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特集記事

2014年1月号より

意外と外れるゴーン社長の“勘ピュータ”

今年度は5万台突破

大手自動車で唯一、業績が悪化し事実上の更迭人事を実施した日産自動車。2014年3月期の通期業績見通しでも営業利益を下方修正したが、思うように業績が伸びない原因の一つに電気自動車(EV)の不振があるという指摘がある。果たして、日産のEV「リーフ」は売れていないのか。

「リーフの累計販売台数は、年明けのそう遠くはない時点で10万台を達成する見通しだ。少なくとも3月までには確実で、10年12月の発売から3年数カ月で10万台となる。同じ10万台達成に、プリウスの場合は(1997年12月の発売から2002年8月までの)4年9カ月を要した。プリウスの実績を上回ることに、大きな手応えを感じている」

日産のグローバルチーフマーケティングマネージャーオフィスEV&クロスカーラインマーケティング部長、トニー・ガーディナ氏は文法に忠実な英語で話す。 ガーディナ氏はフォード・モーター出身で日産に転じてからは、米国のインフィニティ部門、横浜本社のグローバルセールス部門を経て、今年8月から現職だ。

リーフの累計販売台数が3万台に達したのは、発売から1年6カ月が経過した12年5月。12年度の年間販売台数は3万445台だった。これが、今年度は10月までに2万8800台を販売した。

「11月には前年度の1年分を超えられる。13年度は5万台は突破できると考えている」とガーディナ氏。

累計10万台のうち、ほぼ半分は今年度の実績で占められる見込みだ。

なお、13年10月の世界販売台数は4559台。内訳は米国2002台、日本1257台、欧州を中心とするその他の地域が1300台。米国で最も売れている地域はジョージア州アトランタ市。また、人口約500万人のノルウェーでは10月、すべての車種の中でリーフがトップに立った。「(ノルウェーで)VWのゴルフにも勝った」(日産幹部)という。

ゴーン社長が2016年までに150万台売ると打ち上げた日産のEV「リーフ」。

一般に新車は発売直後に、バックオーダーをたくさん抱えて大きな販売台数を記録する。だが、時間の経過とともに、縮小していく。これに対し、EVのリーフは逆に「時間の経過とともに販売台数を増やしている。これには秘密がある。それはSNSやリアルの集会で“口コミ”により商品の魅力が広がったため」とガーディナ氏は話す。

リーフや三菱i-MiEVなどEVユーザーは、スマートフォンやネットを使いこなせる人が多く、フェイスブックなどに気軽に情報や感想を投稿する。また、後述するがユーザーによる集会も日米で開かれていて、日産の社員もボランティアで参加している。投稿やつぶやき、リアルな発言により、「客が客を呼ぶ構造」が13年夏以降に回り始めているともいえよう。

さて、こうした現象により販売数字だけを捉えれば、リーフの販売が急拡大を始めた、しかも、当時のハイブリッド車(HV)「プリウス」よりも速く普及している―と見ることができるかもしれない。

しかし、話はそれほど単純ではない。

日産は11年6月に発表した中期経営計画「日産パワー88」に、16年までに仏ルノーと合わせてEVを累計150万台販売すると盛り込んでいるのだ。まだ3年以上あるものの、前述の通りリーフはようやく累計10万台である。目標値と現実の数値との乖離は、あまりに大きい。「16年に150万台が達成できると信じる日産社員は、おそらく一人もいないだろう」(日産幹部)という声も聞こえる。これでは、ゴーン社長本来の「コミットメント」文化とも、相容れないのではないか。しかも、150万台に代わる修正計画は正式には出されていない。これでは、目標が見出せずに現場は混乱する。1990年代に、破滅へと疾走した、かつての日産と姿が重なってしまう。

ゴーン社長自身は、日産リバイバルプラン(NRP)の断行、中国市場の市域開拓、そしてEV開発と、短期間でゼロから1を生むのが得意な経営者だろう。逆に、長期的に1を10へと大きく育てなければならないとき、少しでも逆風が吹くと意外と脆い面を見せるタイプなのかもしれない。

それはともかく、今期の販売見込みの5万台は、リーフの発売当初に掲げた年間生産台数と一緒だ。もっと正確に言えば、発売の1年半前の2009年5月、リーマン・ショックによる08年度の赤字決算について発表していたゴーン社長が「追浜工場で年間5万台のEVを生産する」と明言したのが“5万台”という数字が歩き出した最初だった。

このとき、NECと共同開発していたラミネート型リチウムイオン電池を、突如掲げて「ゼロ・エミッション・カーのグローバルリーダーに日産はなる」と訴えた。

当初の年産5万台に見合う販売見通しが、実質3年目でようやく立てられた、というのがいまだろう。

が、リーフにはどうしてもスケール(規模)が求められる。

リーフのプロジェクトにはこれまで、約4800億円ともいわれる巨費が投じられたからだ。投資の対象は、主にバッテリー(電池)に向けられた。

消えかかったEV計画

日産が、本格的にEV開発をスタートさせたのは1991年1月。米カリフォルニア州が、前年にゼロ・エミッション・ビーグル(ZEV)規制を定めたためだった。大手自動車メーカーを対象に、排ガスを一切出さない自動車の販売を、98年以降に一定割合(2%)以上に義務づける規制だった。日産は電池の独自開発を目指すが途中で断念。リチウムイオン電池の開発メーカーであるソニーと96年に組み、同年に「プレイリージョイEV」、97年「アルトラEV」を発売する。少量生産のリース販売だったが、世界でZEVを商品化したのは日産だけだった。このため、98年に予定された規制自体はなし崩し的に緩和されていく。

