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2018年2月号より

“眼科医療の常識を変える見えないものを見るレーザー
菅原 充 QDレーザ社長

菅原 充  QDレーザ社長

すがわら・みつる 1958年生まれ。新潟県出身。82年東京大学工学部物理工学科卒業、84年同修士課程修了。95年東京大学工学博士を取得。84年富士通入社。富士通研究所 フォト・エレクトロニクス研究所フォト・ノベルテクノロジ研究部長、ナノテクノロジー研究センター センター長代理等を歴任し、2006年、富士通のベンチャー支援制度により、QDレーザを設立、社長に就任。

2016年の「CEATEC JAPAN 2016」で最高賞にあたる経済産業大臣賞を獲得したのがQDレーザ。網膜に直接映像を映し出す「網膜走査型レーザアイウェア」で注目を集めている。

このアイウェアで驚くのは、メガネやコンタクトレンズを使っても十分な視力矯正ができないロービジョン(全盲ではない視覚障害者)の人でも鮮明にモノを見ることができる可能性があること。ロービジョンと一語で言っても、症状は多様で、緑内障や白内障をはじめ、強度近視など幅広い。これらの患者の多くが、このアイウェアを使えば目の前の景色が見えるようになるという。すでに発売目前の段階に入っている「網膜走査型レーザアイウェア」について、QDレーザ社長の菅原充氏に話を聞いた。

網膜に直接レーザーで投影

── シーテックで経済産業大臣賞を獲得して以降、メディアに登場する機会も増えていますが、改めて「網膜走査型レーザアイウェア」について、解説していただけますか。
網膜に画像を書きこむというテクノロジーで、アイウェア「RETISSA(レティッサ)」と網膜に直接投影する新技術「ビジリウムテクノロジー」を商標登録しています。このアイウェアをロービジョンの方々に届けるプロジェクトを始めています。

PCやスマートフォン、カメラからのデジタル情報を、網膜にそのまま書き込むことができる。そのデジタル情報をRGBの三原色の光に変換して、それを点描画していく形です。プロジェクター自体をアイウェアの中に持ってきて、網膜をスクリーンとして映し出す。アイウェアの中心にカメラが付いていて、その映像をそのまま見ることができたり、あるいはスマートフォンの動画を観たりすることもできます。

レーザー光が瞳孔に照射されて、網膜をスクリーンとして直接画像を届ける。基本的に我々がモノを見る時は、目のレンズ全体を使って見る。そのレンズが曇っていたり、ピントが合わなくなると画像がきちんと見えないわけですが、細いレーザー光を使うので、曇っていようがピント作用があろうがなかろうが、目の調節作用によらずに鮮明な画像を見ることができます。

2年ほど前に日本の病院で視力試験をやってみたのですが、35人被験者がいて、裸眼視力は0.0いくつから、1.5くらいまで幅広く試してもらいました。すると、網膜に書き込んだ時の視力は、裸眼の視力がよい人も悪い人も、平均して0.5前後になります。つまり、目のレンズ調節機能に関係なく同じ視力になったわけです。

私は、これを医療運用しようとしています。目の病気にはいろいろあって、屈折異常や混濁とか網膜症とかありますが、特に前眼部の曇りや屈折にかかわらず画像を書きこむことができるので、そこがおかしくなった人たちの視力を上げることができます。これはハンディでウェアラブルなものですから、日常的にメガネとしてかけて使うことができます。

専門的な話になりますが、眼底検査のSLOや断層撮影のOTCと同じレーザーテクノロジーですから、将来的にすべての装置をコンバインして、1つの装置にすることも可能です。アイウェアをかければ、目のどこに病変があって、どのように視機能を妨げているかがわかるようになります。そこまでたどり着ければゴールだと思います。

