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2014年5月号より

“全権を掌握したサラ・カサノバ社長の次の一手

“ロケットスタート”ならず

日本マクドナルドで社長交代会見が行われたのは、昨年8月27日のこと。同社は12月期決算なので、半期決算の発表を終えた矢先のことだった。原田泳幸社長に代わってトップに就任したのがサラ・カサノバ氏で、当時、64歳だった原田氏より16歳若返る人事となった。カサノバ氏はカナダ出身で、カナダのマックマスター大学大学院の経営修士課程を修了、マクドナルドカナダに1991年に入社している。

以後、マクドナルドロシアなどでマーケティングを担い、実績を積んできた。日本では、原田氏がマクドナルドに招へいされた2004年から5年間、執行役員マーケティング本部長兼事業推進本部長として原田氏の〝右腕〟を務めている。在職中、「えびフィレオ」「メガマック」「クォーターパウンダー」などのヒット商品を送り出し、昨夏に日本にカムバックするまでは、マレーシア・シンガポールエリアの責任者だった。

前述した91年以降から昨年までの22年間、カサノバ氏の「籍」は一貫してマクドナルドカナダだったが昨年、日本マクドナルド社長に着任するにあたっては、そのマクドナルドカナダを“退職”しており、いわば退路を断っての登板である。交代会見時、カサノバ氏は「これから全国の店舗を精力的に回りたい」として、その後、メディアに登場することはほとんどなくなった。

フランチャイズ(FC)オーナーとのコミュニケーションを重ね、これまでの状況を分析し、再びメディアの前に姿を現したのが昨年12月25日のクリスマス。東京都内にある、テストキッチンを備えたマクドナルドの総合研究施設において、年明けに投入する新商品ラインナップ紹介と試食会を行ったのがそれだ。

サラ・カサノバ社長は「復活」へのキーワード(上記)を掲げたが…。

陽気で明るいカサノバ氏はサービス精神も旺盛で、会見前、マクドナルドのクルーに交じって、トレイに載せた試食品を自らサーブするパフォーマンスも見せている。その後、同氏が発表したのが「アメリカンヴィンテージシリーズ」で、「米国の伝統的な良さを日本のお客様にお伝えするのは、マクドナルドでしかできないこと」と語り、日本では初お目見えのサイドメニュー「クラシックフライチーズ」やチキンパティ商品の展開など、目新しさも強調していた。

カサノバ氏にしてみれば、年初から“ロケットスタート”を切りたいという思いだっただろうが、会場内では、新商品に対して感嘆の声はそれほど聞かれなかった。もちろん、味覚や好き嫌いは性別や年齢も含めて個人差がある。とりあえずは、1月の既存店売上高や来店客数の結果を見るほかない。

そして2月6日、上場している日本マクドナルドホールディングスの通期決算発表が行われた。13年12月期の数字については、8月末に交代したのだからカサノバ氏の責任範囲は限定的。同氏の助走期間も考慮すれば、真価が問われるのは年明けからの数字である。だが、決算発表時点では1月の数字はまだ未集計とのことで、カサノバ氏の方針や考え方を披露するにとどまった。

前述のアメリカンヴィンテージシリーズに手応えを感じているとしたカサノバ氏は続けて、「マクドナルドのビジネスの中心はキッズとファミリー。なので、当社の店内で子供がエネルギーを発散できるキッズ向けプレイランド設備を増やしたいし、デリバリー(宅配)にも力を入れていきたい」と語った。

だが、「前体制とどこが変わったのか見えにくい」と問われ、「戦略の転換ではなく、改めてマクドナルドの強みを強化したい」と返すのみで、新商品同様、戦略にも目新しさに欠ける印象は否めなかった。

そして数日後、1月の数字が明らかになる。

ハードル高い日本の市場

1月の実績は前年同月比で、既存店売上高が3.4%伸び、客単価も9.2%上がったものの、来店客数は5.3%減少した。この数字が物語るのは、マクドナルドのコアなファンはある程度捉まえることに成功しているが、浮動票に近い客層の足が遠のいていることを窺わせる。

さらに、去る3月10日に発表となった2月の実績。ここでも客単価は新商品投入効果が持続して5.0%増だったが、来店客数は下げ幅が13.1%まで拡大し、既存店売上高も8.7%の大幅減少となった。もちろん、2月は2週連続で週末にかけて記録的な大雪に見舞われ、その点は割り引いて見なければいけない。ただ同じ外食企業でも、大手牛丼チェーンは鍋メニューで2月の増収を確保。こちらは大雪による厳しい寒さがプラスに働いた形だが、そうした天候要因を除いても、マクドナルドはいまだ“底這い”状態から脱していないといっていい。

決算発表時、カサノバ氏は「もはや規模拡大は諦めたのか」と問われた際、「ゴールはビジネスを拡大していくこと。いまは消費者とのコンタクトポイントをどう増やすかに注力しており、それは当然、店舗数やデリバリーにも関係してくる」と回答していた。だが、マクドナルドの宅配ビジネスは想定していたよりも進展が遅れている。

また、ターゲット層として明確に掲げた「キッズとファミリー」も世界のマクドナルドを俯瞰すれば最大公約数の客層なのかもしれないが、日本は高齢社会という点で世界の先頭を走っており、今後もシニア層以上のボリュームが激増していく。

さらに、老いも若きも単身世帯はこの先、ますます増えていく見込みで、カサノバ氏が照準とする主力顧客層とはズレを感じてしまう。既存のファミリーを集客する点も、一流レストランからファミリーレストランまで激しい顧客争奪で知恵の絞り合いになっており、マクドナルドはよほど強烈な来店動機を示せない限り、家族単位で客を呼び込むのはなかなか厳しい。むしろ、全体的な趨勢から言えば“個食”へのアプローチ強化のほうが、業績回復の早道になる可能性がある。

そして、最も肝心なのが商品力。前述のアメリカンヴィンテージシリーズは、本拠地の米国のみならず、世界各国で一定のファンはつかめるのだろう。

ただ、平均年齢がぐんぐん上がっている日本人の平均像に照らせば、カサノバ氏がとりわけ好評だとした、クラシックフライチーズ(マックフライポテトに温めたチーズソースと粒子状にしたベーコンフレーバートッピング)は、ややヘビーなテイストかもしれない。

前述したように、カサノバ氏の“緒戦”は黒星スタートとなったが、2月19日には持ち株会社の日本マクドナルドHD社長も同氏が兼務することを発表しただけに、本当の正念場は3月末の株主総会後、つまり第2四半期以降にやってくる。

マクドナルド社内ではまだ、カサノバ氏がトップダウン型、ボトムアップ型のどちらの経営者なのか測りかねているようだが、全権を掌握した後、果たしてどんな打ち手を見せるのか――。

(河)

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