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2014年10月号より

“リーマンショック前から始まった復活への動き スカイアクティブを生んだマツダの「モノ造り革新」

円高でも利益の出る技術

マツダの業績改善が急ピッチで進んでいる。2014年3月期の連結営業利益は08年3月期以来6期ぶりの最高となったが、今期も更新が確実で、今のところ2100億円(前期比15%増)と初の2000億円突破を予想している。走りと環境性能を追求する「スカイアクティブ」と呼ぶ独自技術群、さらに商品の企画段階から生産に至るまでコスト改善を図る「モノ造り革新」の表裏一体となった推進が競争力を高め、業績の快走を支えている。

マツダは現在、16年3月期を最終年度とする「構造改革プラン」を推進している。リーマンショックやその後の急激な円高などによる業績悪化の最中にあった12年2月に策定したものだ。最終年度には営業利益で2300億円、売上高営業利益率は7%以上という数値目標を掲げているが、今期にも1年前倒しで達成の勢いとなっている。

エンジンや変速機などにスカイアクティブ技術を全面採用した初のモデルとして12年に投入したのがSUV(多目的スポーツ車)の「CX-5」。以来、「アテンザ」「アクセラ」と主力モデルに展開し、この秋にはコンパクトカーの次期「デミオ」にも全面導入される予定だ。

デミオは、新たにスカイアクティブ技術による排気量1.5リットルの小型ディーゼルエンジンも搭載することになっており、その燃費や走行性能が発売前からクルマ好きの関心を集めている。一連のスカイアクティブモデルは、内外でしっかりした販売実績をあげると同時に、同社の収益力改善に着実に寄与している。

前期の最高益更新は、円高の是正効果がもたらしたのは否めないが、スカイアクティブの商品群で本格展開されているモノ造り革新でのコスト改善の後押しも大きい。

「1ドル=77円、1ユーロ=100円でも利益が出るクルマに仕上げた」。12年2月にスカイアクティブ全面採用の第1弾である「CX-5」を発表した際、当時の山内孝社長(現相談役)は、この新モデルの性能面の魅力とともに、「円高抵抗力」を強く訴えた。発表当時の為替レートは1ドル=78円台という超円高だったが、そのレベルで日本から輸出しても利益をもたらすというアピールだった。

マツダのモノ造り革新は06年に着手したもので、クルマの企画・開発から生産に至るまで全社一体的に取り組むという、まさにモノ造りでの革新的なプロセス構築である。同年には、やがてスカイアクティブへと発展していくエンジン開発の再強化方針も打ち出されており、2つのテーマの一体的なムーブメントが始動した。

当時の自動車産業を振り返ると、従来のプラットフォーム(車台)を基本とした開発効率化やコスト改善から、部品群を一定のかたまりとして捉える「モジュール化」などの改革策へと転じる動きが台頭してい
た。

一方で技術開発面では、ハイブリッド車など新世代技術による環境性能の追求が課題となっていた。マツダのモノ造り革新とエンジン開発再強化はそうした時代背景のなかで、同社が自らの経営資源や立ち位置をしっかり捉えて打ち出した針路でもあった。

モノ造り革新のキーワードは「一括企画」である。5~10年先をにらんだ技術や商品を丸ごと一括で企画し、設計段階からエンジンや変速機といった主要ユニットおよび部品の共通化を大胆に進めるというものだ。そこには、年産規模が100万台そこそこ(14年3月期=127万台)で、モデル数も比較的少ない自動車メーカーならではの、思い切った割り切りがある。

一括企画に基づく設計概念は、汎用性を確保するという意味で同社では「コモンアーキテクチャー」とも呼んでいる。従来は個別モデルごとに設計や生産を進める「車種最適」だったが、コモンアーキテクチャーはすべての製品での効率化やスケールメリットを追求する「全体最適」への転換でもある。

エンジン、変速機、ボディー(車体骨格)、シャシー(足回り)といったユニットも、開発段階から複数車種への展開や生産効率を意識した全体最適の思想を徹底している。その結果、需要変動などに応じて、よりフレキシブル(柔軟)で効率的な生産システムが構築できるようになっている。

30%以上の効率化

生産現場のモノ造り革新は、どのように進んでいるのか――。本社工場の宇品地区(広島市)のエンジン機械加工ラインでは、排気量や燃焼方式の異なる複数のエンジンのシリンダーブロックが同一ラインに流されている。

スカイアクティブエンジンは現在、ガソリンで1.3~2.5リットルまで4タイプ、ディーゼルは2.2リットル(次期デミオから1.5リットルが追加)となっているが、これらのエンジンの土台であるシリンダーブロックの形状は相似形だ。

これが、製品の基本概念を共通化するコモンアーキテクチャーによる設計である。もちろん共通化とはいっても、各シリンダー間の距離(ボアピッチ)などは、個々のエンジン特性を引き出すために独自に設定できるようにしている。

この相似形の設計は、フレキシブル生産で大きな威力を発揮する。シリンダーブロックのような複雑で工程数の多い部品の機械加工は、従来は1機種ごとに専用工具などを揃え、集中生産するのが効率的とされてきた。実際、今もそうした集中生産方式を取るメーカーが少なくない。

