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特集記事

2014年2月号より

新経連の二の矢、三の矢は? 孤軍奮闘の三木谷代表

医薬品の販売がキッカケ

11月6日、楽天社長の三木谷浩史氏は、記者会見のマイクの前にいた。

一般医薬品のネット販売をめぐり、一部の医薬品のネット販売を規制する方向で政府が最終調整に入ったことを受け、規制に対する抗議のための会見だった。

事の詳細はこの特集の最後の記事に譲るが、この医薬品のネット販売こそが、三木谷氏が財界活動に足を踏み入れるキッカケになった論争である。

2009年、医薬品のネット販売をめぐり、ケンコーコムとウェルネットがネット販売を規制する厚生労働省令の取り消しを求めて提訴した。両社は楽天市場に出店していたこともあり、三木谷氏もバックアップ。次第にEC事業者の輪は広がり、国との対決姿勢を強めることになっていった。

10年2月、EC事業者が中心となって結成した業界団体「一般社団法人eビジネス推進連合会」が発足した。この会の会長は三木谷氏。主な活動として最初に挙げられたのが「医薬品通販に対する政策提言」だった。三木谷氏は国内のネットビジネスの発展と海外との競争力強化を掲げ、産業の振興を妨げる規制には断固反対していくという、強い姿勢を示していたのだ。

しかし、このeビジネス推進連合会は目立った活動が見られなかった。発足式こそ名だたるITベンチャー経営者が揃い、華やかさがあった。副会長にはヤフー社長の井上雅博氏(当時)の名前があり、事務局もヤフーが請け負うなど、ライバル企業の垣根を超えた新しい業界団体としての期待もあったはずなのだが、機能不全になってしまっていた。

「いつからか経営者ではなく、担当者レベルの集まりになってしまっていた」(会員企業関係者)

風向きが変わってきたのは、東日本大震災後だった。11年5月、三木谷氏はツイッターでこうつぶやいた。

「そろそろ経団連を脱退しようかと思いますが、皆さんどう思いますか?」

電力業界を保護しようとする態度が許せないとして、「なぜ関経連のトップが関電なのか、このタイミングで?」と怒りをぶつける。翌月、三木谷氏は経団連を脱退した。

経団連の保守的な姿勢や電力政策への疑問を脱退の理由にしているが、そもそもインターネットによる社会構造の革新を志向する三木谷氏と経団連の方向性は明らかに異なっていた。

その後すぐに三木谷氏は、新しい経済団体設立の道を模索し始める。eビジネス推進連合会はEC事業者が中心であり、比較的考えの近い企業が集まっている。業界団体のeビジネス推進連合会を、経済団体として改組することを考えたのだ。

しかし、三木谷氏はここで重大なミスをしている。新経済連盟にヤフーを取り込めていなかった。もっと言えば、孫正義氏を味方につけていなかった。

「ベンチャー企業は若い経営者が多く、どこかに属しておきたい、仲間が欲しいという気持ちは持っている。だけど、その組織で積極的に活動しようとか、自分がトップになって引っ張ろうと考える人は、実は少ない。だって自分の会社の経営が一番大事ですからね。三木谷さんが『俺がやる』と立てば後押しするけれども、三木谷さんの代わりにやろうという人はほとんどいない」(ベンチャー企業経営者)

新経連の会員は、一般会員357社、賛助会員417社の合計774社。ソフトバンク、ヤフーの存在感は、楽天を除く他の会員すべての合計より上回るだろう。特にソフトバンクは既得権益の塊でもあるNTTを相手に戦ってきた企業だ。体制との戦い方も熟知していると言っていい。

eビジネス推進連合会でいったんは手を組んだヤフーが抜けたのは痛恨だった。しかもヤフーは12年7月に経団連に入会する。徹底的に袂を分かつことを選んだとしか思えない動きだった。

1丁目1番地

新経済連盟が正式に発足したのは12年6月のこと。中心にいるのは楽天で、事務局も楽天の社員が兼任する形でスタートした。新経連の活動の目的は「日本の競争力強化」と「日本の経済発展にとって重要な新産業の支援」を行うことだという。三木谷氏が新経連の集まりで好んで使う言葉がイノベーション。既存のビジネスに新しいやり方を取り入れたり、新たな試みを始める企業を支援する団体を目指すという。重厚長大の経団連とは異なるアプローチだ。

新経連がクローズアップされたのは、12年12月、衆院選で大勝した自民党の安倍晋三総裁と三木谷氏が政策意見交換会を行ったことがキッカケだった。経団連でも同友会でもなく、首相指名が確実な安倍氏が最初に会った財界団体が新経連だったからだ。

直後の13年1月には、ケンコーコムとウェルネットの提訴について、ネット販売を認めた二審判決を支持する最高裁判決が出たことにより、医薬品は事実上、全面的に解禁される見通しになった。

三木谷氏は安倍内閣の産業競争力会議の議員にも選ばれ、積極的な政策提言も行っている。4月に産業競争力会議で提出した資料中の「7つの提案」の最初にあるのが「対面原則・書面交付原則の撤廃」基本法整備だった。

問題点として挙げたのが、インターネットやICT(情報通信技術)の利用を阻害する規制や商慣行が存在し、日本の法環境が世界的に低い評価にあること。その解決施策として「対面原則・書面交付原則の撤廃」を打ち出していたのである。

三木谷氏が医薬品のネット販売全面解禁にこだわった最大の理由がこの時点で出ていたことになる。

冒頭の会見の席上、三木谷氏は医薬品のネット全面解禁を「1丁目1番地」と表現した。これは三木谷氏が考えるビジネスイノベーションの、まさに最初の提案だったからに他ならない。この最初の提案を飲めずして、安倍内閣には他のイノベーションは実現できないと考えたのだ。

会見では、市販薬のインターネット販売において一部制限が立法化された場合、ケンコーコムを中心に地位確認の訴訟を起こすことも示した。国を相手取った訴訟となるわけで、当然、三木谷氏は国の重要な委員を続けるわけにはいかないと、辞任する意向を示すに至った。

結論から言えば、法案は立法化され、ケンコーコムは提訴。しかし三木谷氏は安倍総理に慰留され、議員を辞任することはなかった。

総理は三木谷氏に対し、前述の「対面原則・書面交付原則の撤廃」を医薬品に限らず他分野でも進めることや、インターネット分野のイノベーションを検討する機関を新設することを約束したとみられる。どういう形にせよ、ネット分野の改革を進める以上、まだ三木谷氏が発言する余地はあるということだろう。

問題は、こうした政治活動において、三木谷氏の存在しかクローズアップされないことだ。新経連からこそ二の矢、三の矢の人物が飛び出してほしい。

それがなければ三木谷氏が考えるネット社会の実現は難しく、三木谷氏ひとりが悪者にされかねない。このまま浮いた存在にならなければよいのだが。

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