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2017年10月号より

灼熱のトップインタビュー|月刊BOSSxWizBiz
何でも自前でやる時代は終焉 シェア獲りの決め手は人材力 中田誠司 大和証券グループ本社社長兼CEO
中田誠司 大和証券グループ本社社長兼CEO

中田誠司 大和証券グループ本社社長兼CEO

なかた・せいじ 1960年7月16日生まれ。東京都出身。早稲田高等学院を経て、83年早稲田大学政治経済学部卒。同年大和証券に入社。2010年大和証券グループ本社取締役、大和証券キャピタル・マーケッツ常務取締役、12年大和証券専務取締役法人本部長、15年大和証券グループ本社専務執行役リテール部門副担当、16年大和証券グループ本社代表執行役副社長最高執行責任者(COO)兼リテール部門担当、17年4月より大和証券グループ本社社長に就任。

自前銀行の「次の戦略」

── いろいろな事業がある中で、まず個人向けビジネスのリテール分野ですが、足元の手応えや今後の方針はどうですか。
貯蓄から投資へ、という方向感が進んでいるかといえば、まだ進んでいません。当社の状況を見ても、個人の方の投資はそれなりに増えてはいますが、貯蓄から投資への大きな流れをつかんでいるとは言い難いですね。そこがやっぱり一番、大きな課題です。

これは、当社を含めて個社の自助努力だけで拡大していけるものではなく、たとえば、そもそも日米では株のパフォーマンスに差があるとか、あるいは日本では(現金が有利な)デフレ経済が長く続いたこととか、外的な複合要因がいくつか重なり合っていたと思うんです。

ただ、いよいよデフレの出口は見え始めているし、国策として税制優遇のあるNISA(少額投資非課税制度)をはじめ、いろいろな制度も整備され始めているわけで、証券投資というものへの注目度が今後、高まってくるはずです。まさに、長らく待っていた貯蓄から投資への流れがフォローウインドになるかもしれない中で、当社はやはり、シェアを取っていかなければいけません。

シェア拡大のためのテクニックはいろいろありますが、正攻法でお客様に当社をお選びいただくことが一番重要です。そして、そこでの差別化は、人材のクオリティをさらに上げるしかないなと。社長就任早々、古くて新しい言葉ですが、とにかくクオリティナンバーワンを目指し、そこに真剣に取り組むんだということを繰り返し、社内でも説いています。

── REIT(不動産投資信託)や大和ネクスト銀行など、ほかの大手証券にはない金融商品やグループ企業の存在も活きてきますね。
まずREITについては、ダヴィンチのREIT運用会社を買収したところからスタートしましたが、その時のAUM(運用資産残高)が2700億円ぐらいで、その後、オフィス、住宅、ヘルスケアとREITのメニューも拡大し、エネルギー分野の私募ファンドも含めたトータルのAUMは、8500億円ぐらいまできています。いよいよ1兆円も視野に入ってきてますが、REIT市場は、米国やオーストラリアのようなREIT先進国と比較すれば、まだまだ日本はポテンシャルがありますね。将来的には、2兆円とか3兆円レベルでAUMの拡大を図っていければなと思っています。

日経平均株価の行方はいかに――。

もう1つの大和ネクスト銀行(2011年4月開業)についても、順調に増えてきた預金残高が3兆円超まできましたが、昨年からマイナス金利が導入されたので、若干の停滞感はあります。ですが、未来永劫マイナス金利が続くわけでもなく、いずれはここも預金残高が4兆円とか5兆円のステージが来るでしょう。

ここまでの、ネット取引を軸にしたローコスト・オペレーションの大和ネクスト銀行という第1ステージはそろそろ終了させ、第2ステージに入っていかないといけないと思っています。金融商品のプロダクトを広げていくのか、あるいはこれまでとは違う業務もやっていくのか、場合によっては信託ビジネスも含めたことなどを付加していくのか、いろいろなやり方、選択肢があるでしょうし、実際にあらゆる可能性を検討しています。

ただ拙速に何かをやろうという考えはなくて、当面はまだ、マイナス金利という金利環境が続くと思いますので、じっくり考えていきます。もちろん、もともとの一番の目的だった、預金をゲートウェイとして有価証券投資に入っていただく(大和証券と大和ネクスト銀行の両方の口座があれば投資資金の即時移動、即時決済ができる)流れは、引き続き強化していきます。

── さらにもう1点、iDeCo(個人型確定拠出年金)分野ではSBIグループ(SBIホールディングスグループのSBIベネフィット・システムズ)と提携しています。今後、SBIグループとさらに踏み込んだアライアンスの可能性などはありそうですか。
SBIさんとというより、これはみずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長もよく言われていることですが、これからは、まさにオープン・イノベーション、オープン・アーキテクチャーの時代で、何でもかんでも自前でやる時代っていうのはもう、完全に終わっていると思うんです。で、SBIベネフィットさんは、確定拠出年金のレコードキーピング(記録管理)業務において、機動的に対応できるシステムをお持ちでした。ならば、SBIベネフィットさんのオープン・イノベーションやアーキテクチャーを使わせていただこうと。

SBIホールディングスの北尾吉孝社長とは親しくさせていただいておりますが、今後も、SBIグループに限らず、外部のイノベーションなり外部のチャネルを使ったほうが、トータルとして大和証券グループやお客様のベネフィットにつながるのであれば、積極的に提携はやっていきたい。自前主義にはこだわらない考えです。

