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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年2月号より

やっぱりHONDAはヘンだ!|月刊BOSSxWizBiz

消えたホンダスピリット

最近、あらゆるメディアでホンダが取り上げられるようになってきた。その多くが残念ながらネガティブなもの。「フィット」の5度のリコールや北米のタカタ製エアバッグのリコール等の品質問題がきっかけとなって、経営陣をはじめホンダの企業体質まで言及する記事があふれるようになってきている。

おや? と思った方は「月刊BOSS」通の読者だろう。小誌はホンダの変化をいち早く察知し、2012年1月号で第1弾「HONDAがヘンだ! らしさ喪失の危機」、13年1月号で第2弾「HONDAの変心 本気で軽シフトするホンダの落とし穴」を特集記事として組んでいる。その後もホンダの変化は、事あるごとに記事にしてきた。

好調な販売が隠れ蓑となったのか、追従するメディアは少なかったが、関係者も含め、ホンダの変化に気づいていた人間は多かった。その証拠に、同業者からは「今度はいつホンダを特集するのか」と聞かれ、読者アンケートでも「続報を期待する」との声が届いた。興味深いことに、匿名のホンダ社員から内部告発の手紙が郵送されてくることもあった。いまのホンダは、社内外から本来の姿ではないと感じられていることがうかがえる。

そこで今回の特集「やっぱりHONDAはヘンだ!」では、なぜホンダに違和感があるのかを検証することにした。そのためには、外から見たホンダと実際のホンダ社内のギャップを認識しなくてはならない。俗に言う「ホンダらしさ」とは、創業者の本田宗一郎の技術者としての魂・熱意・チャレンジ精神のことを指していることが多い。言い換えれば「ホンダスピリット」と呼ばれるものだ。これに共感し、ホンダのファンになった人は少なくない。

では、そのホンダスピリットが現在のホンダにどれほど受け継がれているのだろうか。結論を言えば、いまのホンダの現状をみる限り、本来の意味でのホンダスピリットはもはや存在していないと考えられる。表面上の言葉だけ、過去の遺産として掲げているにすぎない。むしろ宣伝文句の一つにされていると考えていいだろう。なぜホンダスピリットは失われたのか、改めてホンダという企業を研究したい。

熱烈なホンダファンに聞く

11月23日、栃木県のツインリンクもてぎでホンダレーシングの「2014 THANKS DAY」が開かれた。毎年恒例の、応援してくれたホンダファンのための感謝イベントだ。この日の来場者数は1万3000人。“熱烈な”ホンダファンばかりである。

ファンは、いまのホンダをどのように受け止めているのか。こんな疑問から、生のファンの声を集めるために会場へと向かった。熱烈なファンだけに、偏った意見になる可能性も当然あった。しかし、予想に反して辛口意見もあり、真剣にアンケートに答えてくれる方が大多数だった。100人アンケートと銘打ち声を掛けると、ほぼ全員が応じてくれた。ご協力いただいた皆様に、この場を借りて感謝申し上げたい。

アンケートの質問は単純明快。最近のホンダおよび最近のホンダ車のイメージについて、それぞれ(1)すごくよい(2)よい(3)ふつう(4)悪い(5)すごく悪い、の5段階で評価してもらい、その理由を自由回答で記入してもらうというもの。余力があれば「好きなクルマ」「伊東社長へのひと言」を記入してもらった。(結果は本ページ末尾)

興味深かったのはホンダのイメージとホンダ車のイメージのギャップだった。ホンダは(1)と(2)を合わせて66%に達したのに対し、商品であるクルマは46%にとどまった。ホンダのつくるクルマは「ふつう」である認識が43%を占めている。

また、ホンダに好イメージを持つ人は男女まんべんなく分布したが、クルマについては女性の支持が高く、好きなクルマも「ステップワゴン」や「N-ONE」など女性にも運転しやすいクルマが多かった。対して男性は「NSX」や「S2000」「シビックtypeR」、まだ発売になっていない「S660」と、スポーツ要素の強いクルマが目立った。

F1グランプリへの復帰はファンにとって待ち焦がれたもの。

ホンダのイメージアップに貢献したのは「F1再参戦」も要因にあったようだ。伊東社長へのコメントのなかには「四輪事業はF1と共にあるはず。F1参戦がんばってください」「ぜひとも長期的な活動でお願いします」というものまであった。ファンにとって、ホンダ車とF1は切っても切れない関係にある。

