2014年8月号より
これから世界に対して新幹線技術を売り込んでいくことは、日本の成長戦略に不可欠だが、高速鉄道の場合、1件あたりの事業規模が大きいだけに、その市場を狙っているのは日本だけではない。
その中でもフランスは最大のライバルと言っていい。フランスが誇る高速鉄道・TGVは、ヨーロッパに初めて誕生した高速鉄道であり、新幹線とともに、世界の高速鉄道の代名詞となっている。
ただし新幹線とTGVとでは、その思想が根本から違う。次頁からのインタビューでも詳しく触れているが、新幹線は、純粋な高速鉄道専用線として開発された。一方TGVは、既存の路線網を活用したため、在来線も貨物列車も同じ軌道を走る。当然、制御システムは複雑になる。(ただし最近は専用線も多く建設されている)
実際、TGVは、過去に何度も踏切での自動車との衝突事故を起こしており、安全性は日本の新幹線に比べ落ちる。しかし、建設コストははるかに安く、しかも他国への直通運転も可能なため、いまではフランスを拠点にドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、スペインにTGVは乗り入れており、やがては東欧にまで延伸する計画さえある。
海外への輸出も日本以上に積極的で、すでにスペイン、韓国、アメリカに車両を輸出しているし、中国の高速鉄道の一部にも納入された。また、モロッコで2015年開業予定のアフリカ初の高速鉄道も、TGVのシステムと車両が採用されている。高速鉄道の輸出実績では、圧倒的立場にある。
もう1カ国。日本の新幹線輸出に立ちはだかるのが中国だ。
少し前、中国が高速鉄道の国際特許をアメリカで申請したことに対して、日本は激しく反発した。
中国では1990年代初めから高速鉄道の建設が始まったが、当時の中国は改革・開放路線が始まったばかりで、高速鉄道技術などないに等しかった。そこで中国は、海外から技術輸入することにした。応じたのは、フランス、ドイツ、そして日本の3カ国だった。
日本では、JR東日本と川崎重工業が、東北新幹線で使用されている車両と技術を輸出したのだが、この技術は中国にパクられ、さらには独自技術として特許申請されるにいたった。
当初の日本側の思惑では、車両輸出が基本のはずだったが、中国側は輸入するのはごく一部で、大半を中国国内でのノックダウン生産を要求。海外への新幹線輸出という実績がほしかった日本側はそれに応じたのだが、後の祭りである。日本側の善意は踏みにじられた。
中国は2000年代に入ってから国内の高速鉄道整備を本格化。日本を抜いて世界一の高速鉄道大国となった。3年前の脱線事故のように、その急激な拡大策ならではの悲劇も起きているが、依然、猛スピードで路線延伸は続いている。
そしてその勢いを駆って、国内のみならず海外にも打って出ようとしている。東南アジアやアフリカ諸国がそのターゲットだ。
中国の最大の強みは、国と企業が完全に一体化していることだ。インフラ輸出成約のためなら、開発援助どころか軍事援助まで、あらゆることを政府がバックアップする。
その圧倒的パワーといかに伍していくか、日本にも国家的戦略が必要だ。