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2017年3月号より

商業の銀座 文化の六本木 ビジネスの虎ノ門を担う森ビルの発想法|月刊BOSSxWizBiz

森ビル社長 辻 慎吾

つじ・しんご 1960年9月9日生まれ。広島県出身。85年横浜国立大学大学院工学研究科修了。同年森ビル入社。99年六本木六丁目再開発事業推進本部計画担当課長、2001年タウンマネジメント準備室担当部長、06年取締役入りし、08年常務で中国事業も担当、09年営業本部長代行兼務、同年副社長で経営企画室も担当、11年6月から現職。趣味は温泉巡り。

銀座エリアの再開発案件で圧倒的なスケールを誇り、銀座6丁目の松坂屋銀座店跡地に今年4月20日、グランドオープンする新商業施設の「GINZA SIX」。運営では、大丸や松坂屋を擁するJ.フロントリテイリング、森ビル、住友商事、Lリアルエステートの4社が強力なタッグを組んでいることも特徴だ。そこで、このビッグプロジェクトの参画企業を代表して、再開発全体のコーディネート役を担った森ビルの辻慎吾社長に、銀座プロジェクトの経緯や思いと狙い、拡大途上の虎ノ門ヒルズプロジェクト、都市間競争まで幅広く聞いた。

パートナーは最高の布陣

── まず、「GINZA SIX」のプロジェクトに森ビルが参画された、そもそもの経緯や議論の過程のポイントから教えてください。
遡りますと、2001年に松坂屋さん(当時。その後、大丸と経営統合してJ.フロントリテイリングが誕生)が銀座店の建て替えを検討されているということで、ご相談を受けたんです。単独で建て替えをされるのも1つの案ですし、我々が得意とする再開発事業という手法もあります。そこで、「隣接街区やお店の裏側の道路を含めた再開発にすると、こういう素晴らしい計画になります」といったご提案をさせていただきました。

その後、03年には銀座店の周辺の方々も含めて、街づくり協議会を開いて再開発の検討をスタートさせています。再開発は地権者の方々と一緒に取り組む事業ですので、当初の開発スケジュールを守ってやっていくのはものすごく大変ですが、そこは当社にノウハウがありますので、コーディネーターとしてやらせていただいたわけです。

── 開発・運営には家主のJ.フロントのほか、住友商事、Lリアルエステート(ルイ・ヴィトンで知られるLVMHグループをスポンサーとするグローバルな不動産投資・開発会社)も入っており(計4社の共同出資でGINZA SIXリテールマネジメントを設立)、いわば異種連合ですね。
開発資金をどう調達するかということを考えた際、我々から(異種連合の)ご提案をして入っていただきました。「これまでにない最高の施設を造る」という共通の想いのもと、「世界の銀座」を象徴する大規模複合施設の実現に向けて、4社それぞれが持つノウハウやグローバルネットワークが十二分に活かされており、最高の布陣だと思っています。

── GINZA SIXは2街区一体開発でしたから、それだけ折衝する地権者も多くなります。六本木ヒルズなど過去の再開発でも、地権者との話し合いは簡単なものではなかったでしょう。まして銀座では、建物の高さ制限など景観面を中心に、銀座ルールといった制約があります。
再開発が地権者の方々にとって、従前のビルを所有しているよりもメリットがあるというご理解を得ることが一番、重要でした。我々が考えている大型の再開発をすることで銀座という街全体の起爆剤になるし、メリットもある。こういう街づくりをしたいんですという、確たるビジョンの部分をみんなで共有しないと再開発は難しいのです。2街区一体の開発をするので、大きな敷地面積の最も優れた有効利用は何かを問うてきましたし、唯一無二の存在になるような施設を造る責任がディベロッパーにはあると、私は常々思っていますから。

── 地権者との議論の争点というか論点はどこでしたか。
本気で再開発に向き合っていただけますか? と。場所が場所ですから、それぞれが土地の1オーナーとして、十分にやっていける場所です。希望するテナントはたくさんあるし、高い家賃で貸せるわけですから。その土地を壊してみんなでやったほうが得なんだと、みんなが共通で思えるかどうかという話を、丁寧に一軒一軒していったわけです。

開発パートナーとも、もう百貨店にしないという前提をJ.フロントさんが決められていたので、では、どんな商業施設にしていこうかとコミッティーを何回も開き、当社を含めた4社のトップといろいろな話をさせていただきました。そのコーディネート役を当社でやらせてもらったわけですが、J.フロントさんにとっても銀座店のあった場所はすごく大事な土地ですし、どういう形でどんなオープンを目指すかを考えた時、銀座に相当なインパクトを与えたいという、熱意を共有することができました。

── 六本木ヒルズ(03年竣工)や虎ノ門ヒルズ(14年竣工)での再開発ノウハウを、GINZA SIXではどういう形で表現されていったのでしょうか。
森ビルがやってきたのは1つの建物を建てることではなく、都市や街をどうつくっていくかということです。その街に必要なものは何なのかを突き詰めていく。たとえば虎ノ門ヒルズの下は環状2号線の道路が通っていますが、GINZA SIXも銀座中央通りの裏側にあった道路を建物の下でくぐらせたり、銀座駅に直結の地下道を掘った。あるいはバスの停留所が銀座になかったので観光バス乗降所や観光案内所を作ったり、さらに銀座最大となる4000平方メートルの屋上庭園もしつらえましたし、観世能楽堂も入れました。つまり、従来の銀座にはなかったものをかなり入れているのです。

「GINZA SIX」は4社の異種連合で運営される。

我々が得意な、いろいろな機能が複合した街づくりを、間口115メートル、奥行き100メートル、延べ床面積14万8700平方メートルという圧倒的なスケールの中で実現できました。たとえば表参道ヒルズもすごい間口を持っていますが、あそこは奥行きが浅いのでなかなか使いにくいんですね。しかも坂もある。そういう中で当社としていろいろな創意工夫を施してあります。