── 角膜に異常があったり、白内障でも光さえ通せれば、目が見えるようになるわけですね。
全盲だと難しいのですが、レーザー光が通せれば見ることは可能です。ロービジョンの方は、世界中で2億4600万人くらいいると言われていて、日本では145万人と言われています。特に日本は、高齢化が続いていることもあって、増えていくと予想されます。目の病気は高齢になるほど増えていき、元には戻りません。目の病気があると、QOLが下がって、気持ちが落ち込んだり、事故が増えたり危険なことがたくさんあります。レティッサなら前眼部をバイパスして画像を認識いただけます。持ち運びもしやすいですので、美術館に行って絵を見たり、会議で人の表情を見ながら会話することができるわけです。

いま欧州と米国と日本で医療機器認証を取ろうとしていて、臨床試験を受けることになっています。網膜に直接レーザーを届けることで、病変と視機能を同時に測ることができ、病変の早期発見や見え方と病変の相関を明らかにすることができるでしょう。SLOやOTCのデータが統合されていくと、AIで解析して、どんな生活をすればどんな病気が起こるかまでわかってきます。アイウェアをかけるだけで、将来の失明を救うこともできると思っています。

10万円以下の価格設定

── レーザーを使った視力回復の発想はどこから生まれたんですか。
もともと私はレーザーを通信やインターコネクトなどいろんな分野で展開してきました。レーザーでディスプレイに映すというのは、ずっと研究されてきていたんですね。網膜に画像を書きこむという技術は、それ自体は30年くらい前に発想があって、特許も取っていました。2013年に試しに作って発表してみると、視覚障害者の方から試させてほしいと連絡をいただきました。盲学校に持っていくと、これを使えば見えるという人が結構いたのです。事業として可能性があると思ったのは14年になってからですね。

網膜走査型レーザアイウェアの「RETISSA」。メガネの内側に機構を付けることで、外観をより自然なものにした。

── 富士通時代から、レーザーの可能性をいろいろ研究されていたわけですね。
特に量子ドットレーザーという通信向けのレーザーを基礎からやっていまして、広いバックグラウンドは持っていました。QDレーザ自体は、通信向け、光インターコネクト向けの新しいレーザーを事業化するために始めた会社ですが、ディスプレイやセンシング、メディカルと、いろんな分野にレーザーを応用できる基盤技術を持っていることに気が付いて、広げてきたところです。

18年の7月から、レティッサの試験販売を数百台から1000台の規模で行います。民生機器として売るんですが、治験が終わって医療機器の認証が取れた段階で、19年度から本格的に販売していきます。いまより安く、高性能、小型にしていくというプロセスで開発を進めていますので、東京五輪の頃には、世の中に知られて広まりはじめていると思います。

── 価格はどれくらいを?
10万円くらいでできます。実は、これは半導体レーザーの技術なので、もともと我々が持っているものです。メガネに半導体とスマホの技術があればできてしまいます。数千台レベルでもその価格は可能で、もっと安くできる。あとは作り方とパートナーシップですね。

── 先ほど私もレティッサを付けさせてもらいましたが、健康な目でもかけられることで、様々な可能性を感じます。
2~3年後には、プロジェクターの機構がメガネに埋め込まれるまで小さくなります。つまり、ふつうのメガネにIT機能が付くところまでいくでしょう。数年先になると思いますが、スマートフォンと連動して、スマホの情報が、そのまま見たい時に見られるようになる。このアイウェアのいいところは、レーザーが瞳孔を通らないと見えないので、見たくない時には見なくてすむわけです。メールを見たい時だけ、少し上を向くと、メールが読める。もうそういう時代に来つつあります。

── いいことずくめの話でしたが、QDレーザにとって、今後の課題はなんでしょうか。
アイウェアについては、小型低電力化が課題ですね。いまはフル充電でも2時間強しかもたない。最初の頃のスマートフォンもそうだったと思いますが、小さくしても電池がもたなければ辛いです。それを倍にしようと、次のモデルの開発を進めているところです。

レーザーは80年代に光通信を作り、CDやDVDの光記録を作り、インターネット社会を作ってきました。それがレーザーの第1世代だとすると、いまは第2世代が始まっています。新しい分野を自分たちで開拓していかなくてはいけません。とっかかりが医療機器やメガネですが、レーザーの広がりはそんなものだけではない。我々の力で、新しい世界が作れればいいと思います。

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