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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年8月号より

「社長より給料が高くてもいい」スタイリストのやる気を引き出す秘策|月刊BOSSxWizBiz

さらなる営業時間短縮も

三越伊勢丹には、他の百貨店では使われていない用語がいくつかあるが、その1つに「お買場」というものがある。

大西洋社長は今年2015年4月に書いた『三越伊勢丹 ブランド力の神髄』(PHP新書)の中で、この言葉を次のように説明している。

今年のエバーグリーンに選ばれた立石ちあきさん。「お客様の役に立つことを考えて、お買場に立っています」。エバーグリーンに選ばれたことで、意識もより高まり、責任感も増した。

《百貨店でモノを売っている場所を「売り場」といいます。現在でもお客さまはそうおっしゃいますし、他の百貨店の人間もそう呼びます。伊勢丹でもそう呼んでいました。しかし考えてみれば、売り場という言葉には売る側の“売りたい”という姿勢が強く表われているように思います。買っていただくお客さまの目線に立って、おもてなしの質を向上させようと、売り場を「お買場」と呼ぶことにしたのです》

 きっかけは1996年に髙島屋新宿店がオープンしたことだった。伊勢丹の本拠地に髙島屋が乗り込んでくる。それを迎え撃つには、お客様の立場に立つことを徹底させる必要があると考えたのだ。以来20年にわたりこの言葉は使われ続け、いまでは三越でもお買場と言うようになった。このお買場を支えているのが、スタイリストだ。

この言葉も独自用語で、お買場で働く販売員のことを指す。

前出の大西社長の著書にこうある。《三越伊勢丹の最も大変な職種は何かと問われれば、何の躊躇もなく「現場で販売を担っているスタイリストだ」と声を大にして言います》

大西社長は極めて現場を重視する経営者だ。「三越伊勢丹のブランドを高めていくのは現場力だ」とも語っている。その現場の最前線に立つのがスタイリストだ。仕入構造改革も、優秀なスタイリストがいて初めて完結する。

それだけに、優秀なスタイリストを育て、モチベーションを高めることが、重要になってくる。そこで来春に向け準備を進めているのが、成果報酬主義の導入だ。現状では、優秀なスタイリストと平均的な売り上げを上げるスタイリストとは、同年齢なら月給で1万円ほどしか違わないという。これを、一部のスタイリストを対象に、実力に応じて大きく差をつけるという。「自分より給料の高いスタイリストがいてもいい」というのが大西社長の考え方。成果を正当に評価し、報酬を増やすことで、優秀なスタイリストのモチベーションを高め、さらにはそれに続くスタイリストを育てる狙いが込められている。

また、都心の店舗では3年前に営業時間を30分短縮、伊勢丹新宿本店では、10時半開店となった。大西社長は「さらに30分縮めて9時間営業にしたい」と言うが、これはスタイリストたちの労働環境に対する配慮もある。2011年から定休日を復活させたのも同じ理由による。「販売力を強めるには、働きやすい環境をつくらなければならない」というのが、大西社長の持論だ。

スタイリストの頂点

もう1つ、モチベーションを高めるために始めたのは「エバーグリーン」という表彰制度だ。これも11年から始めたもので、全国26店舗6万5000人の中から、毎年60人前後のスタイリストを表彰する。

選考基準は、(1)高い商品知識・販売技術・ホスピタリティを持ち、顧客との強い信頼関係をつくっている(2)現状に満足することなく、自らレベルアップに努め、周囲の仲間にも良い影響を与えている(3)実績(客数等)の背景に、周囲に広げていきたい質の高い工夫がある――の3点だ。

まず毎年1月に、各売り場のセールスマネージャーの推薦により、グリーンスタイリストが選ばれる。これはエバーグリーンのノミネートを兼ねていて、選ばれるのはスタイリスト100人に1人。そして3月に部門長など2次審査を行い、エバーグリーンが決定する。スタイリスト1000人に1人しか選ばれない狭き門だ。

表彰式は毎年、三越日本橋本店の三越劇場で行われ、一人ひとり、壇上に上がり大西社長からその栄誉を讃えられる。その後は隣の日本橋三井タワーにあるマンダリンオリエンタル東京で記念パーティが開かれる。

ユニークなのは、表彰の対象が社員に限っていないこと。三越伊勢丹のスタイリストの7割は、外部のメーカーなど取引先から派遣されたパートナースタッフだ。その人たちも、エバーグリーンの対象となる。今年は63人のエバーグリーンが選出されたが、そのうちの6割がパートナースタッフだった。

名札の下に輝く「evergreen2015」の文字。三越伊勢丹のスタイリストとしては最高の勲章だ。

伊勢丹新宿本店でリビング部門の販売担当アシスタントマネージャーを務める立石ちあきさんも今年、エバーグリーンに選ばれた1人だ。

入社27年目。ほぼ一貫してリビング部門で働いてきた。新宿店のリビング部門からは、昨年も1人、エバーグリーンに選ばれたが、その人はパートナースタッフ。三越伊勢丹の社員としては立石さんが初めてだった。

