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2018年11月号より

老舗ネット銀行の岐路 ヤフー子会社でどう変わる
田鎖 智人 ジャパンネット銀行社長

田鎖 智人 ジャパンネット銀行社長

たくさり・ともひと 1972年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、95年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。2003年ヤフー入社。06年ジャパンネット銀行との提携で同行社外取締役に就任。17年ジャパンネット銀行代表取締役を経て、18年2月、社長に就任。

社員全員との対話を進めるという田鎖社長。

今年2018年2月、ジャパンネット銀行はヤフーの連結子会社化し、経営体制を刷新した。社長にはヤフーから田鎖智人氏が就任。ヤフーのインターネットサービスのノウハウをネット銀行に活かす施策が進められる。ジャパンネット銀行にどのような変化が生まれるのか。新社長の田鎖氏に話を聞いた。

「ヤフー銀行」になるか?

―― ヤフーがついに銀行を傘下に入れたわけですが、田鎖社長はもともとジャパンネット銀行の社外取締役でした。今回の子会社化と社長就任にはどのような経緯があったのでしょうか。
ヤフーはメディアや検索のサービスからスタートしていますが、Eコマース(EC)として「ヤフオク!」や「ヤフーショッピング」が始まりました。そうすると、お金の流れがインターネット上で起きてくる。私がヤフーに入社したのが2003年で、ちょうどそのECがヤフーで始まるころでした。その後ECが急拡大する流れのなか、ヤフオク!が伸びてC2Cのお金のやり取りのボリュームがすごく大きいものになりました。その際、お客様は銀行のATMで振込先を入力して、初めての口座、初めての名義に送金することをされていた。これがネットに置き換わったら便利だろう、ヤフーIDと連携したらもっと便利だろうと考えました。それはジャパンネット銀行とであればできるんじゃないかと出資の話や提携の話を05年から始め、06年に資本業務提携しました。私自身も06年から社外取締役に就任し、ジャパンネット銀行とは11年くらい関係しています。

その06年当時から出資比率(ヤフー44.25%、三井住友銀行44.25%、その他11.5%)は変わっていないのですが、ヤフーでの決済金融の重要性が高まり、ジャパンネット銀行としても成長するうえでヤフーとの繋がりを深くしていくことが必要ということで、今年2月に役員の構成を変えて、ヤフーの連結子会社になりました。ヤフーとの連携ができ、ジャパンネット銀行のことも理解している人間ということで、私が就任させていただきました。

―― 子会社化にあたって、出資比率を変えずに役員構成だけで進めたのはなぜですか。
あくまでも目的は、ヤフーとの連携をジャパンネット銀行の成長に繋げることでしたから、きちんとシナジーが生まれる形を検討しました。銀行業務のバックエンドには、大量の事務があり、ノウハウが必要な部分があります。そこは三井住友銀行さんと、イーブンな状態でパートナーシップを組んでやらせていただこうと、比率はいじらずにそのままにしています。

制的にも代取の副社長は三井住友銀行出身者ですし、ガバナンスは緩めることなく、私はビジネスの成長のところをしっかりやる。

―― 正直、私はこの話を聞いた時、「ヤフー銀行」という行名がよぎりました。
確かにブランド使用権の話はあります。しかしジャパンネット銀行はヤフーだけのものなのか、現状をきちんと把握したほうがよいと思っています。名前を変えることはいつでもできますが、戻ることはなかなかできない。この銀行はどうあるべきなのか、私がなかに入って考えて、それから判断しようということにしています。名前だけとりあえず変えるということはしない。

―― 少し前なら楽天銀行、最近だとGMOあおぞらネット銀行など、ネットベンチャーは銀行を意識した動きをしています。
もし今回、我々がゼロから立ち上げるのであればヤフーのブランドを使っていたと思いますが、ジャパンネット銀行は18年前からお客様に使っていただいています。ヤフーは好きじゃないけどジャパンネット銀行は好きというお客様もいるなかで、拙速に社名は変えないほうがいいと思っています。

―― 小村充広前社長(現会長)の時から、他のベンチャー企業との業務提携は多い銀行でした。その意味では社名に色がつかないほうがやりやすいのかもしれませんね。
いまフィンテックと言われているものを因数分解していくと、結局、銀行がベンチャー企業とパートナーシップを組んで、アンバンドリング(金融仲介機能を分解)とリバンドリング(分解後の再結合)をしながらサービスを届けているのですが、それはジャパンネット銀行がずっとやってきていることです。公営競技さんやEC、決済で連携させていただいたり、最近では中古車卸のUSSさんとビジネスローンの話をさせていただいたり。その意味では、マーケットに対して、どうやって一緒に銀行ファンクションを使っていただくかということではずっと取り組んでいますので、提携戦略は変わらず進めています。

社員全員と対話

―― ヤフーとの提携の深化はどうですか。
もちろんヤフーグループとの提携の密度をどんどん濃くしていくことは、まずやらなくてはいけない。そこはいろいろ準備をしています

―― ヤフーの子会社で変わる部分はなんですか。
ジャパンネット銀行でいいものはたくさんあって、伸ばしていけるところは引き続き伸ばし、手当できていないところはしっかり手当する形で進めています。その意味では、真っ先にやろうとしているのがUI/UX面の改善です。インターネットサービスの改善のスピードは速く、銀行は業界全体で見てもアドバンテージがある業界ではない。そこはインターネット基準でのサービスの改善や、お客様にサービスを届けるということをしっかり磨きこんでいく必要があると思います。

