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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年5月号より

父と娘の事業承継|月刊BOSSxWizBiz
後継者不足でかかる期待 高い期待が裏目に出た大塚家具の父と娘の場外バトル|月刊BOSSxWizBiz

2015年問題が本格化

団塊世代が65歳以上になる、いわゆる2015年問題が幕を開けた。この世代が経営トップにいるオーナー企業や中小企業にとっては、本格的な世代交代がはじまり、まさに事業承継はこれからが本番だ。しかし、そうした企業の後継者不足は深刻で、14年度版の中小企業白書では、60代の経営者のおよそ6割、70代の経営者のおよそ5割、80代の経営者のおよそ4割に後継者がいないとされている。

これまでオーナー企業や中小企業での事業承継といえば、息子、娘婿、あるいは甥といった男性に引き継ぐことがほとんど。しかし、ビジネスにおいては、すでに男女に力の差はなく、むしろ昨今は男性よりも女性のほうが優秀と評価が高い。そんななかで女性の後継者、つまり“跡取り娘”に注目が集まっている。

実際、下表にあるように、世襲の多い政界でも、娘が父親の地盤を引き継いで国会議員になる例も増えている。しかし、こうした女性後継者の1つの共通点は、先代に突発的な出来事があり、引く継ぐという点だ。

とくに政界はその傾向が顕著で、田中真紀子元衆議院議員、小渕優子前経産相の2人は、元首相の父親が急病・急死によって。鈴木貴子衆議院議員も父親が公民権の停止を受けたため後継に立った。一方、加藤鮎子衆議院議員は父親が落選し引退、ブランクがあってからの登場だが、どのケースも先代から明確なかたちで後継者とされていたわけでなく、何らかのアクシデントが発生し、承継したパターンが多い。

これは政界だけでなく、中小企業においても父娘間での事業承継は、アクシデントによる場合が多いと話すのは、企業の事業承継に詳しいTOMAコンサルタンツグループ理事長の藤間秋男さんだ。

「娘さんへの事業承継では、いわゆる禅譲というかたちの、先代も元気で後継者になるというのではなく、お父さんが突然亡くなられ、後継者がいないため娘さんが引き継く、というケースが多いですね」(藤間さん)

もちろん、男女ともに一度はどこかの会社に就職。あらためて実家の事業に興味を持ち、後継者になることは珍しくないが、そういったケースでも女性は少数派だという。

とはいえ、いまの企業経営では、女性の感覚は欠かせない要素となっているのも事実だ。たとえば、フォーチュン誌では、企業業績と女性役員の比率は連動しているという調査結果も出されている。

具体的には、女性役員の多い企業は、少ない企業に比べROE(株主資本利益率)がプラス53%、ROS(売上高利益率)がプラス42%、ROIC(投下資本利益率)がプラス66%高い――こうしたことからも、娘への事業承継の期待は高い。


父娘バトルのゆくえ

大塚家具の大塚久美子社長

そんななかで大手企業で華々しいキャリアを積んだ女性を会社に呼び、その力を借りたいと考えるのは、経営者であれば当然だ。それが父親であれば、なおのことそう思っても不思議はあるまい。しかし、こうした期待がかえって裏目に出てしまったのが、最近、何かと話題を集めている大塚家具の大塚勝久・久美子父娘のケースといえるだろう。

父・勝久氏は、1943年家具職人の子として生まれた。しかし、自らは職人にならず、家具の販売に力を入れ、69年に大塚家具センター(現・大塚家具)を設立した。一方、久美子さんは勝久氏が会社を設立した翌年の69年に長女として生まれた。

設立後、大塚家具は順調に業績を伸ばし、80年には株式を店頭公開。93年には同社を飛躍的に伸ばす原動力になった会員制を導入する。

会社設立とほぼ同じ時期に生まれた久美子さんは、白百合学園の中学・高校へと進学。91年に一橋大学経済学部を卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)に総合職で入行。融資課、企画係で国際広報などを担当した。いってみれば“お嬢からバリキャリ”のエリートコースを歩んできたというわけだ。

その後、94年に銀行を退職し、大塚家具に入社する。入社の理由については、大店法が改正され人手が足りなくなったからとも、娘のキャリアを見込んで久美子さんを呼んだとも、いわれている。

いずれにしても、父の会社である大塚家具に入った久美子さんは、会員制を導入し業容を拡大していくなかで経営企画部長、経理部長、営業管理部長、広報部長、商品本部長などのポストを歴任していく。これら彼女の担当したポストを見ていくと、経営計画を立て、経理を見直し……といったように銀行でのキャリアをいかんなく発揮、社内の組織体制を整えていった様子がうかがえる。しかし、2004年に久美子さんは突然退職、コンサルティング会社を設立する。

一方、久美子さんが去った大塚家具では、06年に行った自己株買いが証券取引等監視委員会からインサイダー取り引きにあたると指摘されたことが、07年に明るみ出ている。

そして、09年に久美子さんは、今度は社長として復帰した。しかし、14年に再び解任され、15年1月に今度は逆に父・勝久氏を解任し、自らがまた社長に就いている。こうした父娘バトルが、社員や株主を巻き込み拡大しているのがいまの状況である。いまは3月27日の株主総会で、どちらか一方が経営権を取るために、委任状を奪い合うプロキシーファイトを展開中だ。

ここまで父娘バトルが泥沼化した原因はなんだったのか。双方がともに相手を批判するのみで、実際の真相はいまなお藪の中だ。しかし、この原因を探ること自体が、無理なのかもしれない。

父と娘の事業承継――心の葛藤は本人たちにしかわからない。

(取材・構成=小川 純/児玉智浩)

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