実際、たとえばDGLabファンド(デジタルガレージやカカクコム、クレディセゾンなどを中心にした、ブロックチェーンやAI、VR/AR、セキュリティ、バイオテクノロジーを対象にしたスタートアップ企業支援の投資ファンド)にも参画していますし、銀証連合(大和証券グループ本社、野村ホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行)で、デリバティブ取引の業務効率化に向けたブロックチェーン利用の実証実験も行うなど、いろいろな広がりが出てきています。

海外は北米市場を強化

── 一方、法人向けビジネスのホールセール部門はどうでしょうか。
ホールセールビジネスは、なかなか一朝一夕にはシェアを取りにいけないんですね。だから1ポイントずつでも地道にシェアを上げていく。また、世界的なバルジ・ブラケット(一流投資銀行群)がある中で、当社のポジション、立ち位置を明確にしておかなくてはいけない。主幹事の引き受けシェア20%を5年後に25%にする、さらに10年、15年後には30%にしていくと、ターゲットは明確にしていかなくてはと思っています。

── さらに海外ですが、国内とのバランスや今後の拡大策はどう考えていますか。
海外市場ではリストラしたり拡大したりを繰り返してきて、いま20カ国に拠点を持っているんですが、ロンドン、香港、シンガポール、ニューヨーク、ここを世界のハブとして、これらの都市では身の丈に合ったフルラインビジネスをやっています。ただ、主戦場はあくまでマザーマーケットである国内に置いていますので、国内のビジネスを拡大するために、さらにグローバルラインを強化しなきゃいけないと、そういう順番ですね。

具体的に言えば、たとえば日本株のエクイティです。今年、ルネサスエレクトロニクスさんのグローバル・オファリング(株式など有価証券の募集、売り出しを国内のみならず海外市場でも同時に行うこと)でコーディネートを当社がやらせていただきましたが、日本企業のグローバル・オファリングの商いを取っていくためには、グローバルなセールスラインは強化していかないといけないわけです。

あとはM&Aですね。昨年度の世界のM&Aのフィー・プール(手数料総額)を見ると、6割ぐらいが米国、3割弱が欧州、10%強が日本とアジアなんですが、我々のM&Aのグローバルラインの人員配置を見ると、実は欧州が一番多くて、次に日本およびアジア、一番少ないのが米国。

フィー・プールから勘案した経営資源の配分では、現状はアンバランスです。ですから、グローバルラインをもう少しビジネスラインに合わせていくためには、米国のほうを強化していかなきゃいけないと思っています(実際に去る7月末、10年間、資本業務提携関係にあった米国セージェント社を100%子会社化し、併せてテクノロジー、メディア・通信セクターに強みを持つシグナル・ヒル社を買収すると発表。将来はこの2社を統合させ、DCSアドバイザリーの名称で北米におけるM&Aアドバイザリー事業を担う予定)。

── 大手の銀行、証券については再編が一巡し、いまは地銀再編が活発になっていますが、フィンテックやAIなどの進展によっては、金融界全体の地殻変動は、まだこれからも起きそうな気がします。
地方創生は地元の方々でしかできません。そのための核になるのが地銀で、地方創生を手がける過程で、地域を超えた再編、統合などのアライアンスを組むという順序でしょう。第1地銀64行というのはオーバー・バンクかもしれませんが、いまは再編や統合が先行している感じがします。ともあれ、我々にも全都道府県に支店がありますから、地銀を中心にした地方創生の取り組みには、当社でもいろいろ協力していきたいと思っています。

介護制度も一歩先へ

── いま、世の中では盛んに「働き方改革」が唱えられていますが、大和証券グループでは早くから、女性の活用や19時退社の奨励などを積極的に進め、最近では人事制度の改定で、70歳の雇用上限年齢廃止が大きな話題になりました。
もう1つ、これからは介護問題ですよね。介護に対して、社員にどういう制度を導入していくべきか、ここはもっと考えたらやるべきことがあるんじゃないかと思ってきました。

当社では、介護休職は1年間でしたが昨年、3年に延ばしました。介護は育児と違ってスタート時点で終わりが見えないですから、3年でも短いんじゃないかと人事部門に言っていて、もちろん条件付きではあるものの、5年でも10年でもいいじゃないかと。その代わり、介護に専念して休職したり、場合によっては介護の合間に働いたり、あるいはテレワークなども導入したりと、介護をしながら働き続けられる制度も、もっと入れるべきだということをいま言っています。

── そこは働き手にとっては大変、ありがたい話だと思いますが、一方で、会社側から見ればコストアップ要因になります。鍵はやはり生産性のアップでしょうか。
コストアップにはならないような仕組み作りができるんじゃないかと思いますよ。営業は70歳までOKで、今回、その上限を撤廃した時に、同じような仕事で70歳を過ぎても働いてくださいと言っているのではなくて、当然、70歳前後のシニア営業員には、それまでとは違うミッションを与えるわけです。そして、そのミッションに見合った給与体系を作ってあげる。

また、この下期からは、超高齢者向け専用の販売チャネルを作ってコンサルティングをしていこうと思っています。そうなると、通常の営業マンとはミッションも時間軸も違うわけで、当然従来の営業マンと同じ給与体系というわけにはいきません。そういう仕組みや制度を導入して、1年で区切った時にはコストアップ要因にはなっても、3年、5年で区切っていけば、きちんと会社がペイできるものが作れるはずです。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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