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2016年9月号より

あなたの会社の執行役員はエライですか?若手抜擢から最後の論功行賞まで上場企業には広く普及|月刊BOSSxWizBiz

ただいま企業内に増殖中の「役員」

上場企業に限らず「執行役員」を設けている企業がやたらに増えている。名刺交換の際に執行役員の肩書があっても最近はほとんど気にならなくなったが、実はどんな権限と役割を持っているのか極めて曖昧な存在でもある。

大手IT企業系列の人材サービス会社の社長がこんなエピソードを披露する。

「外部の営業担当者と商談をしているときに、もっと詳しい話を聞きたいと言ったら『今度専務を連れてきます』と言う。実際に会って名刺交換すると『専務執行役員』とある。最初は専務取締役かなと思ったが、どうもそうではないらしい。はたしてこの人はどこまで権限を持っているのかなとつい考えてしまった」

実際の商取引でも戸惑うことが少なくないが、執行役員は役員と名がついていても本当の役員ではない。会社法上の役員とは、会社の重要事項や方針を決定する権限を持つ取締役や取締役の業務執行や会計を監査する監査役などを指す。多くのビジネスパーソンが憧れる〝ボードメンバー〟だ。対して執行役員の身分は従業員にすぎない。

では、なぜこんな肩書が増えたのか。最初に導入したのはソニー。1997年に経営の監督と執行の分離を目的に執行役員制度を導入したが、2000年以降、上場企業を中心に急速に普及した。導入のピークは02~04年だ。日本能率協会が02年3月に全国1部上場企業の社長1600人に行った調査では導入率77%。04年2月に経済同友会が会員企業に実施した調査でも導入率63%に達している。

最大の目的はソニーと同様に経営の戦略立案と業務執行の役割を分離し、立案については取締役が、業務執行については執行役員に負わせるというものだ。その目的は今も変わらない。今年6月28日に執行役員制度を導入した京葉銀行はリリースで「執行役員制度の導入により、経営の意思決定・監督機能と業務執行を分離し、監督機能の強化及び業務執行の迅速化を図ります」と書いている。

だが、導入を促進したのは「経営の監督と執行の分離」という目的だけではない。大手電機メーカーの元人事担当役員はこう語る。

「導入の背景は2つある。1つは経営構造改革の一環として従来の事業本部制からカンパニー制に移行し、執行的な役割を持つカンパニー長をどう処遇していくのかという問題。もう1つは取締役の定数問題。当時は取締役が30人おり、多すぎるという批判もあったので少なくしたいということもあった。その結果、経営と業務執行を分けることで役割が明確になるだろうから意思決定がスピーディになるだろう。また、取締役は会社法上の縛りがあるが、執行役員は自由に決められる。執行役員というポストが増えれば、若手の実力者を抜擢できる。対外的にも取締役改革を含めて、こうしましたと言えば、一見すると改革したようなイメージになる」

つまり、ホンネは取締役の定数の削減によるポスト不足の解消、若手の抜擢、改革イメージの演出にあったということである。実際に定数削減で取締役から執行役員に〝格下げ〟になった人もいる。株主総会で取締役になったばかりの人が執行役員になり、肩書が「常務執行役員」になった人もいる。冒頭に登場した「専務執行役員」もおそらくその口だろう。

経営と執行は分離できているのか

今でこそ取締役の数は社外取締役を入れている企業が増えたこともあり、以前より激減している。そうなるといずれは取締役になりたいという社員のモチベーションも下がってしまう。じつはその穴埋め的役割を担っているのが執行役員でもある。

大手化学会社の元取締役は執行役員の任用パターンについてこう吐露する。

「大きく3つある。1つは取締役への登竜門。執行役員を命じ、そこでの実績を見て何年後かに取締役にするという取締役予備軍的位置づけ。2番目は双六の上がりで、取締役にする気はないが、あと5年で定年だから論功行賞含みで社員の一番上の位である執行役員にして、それなりの報酬を払って、めでたく辞めてもらおうというパターン。3番目は純粋に経営と執行を分離することを考える。たとえば海外駐在員。取締役は毎月取締役会に帰ってこないといけないが、執行役員米国事業本部長にすれば業務に専念できる」

執行役員は社員の一番上の位というが、報酬はどのようにして決まっているのか。電機メーカーの人事部長・執行役員は「従業員の最高位の等級をベースに、その上に新たな賃金枠を設定し、業績達成度別に賃金を決定し、賞与もそれをベースに、業績反映分を加える方式。取締役の報酬体系とは異なり、決め方は従業員と同じ」と指摘する。

実際には社員の一番上の賃金水準を100とした場合、取締役の水準が120であれば、執行役員はその間の水準にしているという。「105、110、115の3段階に水準を分けて格付けする。若い社員を執行役員にすれば105とし、55を過ぎた論功行賞的な人は110にするとかして使い分けている」(人事部長)。

