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2014年2月号より

ネットからリアルへ拡大する「楽天経済圏」

M&Aでグループを形成

三木谷浩史社長が「楽天経済圏」という言葉を打ち出してきたのは2006年のことだった。ソフトバンクが金融部門のSBIグループと袂を分かち、三木谷社長が「インターネット財閥企業は楽天だけだ」と語ってから、まだ7年しか経っていない。当時はTBS株の大量取得や、買収した国内信販の不振で業績を悪化させるなど、決して順風満帆とは言えない経営状況の時だった。

06年と言えば、ライブドア事件で堀江貴文氏らが逮捕され、ネットベンチャー企業への風当たりが強かった時期でもある。世間は三木谷氏の発言を、大ボラのように受け取っていた。しかし、である。いまとなっては楽天経済圏の存在を否定する者はいない。企業のエコシステムとしての理想像とまで言われるようになってきた。

2000年のジャスダック上場以降、楽天は「楽天ブックス」の設立やポータルサイトの「インフォシーク」の買収など、積極的なM&Aを開始し、03年には「旅の窓口」を運営していたマイトリップ・ネット(現楽天トラベル)、DLGディレクトSFG証券(現楽天証券)と、大きな金額の買収を進めるようになる。これら買収した企業のサービスを楽天市場と連携させ、グループシナジーを最大限生かそうとするエコシステム構想は上場の段階から存在していた。

当初は単なるインターネットを通じた顧客誘導に留めた発想だったのかもしれない。いかにもネットとの親和性が高い企業の買収を進め、集客の向上を図ってきた。ヤフーに近いモデルだったと言える。

楽天会員数は8740万人。

それが02年の楽天スーパーポイントの登場でビジネスモデルが大きく変化を始めた。ポイントを介して繋ぎ合わせていくことで、よりシナジーを意識したグループとして形成されていった。その流れが明らかに顕著になったのは、04年のあおぞらカード(楽天クレジット→現楽天カード)と05年の国内信販(現KCカード)の買収だろう。クレジットカード事業によって決済サービスの充実とグループ収益力の向上が図れることで、ネットからリアルへ、エコシステムの拡大が現実味を帯びてきたからだ。

楽天KC事業は、国内信販時代からのクレジット事業やローン事業のマイナスが大きく、再建が難航して最終的には売却、失敗に終わった買収となったが、残った楽天カード事業は、いまや楽天経済圏を象徴する事業となっている。発行枚数は非公表だが、13年のショッピングの年間取扱高は第3四半期までに約1兆8000億円に達し、2兆円を超えるのは確実。もちろん楽天グループの決済にも大いに利用されている。

楽天経済圏において、中心に置かれているのが楽天会員IDのデータベース。楽天会員は9月末現在で8740万人。7~9月の第3四半期にログインした会員数も6026万人にのぼる。12年の国内EC流通総額は約1兆4465億円。うち楽天がシェア28.9%を占めて首位となっている。ちなみに2位がアマゾン(14.6%)で、2社で市場の約45%を占める。この巨大な会員数がECの楽天市場をはじめ、旅行や電子書籍、動画サービス等のデジタルコンテンツを利用していく。

そしてこれら独立したサービスを繋ぎ合わせているのが、「楽天スーパーポイント」だ。

楽天市場の出店店舗数は4万1933店舗(9月末時点)で、商品数は1億5000万点以上。通常、購入金額100円ごとに1ポイントが付与される。キャンペーンによっては5倍、10倍以上のポイントが付与されることもある。このポイントは楽天市場の商品に限らずグループ内の他のサービスでも利用できるため、実質的には現金に近い利用用途がある。

楽天会員が積極的に楽天カードをつくり決済するのも、この楽天スーパーポイントの存在が大きい。

楽天カードの主な特徴は4つあり、年会費無料で取得できること、ポイント還元率が1%(一般的なクレジットカードは0.5%)、100円で1ポイントと小額決済でもポイントが貯まる、楽天市場での決済に使えばポイントが2倍、キャンペーンによってはそれ以上付与されること、がある。交換等の手間をかけることなく非常に効率よくポイントを貯められるため、楽天市場をよく使う人ならメリットが大きいクレジットカードだと言える。

さらに「楽天証券の口座開設で最大1万8200ポイント」や保険の「資料請求で最大20ポイント」、「楽天銀行の口座開設でポイント3倍」といった、ポイント還元を謳った他サービスへの呼び込みも盛んだ。楽天カードも「新規入会で5000ポイント」といったキャンペーンを展開、高額なポイントに誘われて入会する人も少なくない。

