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2018年10月号より

世代を超えて扱いやすい商品へ続くパッケージの進化

軍事利用から生活必需品

食品包装用ラップフィルムのことを、すべてサランラップと思っている人は多いかもしれない。「サランラップ®」は旭化成では数少ないB2C商品の1つで、1960年から発売され、58年の歴史を持つ長寿商品の1つだ。

このラップフィルムの歴史を紐解くと、時代は1900年代初頭まで遡る。もともとはアメリカで軍隊が活用したフィルムで、ジャングルなどの湿地帯で銃や弾丸を湿気から守るために使われたのが主な用途だった。ところが戦後、ポリ塩化ビニリデン製のこのフィルムには活用用途がなかったという。

その後、フィルム製造メーカーのラドウィック、アイアンズの両氏が妻を伴いピクニックに出かけた際、妻がフィルムにレタスを包んで持参したところ、その場で話題になったという。2人はクリング・ラップ・カンパニーを設立し、開発に着手。ダウケミカル社から樹脂のロールを取り寄せ、サランラップが完成した。ちなみにサランラップの商品名は2人の妻であるサラ(Sarah)とアン(Ann)にちなんで命名されたそうだ。

下から順に1960年の発売当初、66年以降、93年以降、2008年以降、2014年以降に使われたデザイン。

日本では旭化成がダウケミカル社と提携し、52年に合弁会社の旭ダウを設立、60年に販売を開始している。

「発売当初は、一般家庭の冷蔵庫の普及率がまだ10%ほどの時期で、常温での保存が一般的。価格も1本7メートル巻きで100円と、現在なら1000円以上にあたる非常に高価なものでした。売れない時期がしばらく続いたそうです」

こう語るのは旭化成ホームプロダクツ マーケティング部コミュニケーション企画グループの片山洋希氏。サランラップが市場に受け入れられた経緯を次のように語る。

「大きく寄与したのは2つありまして、1つは冷蔵庫です。65年くらいから急速に普及しはじめ、それに伴ってサランラップの価値が評価されるようになりました。70年代になり、冷凍庫も冷蔵庫に常備されるようになってきまして、冷蔵保存から冷凍保存に幅を広げた訴求ができるようになっていきました。もう1つが、75年ごろから電子レンジの普及で2度目の伸長期を迎えました。81年には電子レンジの普及率が40%を超え、レンジでの加熱調理用途も訴求できるようになり、現在まで拡大しています」

冷蔵・冷凍保存と加熱調理との両方に訴求できたのは、ポリ塩化ビニリデン製フィルムの特長が大きく寄与している。耐冷性と耐熱性の両方に優れた素材だったことは、現代社会の生活にしっかりフィットし、広まるべくして広まったと言えるだろう(マイナス60度~140度まで使用可能)。

また、一般家庭の生活に入りやすいよう、パッケージについても幾度となく改良が施されている。

「発売当初はグレーを基調として、いかにも化学会社が作ったような商品というイメージでした。食品に関わるものですから、キッチンに合ったようなデザインを取り入れていかなければならないと、親しみやすい黄色をモチーフとしたデザインに変更していったのです」

ユーザビリティを重視

66年に黄色を基調としたパッケージとなり、90年代からはデザインだけでなく、ユーザビリティも考慮したパッケージへとリニューアルしている。

「最初の大きな転機は、93年のリニューアルで、パッケージの外側の角にむき出しで付いていた刃をパッケージの開け口の内側に付けるようになったことです。パッケージの外側に刃があると、握った時に手が刃に触れてしまうことがあるため、刃の位置を変えることで安全性を向上させました。

フィルム自体は、密着性やハリ、コシなど、お客様もある程度満足されているレベルまできていると思いますが、パッケージに関してはこれからもユーザビリティを上げていくつもりです」

そんななか、2014年のリニューアルはイメージをガラリと変えるデザインになった。従来の黄色を基調としたパッケージから、サイズに合わせて色を変えるという大胆な変更を施している。

パッケージの進化について語る片山洋希氏。手前はキャラクターの「たぶん、クマ。」と新パッケージ。

「サランラップと言えば黄色、というイメージがついたなかで、14年は大きくパッケージデザインを変更しました。近年、キッチンは隔離されたスペースではなく、対面式のキッチンが増えてきたこともあり、部屋の中に馴染むデザイン、置いても景観を損ねることなく明るい気持ちになるようなデザインに変更していこうという方針で、特に若年層の方にも受け入れていただきやすいパッケージにしようという思いがありました。

ただ、デザインを大きく変えると最初はサランラップと認知されず、苦戦しましたが、広告宣伝やキャラクターを活用することで訴求し、いまではデザイン変更前よりサランラップとしての認知率は高くなってきています」

キャラクターであるカラフルな彩りの「たぶん、クマ。」はCMにも登場し、商品の幅広い世代への訴求を担っている。また、「サランラップに書けるペン」といった関連商品も登場。

「『サランラップに書けるペン』は水性ペンなのですが、ふつうの水性ペンではフィルムに書くとインクが弾かれてしまったり、水に濡れるとインクが落ちてしまうのですが、このペンは乾くと水に濡れても落ちにくく、安全性に配慮したインクを使用しています。サランラップで食品を包むと同時に、作る人の気持ちや食べる人に対して思いを伝えるなど、コミュニケーションが取れるようにという思いがこもった商品です。

今年もリニューアル

これらの取り組みもあってか、17年のサランラップの家庭用ラップフィルムの売上シェアは50%に近づいている。今年はさらにリニューアルを施し、勢いを加速させる構えだ。

「今年の春から、順次、新パッケージにリニューアルしています。ようやく7月に主要サイズの切り替えが終わりまして、いまは市場の9割が新しい商品に切り替わっています。ただ、まだお客様にはほとんど知られていない状況で、8月半ばから本格的に訴求を開始します」

今回のリニューアルのポイントは大きく3つ。生活者にとってはより切りやすく、より使いやすいパッケージへと進化している。

弾丸を守るフィルムが食品を守るサランラップへと変化。

「1つ目が、刃の形を直線型からM字型に変えました。M字型にしたことで、両端と真ん中の3カ所の先端に力が集中するようになり、従来の40%の力でフィルムを切ることができます。2つ目は、開封した時に、最初に引き出すテープを引き出しやすくしました。引き出しテープの摘みが見つけやすくなり、また両端のフィルムを折り込むことでスムーズに引き出しやすくなりました。3つ目がパッケージを細くし握りやすくしました。1辺を2ミリほど細くすることで、パッケージの開け閉めなど、様々な動作が行いやすくなっています。調査によると、商品を選ぶ際に重視するポイントの1つは切りやすいことなので、今回のリニューアルで大幅に改良されましたので、より選ばれるラップになることを期待しています」

フィルムについても改良は行われてきたが、生活者にわかりやすいのはやはりパッケージによるユーザビリティ。58年間にわたって、進化を続けている。

近年では災害での節水時に、水の使用を減らすために皿にラップを敷いて盛り付けるなど、災害グッズとしての使用も増えてきているとか。軍事物資だったフィルムが食品を保存するために転用され、生活の必需品になってきたことはストーリーとしても興味深いものだ。

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