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経営者インタビュー

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2018年12月号より

【BOSS×WizBiz】いつでも、どこでも、だれでも利便性を追求するコンビニ銀行
舟竹 泰昭 セブン銀行社長

舟竹 泰昭 セブン銀行社長

ふなたけ・やすあき 1956年生まれ。80年東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。2001年セブン銀行入社。10年常務、13年専務、16年副社長を経て、18年6月社長に就任。

「セブン銀行はコンビニエンスを追求する」と舟竹社長。

セブン‐イレブンに入ると必ず設置されているセブン銀行のATM。いまや駅や商業施設など、人が集まるところにも多く見かけるようになってきた。ATMのビジネスに重きを置いた経営はセブン銀行ならではの独自スタイル。そのコンビニ銀行にローソンも正式に参入を決め、ようやく競争が始まる。そこで6月に就任した新社長の舟竹泰昭氏に、今後のセブン銀行展開を聞いた。

ATM2万4392台

―― セブン銀行のATM設置台数は2万4392台(3月末現在)、そのうち3000台弱はコンビニ以外の場所に置かれています。メガ3行をはじめ他の銀行がATMを減らすなか、拡大を続けています。
セブン‐イレブンの店舗が広がるのはもちろんですが、それ以外の場所でも、お客様が使いやすいところについては増やしていこうと考えています。「流通」「交通」「観光」の3つのキーワードで場所を探しては設置をしていくスタンス。流通はショッピングセンター、交通は空港や駅、観光は観光施設、こういったところにATMを置いて、みなさんに使っていただく。これは今後も広げていきます。

―― メガバンクが支店を減らしてリストラを進めるなか、コンビニATMには社会インフラとしての責任も求められますね。
可能であれば、提携金融機関は自分たちのATMを減らしていって、我々のような銀行のATMを活用していただければ。規模の利益で効率的にやっていけるところがやればいいのではないかなと。

―― そうなると、提携金融機関とより深い関係になりますか。
すべての金融機関とお話はしていますが、金融機関同士で効率化して一本化しようというところもありますし、地元銀行同士がATMを共同化しようとしているところもあり、私たちのATMに興味を持っている金融機関もあります。でもなかなか進んでいないですね。慎重に判断されているようです。

―― 銀行の支店が減るなかで、コンビニATMの需要は増えていると思いますが、一方でキャッシュレス化が進み、現金をおろす必要がなくなる可能性もあります。
キャッシュレス化は政府がどんどん推進していますからね。極端に言えば、かつての公衆電話と同じで、ある日気がついたら町中からATMがなくなっているかもしれません。スマートフォンと電子マネーで決済でき、チャージもスマホのなかでできてしまいますから、現金を介在させなくても済んでしまう。

半面、そんなにすぐには変わらない、特に日本は変わらないという話もあります。日本は現金志向が強く、また災害大国ですから、停電になるとデジタル決済が使えなくなる。レジも動きませんし、スマホも電池切れだと何もできなくなってしまいます。結局、財布やタンスに入っている現金が必要になる。ですから、日本のような自然災害が多い国では、そのたびごとに現金の必要性がリマインドされますので、なかなかなくならないのではないか。

―― 北海道胆振東部地震ではまさに停電が影響しました。
デジタルはまったく使えないですね。しかしながら、デジタル化は着実に進んでいますので、我々のATMは現金の入出金にいつまでも頼っていては成長性がありません。新しいデジタル化の波、キャッシュレス化と言われるなかで、このATMは新しいチャネルになり得るのではないかと、いろいろと新しい機能も付加しています。

その1つとして、10月からSuicaやEdyなどの電子マネーをセブン銀行のATMでチャージできるようにしました。交通系電子マネーは、現金でチャージしようと思うと、駅にいかなくてはいけなかったんです。ATMでチャージできるようにしてほしいというニーズがあったので、そうしましょうと。これも現金が介在しているわけですが、過渡期にはそういうニーズがありますので、しっかり掘り起こしていく。他のペイメントでもチャージや出金をするチャネルとしてセブン銀行のATMを使いたいというニーズはあります。デジタルの決済事業者も一気にデジタルで完結できませんから、やはりATMとの接点を求める声はあります。こうしたところにも私たちはサービスを提供していこうと、ATMの位置づけ自体を変えていこうとしています。

外国人の利用も急増

―― セブン銀行で海外送金を行うなど、外国人の利用者も増えているそうですね。
我々は「いつでも、どこでも、だれでも、安心して」使えるATMサービスを作り上げてきました。セブン‐イレブンに来るお客様は日本人もいれば外国人もいますし、健常者もいれば障がい者も、お子さんもいればお年寄りもいます。その方たちみんなが使える端末にしていこうとUI/UXもユニバーサルデザインにしていますし、外国人観光客の方でも使えるように画面は12言語対応にしています。また、今後は日本で働く方も増えるでしょう。その時に、日本語の画面しかなければ使えないですし、コールセンターも9言語対応にして不自由なく使えるようにしています。

―― 現在はどれくらいの割合で訪日外国人に使われているんですか。
我々のATMは平均1日に200万人に使われていまして、そのうち1%が外国人のお取引です。2万人の人が使っていることになります。全国で平均して1%ですから、都心部や観光地はもっと高い割合でしょう。日本に来られている外国人、特に観光客の半分以上は私たちのATMを使っています。というのも多言語対応したATMを持っているのはゆうちょ銀行さんと我々だけですし、訪日外国人の方にとっては郵便局を探すよりセブン‐イレブンを探すほうが圧倒的に楽でしょう。外国人はこれからますます増えると言われていますから、利用もさらに増えていくと思います。

