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特集記事

2014年8月号より

“新幹線が世界を席巻する日

リニアの経済効果は9千億円

前稿で見てきたように、新幹線が日本全国を結んだことによって、日本社会は大きく変わった。しかし新幹線が延伸するに伴い、日本は成熟社会化し、成長率は鈍化していった。

東海道新幹線が開通してからの5年間で日本のGDPは約90%伸びた。しかし山陽新幹線開通(1972年)からの5年間では約24%、東北新幹線(82年)では約20%にすぎない。東海道ベルト地帯を結んだ東海道新幹線と、地方都市を結んだ他の新幹線との違いがあるとはいえ、日本国内においてはすでに新幹線の経済効果は限定的なものになっている。

現在建設中の新幹線は、北海道新幹線、北陸新幹線、長崎新幹線の3線。新青森と札幌を結ぶ北海道新幹線は、そのうち新函館までが16年3月に開通、札幌までの全線開通は35年となる見通しだ。現在、長野まで開通している北陸新幹線は15年春に金沢まで開業、さらに敦賀にまで延伸する予定だ。長崎新幹線は昨年から工事が始まり、武雄~長崎間は22年にも開業するとみられている。長崎新幹線はいずれ久留米で九州新幹線に接続、北陸新幹線も新大阪まで延伸する見通しだが、しかし、それが開通すると、日本の新幹線計画はとりあえず完結する。このほかにも、本州と四国を結ぶ新幹線や、九州の東側を縦断する新幹線などの計画はあるが、採算性などを考えると、少なくともフル規格での実現はむずかしい。

そうなると、残る大規模プロジェクトといえば、JR東海が27年に東京~名古屋間開通を目指すリニア新幹線だ。最近、自民党が名古屋~大阪間も27年に同時開業するよう要請し、それに必要な資金を無利子で融資するとの方針を打ち出している。

その結論がどうなるかは現段階では不明だが、東京~名古屋間で5兆4300億円強、名古屋~大阪間で3兆6000億円、総額9兆300億円というビッグプロジェクトなだけに、日本経済に与えるインパクトは大きい。

2027年の開業を目指すリニア新幹線。経済効果は8700億円。

リニア新幹線開通による経済効果は、年間8700億円と試算されているが、それよりもむしろ、東京~名古屋間を40分、東京~大阪間でも67分で結ぶため、東、名、阪の3大経済圏が一体化することの意味のほうが大きいかもしれない。大阪から東京へと通勤することも、その逆も、その気になれば可能となる。“大阪に単身赴任”という言葉が死語になる日が来るかもしれない。長年の日本の課題の1つが東京の一極集中であり、だからこそ過去何度も遷都論議が巻き起こったが、東、名、阪が一体化すれば、その議論にも終止符が打たれることになる。

ビジネスマンのライフスタイルも大きく変わる可能性がある。これは、東海道新幹線が東京~大阪間を日帰り圏内にしたのと同じようなインパクトだ。

このようにリニア新幹線開業は、さまざまなイノベーションを日本にもたらすことになる。そして何より、時速500キロで商用運転を行うという、世界でどこも達成していないことを実現するという意味で、日本の技術力の結晶を世界に誇ると同時に、日本国民にも知らしめることができる。これもまた、東海道新幹線開通時の高揚感と同様だ。

ただし、リニア新幹線はあくまで東海道新幹線のバイパス機能でしかない。輸送量にしても、1編成あたりの定員は東海道新幹線の半分程度になりそうなのに加え、運転間隔も東海道新幹線のように3分間隔での運行は不可能だ。しかも日本の人口、特に地方人口が減り続けていることに加え、リニアがあくまでJR東海の単独事業であることを考えると、新幹線のように全国に延伸する可能性もほとんどゼロだ。そう考えると、リニアの日本経済に与える影響は東、名、阪については大きいが、それ以外の地区に波及する可能性は低いと言わざるを得ない。

新幹線はほぼ日本全国にその足を延ばした。リニア新幹線は、東、名、阪の限定的なもの。

そこで、JR各社や新幹線車両製造会社、そして総合電機メーカーが目を向けているのが海外市場だ。

圧倒的な安全性

日本は国土が狭いことで航空網が発達せず、戦前に日本全国に鉄道網が敷設されたこと、さらには道路整備がなかなか進まなかったこともあり、諸外国に比べ、貨客輸送の鉄道への依存度が高い。

欧米では、早くからフリーウェイやアウトバーンが国土を網のように結び、遠距離については航空網が整備された結果、鉄道は過去の遺物的な位置づけになりつつあった。オリエント急行など、特殊な遠距離列車を除けば、長距離移動列車は衰退していった。

ところが1990年代を迎えた頃から、鉄道は再び脚光を浴びるようになった。

ひとつには、フランスのTGVやドイツのICEといった高速鉄道が商業的な成功を収めたこと。さらには地球環境への意識の高まりだ。各交通機関ごとのエネルギー効率を比べると、旅客の場合、鉄道を1とすると、バスで1.5、乗用車で8.3、飛行機で7.6のエネルギーを消費する。このことからも、鉄道の環境負荷が小さいことがよくわかる。