マツダは、複数種のシリンダーブロックの各工程間の搬送や、それぞれの工程での加工に基準を設けて共通化し、同一ラインでの混流加工を可能とした。

設備にも工夫を凝らした。

従来は多軸加工ができる「専用機」でラインを構成していたものを、1軸加工の「汎用機」を多く使う構成とした。多軸専用機は一度に複数の加工ができる高級機であり、生産性も高くなる。ただし、生産機種が変わるごとに専用工具の付け替えなどが必要なため、リードタイム(作業準備時間)が長くなるという難点もあった。

モノ造り革新では生産機種によって時間差の出やすい搬送と加工の基準を共通化することで、工程を簡素化し、かつ専用機から汎用機への切り替えを図った。安価な汎用機の利用などにより、スカイアクティブエンジンの機械加工に関する設備投資は、従来比で7割強削減できたという。

マツダはこのほかのモノ造り革新での成果について、設計を中心とする開発面の効率化で30%以上、車両組立工程の設備コストで20%以上などの削減ができたと説明している。

モノ造り革新は国内工場だけでなく、海外工場にも移植・展開が進んでいる。その1つが戦略的な海外拠点として今年初めに稼働したメキシコ工場(グアナファト州サラマンカ市)だ。

マツダは、米フォード・モーターとの長年の提携もあって海外生産展開が遅れ、そのことが自動車業界でどこよりも円高に翻弄されやすい体質をもたらしていた。前述の構造改革プランでは、最終年度に国内外の生産比率をイーブン(14年3月期の海外生産比率は23%)にもっていく体質改善策も掲げている。

防府工場での製造組み立てライン。車種はアテンザ。(筆者撮影)

メキシコ工場はそのグローバルな生産体制の再構築を担う工場なのだ。北米から南米までの米州全体と欧州への供給拠点として、15年度には年23万台(15年に生産開始予定のトヨタ車5万台含む)の生産を目指している。

「当社の社運をかけた構造改革の中で、最も重要なグローバル戦略拠点となる。この工場を必ず成功させ、マツダの新たな歴史を築きたい」――今年2月に同工場で行った開所式で山内会長(現相談役)は、こう強調した。「円高のたびに厳しい経営を強いられてきた」(山内氏)体質を、モノ造り革新を具現化した新工場によって、為替変動に動じない体質へと転換させていく構えだ。

ピカピカの新工場だけに、メキシコには「マツダのモノ造り技術のすべてを注ぎ込むことができた」(メキシコ工場の江川恵司社長)という。現在の生産モデルである「Mazda3」(日本名アクセラ)は、日本では防府工場(山口県防府市)で昨年秋に立ち上げた新モデルだが、防府のモノ造り革新の取り組みがほぼそっくり移植されている。

メキシコ工場でのモノ造り

その一例が車体のプレス加工における廃棄鋼板を抑制するための「歩留まり向上」策。この取り組みでは「サイドパネル外板」の歩留まりを、新型Mazda3では、旧モデルの47.5%から53%へと高めている。

鋼板の歩留まりは、プレス加工で出た端材を、より小さい別の部品の材料として使うことで高めていく。旧モデルのサイドパネルの端材からは左右合計で4部品しか再利用できなかったが、メキシコと防府で生産する新モデルでは一気に12部品に再利用できるようにしている。

車両組立工程では各工程で作業員が組み付ける部品を、あらかじめ部品箱にセットして供給する「キットサプライ方式」が採用されている。グレードや仕向け地などによって異なる部品の組み間違えを防ぎながら、作業効率も高める方式である。

マツダのメキシコ工場。(筆者撮影)

日本でも導入しているが、メキシコでは新設工場ならではの利点を生かし、車両を載せるベルトコンベアの幅を広くすることで、作業員も同じコンベア上で仕事ができるようにした。これで、歩きながらや後ずさりしながらの作業を排除し、作業負担の軽減につなげている。

一方で、車体部品の溶接ではロボットではなく人手によるスポット溶接の工程も少なくなく、自動化率は「おおむね日本の40%程度」(江川社長)に抑制している。ただし、車体溶接ラインには8車種の混流が可能な「セッター治具」と呼ぶ独自技術による位置決め装置も導入しており、将来の複数車種展開や増産をにらんだ設備投資も行っている。

防府で実践したモノ造り革新の技術をもち込みながらも、設備や労務のコスト差、従業員のスキルなどを総合的に考慮し、メキシコでの最適解を求めた生産システムとしている。

12年発売のCX-5は、1ドル=77円でも利益が確保できるクルマと紹介された。だが、当時は12年3月期まで4期連続で赤字にあえいでいた最中だけに、「このクルマだけで果たして……」というのが、世間一般の受け止め方だった。モノ造り革新の成果は、その後の「アテンザ」「アクセラ」、さらに今秋の「デミオ」という主力モデルへの矢継ぎ早の展開によって、マツダのコスト改善力を累積的に強めている。

昨年6月に山内前社長からバトンを受けた小飼雅道社長は生産畑の出身であり、同社の構造改革を工場サイドから牽引してきた。「モノ造り革新は終わりのない取り組み。広島と山口で開発した工法を世界に展開していく」と、日本発の強いモノ造り体質にこだわっていく構えだ。

(経済ジャーナリスト 池原照雄)

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