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特集記事

2014年9月号より

“ハリポタ効果で1200万人 USJはなぜ復活できたのか/V字回復を可能にした人・物・金 清丸惠三郎

13年前の期待と不安

大阪のウォーターフロントにあるテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の復活、そして入場者急増のニュースが、このところ相次いで報じられている。しかもこの7月15日には、世界的なベストセラー小説で、かつ映画化されて多くの観客を動員した「ハリー・ポッター」の世界を忠実に再現したエリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」がオープンした。

「魔法の世界にどっぷり漬かれる」との前人気の高さもあり、今年度の入場者は、開園時2001年の記録に迫る1050万人にまで回復した昨13年度の数字をさらに上回り、1200万人と最高記録を更新すると予想されている。

都内の大手旅行代理店で聞いてみると、「『ハリー・ポッター』への関心の高さは、肌で感じる。7月半ば以降のUSJを組み込んだ商品は大変好調だ」という話だ。身近な人間にも「秋には友達とUSJへ行く予定」と話す者が散見するから、“ハリー・ポッター人気”は大型台風並みに成長すると言って間違いないだろう。

それにしても、USJはいかにして復活し、新たな時代の幕開けを迎えようとしているのだろうか。

2004年に社長に就任したガンペル社長。苦節10年でV字回復を成し遂げた。

時代は十数年前さかのぼる。01年3月初めから4月半ばまで、筆者は東京-大阪間を幾度となく往復していた。ある夕刊紙に「エンターテイメントウォーズ」と題する記事を連載しており、3月31日の開園を前にしてUSJの取材に入っていたからである。

30回以上に及んだその連載を読み返してみると、自慢するわけではないが、USJがその後に直面したいくつかの問題点を当時から端的に指摘している。

「初年度の入場者数は1000万人に届きそう」と見通す傍らで、「人気爆発!USJの期待と不安」として、不安派の見方を代表させる形で、出資している関西系企業関係者の危惧の声をまず冒頭に載せている。「USJの評判は案外いいようですが、本当に大丈夫ですかね」と。

何が大丈夫かと彼が危惧しているのかと言えば、まずUSJのこの時点での持ち株比率がUSEJIC(ユニバーサル・スタジオの出資会社)などアメリカ系2社で34%、大阪市が25%、住友金属10%、住友商事・日立造船各5%ほかとなっていること。

つまり外資と、本来収益事業とは縁遠い大阪市が中核となった企業が、果たして営利組織としてまとまることができるのか、必要なすばやい意思決定ができるのかといった疑問である。

しかも他に1~2%ほどの出資会社が44社もあり、社員構成はそれら各社からの出向・派遣、それに転職組に新卒とバラバラで、意思疎通も簡単ではないというわけだ。

組織論としてのUSJの弱点だが、次に記事ではテーマパークとしての内容、あり方への疑問をこういう形で記している。「大阪では飲み屋の親父さえ『USJはリピーターがね』などと言うほどリピーター問題が喧伝されている」。リピーター問題がなぜそこまで浸透したのかは省くが、少なくともUSJの開園時のアトラクション、ショー、パレード等では、リピーター確保が難しいのではないかと多くの人が見ていたことは間違いない。

少なかったファミリー層

リピーターとはその言葉通り繰り返し来園する人のことで、その数が多いほどそのパークは魅力があることを示し、そうした人の割合(リピーター率)が高いほど集客にコストをかけずにすみ、収益力を強化できることになる。

ではなぜUSJはリピーター率に難題があると見られていたのか。これは必然的に東京ディズニーランド(TDL。この時点ではまだ東京ディズニーシーはオープンしていなかった)との比較にならざるをえないのだが、映画の世界を中心に据えたテーマパークであるUSJはアトラクション、ショー等全体にやや硬質で、夢とか冒険とかといったテーマをミッキー・マウスやドナルド・ダックなどディズニー映画のキャラクターを中心に据えて展開するTDLに比べ、顧客層の年代がやや高くならざるをえず、しかもリピーターを獲得するのに有効な親しみあふれるキャラクターの数やパワーが数段劣るといったことがあったからだ。