CO2削減が世界にとって大きなテーマとなるに伴い、鉄道、特に長距離輸送を可能とする高速鉄道に注目が集まるのは当然だった。

現在、世界で高速鉄道が走っている国は、日本を筆頭に、フランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国、さらには中国、韓国などのアジア勢を加えると13カ国に及ぶ。そして、高速鉄道を建設・計画しているのは、ベトナム、タイ、マレーシアなどのアジア、カナダ、アメリカ、ブラジルなどの北南米、さらにはモロッコやエジプトなどアフリカ諸国を含め22カ国にもなる。

ただし、高速鉄道のノウハウをもつ国は多くない。計画がある国が高速鉄道を敷設するには、すでに実績を有する国の支援を得なければならない。

そこに日本の新幹線の活路がある。鉄道事業というのは敷地の買収から始まり、建設、運航、保守管理など、非常に巨額の事業費が必要だ。例えば昨年、日立製作所はイギリスの高速鉄道事業の受注に成功したが、総事業費は30年間で8800億円にのぼる(当時の為替レート換算)。こうした案件を1つ獲得すれば、長期間にわたって収益をあげることができるのが鉄道事業の魅力である。

日本のシステムを輸出してつくられた台湾新幹線。

あるいは2007年に開業した台湾新幹線は、日本の新幹線システムを移植したものだが、総事業費は1兆6000億円にのぼった。このうち、車両・信号システムなどだけで約3300億円。これを三菱重工、東芝、川崎重工、商社からなる7社連合が受注している。また、路線や駅舎などの建設工事でも、日本企業がその大半を落札した。

間もなく、安倍政権による成長戦略が発表される。失われた20年によって、相対的に国力が低下した日本が再び世界の経済大国として羽ばたくには、競争力のある産業を世界に向けて輸出していく必要がある。すでに電化製品や自動車の一部は、円高や国内の人件費の高さなどが嫌われ海外移転が進んでいる。安倍政権誕生以来、円高が是正されたにもかかわらず輸出は増えず、経常赤字が続いているのはそのためだ。

その点、インフラ部門の輸出は、その多くが日本国内でつくられた製品・部品が使われるため、日本経済に与える影響は大きい。少し前までなら、インフラ輸出の代表が原子力発電所で、ベトナムとの商談などで成果を上げてきたが、東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故は、日本の原発輸出の前途に影をさした。

そこで期待されるのが鉄道事業、中でも高速鉄道事業だ。

次稿でも触れるが、鉄道輸出にはフランスや中国などが最大のライバルとなる。こうした国との熾烈な競争を勝ち抜いて受注しなければならない。

日本の新幹線の最大の強みは、絶対的な安全性。50年間、一度も乗客死亡事故を起こしていない事実は鉄道事業として特筆されるべきことだ。ヨーロッパでは、過去に何度となく踏切事故を起こしているし、スペインでは昨年、死者79人となる脱線事故も起きている。また中国でも。高速鉄道が脱線して高架から落下、40人が亡くなった。

新幹線の場合は、他国の高速鉄道と違って高速鉄道専用線だけで運行されており、踏切もない。また制御システムも一元管理されているため、安全性は極めて高い。また10年前の中越地震での震度6の揺れに際しても、脱線こそしたものの死傷者は1人も出なかった。

その代わり、一から新しい路線を建設しなければならないため、事業費はどうしても高くつく。そのハンディを乗り越えて受注するには、国を挙げての支援が必要になる。

今年4月、「株式会社海外交通・都市開発事業支援機構法」が成立した。これは、インフラ輸出を支援する新会社の設立を定めたもので、年内にも設立される新会社は、政府が過半数の株式を保有し、東南アジアで計画される交通インフラ整備と都市開発を支援するもので、「これによって官民が一体となった交通システムの輸出が可能になる」(国交省幹部)という。

かつて日本政府は民間企業の営業活動には関与しないことにしていたが、とくにインフラ輸出の場合、それでは海外企業に勝てないことがはっきりしたため、方針を変更、積極的に関わることにした。後掲のインタビューに詳しいが、日立のイギリスでの事業にも、国を挙げての支援があったことを忘れてはならない。

技術は一流。しかし売り方が下手、というのは多くの日本の製品に共通する課題である。日本の存在感を世界にアピールするには、この弱点を克服しなければならない。その意味で官民一体となった営業活動は、評価できる。

アメリカのヒューストン~ダラス間、シンガポール~クアラルンプール(マレーシア)間などの高速鉄道の受注を目指して、各国の売り込みは激しくなる一方だ。日本の国を挙げての支援が実れば、そこから先の受注活動にもはずみがつくはずだ。

50年後、「シンカンセン」が世界共通語になるための試金石だ。

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