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経営者インタビュー

「月刊BOSS」と、日本最大のビジネスマッチングポータルサイト「WizBiz」との提携に伴い、 19万社を超えるWizBiz会員の中から伸び盛りの企業を毎月1社をピックアップ。トップの事業への情熱に迫る。

2018年9月号より

【BOSS×WizBiz】常に人材課題を察知
進化を続ける人材派遣サービス 阪本 耕治 スタッフサービス・ホールディングス社長

今年は、13年に改正された労働契約法、15年に改正された労働者派遣法、この2つの法律への対応が始まることから、人材派遣の「2018年問題」に直面した年だ。人材派遣業の各企業は事業のあり方が大きく変わろうとしている。そんななか、業界大手のスタッフサービスHDは社長交代、リクルートでグローバルでの人材ビジネスを経験してきた阪本耕治氏が社長に就いた。その阪本氏に法改正への対応と、今後の人材派遣業について話を聞いた。

派遣法改正の影響

スタッフサービスの戦略について語る阪本社長。

―― 派遣業は法改正の影響を大きく受けています。
派遣業だけでなく、派遣先の対応も変化が出てきています。
アメリカと日本の人材派遣のあり方は、比べてみるとまったくニーズが違っています。アメリカでは正社員であっても、今日辞めるという話になれば、今日で退職なんですよね。お互いの合意に基づく契約なので、即日に関係が切れるという意味では、非常に流動性が高い。対して日本は、よほどの環境がないかぎり、人を減らすのは難しい状況ですから、一定の、何かあった時のための変動人材層というのが常に存在する必要がある。したがって、通常時にはふつうに働いてもらう層ですから、派遣の仕事の期間が長いわけです。アメリカは正社員でも切れてしまうので、すぐに正社員として採用する。ですから派遣期間は必要な時だけですから短くなります。

日本は長期になりがちななかで、法改正で同じ事業所で働ける期間が3年までとなりました。日本企業の正社員の流動化がまったく進まないなかで入ってきたルールに、どう対応するか派遣先も派遣元も対応が難しくなっています。企業さんからすれば、3年間働いて、自社の働き方やノウハウとか理解しているわけですから、続けて働いてほしい。我々も働いていただけるのであれば、そのほうがいい。

―― 3年間派遣された人材を、企業は正社員として雇用するところも多いのではないですか。
企業が直接雇用を選択するケースは増えています。いわゆるブルーカラーと言われる軽作業領域は、直接雇用に繋がる可能性が高くない領域なのですが、その領域でも昨年あたりから正社員にするケースが多くなっています。その背景としては、人手不足を本当に深刻に受け止めていることが1つ。また労働人口の今後の推移を見ると、一定数社員を抱えておかないと、もう採れなくなるという恐怖感が企業の後押しをしていることも1つあります。もう1つは、企業が直接契約している契約社員にも5年働けば無期契約にする労働契約法のルールが適用されますので、そのプロセスに乗っかる形で派遣さんも受け入れやすくなっている部分があると思います。

―― 派遣社員をどんどん正社員にされてしまうと、人材派遣会社が派遣する人材がいなくなりませんか。
派遣会社のDNAとしては、働く人の役に立ちたいという面が強いんですよ。そういうチャンスがあれば後押ししてあげたい。ビジネス的な面から言っても、そこを支援してくれないような派遣会社は選ばれないと思います。あそこは正社員にしてくれそうなのに邪魔する会社だなんて言われてしまうと、マイナスのインパクトが出てくる可能性があります。むしろそれを活かして、徹頭徹尾、派遣さんのために役に立つ会社であることをブラさないことが、ビジネスを長く続けていくためにも重要だと思っています。

―― 派遣社員のなかには、正社員としてフルタイム働けないという人もいます。
働き方の多様化と言えば、もはや言葉が陳腐化されていますが、たしかに無限定でフルタイム働ける人の労働人口は増えていません。でも一定の条件、時間に制限があるとか、場所、職種に制限があってフルタイムでは働けない方を雇用していくことで、労働人口は増やすことができます。その一定の制限がある方を受け入れていく企業が増えていますので、派遣会社はまさにその橋渡しをしているところです。そういう方を派遣を通じて、お客様である企業に体験していただき、労働力として認知していただければ、それぞれの企業で制度を作って直接雇用していただければいい。正社員を望まない人は決して多くはないですし、それが当たり前になれば、派遣会社は別のニーズを探すだけの話です。

