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特集記事

2013年3月号より

藤田晋の「決断」

2012年9月期決算で1411億円の売上高を記録したサイバーエージェント。営業利益174億円、純利益も85億円と過去最高の決算を記録している。

そんな好業績にもかかわらず、サイバーエージェント社長、藤田晋氏は「変革」をテーマに掲げる。急拡大を続けるスマートフォン市場に対し、経営資源のすべてを注ぎ込んで市場を奪いにきたのだ。ただでさえ変化のスピードが速いインターネット業界だが、スマートフォンの普及は従来の業界構造を破壊する転換期になることも予想されている。

好業績でありながら「背水の陣」と言ってはばからない藤田氏は、どのような覚悟で変革に臨んでいるのか。起業から15年目の決断は何を意味するのか。藤田氏に経営に対する思いを聞いた。

30億円の広告出稿

―― 昨年11月から、テレビや各メディアで「Amebaスマホ」の大規模な広告展開を行っていますね。ひと月の出稿量は30億円規模だったとか。
藤田 実際は30億円を少し切る額だったのですが、短期に集中させましたので、1カ月の金額としては稀なケースでしょうね。いまスマートフォン向けのサービスが60点くらいだとすると、CM効果の出来は80点くらいでしょうか。

ふじた・すすむ 1973年福井県生まれ。97年3月青山学院大学経営学部卒業後、株式会社インテリジェンス入社。98年に退社し、24歳でサイバーエージェントを創業し社長に就任。2000年3月に東証マザーズに上場。

―― 60点というのは?
藤田 サービスの出来が低い状態でテレビCMをやると逆効果なんです。継続率が40%を超えればCMを打つという基準を持っていたのですが、なんとかギリギリ届いたかなと。サービスの出来がよくなるのをずっと待っていましたから、満を持して広告を打ったということです。

継続率というのは、何らかの形でサイトにやってきて翌日以降もユーザーが来てくれるか、ということです。40%を下回るようなら、CMを出してもサービスに居付かないままになってしまう。誰も使いづらいサービスには行かないでしょう。もしここでスベってしまっていたら、CMをして集客をして伸ばしていくという計画自体が頓挫してしまいますから、その基準はクリアすることができたと思っています。

実際にCMの後、順調に伸びて継続率が50%くらいになっていますから、広告としては成功だったと思います。ただ、サービスの質がもっと高ければ、もっと伸ばせたプロモーションだったということで、サービスが60点、CMが80点という評価です。サービスに関しては、まだまだ改善して質を上げていく余地があります。

―― 少なくとも、広告での露出量を見る限り、サイバーエージェントが本気でスマホビジネスに取り組んでいることが伝わったように思います。
藤田 それが目的でしたからね。サイバーエージェントのアメーバ事業は、ブログサービスだったりアメーバピグというのが世の中のイメージとしてついてしまっていたので、スマホを我々がやっていることさえ知らなかったという人が多かったと思います。コミュニティやゲームをやっている会社、グリーやモバゲー(DeNAが運営)のようなこともしていましたが、なかなか脚光を浴びることがありませんでした。一気にその状況を変えなければいけませんでしたので、大きな広告戦略になったということです。中途半端にやることのほうが、むしろ危険だったと思っています。

―― 従来の広告代理業やアメーバ事業だけでも高収益な体制を作ってきたわけですが、なぜ「スマホの会社」を前面に打ち出す必要があったのでしょう。
藤田 結局、インターネットのサービスで成功しているのはプラットフォーム事業しかないと言っても過言ではありません。グーグルもそうですし、アマゾンもそう。国内でも楽天やモバゲー、ミクシィもそうですよね。

我々はブログで何とかしたいと思っていたんですが、そもそも出遅れたことで、かなりの代償を払ったと思っています。あらゆるサービスで、何度も出遅れた経験がありますから、スマートフォンでは出遅れず、ナンバー1のサイトをつくり、プラットフォームで成功したいとの思いがありました。