13年5月に、15年シーズンからパワーユニットサプライヤーとしてF1世界選手権に参戦することを発表、供給先もマクラーレンとあって、往年のマクラーレン・ホンダの復活を心待ちにしているファンが多い。逆に言えば、08年のF1撤退は、ファンに大きな失望を与えていたことがわかる。この稿を執筆中に15年のマクラーレン・ホンダのドライバーが決まったとのリリースが届いた。アロンソ選手とバトン選手の世界王者コンビは、ファンの期待をより大きくさせるものに違いない。

対して、悪いイメージをもった理由は何か。圧倒的多数の人が回答したのが「リコールが多い」だった。この点については、イメージを「よい」と答えている人にも苦言として書き添えられていた。

アンケートにこそ書き込まれなかったが、会話のなかで「ヴェゼルを買ったんですけど、もう2回リコールがあって……」(40代男性)と眉間にしわを寄せる人もいた。ただ、ホンダが好きだから「品質は心配だけど、乗り換えはしない」と言う。熱烈なファンだからこその言葉だと言えるが、こうして支えてくれる人たちに対し、不完全な商品を売りつけたホンダの責任は重い。

タカタのエアバッグのリコール問題に言及する書き込みも多く、クルマとしての信頼性に欠けるという見方も多かった。クルマの事故は命にかかわるだけに、品質の改善を要望する意見には真摯に耳を傾ける必要があるだろう。

「サービスキャンペーンがよくない」と書き込んだ40代の女性もいた。どうやら販売店が、たびたびキャンペーンを行って営業活動をしていたようだ。“今だけのお得な情報”としてクルマの買い替えを勧めにきたそうだが、「いつもサービスキャンペーンをやっていて、回数が多すぎです」と、度重なる買い替え催促にうんざりしているらしい。

ホンダのスポーツカー

ホンダ車については、圧倒的にスポーツ系に対する期待が高かった。前述のとおり、NSXの人気は根強く、15年に発売される予定の次期NSXを心待ちにしているファンも多かった。イギリスでは次期NSXの先行予約を13年から始めていたが、14年12月に人気の高さから打ち切ったという。価格や仕様が公表されていない段階で100台以上のオーダーが入るのは異例ともいえる。NSX人気は世界的にも不変だ。

しかし、現行NSXは05年に生産が中止されており、10年以上のブランクがある。利益追求に走るホンダが、1990年の発売以来15年間で1万8734台しか売れず、稼ぎに貢献しないわりに燃費・排ガス規制にかかわる開発費が高額なNSXを切った形だ。NSXにつづき、09年にはFRスポーツのS2000の生産も終了。後継車種もなく、これは「ホンダはミニバン・小型車しか作れないメーカー」とのレッテルを貼られるのに十分な出来事だった。

「S660コンセプト」は大きな注目を集めている。

最近になってスポーツタイプの軽自動車S660を登場させ(15年1月発売予定)、海外市場向けにS1000、そしてS2000の復活も噂されている。大衆車メーカーに成り下がったことに対するバッシングが強まり、これに危機感を覚えた経営陣が、慌ててイメージアップのための施策に取り組んだのだが、継続できるのかは疑問が残る。ホンダにはNSX、S2000ともにフルモデルチェンジを行うことなく終わった歴史があるからだ。

上場企業として利益を重視した経営は、最近のホンダの姿と言える。ファンから人気があっても、実際に売れなければ余計な金はかけない。スポーツカーに飢えていたホンダファンの苛立ちは募るばかりだったのだろう。アンケートにはスポーツカーを求める回答が非常に多かった。

特に伊東社長への要望を見ると、ファンが求めているものは明らかだ。低価格かつ走りを楽しめるスポーティなクルマ。その意味では価格が200万円前後とみられるS660への期待度は高いと言える。

このアンケート、できれば幅広い世代の声を聞きたいと思い、意図的に年齢を考慮しながら協力をお願いした。しかし、当日のイベントは、3連休ということもあってか、多くが家族連れ。30~40代が非常に多かった。意識して20代を探したのだが実に少なく、デートのカップルも30代がほとんど。むしろ50代以上のグループのほうが多く見受けられた。かつてのホンダは若者に支持され、トヨタ、日産に対抗してきたものだが、ファンイベントを見ることによって、若者のホンダ離れを実感することになってしまった。

ファンが求めるホンダ像は、本田宗一郎時代からつづくホンダスピリットそのもの。虚像か現実か、ホンダの現状を鑑みながらホンダスピリットについて検証してみよう。

 

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