―― 派遣会社の使い方が変わってくると。
まずはそれぞれの企業が正社員をどう活用する制度なのか、がありきです。そのなかで発生してくるニーズ、課題について、派遣会社を使ってどう解決するかというアプローチになります。正社員の活用の仕方の違いによって、派遣の活用も変わってきます。

おもしろいのは、アメリカでも欧州でも日本でも、求められているニーズは異なっているのに、派遣社員はどの国も労働人口の2~2.5%なんです。イギリスだけ少し多いのですが、他の国は常にこの数字です。どんな制度のもとでも、一定の人材課題があって、ここのニーズが約2%発生している。派遣から正社員への雇用が増えても、あまり不安に感じないのは、その時はその時で、新しい人材課題があるからだと思います。だからこそ大事なのは、お客様と向き合っている社員や派遣さんと向き合っている社員が、何を困っているのか、何を希望しているのか、きちんと聞きつづけることで、会社がうまくニーズに応えられる変化を繰り返すことだと思います。

リクルートとの関係性

―― リーマン・ショックを前後した景気後退で、人材業の淘汰・再編が進みました。スタッフサービスもリクルートに買われたわけですが、リクルートスタッフィングと統合されるわけでもなく、子会社同士の統合はあったものの、それぞれ存続しています。ライバル関係が続いているわけですが、棲み分けなどはされているのですか。
リクルートは、実はアメリカでも3社買収しています。それらの会社もバックオフィスは統合しましたが、ブランドとしては併存しています。基本方針としては、買収しながら成長しつつ、各ブランド、文化は残す。健全な競争相手として併存することが基本方針です。これはビジネス的にも意味があって、リクルートとしてのシェアで見るのか、スタッフサービス(SS)、リクルートスタッフィング(RS)それぞれのシェアでみるのかによって変わる。リクルート50%シェアと聞けば、ポートフォリオを広げようかと思われる。でも、SS30%、RS20%となっていると、分散感が出て、響きも違ってきます。お客様にしてみれば、自分で選んだという気持ちになります。結果としてリクルートグループだとしても、2つのブランドを持っているほうが、より多くのマッチングを生み出せると思っています。フロント側で言えば、棲み分けはまったくしていなくて、単純に健全な競争相手でいましょうというだけです。

―― リクルートホールディングスから両社に対して、グループ戦略としての指示はないんですか。
ありません。もっと言えば、切磋琢磨しなさいとも言われません。全体で成長しなさいという目標が来るくらいです。派遣会社としては、1件でも多く仕事を探している人と、求人さんを繋ぐことが仕事の本質です。つまりこれが社会課題の解決だと思うんですよね。いかにここを最大化していくのか。その時に我々としても健全に成長し、利益を出していくのか、ということが課題なだけですから、2社でやろうがくっつこうが、派遣事業全体として考えればいい話です。

―― 買収した08年当時は、業界首位をリクルートが買ったとして話題になりました。
棲み分けはしていないものの、それぞれに得意な領域がありまして、RSは大都市圏、東名阪の大きなエリアを中心に事務職の派遣が強いです。お客様も大手企業が多いというのが彼らのマーケット。我々は全国にオフィスがあって、地方展開もかなり進んでいます。事務職だけでなく、エンジニアや介護、医療、軽作業といった仕事も幅広く事業部を持って取り組んでいます。大都市圏プラス事務職のRSと、地方を含めた日本全国で多様な働き方ラインを持っているのがSS、この差ですね。逆に言えば、地方では我々が大きなプレーヤーとして各地方で最大のマッチングを作り出しているのに対し、彼らは首都圏にフォーカスしているぶん、我々が追いかけている立場。