2014年7月15日にオープンしたハリー・ポッターのアトラクション。

基本的にユニバーサル・スタジオ側は顧客層をヤングアダルトと考えており、ファミリー層をターゲットとするTDLと大きく食いちがっていた。

もっともこの問題点について、早くからUSJ側は気づいていた。USJ生みの親とも言うべき存在で、02年から社長をつとめた佐々木伸・元大阪市助役は、

「ユニバーサル・スタジオ側はユニバーサル・オーランドをモデルにしたパークを主張して譲らなかったのだけれども、いろいろ調査してみると日本のレジャーは子ども中心で、子どもが大人を引っ張ってくる形だ。だから子どもが来てくれないと大人も来てくれない。USJでも子ども向けのアトラクションが必要だし、子どもが親しみを持ってくれるキャラクターを導入することが絶対必要だといって説得した」
と、後年、筆者に語っている。

当初、USJ側が用意したキャラクターはウッドペッカーだったが、日本での知名度が低いということなどから両大株主が散々にやりあい、結局、スヌーピーの世界をモチーフにした「スヌーピー・スタジオ」がつくられることになった。このアトラクションゾーンがつくられなかったならば、USJは初年度で手痛い失敗を経験することになったにちがいない。

ここで初年度の設備等の数字をTDLと見比べてみよう。まず広さだが、USJのパーク部分が39ヘクタールで、アトラクション数が18。対してTDLの開業時におけるパーク部分の広さが40ヘクタールで、アトラクション数32。「アトラクション数は数え方もあるので、数字ほどの差はない」とUSJ側は当時、主張していたし、TDLのオープン時にはなかった「ユニバーサル・シティウォーク・オオサカ」というエンターテインメント型複合商業施設がUSJのオープンに合わせて開業していたので、施設・設備面ではさほど大きな差がなかったと言えなくもない。

結果、TDLが初年度入園者993万人余りであったのに対して、USJは800万人の見通しに対して01年度は1100万人の入場者を記録した。ちなみにこの年のUSJの経常利益は155億9800万円に上っている。こうした数字から見れば、いくつかの欠点はあるものの、USJが順調に2年目以降も運営されていれば、開園から十数年もたった今になって、「復活」だとか何だとか言われなければならないようなお粗末なことにはならなかったと言っていい。

だがUSJは、このあと述べるようないくつかの不祥事を立て続けに起こし、入場者激減、収益を急速に悪化させ、結果、資金不足で新規アトラクションの導入等が難しくなるという悪循環を引き起こす。

相次ぐ不祥事で入場者減

で、何を言いたいかと言えば、USJは関西という首都圏に次ぐ巨大なマーケットが背後にあり、台湾・韓国・中国はじめ東南アジア諸国とも近く、奈良・京都という世界遺産に指定された観光拠点とも近いというロケーションを考えれば、東京ディズニーリゾート(TDR。TDLとTDSを合わせた名称)の年間入場者3100万人にはとても及ばないが、本来、入場者数750万~800万人台でうろうろしているレベルのパークではない。

もっと前に、1千数百万人台を達成しえたし、それだけの潜在力を持ったパークだったはずなのだということだ。

そのUSJが暗転したのは、開業2年目の7月のこと。夏休み入りで本来なら書き入れ時となるこの時期を見計らったように、冷水器への工業用水混入に始まり、折から社会問題になっていた賞味期限切れ食材の園内での提供、さらには人気アトラクション「ハリウッド・マジック」での許可量を超えた火薬の使用発覚と相次いで不祥事が明らかになり、客足が一挙に遠のいたのだ。開業景気の反動がそれに加わった。

ここで冒頭に指摘した、官僚と外資と、そして寄せ集め部隊の弱点がもろに出た。まず官僚的隠蔽体質が明らかになり社会的に指弾され、なおかつ問題解決への迅速な対応ができず傷を深くした。

出向社員はUSJのほうを見ずに本籍のある会社を向いて仕事をする。かくて元大阪市港湾局長だった社長は辞任に追い込まれたのだった。

急遽、社長に就いたのは佐々木である。彼は社内の動揺を抑え、03年には入場者を1000万人弱まで引き戻す一方、テーマパーク運営のスペシャリストをトップに迎えるための工作を続け、04年6月、USJの社外取締役だったグレン・ガンペル(当時。現在はユニバーサル・スタジオ・レクレーション・グループのプレジデント)を招聘することに成功する。ガンペルは元来法律の専門家だが、3大放送局の1つABCから83年にユニバーサル・スタジオ入りし、以来、長年、テーマパーク事業に携わってきた。

