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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年10月号より

「ファッション性」と「実用性」女性の心を掴む電動バイク/ヤマハ発動機SPV事業部長 砂川光義

いまや2輪車の世界でもエコカーは当たり前。ヤマハ発動機もモーターを使った電動バイクの開発・市販を進めている。 これから普及期に入る電動バイクに、いかなる仕掛けをしていくのか。 実用性に磨きをかけた開発陣に話を聞いた。

2015年8月20日より発売されるヤマハ発動機のエレクトリックコミューター「E-Vino」。ヤマハ発の電動バイクとしては2002年に発売された「passol」から数えて第4弾になる。

E-Vinoは、1997年に発売し、現在まで累計50万台以上を販売している原付1種スクーターの「Vino」をベースにした電動バイク。従来の電動バイクが持つさわやかさやクリーンさというイメージに加え、「おしゃれ感」を押し出し、女性ユーザーへのアプローチを強めている。

E-Vinoの商品コンセプトはUseful& Friendly Clean Commuterで、使いやすさと親しみやすさも掲げている。片道5キロ圏内の近距離移動をテーマにしていることから、ターゲットは「都市部在住、主に片道5キロ以内の近距離移動をする女性層」と明確に絞り込みをしているのも特徴だ。

E-Vinoの製品化までの道のりを開発陣に話を聞いた。

用途に合わせた利便性

「過去、3世代の電動バイクを市販してきたなかで、購入していただいたお客様、購入していただけなかったお客様の様々な声を聞いてきました。お客様が想定した価格のなかで提供できる商品が、どのようなお客様のニーズにマッチするのか。E-Vinoは、ターゲットとコンセプトの絞り込みを従来になく行ったという点で、大きな違いがあります」

「E-Vino」のターゲットは女性。価格はガソリン車並みの21万6520円(税別)。補助金を利用すれば最大2万円の交付もある。

こう語るのはビークル&ソリューション事業本部SPV事業部長の砂川光義氏。E-Vinoは、電動バイクの市場を広げるための製品として明確に位置付けられているという。従来の電動バイクが単純にガソリン車との「置き換え」を想定して開発されてきたのに対し、顧客調査をベースに、用途と価格のバランスを合わせることに重点を置いてきたからだ。SPV事業部マーケティング部EV企画戦略担当主査の千賀善明氏は次のように話す。

「もともとはガソリン車に代わるEV車という考え方でした。当社はガソリン車も開発している会社です。ガソリン車とEV車、それぞれのよいところを引き出し、共存することで、お客様のライフスタイルに合ったバイクを選べるようにと、開発段階から、考え方を変えました」

戦略の転換に沿って実際に開発に取り組んだのがSPV事業部第2開発部長の小屋孝男氏。女性に優しいバイクをつくる条件がEVには揃っているという。

「EVに乗る女性に世界的なヒアリングをした結果、ガソリン車の振動や音、臭いを嫌がる人が共通して多いことがわかりました。ゆっくり、ソフトに走りたいという人に対して、提供できる乗り物がなかった。EVであれば、エンジンの振動はなく、音も静かで、ガソリンの臭いもない。よりソフトな乗り味になるように作り込んでいます」

E-Vinoは約3時間のフル充電で、約29キロ(定地30㎞/h)走行できる。EVにとって最大の課題はこの走行距離であり、電池切れによるストップがユーザーの不安を煽るものになっている。あえて片道5キロという近距離移動のユーザーをターゲットにしたのは、不安感をなくし、より快適さを求めるためだ。近距離に特化することで、電池自体も小型軽量化することができ、充電の時間も短くすることができる。

「走行距離を伸ばそうと思えば、直接的に効果が現れるのは電池の容量を増やすことです。今回の電池は6キロに抑えていますが、それ以上になると、例えば集合住宅等で、2階以上の階まで持って上がるのが難しくなります。女性が運ぶことを想定すると、安定感の高いタテ型で、腿に触れないように持てる薄さ、グリップの握りやすさ等も重要視しました。当然、車体の軽量化も図って、E-Vinoではガソリン車よりも12キロ軽くするなど細かい見直しも積み上げています。もちろん、技術開発が進み、より軽量な電池が出てくれば容量も増やせますし、密度が高まれば走行距離も伸びてきます」(小屋氏)


左からSPV事業部長の砂川光義氏、マーケティング部主査の千賀善明氏、第2開発部長の小屋孝男氏。


試乗車を400店に配備

電池を着脱式にしたのも、ユーザーの利便性を考えてのこと。従来モデルのEC-03はプラグイン方式を採用していた。

「プラグイン方式だと、まだ充電環境に課題があり、集合住宅よりも一戸建てにお住まいの方が多かったのです。要望として、部屋に持ち帰って充電したいという声がありました」(千賀氏)

着脱式なら、付け替えればすぐに走れるというメリットも生まれる。オプションの予備電池を購入すれば、ローテーションで充電のストレスも軽減でき、予備を積むことで、単純計算で走行距離は倍になる。

当面、年間1500台の販売を目標に据えるが、今後の課題は、いかにEVの特性とそのよさを伝えていくかにかかってくる。

「電動アシスト自転車も、試乗会を開くと約8割の人が生まれて初めて乗ったというお客様で、ほとんどの方が漕ぎ出しの軽快さに驚きます。EVにしても、試乗会や店頭のデモを通じて驚きを感じていただけることを期待しています。ガソリン車とEVを乗り比べて、EVがよいという人は出てくると思います。また、近場に出かける際の気軽な足として、新しいお客様の開拓も普及のポイントになると考えています」(砂川氏)

E-Vinoは約4000の販売店で取り扱い、試乗車も400店に配備するという。7月29日にはマスコミ向けの試乗会も行われたが、その静かさゆえに室内での開催という異例のものだった。ぜひ一度、電動バイクの驚きを体感してみてはどうだろう。

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