ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

特集記事

2014年10月号より

“宇井弘明・講談社ビーシー取締役編集局長に聞く ヨーロッパで高評価を受ける理由

前頁まで主に経営面からマツダを解剖してみたが、では、クルマに精通したプロフェッショナルはマツダ車をどう見ているのか。自動車雑誌の「ベストカー」などを発行する講談社ビーシーの取締役編集局長、宇井弘明氏に聞いた。

転換点になった「CX-5」

「Mazda3」、日本名アクセラは欧州でも人気。

―― かつては、マツダ車というといまいちパッとしないけど、欧州、特にドイツにおける日本車の中で秀でた評価を受けているという印象でしたが、それはいまも変わりませんか。
宇井 海外でのマツダ車の評価はたぶん、ドイツが一番高くて、米国でもだいぶ高くなりました。先般もドイツに行ってきたのですが、総じて言うと最近、欧州では日本車の地位が下がってきている感じがするんですね。

たとえば日産の「マイクラ」(日本名「マーチ」)、あるいはトヨタの「ヤリス」(日本名「ヴィッツ」)ですが、イタリアやフランスではこうした小さなコンパクトカーを見かける機会も増えるのでしょうけど、ドイツでよく見かけるのは現地名で言えば「Mazda3」、要は「アクセラ」や「アテンザ」クラスのクルマで、ほかの日本車は割と姿を消している感じです。

―― どのあたりがほかの日本車に比べて評価されているのでしょう。
宇井 まず、デザインが日本車としては非常に欧州志向が強いですね。ただ、米国でも評価が高くなってきて、アテンザは最近、米国でデザイン系のアワードも取りました。BMWやアウディなどのクルマに交じってマツダ車が評価されてきたということは、インテリアなどの品質感なども評価されてきているわけです。

―― ドイツ車の売りの1つは、クルマの堅牢さ、剛性感にあると思いますが、かつてのマツダ車は、デザインや燃費面は凡庸ながら、剛性感に関しては、日本車の中で抜け出ていた時期があった気がします。
宇井 石油ショックやフォードからの支援を経て、1980年代以降、マツダのクルマ作りって大きく変わったんですね。特にFF(前輪駆動車)の「ファミリア」を出して以降は、性能、特にサスペンション性能をドイツ車並みに引き上げることに注力したと思います。

その後、バブル崩壊で5チャネルの販売体制で失敗し、クルマ全体の品質感も少し下がった時期がありましたが、そこを反省して、もう一度盛り返しましたね。マツダの技術陣は人一倍真面目ですから。そして、2012年に「CX-5」というクリーンディーゼルエンジンを搭載したSUVを出して(同車は日本カー・オブ・ザ・イヤーも獲得)から、一段と変わったと思います。

―― 1つの転換点が、2年前に出したCX-5だったと。そういえば、このCX-5以降、マツダはフロントマスクのデザインを統一しました。良く言えばBMWやベンツのような統一した世界観、悪く言えば変わり映えしないデザインということになりますが。
宇井 確かに、メーカーのアイデンティティをフロントマスクで作りこんでいくというのは、欧州車にありがちな手法ではあります。

―― デザインもさることながら、ディーゼルエンジン車が主戦場になっている欧州の中で、マツダがハイブリッド車でも電気自動車でもなく、クリーンディーゼルで勝負したことも、欧州での評価を高めている要因でしょうか。
宇井 マツダがディーゼルに本格的に取り組んで、日本でもディーゼルの負のイメージが消えましたね。走りもいいし燃費も良く、軽油自体がガソリンより安価なわけですし。マツダの取り組みが、ディーゼル車を見直す1つのきっかけになったことは事実でしょう。

もう1つ、マツダは(ライトウエイトオープンスポーツの)「ロードスター」を、生産休止することなく80年代後半からずっと作り続けてきました。クルマのコアなファンは、やっぱりスポーツカーを通してその企業を見るという風潮がありますし、欧州の自動車メーカーも必ず、ラインナップの一部にはそうしたスポーティなラインがあるんです。