スマホ事業に資源を集中

―― アメーバ事業が黒字化したのが2009年。当時、藤田社長は「素直にうれしい」と語っていましたが、スマートフォン事業の立ち上げで状況が一変しました。
藤田 アメーバ事業の黒字初年度に20数億円の黒字になって、翌年度が68億円くらい。次は100億円を余裕で超えてくる推移でしたが、スマホ事業に突っ込み始めましたからね。もしスマホが来なければもっと安定的な経営ができていたはずだと思います(笑)。

―― それまでの収益を投げうってでもスマホ事業に集中すると。
藤田 実際にそうしています。もう全部なくなってもいいと。スマホが来ているのに従来の収益が伸びているからと放置していれば、必ず落ちます。少なくともフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)の事業はなくなるでしょう。

当然スマホをやるわけですが、従来の事業とバランスをとりながらやっていくという選択肢もありました。ただ、それではせいぜい現状維持しかできません。大きなプラットフォームをつくりたいという思いでやってきたわけですから、これは二度とないチャンスと捉えるべきだということで、フルコミットしています。バランスを取りながらではなく、むしろバランスを崩して、そこに賭けようと。

社員が登場するテレビCMを見かけない日はないほど。広告費は1カ月で30億円に迫る。

―― 金に糸目はつけず?
藤田 30億円程度の広告投資は、ネットのプラットフォームを当てた時の収益規模、あるいはそういう企業の買収を検討した場合は1000億円以上の規模になりますから、たいした金額ではありません。むしろ、そうしたお金を使える状況に行きついた、広告を打てる段階までスマホ事業がたどり着いたことのほうが幸せですよ。




―― 11月から広告を出し始めて、具体的に、どれほどの効果があったんですか。
藤田 まだまだこれからだと思っていますが、1日に4万人くらい新規会員が集まってきています。ゲームやコミュニティもどんどん活性化してきている。ビジネスモデルとしての型はできたと思っています。あとはサービスの質を上げて活性化させながら、アクセス数、ページビューを伸ばし、ソーシャルゲームの売り上げを伸ばし、ということをやっていけば、トップラインはどこまでいくかはわかりませんが、結構いい数字のところまでいくと思います。

―― スマートフォンと言えば、やはり思い浮かぶのは「アプリ」の存在です。ここは従来のパソコンでのインターネットとは異なるところですが、アメーバスマホのサービスはアプリではなくウェブブラウザで提供していますね。
藤田 ネイティブアプリ(演算処理を端末に依存して行うアプリ。多くのスマートフォンアプリはこの形態)の場合、サービスを出してから変更を加えようとすると、手間と時間がかかります。例えばアップルのApp Store(アップストア)の場合だと、アップルに申請して承認されるまで、1週間ほど待たなくてはいけません。なぜブラウザにこだわるかと言えば、我々がやっているソーシャルゲーム、コミュニティというのは、毎日、何度もリニューアルを重ねて、ユーザーの反応を見ながら改修していかなければならないので、ネイティブアプリは合わない。ユーザーの動きを見ながら改善していくサービスをしている会社は、ブラウザでなければ無理だという判断を下しました。

―― 他社はアプリのサービスが大半で、ブラウザはやっていません。
藤田 僕は正解だったと確信していますし、これからも貫くつもりです。他社が追随するにしても障害は2つあって、1つは単純にユーザーが、スマホと言えばアプリだと思っていること。特にiPhoneのユーザーはアプリを見ています。もう1つは、ネイティブアプリのほうが、ブラウザよりも動きがスムーズで心地よい。近い将来、これは逆転すると言われていますが、少なくとも現時点で技術優位性はネイティブアプリのほうにあるから、多くの事業者がアプリに流れているわけです。でもそれは致命的な弱点を見落としているのではないか。インターネットの本質とも言える、ユーザーと向き合い、毎日改善したり、機能を追加したりという運用ができない。

一昨年の8月に戦略を絞り込んだのですが、それまではアプリもブラウザも広告も課金もすべて「総張り戦略」でやってきていました。その際に、何度もアップストアのランキングで1位を獲りましたが、いつも糠喜びで、何も意味がないことを学びました。1つ1つのアプリでは、ユーザーを次のサービスに誘導できないわけです。ブラウザベースのプラットフォームであれば、ユーザーを資産として、アメーバの他のサービスに導くことができる。