ところで、前述の1番目と2番目の任用パターンは会社内の自由だから問題はないとしても、対外的にも問題となる3番目の経営と執行の分離は本当に機能しているのだろうか。執行役員制度を導入している取締役と執行役員の関係は大きく以下の3つに分かれる。

(1)取締役と執行役員が分離している。

(2)取締役が執行役員を兼務している。

(3)取締役の一部が執行役員を兼務している。

この3つ以外にも取締役と執行役員が混在している曖昧な会社もある。

そもそも取締役が執行役員を兼務していること自体、経営と執行を分離しています、と言えないのではないか。つまり1人の人間が監督し、半面で執行することが可能だとは思えない。これでうちの会社は監督と執行を分離したガバナンスを実行していると株主に広言しても信用されないだろう。

実際にその役割を巡って混乱している会社もある。電機メーカーでは上級役員以上の「常務会」と取締役や関連部門長が集まり、事業の方向性を議論する「経営会議」の2つがあったが、執行役員制度の導入で経営会議に一本化した。出席者は社長もいれば取締役兼務執行役員もいる。前出の人事部長・執行役員は会議の様子をこう語る。

「役割の違う人たちが一緒になって議論するが、議論の途中で『失礼ですが、どちらの立場でのご発言ですか』という質問が出たことがある。執行役員であれば当然その立場でものを言うし、取締役であれば経営という観点からものを言うことになるわけだが、取締役と執行役員の2足のわらじを履いているために、発言の内容がどちらの立場からものを言っているのかよくわからないという事態も発生する」

加えてこの会社では執行役員の権限も曖昧だという。執行役員の役割の範囲は当然違うとしても、執行役員と事業部長の役割・権限も明確ではない企業も多いのではないか。執行役員制度の効果として若手の抜擢が進むことが挙げられているが、会議は活発化しているのだろうか。前出の人事部長はこう語る。

「基本的に以前と変わらない。最も発言しているのは代表取締役社長と一部の副社長くらいで、あとは自分に関わるところしか発言しない。やはり経営のボードメンバーという上下関係の意識が働いている。本来は対等の立場で議論すべきだがそうなってはいない。とくに執行役員の場合、役員ではなく〝執行〟隊長的意識があり、余計なことは言わないし、仮に上から同僚の執行役員が叱られていても決して助け船を出さないという雰囲気がある」

意思決定の迅速強化を図る

そうであれば執行役員同士が集まり、自由闊達に議論できる「執行役員会議」なるものを作ればと思うが「仮に執行役員会議ができることになれば、当然、取締役兼務執行役員の人にとっては会議が増えることになる。取締役と執行役員の役割が分離されないままでは矛盾が発生するだろう」(人事部長)。

実際に執行役員会議を設置している企業もある。だが前出の化学会社元取締役は意味がないと指摘する。

「執行役員制度を導入したことで意思決定が早くなるということはなかった。私は取締役であって現業部門も持っていたから実際は取締役兼執行役員。毎月必ず1日を取締役会で割かれ、そのうえ執行役員制度ができたので執行役員会議もやらないといけない。取締役兼務の執行役員は2日も潰れることになる。私がいなくなることで部長や課長から何度も文句を言われたことがある」

取締役と執行役員の権限と役割が曖昧な上に、会議も増えれば意思決定がスピーディになるとは思えない。そもそも日本企業の役職は「ヒト」を基準にポストに任用する。つまり、この人ならこういう仕事をやれそうだという基準でポストを新設したりする。これに対して欧米では役職ごとに役割・職務要件を明確にした上で適正な人物を任用し、仕事をやらせて不適格と判断すれば降格させる風土である。

社内には主任、係長、課長、次長、部長、事業部長という役職があるが、人物の能力は別にしても仕事の内容はほぼ決まっている。だが、執行役員というポストはそれほど明確ではない。じつは執行役員制度を廃止した企業もある。ロート製薬は今年の5月13日、執行役員制度廃止に関するお知らせというリリースを出した。その理由は明確ではないが、こう書いてある。

「当社は2002年5月より執行役員制度を導入してまいりましたが、取締役の責任と権限を明確にし、経営の効率化、意思決定の迅速強化を図ること、執行役員という枠にこだわらず、全管理職が責任をもって、機動的な業務執行を進めるため、16年5月31日をもって執行役員制度を廃止することといたしました」

ほとんどの企業が「意思決定の迅速強化を図る」ために執行役員制度を導入しているのに、ロート製薬は逆に意思決定の迅速化を図るために廃止した。執行役員制度は経営者にとって非常に都合のよい制度にすぎず、「経営の監督と執行の分離」がタテマエであることを示す証左ではないだろうか。

(ジャーナリスト・溝上憲文)

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