2015年8月号より
インバウンド比率30%
円安の進行もあり、2014年に来日した外国人の数は1341万人となった。13年が初の1000万人超えとなる1036万人、12年が835万人。つまり2年間で500万人も増えている。
三越伊勢丹もこの恩恵を受けていて、三越銀座店の4月の売り上げは前年比で43%増えたが、最大の要因がインバウンド(外国人観光客)で、売り上げに占める外国人比率は30%を超えた。銀座店には次から次へと外国人が吸い込まれていく。
「これは三越伊勢丹にかぎったことではないと思います。ツーリストが増えているだけでなく、リピーターも増えている。というのも、日本の製品だけでなく、和食が世界文化遺産に認定されるなど、日本全体に注目が集まっている。店頭にいてもその手応えはものすごく感じますね」と大西洋社長は言う。
そこで銀座店では今年秋にリニューアルを行い、8階に関税も対象となる市中免税店をオープンさせる。ここでは「ジャパンラグジュアリーを販売する」(大西社長)予定だ。日本国内に免税店は5000店舗もあるが、大半は消費税が免税されるだけで、非関税の免税店は沖縄を除くと空港にしかなかった。つまり、三越銀座店は本土における第1号の非関税免税店ということになる。これによりさらなるインバウンドを呼び込む考えだ。
この市中免税店にはもうひとつ理由がある。インバウンドが増え、買い物をしてくれるのはありがたい話だが、あまりに増えすぎると、逆に日本人客に不便をかける可能性がある。いまはラグジュアリーブランドの衣料品や時計、化粧品は全館に散らばっているが、免税店では一括して扱うため、インバウンドはある程度そこに集中する。これにより自然と棲み分けができるため、日本人客にとっても利便性が高くなるとの判断がそこにはあった。
インバウンドが増えているのは、縁安だけが要因ではない。日本の伝統や文化、技術の評価が、国際的に高まってきたためでもある。これは、2010年に「クール・ジャパン室」を設置し、日本文化・産品の発信を続けた経産省の果たした役割も大きい。
このクール・ジャパン構想に乗る形で三越伊勢丹が始めたのが「JAPAN SENSES」というキャンペーンで、日本全国に埋もれている優れた製品を発掘し、顧客に提供しようという試みだ。
その1つに「天女の羽衣」と呼ばれる布がある。世界一細く、世界一軽い合繊で、石川県の合繊メーカーにしかつくれないものだという。これを三越伊勢丹が発掘したところ、海外のデザイナーやコレクションが着目、この素材でつくったスカーフなどを販売したところ大ヒットした。これなどは、JAPAN SENSESの代表例だ。
そして今年は、「this is japan」というメッセージを発表した。新たな店づくりの基軸として商品・サービス・店内の装飾や環境など、世界に通じる日本の良さをグループ挙げて提案していく方針だ。
オールジャパンを結集
三越伊勢丹の発信は日本国内にとどまらない。その最大の目玉が、年内にオープン予定のマレーシアにおけるプロジェクトだ。
クアラルンプールに「マレーシア伊勢丹LOT10店」という三越伊勢丹の店がある。ここに1万平方メートルほどのオールジャパンのショッピングモールをつくる計画だ。三越伊勢丹は13年に設立されたクール・ジャパン機構の第1出資者として参画しており、同機構と組んで、プロジェクトを進めている。
「技術力、匠の技、繊細さなど、日本のものづくりを総結集するとこうなるというショッピングモールをつくります。ですから、ハードルは高いですよ。もちろん商品だけでなく、接客についても日本のきめ細かいおもてなしをもっていきます。これぞジャパンだというふうに認められるものをつくっていかなければならないと考えています」(大西社長)
もしこのモールがうまくいけば、シンガポールやバンコクなど、東南アジアにおける次の展開も視野に入ってくる。
また、ここで日本製品の良さを知った人が、インバウンドとして日本に来た時には三越伊勢丹の店舗を訪ねるケースも出てくるだろう。つまり海外で日本製品の、そして三越伊勢丹のファンをつくっていくことにもつながるのだ。
海外への発信は東南アジアだけではなく、欧米に向けても行っている。
13年には、ニューヨークで、日本のよいモノ、ヒトを紹介するポップアップストア「NIPPONISTA」を期間限定でオープンさせた。この時は20代の女性社員8人を選抜、商品企画から販売まですべてを任せている。
そしてこの冬には、パリ市内で、日本文化を発信するための文化施設であるパリ日本文化会館1階に、新たなショップをオープンする。87平方メートルの小さな店だが、クール・ジャパンを発信し、情報収集するアンテナショップと位置づける。
三越伊勢丹は今後、欧米市場に新たな価値提案をする店舗形態として、小型店の出店を検討している。パリのアンテナショップで情報を収集し、それを今後の出店戦略にフィードバックしていく方針だ。
かつて日本の百貨店は競うように海外出店を続けていたが、バブル崩壊後は撤退が相次いだ。三越伊勢丹も例外ではない。しかし今後は、クール・ジャパンを武器に、海外戦略を立てていく。海外事業の再挑戦が始まった。