者が導入を決めても、その意図が従業員に伝わらなければ、絵に描いた餅で終わってしまう場合もある。

「うまくいかない理由は、データが入らない、または蓄積されないことです。社員にとってHRテックが、働きやすさやクリエイティブな仕事にどう結びつくのか、ストーリーをしっかり共有することが大切です。上から『HRテックを入れました、データを入れなさい』ではやらされるだけになりますから、導入することで会社も社員もハッピーな働き方をどう実現できて、どんな働く環境を作っていけるのか、一緒に作り上げていくことが求められます」

さて、そのHRテックだが、そのサービスは採用、労務、勤怠、人材管理、コミュニケーション、教育、福利厚生等々、多岐にわたる。今回の特集では、中小・ベンチャー企業を中心に導入が増え、一部大手企業も採用しているクラウド型のHRテックを一部紹介してみたい。例えば同じ「勤怠管理」のサービスでも、機能は提供企業によって異なる。自分の会社にどのような機能があるとより便利なのか、検証したうえで導入しなくてはいけない。労務や勤怠など、別々の企業のサービスを導入して連携させることも可能になってきているので、自社に都合のいい組み合わせを選ぶこともできる。

「クラウドサービスの場合、各セグメントにプレイヤーがたくさんいる状況になっています。しかし、最近はAPI連携といって、ユーザーがIDやパスワードを何度も入れずに1度ログインすれば、各サービスが繋がっている状態で仕事ができるようになってきています。どのサービスが会社にとってベストなのかは、会社の規模やどこを強化したいかによってチョイスが変わります」

まずはお試しで1つHRテックを始めてみたいという企業もいるだろう。どんな世界観なのか、次項から覗いてみよう。

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