低回転域のトルクが凄い

マツダ車を語る宇井弘明氏。

―― ただ、スポーティなイメージを作るのに、かつてのホンダ車、あるいはスバリストと呼ばれる熱烈なスバル車ファンなどに比べて、マツダ車もスポーティなイメージを追ってきたのはわかるのですが、イマイチ、そのイメージが弱かった気がします。
宇井 ロータリーエンジンを手がけていた頃も、一方で、マイナスイメージとして燃費が悪いとか、出だしの悪さ、つまりトルクの細さなどを敬遠する層もいましたからね。その中でロードスターをはじめとした真面目なクルマづくりがいま、開花してきているのかなと思います。

―― お仕事柄、一般のマツダ車オーナーに接する機会もあると思いますが、最近はどんなユーザーの声が多いですか。
宇井 まずデザインがいいと。「デミオ」みたいな小さなクルマでもデザインが欧州的になってきて、女性にも人気が高いですよ。

それと、実用燃費って言うでしょう。カタログ燃費はハイブリッド車を筆頭にすごく高い数字になっていますが、実燃費とは乖離があります。そういう観点でも、特にマツダがスカイアクティブエンジンにシフトして以降は相当、この実燃費がいいので、カタログ燃費との乖離が少ないという評価はよく聞きます。

―― 消費者側に立つと、これもかつてよく聞いたのは、マツダ車を買う時は他社よりも値引き額が大きいけど、その分、下取りに出すと安値でしか買ってもらえないという定説がありました。
宇井 確かに90年代までは、ミニバン系のクルマで値引き50万円なんてこともありましたが、いまはそんなこともないんじゃないでしょうか。

―― さて、すでに新型モデルを発表して、9月発売を待つ新型デミオですが、プロの目から見た、このクルマの完成度はどうですか。
宇井 デザイン、性能ともとてもいいですね。特に注目なのは、やはり1.5リットルのクリーンディーゼルのターボエンジン搭載車でしょう。今回のデミオは、実燃費としては同クラスのハイブリッド車並みになるんじゃないかと。ディーゼル車はもともと低速トルクが太くて、最大トルクの発生回転数も非常に低いので、アクセルを軽く踏むだけでグッとクルマを前に押し出してくれ、回転数が低いので燃費も良くなります。

なので、低回転域のまま高速道路を走ると非常にいい燃費数字が出てくるし、その上デミオは軽くて小さいですから、高速でなく街中でも燃費は相当いいのではないでしょうか。トルクが太くて走りやすいという試乗インプレッションはよく聞きます。ディーゼルのこれまでの弊害としては、エンジン音がうるさく振動も多い、あるいはアイドリング時のノッキングなどでしたが、いまはほとんどわからないレベルですね。

かつては、たとえばフォルクスワーゲンのコンパクトカー「ポロ」などに比べると、日本のコンパクトカーは乗った時の、何というか“しっとり感”がなくて薄っぺらいクルマが多かったのですが、今度のデミオはインテリアの品質感もポロと遜色ないと思いますし、ハンドリングも欧州車レベルだと思います。

―― 宇井さんの、これまでのカーライフでマツダ車との関わりは。
宇井 いま、05年に出たモデルのロードスターに乗っています。プラス、もう1台がフォルクスワーゲンの「ゴルフ」。デミオ以降もスモールSUVの「CX-3」や新型ロードスターが出てくる予定ですから楽しみですね。特に、スモールSUVは日産が「ジューク」で成功したように、欧州では人気ジャンルですから売れ行きにも注目しています。

―― 最後に、今後のマツダ車に期待値を込めた要望を。
宇井 強いて言えば、「ノア」(トヨタ)や「セレナ」(日産)、「ステップワゴン」(ホンダ)といった、日本ではいまだ売れ筋のミニバン市場を、マツダがこれからどう考えていくのかでしょう。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い