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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2018年2月号より

2018年に飛躍する日本発世界ベンチャー|月刊BOSSxWizBiz
中東の砂漠を緑に変える日本の技術が生んだフィルム農法 森 有一 メビオール社長
木村奈津子 ホームアウェイ日本支社長

森 有一 メビオール社長

もり・ゆういち 1942年生まれ。東京出身。早稲田大学理工学部応用物理学科卒業後、東レに入社。その後、テルモ、米国W.R.グレースといった日米の大企業で研究開発。95年に53歳でメビオールを設立、社長に就任。

「トマトを介して人間とお付き合いするのはどうか」と森社長。

2017年10月に行われたスタートアップW杯日本予選で、特別賞に輝いたのがメビオール。同社は安全で栄養価の高い農産物を栽培するフィルム農法「アイメック」を開発したAgTech(農業IT)のベンチャー企業だ。設立は1995年と、スタートアップと言うには古参だが、砂漠でも野菜が栽培できるという技術力に世界中が注目。今後の大きな飛躍が確実視されている企業だ。そのメビオール社長の森有一氏に話を聞いた。

人体から植物へ

── フィルムを使った新しい農業のスタイルを考案されたわけですが、従来の土と水を使った農業とはずいぶんイメージが変わりますね。どのような仕組みなのでしょう。
このフィルムにはハイドロゲルの機能が付いています。よくハイドロゲルが使われているのが紙おむつです。おしっこを吸って、絞ってもおしっこが漏れない。表面はカラカラに乾いた状態ながら、外に水を逃がさない高い保水性を持っています。また、このフィルムには、ナノサイズの穴が無数に開いていて、バクテリアやウイルスを遮断して水と肥料だけを通すようになっています。このフィルムの上で植物を栽培するというものです。

── 森社長は95年の創業以来、このフィルムの開発を手掛けてきたわけですが、どのような経緯で開発に着手したのですか。
私は大学を卒業してから53歳でこの会社を起こすまで、30年間、日米の大企業で人工の臓器や人工の血管など、プラスチックを使った医療機器の研究を行ってきました。人間の体をプラスチックで代えようと、そういう研究です。しかしながら、人工透析も人工心臓も、置き換わるわけではありません。透析は死ぬまで週2回、続けなければならないし、人工心臓も空気を入れてあげなければならない。必要なものですが、不完全なものでもあります。そして、先端医療は非常にお金がかかるものです。

そうであれば、同じ技術を使って、同じ生きものである植物で安全かつ高品質なものができるならば、そちらのほうが役に立つのではないか。私は30年間、人間そのものに関わってきましたが、非常にリスクのあるものでした。製品開発しても厚労省が認可してくれなければ使えません。であるならば、もっと間接的に、トマトを介して人間とお付き合いするのはどうか。運動して、安全で栄養価の高いものをきちんと摂れば、病気にならない。私も75歳になりましたから、よくわかるんですよ(笑)。そういう農業をしようと、このベンチャーを作ったわけです。

工業の世界というのは、いろんな素材が開発されて、それが新しい事業に繋がっていく。例えば最初は石です。石器時代。次は青銅になって、次に鉄の発明があって、蒸気機関ができて産業革命。いまはプラスチックです。次の時代はおそらく半導体でしょう。そういう新素材が新しいビジネスを作っています。ところが、農業は太古から土と水。土耕栽培と水耕栽培です。それをプラスチックに変える。業界の破壊者というのは、異業界から来るものです。ですから、農業に革命を起こすとしたら、きっと農業以外からしか起きないわけです。

── 大手企業で培った医療分野の研究の経験が、このフィルムに活かされているわけですね。
私は東レで、透析の患者さんに使う透析膜の開発をしていました。ですから、菌とウイルスは絶対に通らない。ただし、水は通るのです。このフィルムを液体肥料上に置き、その上にレタスなら種、トマトなら苗を置くと、根がフィルムに張り付いて成長します。