今後スマホに置き換わっていくのは100%間違いない。ここで何もしないというのは、特に我々のようなネット企業は新しいチャンスを逃すどころではなく、既存のサービスは落ちていくだけになるので、勝負しないほうがリスクになります。

従業員は5000人規模

―― 藤田社長は以前からメディア企業になることを目指してきましたが、これだけ力を注いでいるにもかかわらず、いまだに一部報道では「インターネット広告大手」という冠がついていますね。
藤田 もう変えてほしいなと(笑)。09年にアメーバが黒字化して、収益的にもアメーバが支えている構図になって、メディア企業になったと言えるようになってきたかなと思いますけどね。

ですが、広告代理業をやめるわけではない。代理業自体はこれからも伸びますし、調子が悪いわけでもないんです。ただ、メディアを強化して代理業も強化すると宣言してしまうと、会社がどこに向かおうとしているのか、わけがわからなくなってしまいます。だからあえて、僕は「メディア企業である」と、同じことを言い続けるようにしています。

スマホ事業にシフトするにあたっては、これまでサイバーエージェントを支えてきた広告代理事業を縮小するという決断をしました。そこにいた優秀な人材をスマホ向け事業に投入するためです。経営資源を集中し、スマホ市場で圧倒的なリーディングカンパニーなっていく。

―― いままでの事業を捨ててもいいと。
藤田 捨てないですけど(笑)。ただ、どれも大事だと言っている会社は、ブレイクスルーできません。あれもこれも大事となっては、平凡な会社になってしまいます。だからいまは、広告代理事業のほうを見ないようにしています。経営資源をすべてスマホ事業に集中する。スマホでブレイクスルーできれば、規模を広げて他の事業も攻めに転じることもできるでしょう。

―― 「コミュニティとゲーム」というテーマでスマホ事業を打ち出していますが、これも従来から目指してきたメディア企業という位置づけですか。
藤田 そこがわかりづらいのかもしれませんね。従来の「メディア」が指していたものは雑誌や新聞、テレビ。インターネットが指す「メディア」とは結びつかないのでしょう。収益構造を見れば、広告であり、課金であり、視聴率が高ければ売り上げも上がるというふうに、同じなんですけどね。

2009年に「アメーバピグ」でメディア事業の黒字化を達成。その後の足掛かりをつくった。

広告代理業の時も、みんな「ネット広告」という言い方をするから、いわゆる「広告」として捉えて、その概念を当て込もうとして、既存の広告代理店が失敗した。実際は、クライアントのホームページにアクセスを持ってくるための枠を販売していたわけです。従来の代理店が、広告とはこういうものだと思ってくれていたことが、創業時の我々にとってはよかった。

雑誌の場合、部数を伸ばそうと思えば、いい記事を書いて、いいコンテンツを揃えようとするでしょう。ネットの場合はコンテンツではなく、サーバーレスポンスやユーザーインターフェイスが優れているなど、技術力がアクセス数を伸ばします。キラーコンテンツを持って来れば成功するという誤解があったから、従来のメディア企業がネットでうまくいかないわけです。

我々が一生懸命、技術力を強化し、内製部隊を抱えているのは、そこがキモだということを知っているからです。コンテンツはいいに越したことはないですが、それよりも、コミュニティやユーザーの快適性がなければ、サービスに居付いてくれません。

―― スマホ事業の本格展開をはじめてからは、かなりの規模の採用も行っていますね。
藤田 いま従業員は全部で5000人くらいで、正社員は2500人、あとは有期雇用です。スマホ事業にはだいたい2500人くらい従事しています。自分でも、まさかこんなに増えるとは思っていなかったですけど(笑)。

ロゴにもなっているアメーバには「色々なものを吸収し、柔軟に形を変えて成長する」という思いが込められている(2009年12月撮影)