ガンペルがまず取り組んだのは、2つの高コスト要因の排除だった。1つはオープン前に借りたプロジェクトファイナンス資金の低利資金への借り換え、もう1つは1100万人の入場者を前提として採用した社員数の削減である。

ガンペル社長は、さらに翌年にはゴールドマンサックス系の出資投資会社から200億円、日本政策投資会社から50億円の出資を受けると、翌々年には半額減資を断行、累積損失を一掃し、株式公開に向けての準備を進める。東証マザーズ上場は翌07年3月である。

以降、USJは着実に利益を出せる体質となるが、ファンド支配下の会社らしく、さらに資本関係は動く。

09年になるとガンペル社長とゴールドマンサックスが組んでMBOが行われ、USJは非上場となる。この際、日本側の保有株式は全て買い取られた上で、なおかつ大阪市などからの借入金なども返済されている。これにより、身奇麗になったUSJは他の海外ファンドからの出資を受け入れ、次なる投資に向けて準備に入ったのである。この時点で、すでにオーランドで工事が始まっていた「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」が視野に入っていたものと思われる。

では、この間、入場者増加の基軸となるアトラクション、ショー、パレード等に対する投資はどうなっていただろうか。ガンペルはこの頃、「入場者の構造を変えないといけない」としきりに語っていた。要するに若者中心のパークから、TDRがそうであるように、若い女性、子ども連れの家族を中核とするパークにしていくとの考え方である。

起死回生のMBO

しかし具体策の多くは、投資額が小さくてすむショーやパレードであり、入園者を大きく上に向かせるだけのパワーのあるアトラクションは少なかった。せいぜい07年の「ハリウッド・ドリーム・ライド」が目につくくらいである。これとて悪く言う人は「遊園地の絶叫マシーン。テーマパークとの関連性がわからない」と評していたものだ。上場したことで利益を出す必要があり、使える資金に制約を受けたこともあったのだろうが、USJを訪れるたびにいささか消極的過ぎるとの印象を受けたものである。

MBOが行われた09年・10年はそれまでの消極的投資のつけと、11年に迎える開業10周年への準備のための投資手控えもあり、再び700万人台へと入場者は低減する。しかし創業10周年を迎えた11年には、前年投入した「スペースファンタジー・ライド」が全面的に寄与した上に、周年行事も人気を博し、12年に入るとスヌーピー、ハローキティ、セサミストリートと子どもに人気のキャラクターを一挙に投入した「ユニバーサル・ワンダーランド」がファミリー層中心に大ブレーク、エリアはこれまでのUSJには珍しいほど子どもたちの歓声に包まれることになった。

USJ周辺ではホテルなどの建設ラッシュが続く。

「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」に450億円を投ずるために投資資金が制限された昨年は、人気のジェットコースターを「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~」とネーミング、後ろ向きに走らせて若者の人気を獲得、また人気のアトラクション「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン」の映像を、折からオーランドで開発が進んでいたこともあり4K3D(フルHDの4倍の解像度を持つ4K画像)にリニューアル、これまた入場者増に寄与した。このあたりは、ガンペルがマーケティングの責任者としてスカウトした森岡毅執行役員の活躍の賜物だと聞く。とにかくUSJはマーケットに見合う本来的なパワーを発揮する条件がようやく揃った。

さて、入場者1200万人が見えてきたUSJだが、次なる企業像をどう描いているのだろうか。再上場して、ファンドの利益を確定することはすでに決まっているが、増資して得るであろう資金でUSJのパークをどうリニューアルしていくのかは、まだプランが出てきていない。

その前段で、大阪市・大阪府等が構想している舞洲地区でのカジノを中心とした統合型リゾート(IR)への参加を希望しているとも伝えられている。人々に健康な夢の世界を提供するのがテーマパークだとすると、果たしてそれが賢い選択か考える必要があるだろう。アメリカのユニバーサル・スタジオも、ましてやディズニーランドがそうした選択をするとは思えない。TDRももちろんである。仮に別ロケーションであってもだ。

USJを主導するファンドが、そうした組織特有の、お金だけを追いかけるビジネスを追求した場合、テーマパークというビジネスモデルとの乖離がはなはだしいだけに、思いがけぬしっぺ返しを社会から食うこともありうるということだけは最後に指摘しておきたい。

(文中敬称略)

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