特にGINZA SIXの場合、六本木ヒルズよりも広い、ワンフロア面積が6000平方メートルという大規模なオフィスプレートを持つオフィス空間も実現しています。銀座に貢献するオフィスや文化施設を備え、下層階には核になるような商業施設を250店舗集めていますから、競争力は相当、強いと思いますね。

── 六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズは、テナントに外資系企業や金融機関も多かったと思いますが、銀座はこれまでとは違う顔ぶれがキーテナントになりそうですか。
テナントのレパートリーは広がらないといけないですが、結構重なるところもあるんです。外資系企業など、当社がずっとアプローチをしているところも興味は持ちますから。GINZA SIXに本社を構えているというだけでもメリットがある企業はあるでしょう。だから幅広い業種にアプローチができます。

都市に文化施設は必須条件

── ところで虎ノ門ヒルズ周辺エリアですが、この1月に虎ノ門ヒルズビジネスタワーと虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーが着工(ともに19年度に竣工予定)し、東京五輪を挟んでさらに、新駅直結の虎ノ門ヒルズステーションタワーの開発計画もあります。森ビルにとって本拠地である虎ノ門エリアでの、怒涛の再開発プロジェクトへの思いは。
3棟のうちの2棟は、地権者との合意形成は終わっています。駅と一体になる予定のステーションタワーのビルも今年、都市計画の手続きに入りますから、目指すスケジュール通りに街ができていっているという感じです。国際新都心、グローバル・ビジネスセンターと呼んでいますが、虎ノ門エリアはビジネスの中心ですよね。対して六本木は文化都心、銀座、あるいは表参道は商業の中心。

そして、グローバル・ビジネスセンターには住宅やホテルがないとダメなんです。たとえば金融センターといっても外資系企業だけが集まるオフィスではどうしようもない。住むところとか、あるいは出張者を受け入れるホテルやきちんとした食事をするところなど、文化施設などがないとダメですから。

そこで虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーです。結構なボリュームで住宅を1棟造りますから、こういうものも含めて1つの街づくりをすると。これらが全部できて虎ノ門ヒルズなんです。

この虎ノ門ヒルズと同等か、それ以上の開発区域面積になるのが、虎ノ門麻布台プロジェクトと六本木五丁目プロジェクトです。ここ(森ビル本社のある六本木ヒルズ)から麻布台のエリア、さらに虎ノ門という、川のような連続するラインですよね。これらも大変魅力的で非常に面白いプロジェクトですから、できるだけ早い段階で皆様にご紹介できるよう、しっかり取り組んでいきます。思えば、30年前の86年にアークヒルズを造った当時はあそこが〝陸の孤島〟と言われ、どこからも遠いと言われていましたがいまや隔世の感です。

── 商業やビジネスの街づくりは、財閥系も含めて大手ディベロッパーでも手がけていますが、そこに文化性を色濃くオンしているのが森ビル。
森稔(森ビル前社長。故人)も「経済だけで文化がないような都市では、世界の人を惹きつけることはできない」とずっと言っていましたが、海外の都市を見渡しても、文化がない都市では、これからは戦っていけないと強く思います。

── 森稔さんのDNAでもあると思いますが、同じビルを2つと造らず、とんがったものを追求する姿勢は、いわば森ビルのレーゾン・デートルでもあると。ビルの構造上もそうですが、外観もスクエアタイプの真四角な大型ビルが多い中で、曲線デザインなどを取り入れた斬新なビルが森ビルには多いですね。
100年近く残るものですから、特徴はありますよね。好き嫌いがあって、森ビルのビルは嫌いと言われる人もいるのはわかった上で、我々はデザインというものに対してすごくこだわりたいし、気にしたいし、私も好き。森稔も好きでした。どういうビルにしたいかというところからデザイナーを選ぶので、当社ほど外国のデザイナーを選んで使っているディべロッパーというのはないでしょう。

── 最後に、森記念財団の統計を見ると、16年の世界の都市ランキングで、ようやく東京が4位から3位に上がってきました。今後、1位を取るための条件は何でしょうか。
やはり都市の総合力です。経済だけが突出していてもダメですね。日本が3位に浮上したのは、インバウンドが増えて、文化・交流という項目の中の、交流の部分の点数がまず上がりました。加えて円安になると、ドルベースで換算して住居費などが安くなるので、それだけコストが下がるということは借りやすく、住みやすくなるので点が上がったわけです。ランキングを測る指標は70もありますから、日本が弱い部分を上げていけばいい。そうすれば、東京はナンバーワンになれる可能性はあります。

1つ重要なのは、羽田空港ですね。国際線がこれだけ増えたので評価が上がっていますが、世界と比べると、まだまだ交通の部分では弱いところがある。直行便の数もまだすごく少なくて、ロンドンのヒースロー空港の3分の1ぐらいしかないですから。

虎ノ門ヒルズ(左から2棟目)以外に、今後3棟のタワーが建てられていく(イメージパース)。

ただし、東京って世界的に見ると意外と渋滞がないんですよ。ロンドンに行ってもどこに行っても本当に渋滞がひどい。ニューヨークもすごいし。

東京は環状線も整備してきたし、これだけ大きな公園がある都市は、ほかにあまりない。セキュリティや自動運転、AIなどの新しい技術も進んできますから、東京五輪までにそのチャンスをうまく日本は使うべきだし、世界にそれをプレゼンできればこんなにいいことはありません。そういうチャンスって、いまは、(五輪を控えた)東京ぐらいしかないのですから。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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