でも、この規模でなければ、無理だということです。もともとスマホのサービスはいろんなベンチャー企業が出てきやすい状況にありましたが、現段階では完全に体力勝負になっています。自分たちでどこまでやるのかという考え方もありますが、僕はすべて内製にしなければダメだと思っています。内製を前提とした時に、それだけ多くの人材を抱えるわけですから、体力がいる。また、サービスを改善し続けていくわけですから、マネジメント力が必要になってきます。数年前の、若者数人のアイデアでアプリやソーシャルゲームが生まれるというイメージとは、まったく違う状況になっています。例えばソーシャルゲームは1本ヒットすると、だいたい30人くらいの人員が必要になります。つまり、2回連続でサービスがコケたら、小さな会社は潰れてしまう。

我々のようにアメーバ全体の総合力でページビューがあると、1つコケても別のサービスからアクセスを流すなどして時間稼ぎをしながら、ユーザーに受け入れられるサービスに作り直すことが可能です。サービスを1つ1つ作っている会社では厳しい。

と言っても、僕自身、そんなに大きな会社にいる感じがしないんですよね。ウチの社員もそう思っているんじゃないですか。オフィスは道玄坂周辺の雑居ビルにあちこち入っていますし、1つ1つはそれほどの規模ではない。大企業っぽくなっていないのが、ウチのいいところだと思います。

ネットビジネスは本当にローリスクハイリターンで、先行投資は人とオフィスだけです。その辺の雑居ビルでカチャカチャと作っているものが、時に何百億円という利益を生み出すわけです。ですから、開発ラインをたくさん持っているほうが有利だと判断しています。

海外よりもまず国内市場

―― スマートフォンは海外での普及率も高まっていることから、海外進出の足掛かりにしようと考えている企業も多いようです。アメーバスマホも海外進出を見据えてのサービスになるのでしょうか。
藤田 我々はSAP事業(ソーシャルアプリケーションプロバイダー事業、サイバーエージェントではゲーム開発などを担当)では、そこそこ海外でも当てています。直近のクォーターでも売り上げが21億円、もうすぐ月10億円のペースになりつつあります。国内勢の中では稼いでいるほうではないでしょうか。

SAP事業を通してわかったことですが、よほどずば抜けたタイトルでなければ、海外で通用しない。昨年はスマートフォンに対する期待から、海外市場に対する期待感が高まった年だったと思いますが、安易に、出せばいいというものではない。また、海外に拠点がなくても、ヒットするゲームは国内からでも出せるということがわかりました。海外拠点を作っていた企業も多かったと思いますが、撤退や閉鎖もあるんじゃないですか。

―― 国内でヒットしなければ海外に出さないと?
藤田 人口普及率でみれば、海外進出の期待は高まると思いますが、実際は日本国内市場が大きいんですよね。日本や韓国では根付いていますが、その他の国ではスマホでゲームという環境が整っているわけではありません。それほど夢物語が転がっているわけではなさそうです。

ゲーム以外の分野についても、ローカライズすればすぐにでも海外に出せる状況にありますが、国内で力をつけて、ずば抜けたクオリティにしてからでないと。国内で成功しないものは海外でも成功しないと思っています。

正直、僕は現在の「海外進出」や「グローバル化」をしなければならないような風潮に対しては、懐疑的な見方をしているんですよ。国内で勝てないからと海外に行っても、ダメなものはダメでしょう。クオリティの高いサービスをつくるために技術を磨いて、国内で圧倒的な優位性を持たなければ、海外でも通用しない。ブラウザにした理由というのは、出すまでが勝負ではなくて、出してからが勝負だからです。どんどん改善して、運用を繰り返していくうちに高いクオリティのものが仕上がっていく。

海外は当然見据えていますが、いまは磨く時期。もっと光らせなければいけません。昨年末までにリリースしたサービスは、実はまだアメーバスマホのサービスの3分の1程度なんです。これから毎日、毎週のようにリリースが続きます。スマホ市場のリーディングカンパニーになるために、いまは全社集中して取り組んでいるところです。

(聞き手=本誌・児玉智浩)

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