―― 実際の営業の現場では競争ですよね。
最後はよりよい提案をお客様と派遣さんにできたほうが勝ちですので、よりよいサービスを提供するという意味において競っていますし、我々も彼らに学ぼうと。会社の規模で言えば我々のほうが大きくても、東京というマーケットでは彼らのほうが大きいわけですから。競合がいるというのは、我々が強くなっていく意味でも非常に大事です。同じグループにいれば、コミュニケーションもしやすいですしね。ひと言も口をきかないということはないので(笑)。

―― 10年経ちましたから、スタッフサービスをリクルートグループと知らない人も多いかもしれません。
もともと派遣業界でリクルートのブランドの強さがあったかというと、どうでしょう。リクルートはかつてリクルート事件もあったので、リクルートという名前でビジネスをすることに抑制感がありました、だからじゃらんやゼクシィ、ホットペッパーといった雑誌ブランドをメインにやってきました。ある時期から禊も済んで、リクルートのブランドも使いながらやっていこうと。でも派遣事業でみた時に、リクルートの名前がどの程度集客力を持っているのか。スタッフサービスの社名や「オー人事」と比べた時に、まだまだスタッフサービスの持っている力は強いので、逆にそれを今後も活かすべきです。買収された会社ではありますが、自分たちのブランドが残って、そこでがんばっているというのは従業員の誇りではあると思いますし、そう簡単に名前を変えるのではなく、いまの名前といまのブランドを使いながら、いけるところまで行く。

「オー人事」CMの反響

―― その「オー人事、オー人事」の認知度は絶大ですね。昨年流れたCMは懐かしさを感じた人も多いと思います。
昨年、初CMから20周年だったんですよ。買収あり、リーマン・ショックありで、最近は流していなかったのですが、強いブランドは活かして、知っていただいて、もっともっとマッチングを増やしたい。ちょうど20周年の節目ですから、人手不足からくる成長という意味でも、じゃあやろうと。

「オー人事」のCM復活は大きな話題に。YouTubeでも再生回数は数十万回に達する。

―― 反響は大きかった?
ものすごく語られるシーンが増えましたね。お客様のところでも言われますし、働いている方からも観ましたと。あの「オー人事、オー人事」は、派遣事業のアイコンのような部分もあるので、派遣業界全体がポジティブな意味で注目を集めることができます。派遣業界にとってポジティブだと、同業他社さんからの賛辞もありましたね(笑)。

派遣社員は、みなさん真面目に働いていますし、現場の社員も一生懸命に派遣さんと向き合って仕事をしていますが、何か労働問題が出てくると、必ず冠がついてきて、イメージのいい業界ではない。やっぱり、いいイメージになっていく努力をしなければいけないし、あのようなCMが派遣という働き方にポジティブなイメージを残せるのであれば、うれしいですね。

―― 今後の戦略についてはいかがですか。
最近は「総合化」をキーワードにしていまして、これだけ多様なニーズ、働き方をしたいという人が増えているなか、どうやって働く場に持ってこられるのかが、1つのチャレンジなわけです。単純に派遣だけでは十分にお応えできない部分がありますので、人材紹介のように、正社員になりたいという要望があればお手伝いします。ニーズがあるならやってみよう。もともと、派遣業は未経験の方はお手伝いできないんです。企業さんからのニーズは、これをできる人を派遣してください、ですから。4年くらい前から、「ミラエール」という未経験の方を常用の派遣社員として派遣するサービスを始めました。未経験の方に一定のトレーニングをして、お客様のところに行っていただく。まだ白地の多い人ですから、お客様にも育てていただきながらお役に立つ。これが非常に評判がいいんです。

また、我々はエンジニアリングなどの領域をいくつか持っていますので、お客様に対して幅広く提案できる、お客様のニーズに対してワンストップでサポートできるような形にしていく。事業部における総合化の推進です。このやり方を進めていけば、そうそう負けることなく、展開できると思います。

―― 新社長ということで、尊敬する経営者はやはり江副さんですか?
「自ら機会を作り出し 機会によって自らを変えよ」、この言葉は強烈に残っていますね。この会社は待っていたら仕事が来ない会社なんだ、自分で取りにいく会社なんだということは強烈に感じました。直接の薫陶を得たわけではないですが、あの一言にのこされたインパクトはとても大きいし、あの一言でリクルートという会社のカルチャーを位置づけたというのは、やっぱり経営者としてすごいと思います。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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