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2014年12月号より

「つながらない」を大逆転 電波改善に投じた人・物・金|月刊BOSSxWizBiz

マイナスからのスタート

「ソフトバンクの携帯はつながりにくい」

これが、ほんの少し前までの「常識」だった。「ゴルフ場でまったくつながらない」「ビル密集地で電話が使えない」……。ドコモやauの利用者が当たり前に電話しているのに、ソフトバンク利用者だけが使えない、という状況も珍しいことではなかった。

理由は2つあった。

1つ目の理由は、スタート時点に遡る。ソフトバンクの現在の携帯事業は、2006年にボーダフォンを買収することで始まった。ところが、ボーダフォンは最後の数年間、日本国内での投資を満足に行わなかったため、ネットワークだけでなく、携帯端末などについても、他社に見劣りしていた。

そこでソフトバンクの孫正義社長は、(1)料金(2)携帯端末(3)ネットワークの3分野で改善することをコミットメントして、携帯電話事業に取り組んでいった。

ソフトバンクが携帯に参入した半年後には、携帯会社を換えても電話番号を変えずにすむMNPが始まることになっていた。このままではソフトバンクは草刈り場になる。それを防ぐためにも、これまでと大きく変わると思わせることが必要だった。

料金は、基本料金を従来の半額近くに引き下げたホワイトプランが人気を呼び、さらにこれに家族割引が加わったことで、07年5月に純増数1位を記録した。

端末についても、ソフトバンクとなって以降、ラインナップを増やし、さらには08年にiPhoneを独占販売することで、むしろ他社より優位に立った。

残るはネットワークである。

ネットワークのプロ、関和智弘・モバイルネットワーク企画本部長。

「ボーダフォン時代は満足な投資ができなかった。ソフトバンクになって、お客様の実感できるサービスということで、ネットワーク投資が始まり、『電波改善宣言』以降、それが実現しました」

と語るのは、ソフトバンクモバイル、モバイルネットワーク企画本部長の関和智弘氏だ。

1992年にボーダフォンのさらに前身になる東京デジタルホンに入社。以来一貫してネットワーク事業に関わってきた。ソフトバンクのネットワークのすべてを知るのが関和氏だ。

関和氏の言う「電波改善宣言」とは、2010年に発表されたもの。ソフトバンクはボーダフォン買収後1年あまりで基地局を倍増しているが、それでもまだ、ソフトバンクのつながりにくさへの不満は大きかった。そこで、1年間でさらに基地局を倍増、10万局に拡大することで電波状況を劇的に改善する、と宣言したのだ。

倍増と言葉で言うのは簡単だが、実際の現場は大変だった。建設場所や資材の確保、人材の手当て……戦いのような日々が続いた。でも、投資するとなったら、人・物・金のすべてを大胆に投じることができるのがソフトバンクの強みである。その設備投資額はピーク時には7000億円に達した。こうして、ソフトバンクの「電波空白地域」は急速に小さくなっていった。

「つながらない」理由の2つ目は、ソフトバンクのネットワークの電波周波数の問題だ。

ソフトバンクの携帯電話の周波数は1.7ギガヘルツ。これに対してドコモやauの主力は800ギガヘルツだった。周波数が高くなればなるほど直進性が高まる。そのためビルの密集地などでは高周波の電波はビル陰に回り込めないので、電話がつながらないという状況が生まれてしまう。これはいくら基地局を増やしたところで解決がむずかしい問題だった。

しかし2012年、ソフトバンクは900ギガヘルツの電波を獲得する。テレビCMでさかんに訴えていた「プラチナバンド」である。これによりソフトバンクの電話状況は一気に改善した。そして、それを最大限活かそうとするのもソフトバンクらしいところである。

13年1月31日。この日、ソフトバンクの第33四半期決算発表会が開かれた。この席で孫社長は、「ソフトバンクがつながりやすさでナンバーワンとなった」と高らかに宣言した。第三者機関の調査で、ドコモ、auを上回ったというのだ。

トップは譲らない

「電波改善宣言以来、積極的に基地局建設などの設備投資を行ってきましたが、その段階から、プラチナバンドを獲得できた時に備えての準備を進めてきた。だからこそ、プラチナバンドが上乗せされた段階で、つながりやすさが一気に高まったのです」(関和氏)

11年秋にはauからiPhoneが発売され、ソフトバンクの独占体制は終わりを告げる。端末の優位性は失われた。料金についても、ドコモも含め、ほとんど変わらなくなっている。そういう状況で、ソフトバンクが打ち出したのが、つながりやすさだった。つながりにくさがソフトバンクの代名詞だったのを逆手に取った作戦だった。

ソフトバンクは、自らの強みを徹底的にアピールする。ある時は料金だったり、ある時は端末だったりする。そして他社がその分野で追いつくと、従来とはまったく違う切り口で、さらなる優位性を訴える。つながりやすさの訴求は、その典型的な手法である。

ただしソフトバンクのすごさは、その後にある。一度トップを奪ったものは、その座を絶対に譲らない。

ソフトバンクがつながりやすさナンバーワンを訴えて以降、ドコモとauもネットワークに力を入れるようになった。

それでも、孫社長からは「常に1位を守れ。それも他社を寄せ付けないダントツを目指せと言われています」(関和氏)

しかしいまでは3社間の差はほとんどないのが現実だ。その中でどうやって差異化していくのか。

「駅周辺など、人の多いところでは、数字の上では通信速度が速くても、実際使ってみると時間帯などによってはそのスピードを実感できないところがあります。まずは乗降客の多い主要1000駅を対象に、改善をはかっています。もちろん駅だけでなく、様々な地点でデータを見ながら、つながりやすさが体感できるよう、改善を繰り返しています」

ソフトバンクでは、携帯アプリなどを利用した膨大なデータをもとに、電波状況を把握している。最近では他社も追随するが、解析力で他社を上回る。ソフトバンクは通信会社である前にインターネット会社である。それだけに、ネットを利用した情報収集・分析・解析はお手のもの。それがネットワーク改善にも活かされている。

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