2015年3月号より
「いま、パズルの1つ1つピースを埋めているところ。おおよその“顔”を作るのは(売り上げが)1兆円になってからやね」
語るのは日本電産の永守重信会長兼社長。2014年12月12日、ドイツの車載用ポンプ大手のゲレーテ・ウント・ブンペンバウ(以下GPM)の買収会見でのことだった。その1兆円の大台を、この2015年3月期についに達成する見込みになった。国内の電子部品関連企業、かつ一代での大台突破は京セラ創業者の稲盛和夫氏以来となる。となれば、永守氏は今春以降、いよいよ大型のM&Aを仕掛けていくはずで、「5年後の20年時点で売り上げは2兆円から2兆5000億円を目標にする」と年頭会見で宣言した。となると、ドイツのボッシュ、コンチネンタル、日本のデンソーなど、世界的な自動車部品メーカーがターゲットになる。
目下、デンソーでも売り上げ4兆円、アイシン精機でも2兆8000億円なのだから、ようやく1兆円乗せの日本電産は、まだ比較にならない気もするが、そこは数多くのM&Aによって会社を大きくしてきた永守氏だけに、今後の買収案件の規模によっては、かなりのキャッチアップが期待できる。
事実、GPMの買収会見の際、「M&Aはいつも魚にたとえていて、今日の案件は姿形のいいタイやね。もう1つ発表した、モーター事業を手がける中国のベンチャー企業への出資は、いわばカレイかな(笑)。大マグロは15年以降に期待してくださいな」と、思わせぶりに取り囲んだ記者を笑わせていた。
日本電産と言えばかつて、精密小型モーターが主力で、ハードディスク用のそれは世界シェア75%を占めるというのが枕詞だった。だったというのはその後、車載用や家電・産業用モーターに大きく舵を切っていったからだ。
その決意を社内外に見せたのが、13年10月30日に行った、ホンダの電子制御部品子会社、ホンダエレシス(現・日本電産エレシス)の買収会見といえる。会見の最後には久しぶりに“永守節”も炸裂していた。
「今後、日本電産はどんどん変貌するで! いつまでも京セラやTDKと同じ電子部品カテゴリーの扱いをしないでくださいな。
当社が手がける車載モーターだけでも片肺、ホンダエレシスが得意なECU(電子制御装置)だけでも片肺でしたが、これで両肺が揃い、シナジーも高い。今後はECUの技術を取り入れ、システムの複合化、つまりモジュール化に深く参入する」
また、モジュール化の順序としても、先にホンダエレシス買収でECU技術を取り込み、その上で、アイドリングストップなどで今後キーになっていくと睨むウォーターポンプ技術をGPM買収で得るなど、永守氏の頭の中ではすでに、パズルの完成形に向けたロードマップが出来上がっているのだろう。
同氏は、この1年間だけでも相当な数のM&Aを検討してきたが、「8件ぐらいは買収金額が高過ぎて断念しました。ウチのスタンスは、これはと思った企業には売っていただくまで誠心誠意、説得し続けること」
これまで、国内では赤字企業でも必要とあれば買収を続けて再建を果たしてきたが、こと海外の企業については基本、収益の出ている企業でないと手を出さないのが永守流だ。
前述したように、ボッシュやデンソーといった企業を仮想ライバルに掲げるが、こうした自動車部品のデパートの巨人たちに、真っ向勝負を挑む気はないという。
「違ったマーケットで勝負していくのがウチの戦略で、パズルを埋めていくのは新しくモーターを使う分野です。そこで世界一になる」
“1兆円クラブ”に入る大台超えで、今後のM&Aの交渉も弾みがつくだろう。