「とにかく人と接するのが大好きで、この仕事を選びました。お買場では、いつもどうすればお客様の役に立てるかということを考えています。百貨店はキラキラした舞台。いいところに来たと思っていただけるように、とにかく楽しんでいただきたい」(立石さん)

自分がエバーグリーンに選ばれたのも、接客姿勢が評価されたのではないか、と立石さんは言う。

こんなエピソードがある。

ある日、リビング売り場に立石さんはいないかという客がいた。手には立石さんの古い名刺を持っていた。「6、7年前にお風呂場で使う簀すの子こをお買い上げいただいたことがあるお客様でした。年月がたち、簀子が古くなったので新しくしたいといらしてくださいました」(立石さん)

よほど、最初に購入した時の印象がよかったのだろう。同じものを買うなら、ぜひ立石さんから買いたい、と考え、立石さんを訪ねてきたのだ。

客の役に立ちたいとの思いから、資格取得にも積極的だ。これまでに睡眠改善インストラクター、ギフトアドバイザー、タオルソムリエなどの資格を取っている。

エバーグリーンになったことで何か変化があったのかという問いに、立石さんはこう答えた。

「エバーグリーンとなったことで自分にも自信が持てるようになりました。でも、それとともに責任を感じています。周りの人に立石がエバーグリーンになってよかったと思っていただきたいし、仲間たちにもこの経験を伝えていきたい」

立石さんの名刺には、「evergreen」の文字とともに「エバーグリーンは全国6万5000人の中から選出されたトップスタイリストです」と印刷されている。またネームプレートにも「evergreen2015」の文字が輝く。エバーグリーンの称号は、三越伊勢丹にいるかぎりずっとついて回る。

「これからも率先してお客様に接していきたいと思います」(立石さん)

ノウハウの「見える化」

優秀なスタイリストを育てるために、三越伊勢丹が試みていることの1つに、ノウハウの「見える化」がある。

「スタイリストによってスキルはそれぞれ違います。では優れた人はどのような接客をしているのか。これまで個人のノウハウに頼っていたところを、ITを使って形式知として具体的に把握しようと考えたのです」(営業本部営業推進部営業運営担当部長・池田竜一氏)

販売力強化の鍵はスタイリストが握っているため、「見える化」によってノウハウの共有化を目指している。

優秀なスタイリストのいる売り場に複数のカメラを置き、客がどう動くか、それに対してスタイリストがどのように動くのか、接客回数は何回か、記録する。スタイリストにはマイクもつけさせ、客との会話も録音した。

この実験は、12年10月に伊勢丹立川店の婦人服売り場で始まり、次いで伊勢丹浦和店、伊勢丹新宿本店と続き、今年1月には三越日本橋本店の食品売り場でも実施した。

その結果、「優秀なスタイリストほどお客様に接する回数も多く、買ってもらう点数が多い。そういう人は、お買場の中央にいることが多い。お客様が入ってきたら、ずっと観察して、タイミングを見計らってお声掛けする。このアプローチの段階で、勝負は決まっている」(池田氏)ことがわかってきた。

最初の実験を行った立川店では、解析した実験結果を、他のスタイリストに共有させたところ、同じ売り場の売り上げが1割伸びたという。「三越と伊勢丹、都心と地方、店が違えばお客様も違います。お客様が違えば求められるものも違う。ですから同じことをしていてはいけません。それでも、共通するものを見つけ出すことはできるはずです」

たとえば、声をかけるタイミングや商品説明の仕方などはパターン化しやすいという。さらには、どの売り場でも通用するノウハウはわからなくても、「これではいけない」ということは把握しやすいという。タグを見て説明してはいけない、使い道を聞かれたら1つではなく必ず2つ以上紹介する、といったことなどだが、これまでは経験に頼っていたものが、実験によって裏付けられたという。さらに実験を続けていけば、より具体的なノウハウ、必要なスキルがわかってくる可能性がある。「見える化」にはもう1つの狙いがある。

営業運営担当の池田竜一部長。「見える化」は人員の最適配置にも役立つと言う。

「そのお買場にどのくらいのスタイリストが必要なのか、正確に把握することができるのです。接客回数や接客時間も計測できるので、それをもとに、このお買場には何人配置すればいいか判断できる」(池田氏)

売り場に対してスタイリストが多すぎるなら、人を減らすことができるため、人件費を抑制できる。これまでなら人を減らすとなると現場から反対の声が上がった。しかし見える化で得たデータを提示すれば、納得してもらえる。

それだけではない。百貨店の販売員の基本は、立ち仕事。そのため人手不足が続く状況では人材の確保もむずかしくなっているだけに、最適配置は大きな課題だった。見える化はそれを可能にする。

このように、三越伊勢丹は販売力を強化するためにさまざまな取り組みを行っている。おもてなしの陰にはそうした努力があることを忘れてはならない。

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