―― 多言語対応のほかにも、スタートアップ企業を巻き込んだイノベーション企画にも積極的ですね。「セブン・ラボ」は注目が高いです。
もともと5人で始まったものですが、スタートアップ企業を回ったりしながらアイデアを募集し、身軽に動いています。オープンイノベーションとして、私たちのATMを使って商売をしたい方は提案してくださいというと、たくさん集まってきます。選抜しながらも、いくつかやってみようという提案もあり、広がってきました。社内では一定の制約のなかでアイデアを考えてしまうのですが、社外からはまったく違う発想でアイデアが出てきます。スタートアップ企業と直接話をすると、担当する社員たちがすごく刺激を受けてくる。社員の能力、意識を底上げする意味でもすごくいい効果が出てきています。

―― 舟竹社長から見て、おもしろいアイデアはありましたか。
銀行法の制約があって、いまは実現できないのですが、ATMで健康をチェックしましょうとか。1日200万人の顔画像があるわけですから、なにか見えてくる。そういう分析に使えないかとか。また、カメラを使って本人確認ができないかなど、検討しています。

ATMを軸に据えたビジネスモデルは銀行業界でも特異なスタイル。ローソンはどう動くか。

こうした試みは他の金融機関では難しい気がします。銀行員は、まず銀行口座を使ってどんなサービスができるだろうと考えます。ところが、私たちの持っている最大の強みはATMの端末、マシンです。マシンは店舗に行けば目に見えるものですから、これを使って何かをやりたいというアイデアを持った人が出てくる。ふつうの銀行ですとATMが1万、2万とあるわけではありません。銀行口座はセキュリティの面からも難しいことが多く、外からは見えないものです。目に見えるマシンを使ってどうするか、スタートアップの方もイメージしやすいのでしょう。まずセブン‐イレブンの店舗を活用できないか、それからATMを活用できないか、こういう話がたくさん集まってきます。

―― 前社長の二子石さん(現会長)は、技術オリエンテッドになるなと言われていました。
お客様のニーズが先です。それがないと自己満足で終わってしまう。フィンテックといえば技術オリエンテッドの発想。お客様ニーズから入って技術を活用し、新しい世界を開こうとするスタートアップもいらっしゃるので、見極めながら進めていかなくてはいけません。

―― 中期経営計画では多角化を打ち出していますし、新しいサービス開拓にはこうした銀行以外の視点も重要ですね。
ATMのマシンをベースにビジネスをし、特にいままでは現金が介在するサービスを実装してきました。しかし、このマシンの強みは今後も活かしながら、必ずしも現金に関係がないようなサービスも検討しています。先ほどの本人認証をできるようにして住民票の登録もできるとか。コンビニエンスを追求していくわけです。また、スマホが身近な端末になったなかで、従来の他の銀行との関係を活かしながら、金融商品が売れるようなプラットフォームを作っていくことも考えられます。

―― 決済口座事業でのサービスも強化すると?
銀行口座サービスの機能強化も考えなくてはいけません。最近は銀行でなくても、電子決済代行業者といいますが、銀行免許がなくても銀行の口座に指示を出すことができるサービスも広まってきています。私たちも銀行口座よりお客様に身近なところに新しいプラットフォームをつくって、銀行口座のアカウントを動かせるような、便利なサービスを広めていきたいと考えています。

―― LINEPayや楽天Payのようなペイメントサービスを検討しているとか。
スマホアプリで使えるようなサービスを提供できるよう、セブン・セブン銀行とセブン・フィナンシャルサービスが出資をしてセブン・ペイという会社を作りました。いまは構想を描きながら進めようという段階です。ATMで現金のビジネスはさらに磨き上げていきますが、一方で現金が使われなくなったとしても、私たちのサービスが成り立つようにスマホをベースにした新しい世界にも展開していこうと思っています。

コンビニ銀行業界の誕生

―― このタイミングでローソンが銀行をつくったのは興味深いですね。コンビニ銀行として初めての競合相手です。
我々もいままで1人で道を歩いてきたわけですから、ライバルであり抜かれないようにと、いい緊張感が出るのではないでしょうか。でも同じ道を歩く人が現れたことは、同業者という仲間のような意識もあります。ようやくコンビニ銀行という業界ができた。

―― 最初はマネされる部分も多いかもしれない。
すでにローソンATMネットワークさんがATMを置いていますので、お客様からすると変化を感じないかもしれませんね。銀行になったことでどのような商売をベースにするかでしょう。

セブン銀行は口座を広げるのではなく、ATMというプラットフォームを軸にして、口座での商売は提携銀行の脅威にならないように普通預金と定期預金、簡単なローン程度で、住宅ローンなどはやっていません。同じ流通系でもイオン銀行さんは住宅ローンをはじめ金融商品をなんでも扱っていらっしゃる。

―― ローソン銀行のカードでもセブン銀行のATMで下ろせるようになるんですか。
どうなるんでしょうね(笑)。我々はいつでも、どこでも、だれでも、というスタンスですから、カードはよろしければ使ってくださいという考えですね。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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