―― もともとジャパンネット銀行は「使いやすさ」では顧客満足度が高いネット銀行でしたが、さらに上げていくと。
なかに入ってみると、ジャパンネット銀行が作り出している価値というのは、もっとたくさんあるんですよ。価値を作るところはこれまでとてもがんばっているのに、それをお客様に届けるというところでバランスが取れていません。ネット的にもっとがんばれるところはあると思いますので、ヤフーのノウハウを使って、UI/UX面をリードできるメンバーも拡充して、いろいろと進めています。

―― ジャパンネット銀行は三井銀行、住友銀行の財閥系の印象が強いので、ベンチャーの雰囲気に合うのかと思っていたのですが、意外に生え抜き社員が多いですね。
新卒で直接入ってきている社員が約8割で、他の文化や価値観に染まっているのではなく、その意味ではイノベーティブなことをやろうとする風土で仕事ができています。そのなかで若手社員も成長してきていますので、むしろこれからどうなるか、私の経営の責任は重いですね(笑)。

―― 業績不振のM&Aではなく、成長している企業の子会社化ですから、難しい面もありますね。業績立て直しのほうが、かつての日産のゴーンさんのようにトップダウンでやりやすい。
そうですね。企業の経営が交代する場面はいくつかあると思いますが、我々は比較的レアなケースだと思います。何も失敗していないのに、親の都合だけで経営が変わるイメージですから。ふつうなら、新しいミッションなので、目に見えて何かを変えたくなるものです。それは自重するよう自分に言い聞かせて、しっかりリスペクトを持つようにしています。

ですから、着任して経営方針を整理していくなかで、まずは「対話」をとにかくやっていこうと。一方的に中身を変えることで、損なわれてしまう従来の強みもあると思いますので、そこをしっかり把握する。いまは対話を重視して、全社員(約350人)に話を聞く。いま3周目に入りました。

―― 時間もかかりますね。
確かに時間は割いていますが、変えるべきところと、もっと伸ばすべきところの境界線はどこにあるのか、話してみないとわからない部分もあります。若い年齢層の人が多いですが、話をすると物事をしっかり考えているので、私も参考になることが結構あります。お互いのために割いている時間ですから、今後も積極的に取り組んでいきますよ。

デビットカードが絶好調

―― サービスについてもお聞きしたいのですが、法人向けのビジネスも増えてきました。
先ほども出ましたが、ビジネスローンのところでUSSさんとの取り組みは順調に伸びています。こうしたマーケットを持っている企業様と一緒になって、その先のお客様をハッピーにすることはどんどんやっていきたい。

ワンタイムパスワードを発行する「トークン」。左は収納しやすいカード型。右は配布が終了したキーホルダー型。

現在インターネット銀行が増えて来ているなかで、toCのところはどこも充実してきていると思います。しかし、スモールBの皆様、個人事業主の方とか、中小企業の方々に対する金融サービスは、メガバンクさんもそこまでケアできていません。もっと便利にできる余地は大きいと感じていますので、スモールBの方々に対するサービスは、どんどん強化をしていきたい。

個人を軽視するわけではなく、引き続き強化していきますが、世の中の変化として、個人と法人の境目が曖昧になっています。個人の方でも副業をしていたら、ある意味事業主ですから、法人口座という枠で接するよりは、曖昧さも含めた変化の中で、個人と法人の間を繋ぐようなサービスが提供できればいいと思っています。

―― ジャパンネット銀行はデビットカードに強いイメージがありますが、キャッシュレス化が進むなかで、どのような位置づけですか。
いま絶好調ですね。キャッシュカードとデビットカードを別にしている銀行さんも多いですが、我々はすべてのお客様に最初から機能を付けてお渡ししているので、使おうと思った時にすぐ使える状態にあることが、ご利用いただいている理由の1つだと思います。クレジットカードで月1回落としてくれればいいという人はいいのですが、いま現金で払ってきた人たちがデビットカードにスイッチしてきています。

クレジットカードを作らない人に理由を聞くと、借金が嫌だという日本人のメンタリティが強い。あとは残高を見ながら一件一件、管理をしていきたい、いくら減ったかという動きを見たいというニーズが高いので、支持されているのだろうと思います。残高確認アプリを提供していますが、やはりアクセス頻度が高まっていますし、デビットカードを使って、確認して、ということをされているお客様が多いんだなと実感しています。

―― もう1つ、ネット銀行ではセキュリティの心配が高いです。
我々は体制的にも強化していますし、ナレッジも積み上がっていますので、自信を持って最高水準のものは提供できていると思います。他の銀行さんと我々のやっている活動の共有もさせていただいていますので、業界全体として安全性を高める取り組みも進めています。ただ、セキュリティについてはイタチごっこだと思いますので、これで出来上がったと満足する瞬間は永遠に来ない。

―― 利用する側の意識も必要ですしね。パスワードすら億劫がる人も多いです。
ジャパンネット銀行では無償で「トークン式ワンタイムパスワード」を導入していますが、銀行によっては希望制にしたり有料にしているところもあります。我々が業界でも最初に提供し始めたこともあって、お客様のペインポイントみたいなものもナレッジで蓄積されていますので、様々なご要望をいただいた結果が、カード型トークンといった形で表現されています。インターネットでお金を動かすには、最低限提供すべきものと考えています。

―― 最後に、自らに課せられた使命として何を考えていますか。
いま社内で出しているメッセージとは少し違いますが、「繋げる」ことをやらなければならないと考えています。それはサービスを提供する人とお客様と我々を繋げることもありますし、社員に対してもあなたの仕事はどこに繋がっているのかを見えるようにする。金融サービスをちゃんと届けようというメッセージを共有していますが、金融サービスが行き届いてパートナーさんとお客様を繋げることをやっていく。使命というよりは、それがはじめの一歩としてやるべきことと思います。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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