グループを利用すればするほどポイントが貯まり期間限定ポイントなどが付与されれば、使わなくてはいけないという気持ちに自ずとなる。楽天カードとポイントの引力にハマリ込むと、抜け出せなくなってしまうようだ。

予想外のサービス

楽天経済圏の構想は、ネットだけでない、リアルな世界に広がっている。楽天カードをリアルの店舗で使ってもポイントが貯まるというのも一例だが、サービス自体も多様化を見せるようになった。

楽天のサービスで、趣が異なるのが結婚紹介所のオーネットだ。オーネットはもともとオーエムエムジーが運営していたが、07年に楽天が事業承継を受け、08年に連結子会社化している。出会い系サイトでもあるまいし、リアルな人生のイベントである結婚とネットがどう結びつくのだろうか。

「結婚相談自体はリアルで行うビジネスですが、結婚相手が見つかったあとが大いに楽天と結びつきます。結婚が決まったカップルにはお祝いとして楽天スーパーポイントをプレゼントする。例えば、結婚式場は楽天ウェディング、新婚旅行は楽天トラベル、新居は楽天不動産で探し、家財道具は楽天市場で購入していただける」(楽天関係者)

楽天のホームページから会社概要を開き、グループのサービスを見ると、おなじみの「楽天市場」「楽天トラベル」と並んで、「楽天車検」「楽天ソーラー」といった、とてもイメージではネットとは結びつかないサービスが存在している。

楽天車検は13年から始まったサービス。「見積もりで500ポイント、実施で1500ポイント」といったポイントキャンペーンと同時に、楽天の自動車保険への加入に結びつけることができ、楽天市場でのカー用品の購入も考えれば、シナジーは十分あり得る。

楽天ソーラーは12年にスタートした。楽天が受注し、伊藤忠系の日本エコシステムが設置し、パネルはシャープ製という純国産サービス。パネル購入時のポイントサービスに加え、エントリーすれば雨の日・曇りの日にポイントが付与されたりマイレージクラブが準備されたりと、楽天ならではと言えるサービスが多々ある。東北にプロ野球チームを持つ楽天にとって、東日本大震災後の自然エネルギーに対する関心の高まりは無視できなかったようで、ネットならではの低価格化に挑んでいるようだ。

「ゆりかごから墓場までという言葉があるでしょう。個人の人生に関することで、インターネットにかかわることをすべて取り込んでいこうということです」(國重惇史副社長)

12月5日には「楽天でんわ」のサービスを開始。イー・モバイルとともに展開していた「楽天スーパーWiFi」と併せ、通信事業にも力を入れ始めた。モバイルの通信インフラをより安く提供し、モバイルコマースに繋げたいという意図もはっきりしている。

何らかのシナジーがあれば、次々と新事業を立ち上げる。楽天経済圏の広がりは留まることを知らない。

国際化する楽天経済圏

三木谷氏はこの楽天経済圏を国内だけに留めるつもりはない。楽天市場の海外進出だけでなく、この楽天経済圏ごと海外展開することを見据えている。

楽天が最初に海外企業の買収に取り組んだのは、EC事業者ではなく、アメリカのアフィリエイト広告会社だった。その後も海外企業の買収は続いているが、そのなかにはSNSのアメリカPinterest、動画配信のスペインWuaki.TV、電子書籍のカナダKoboなどがある。ECを中心にしてシナジーのある他事業を周りに据えていくスタイルには変わりない。

三木谷氏は13年7月に行われた楽天市場の店舗向けのイベント「楽天EXPO」東京会場での講演で、
「楽天の全流通総額のうち、将来的には、30%は海外向けの販売にしたい」と語っていた。これは単にグローバル化を語っているのではなく、国内の楽天市場の出店者に対して「君たちも海外に出ろ」と促したコメントでもある。
このイベントで三木谷氏は「向こうが先に来ている。こっちも出なくてはいけない」「自由化は向こうが入ってくると同時に、こちらも出ていけるということ」と、世界を意識したコメントに終始。講演の後半には、

「楽天のプラットフォームは日本語から英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、というふうに書き換えることができて、世界中に売れるようにする。そういうふうにシフトしていく」
と、マルチリンガルに対応していくことも公表した。

楽天経済圏は英語で「Rakuten Eco-System」と呼ぶらしいが、日本で構築したビジネスモデルが世界でどう受け入れられるのか。楽天経済圏の完成形が気になるところだ。

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