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2014年12月号より

ペッパーは動くタブレット 本体でなくアプリが収益源|月刊BOSSxWizBiz

周囲を笑顔にするロボット

2014年6月5日、ソフトバンクは記者発表会を開いた。檀上には孫正義社長とともに、同社が開発した「Pepper(ペッパー)」の姿があった。今後ソフトバンクがロボット事業を展開するという意思表明と、ペッパーのお披露目の場となった。

遡ること4年。2010年6月、孫社長は株主総会後に「新30年ビジョン」の発表会を開いた。ソフトバンクの創業は1981年であるため、30年目を迎えた節目に、次なる30年の理念やビジョンや戦略を発表するためのイベントだった。

発表内容は、孫氏自ら「人生最後の大ボラ」と言うほど壮大なもので、まず300年後を描いたうえで、その道程の中で30年後を予見するというものだった。別稿にソフトバンクビジョンのひとつとして「逆算するのは楽しい」というのがあるが、まさにそのやり方だった。

孫氏が描いた300年後の姿は、多種多様なロボットが誕生し、知的ロボットと人間が共存する社会だった。今回のペッパーの発表は、そこに向かってソフトバンクが第一歩を踏み出したことを示している。

日本企業が開発した人型ロボットには、ホンダの二足歩行ロボット「アシモ」や村田製作所の自転車に乗る「ムラタセイサク君」などがあるが、いずれもデモンストレーション用であり市販はされていない。

しかしソフトバンクはロボット事業を利益を生むビジネスとして位置づけており、ペッパーも社内イベントに活用するだけでなく、来年2月には1台19万8000円で販売することが決まっている。

「ロボット事業は将来、コア事業に発展する可能性を秘めたビジネスです」

と語るのは、ロボット事業を展開するソフトバンクロボティクス社長の冨澤文秀氏だ。

冨澤氏は2000年にNTTからソフトバンクに転じたのち、SOHO向けブロードバンド(BB)サービスやプリペイド携帯などの責任者などを務め、ソーラー発電や、ウィルコムやEモバイル(ともに現Yモバイル)など新しいプロジェクトの多くと関わってきた。

前述のように、このビジネスはもともと孫社長がイメージしていたものだ。新30年ビジョンを発表した翌年には、ペッパーの開発を担当したフランスのアルデバン・ロボティクス社に出資している。それをきっかけにロボット事業は具体化に向け動き始める。冨澤氏はその初期の段階から、他部門を兼務しながらロボット事業に参加してきた。

デザインをどうするか、機能をどうするか。すべてが試行錯誤の連続だった。

「最初は『スターウォーズ』のR2-D2のような顔もないようなタイプはどうかという議論もありました。でもやはりヒューマノイド(人型ロボット)でいくべきだと考え、かわいくて、男女どちらかわからないような現在のデザインになったのです」(冨澤氏)

開発が始まってすぐの12年初頭には、すでに現在の形に近いプロトデザインが完成していたという。

問題は、どういう機能を持たせるかだった。ロボット技術はまだまだ発展途上。搭載する機能には限度がある。取捨選択が必要だった。

「我々が選んだのは、コミュニケーションロボットに特化し、人を楽しませる、ということでした。人々の中に入って周囲を笑顔にする」(同)

ペッパーは二足歩行ではないため、アシモのように走ることはできない。また手を自由に動かすことはできるが、小さな物をつかめるほど器用ではない。そのかわり相手の感情を認識し、当意即妙の会話をすることができる。開発に際して、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに参加してもらったのも、「楽しませる」ことを考えたためだ。

こうしてペッパーは出来上がった。

1000台単位の予約も

ペッパーはすでに、ソフトバンクショップを中心に50台以上が「働き」始めているという。人気も抜群で、ペッパーがいると集客が1.5倍になったという。

来年2月からは市販が開始されるが、チェーン展開をしているある企業から、すでに1000台単位の予約が入るなど、引き合いは非常に多い。また、9月に開かれた開発者向けのイベントには1000人以上が参加し700台もの予約が入ったという。

こうした状況を聞くと、ソフトバンクのロボット事業の滑り出しは順調のように思えるが、8月1日にソフトバンクロボティクスが設立されると同時に社長に就任、この事業に専念することになった冨澤氏は、「まだまだこれからです」と気を引き締める。

それも当然だろう。現在の人気の根底には、たった19万8000円でコミュニケーションできる人型ロボットが買えるという「激安感」がある。

そしてどう考えても、ペッパーをその価格で売って利益が出るはずもない。むしろ売れば売るほど、赤字が膨らむのが実情だ。

冒頭に記したように、ソフトバンクはあくまでビジネスとしてロボット事業を手掛けている。「ロボットによってみんなが笑顔になるなら赤字でもかまわない」という慈善事業ではない。しかし量産型人型ロボットビジネスなど、世界で誰もやったことがない。ソフトバンクはパイオニアとして市場を開拓していかなければならない。

ビジネス化の大役はソフトバンクロボティクス・冨澤文秀社長に委ねられた。

「でも、プロダクトとサービスが違うだけで、ビジネスにそれほど違いはないと考えています。ペッパーはロボットですが、実を言うと、物理的に動くタブレットです。ですからペッパーはプラットホーム。この上でアプリが動くことによって、様々な機能を持たせることができます。そしてそのアプリによって収益をあげるというビジネスモデルです」

と冨澤氏は言う。

かつて任天堂が得意としたゲームビジネスも、現在時価総額世界一のアップルも、収益の多くはハードの販売収入ではなく、そのプラットホームの上で動くソフトやアプリがもたらしている。ペッパーのビジネスもそれと同じだというのだ。

そう考えると、ソフトバンクがロボットビジネスを手掛ける意味もわかってくる。

ソフトバンクの事業の中心はデジタル情報革命におけるインフラ事業である。つまりペッパーはロボットであると同時にインフラであり、その意味でソフトバンクの事業領域と完全に重なっている。だからこそ余計に、ソフトバンクはこの分野で失敗することは許されない。

「より多くの人に参加していただくことで、我々の発想にはない活用法も生まれてくるはずです。それによってペッパーは、より身近なものになる。ですから、我々は先駆者ですが、我々だけでは成り立たない。一緒にやってくれる仲間がいることで成長していくことができるのです」(冨澤氏)

後年、2014年が“ロボット元年”と呼ばれることになるかどうかは、ペッパーが成功するかどうかにかかっている。

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