ハイドロゲルですからフィルムのなかに水と肥料が入っている形になります。それを吸うために、植物は根の表面積を増やします。一般的な土耕栽培や水耕栽培の場合、根は太くて100ミクロン。このフィルムに出てくる根は1ミクロンくらいです。それをびっしりと伸ばすので、面積が従来の1万倍くらいになります。だからこそ栄養をしっかり摂って、栄養価の高い野菜ができます。同じ品種の植物でも、土とフィルムでは太さの異なる根の出し方をします。これは植物が持っている環境適応性で、こうした機能を農業はもっと使わなくてはいけません。

── フィルム農法を、農家の方はすぐに受け入れるものですか。
最初は惨憺たるものでしたね(笑)。「こんなものでトマトができるわけがない」と追い返されるんです。信用してもらえなかった。これは普及させるのが難しいなと思っていたのですが、実は、意外と順調に採用していただいていまして、国内で150カ所くらいの農場で取り入れられています。

やはり、使っていただけるのは非農家なんです。60%が製造業や運輸業といった他業種で、40%が農家。その農家も、その多くが、息子たちが継いだ若い世代です。

海外からの問い合わせ

── 農業がない不毛地でも栽培できることを売りにしていますね。
土を使いませんからね。いくつか例を挙げると、1つは陸前高田市です。被災して土が非常によくない土地ですが、いま2ヘクタールを使って栽培しています。それから、土壌汚染が深刻な中国、上海。ロシアもこれから始まりますが、ロシアも土がよくないんですね。それから中東です。いま砂漠の真ん中にハウスを作って栽培しています。

中国の方は、土壌汚染による作物の汚染を非常に懸念しています。彼らはわざわざ見に来て、本当にフィルムで土と遮断されているかを確認する。それで糖度をはかり、買っていく。ものすごい人気で、わずか1年半で5ヘクタールにまで広まっています。

フィルムの表面には根がびっしりと張り付いている。

中東も、ドバイから1時間くらいのところにある砂漠ですが、ハウスを作って我々が教えに行くわけです。インドやパキスタンから来た労働者が多いのですが、2週間ほど教えるだけで、あとは彼らだけでできます。土作りや水やりの技術を教える必要がないからです。驚いたことに、ドバイでこのトマトは日本のフィルム農法のトマトよりも甘くて、量が採れます。100%晴れているので、日照量が多いんですね。また、砂漠の下にあれだけ石油があるということは、かつては植物が繁茂していた土地ということですから、砂漠は最高の農場だと言えます。

ちなみに砂漠の真ん中でも日本の技術があれば農業が可能なんです。電気は通っていませんが、太陽光はすごくある。水道も通っていませんが、地下水は意外とあるんです。つまり、日本の太陽光発電の技術と、水の淡水化技術、そしてフィルム農法の技術があれば、十分、栽培できることになります。そういう計画も考えています。

── やはり、海外のほうが需要は高そうですね。
いまパテントは134カ国に申請して、118カ国で特許になりました(2017年11月22日現在)。ふつう先端テクノロジーの特許は先進国にしか出さないのですが、この技術はアフリカや東南アジア、中国で意味を持ちます。主戦場は海外です。もともと農業がないところは経済的に悪いところが多く、テロや難民といった問題に繋がっていきます。アイメックは難しい農業技術は要りませんし、水のロスも少ない。問題解決のソーシャルプログラムの1つの解決策に繋がればいいなと思っています。

── 海外企業でマネをしてくるようなところは出てこないですか。
海外の農業大手というのは、穀物のジャンルで野菜ではないんです。穀物はカロリーで、たくさん摂らなくてはいけないものです。大手は遺伝子組み換えと種とそれに合った農薬で、世界を席巻しています。日本企業は誰にもマネできません。我々の出る幕もありません。しかし、野菜は栄養源です。安全で生で食べられる。ここに遺伝子組み換えをする大手は入って来られません。穀物は煮たり焼いたりしますので、異常タンパクができても害になりませんが、野菜は生で食べますから、何が起きるかわからない。安全とは言えなくなってしまいます。

野菜の栽培方法なら、我々のようなベンチャーでも入れます。人間の透析膜をやってきた技術から、水道のなかの菌も遮断でき、安全です。マネされないためにパテントも押さえています。それに、日本企業しか、このフィルムを作る技術を持っていません。日本のモノづくりの強みですね。

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