パナソニックと組んだトヨタと、三洋電機(当時)と組んだホンダが、いずれも価格が安いニッケル水素電池から入りHVを商品化したのとは違う選択を、日産は行う。最初から技術レベルが高く、容量が大きい(電気をたくさん貯められる)リチウムイオン電池から入ったわけだが、パートナーのソニーがニッケル水素電池をやっていなかったことも選択の理由だろう。

だが、99年にソニーは採算性を主な理由に、日産と訣別する。一方、日産自体も大きな経営危機を迎えてしまう。ルノーが資本注入して、ゴーン氏が当初はCOO(最高執行責任者)で日産の舵を取りNRPが始まる。

実はこうした中、水面下で攻防があった。工場閉鎖をはじめ大リストラが断行され、金のかかるEV開発予算はゼロとなる。

その時、当時は技術開発担当の副社長だった大久保宣夫氏がゴーン氏に直談判。EVの重要性を訴えた。その結果、ゴーン氏の裁量で動かす特別な予算を獲得し、首の皮一枚でEVプロジェクトは継続されたのである。開発は終わっていた軽自動車のEV「ハイパーミニ」、「ティーノHV」を、経営再建真っ只中の2000年に相次ぎ実験的に発売する。いずれも、日立系の新神戸電機製リチウムイオン電池が搭載されていた。

ある政治家は「EVに消極的だったゴーンさんを、その気にさせたのは実は俺だ」と話すが、直談判によるプロジェクト継続が、ゴーン氏がEVと出会い、深く入っていくきっかけだった。

日産とNECが電池の合弁会社、オートモーティブエナジーサプライ(AESC、神奈川県座間市)を設立したのは、07年4月。このとき、電池の基本部分は既に開発されていた。日産は、ソニーと訣別した頃から、軽量なラミネート型を開発したNECを本命と決める。水面下でNEC製電池の実証実験も行った。

合弁から半年後の10月、リーフの車両開発は正式にスタート。プリウスやカローラ、ゴルフと同じCセグメントとすること、発売を10年末とすることなど、重要事項はすぐに決まった。AESC内の電池工場の大増強は、発売直前まで突貫工事が続いた。

1回の充電で200キロ

リーフの販売は「13年度になってから、特に夏場から急拡大している」(ガーディナ氏)。

車両そのものが13年モデルとして12年12月、日本から順次世界に発売されていく。従来車と比べ80キロの軽量化、暖房にヒートポンプ導入、モータ改良などを行う。この結果、一充電走行距離(国土交通省審査値)を、200キロから228キロに向上させることができた。

米国で13年モデルは3月に発売されたが、8月までに前年同期比335%増と大きく伸びた。

まもなく始まる自動運転こそEVにうってつけ(カリフォルニアの実験施設にある自動運転対応リーフ)。

アトランタ以外にも、サンフランシスコ、シアトル、ロサンゼルスなど西海岸で販売が好調。米国の優遇税制に加え州による税制優遇が存在するが、これらの地域はEVへの優遇幅が大きい。

さらには、ガソリン車ならば複数人が乗車しなければ走行できないレーンでも、EVならば一人運転が許される。「環境に優しい車両EVを運転しているということを、周囲に見せつけることに喜びをもつ人は多い。リーフもテスラも、一目でわかる専用車。かつてシビックHVが売れなかったのは、専用車ではなくシビックとの区別がつきにくかったから。クールでなかった」(日米で仕事をする経営コンサルタント)。

環境意識が高い人、新しいモノをすぐに導入しようとする人が西海岸には多いのも、リーフ好調の理由だろう。

また、電気自動車そのものも、大きく伸び始めている。米EVベンチャーのテスラ・モーターズが昨年6月に売り出した、同社初の量販車「モデルS」も好調。累計販売台数は1万5000台を超え、「月1000台は超えてきている。富裕層に人気」(日産幹部)。価格は7万~10万ドル(約700万~約1000万円)で、1充電で500キロとガソリン車並みに走る。

ちなみにリーフの価格は約298万円から約384万円(日本で国の補助金を使うと、例えば約298万円が約220万円)。ステラよりはるかに安い。

ガーディナ氏は「一部の富裕層に絞るのではなく、まずはリーフをもって幅広い層に対しEVを普及させていくのが日産の戦略」と話す。

テスラは、ジャガーやBMWなどのユーザーがターゲットとなる。環境性能もさることながら、加速感などEV特有の上質な走りがセールスポイント。対するリーフの価格は3分の1であり、電池容量が小さい分、航続距離も短い。そのため、走りに加えて維持費の安さなどがリーフの“売り”となる。

売れ始めた13年夏から、日米で日産が始めているのが「オーナー・エンゲージメント・プログラム」という取り組みだ。ユーザー(オーナー)同士による情報交換のミーティング、リーフの愛着心を高めるためのある種のオフ会はそれなりに始まっていたが、ここに日産の技術者を含む社員を送り込んだのだ。もとはユーザーサイドから日産に要請があり応じたもので、日産の社員はボランティアで参加している。つまり、社員は会社から報酬をもらっていない。

「世界で働く日産の従業員は、日本人でも米国人でも熱いタイプが多い。日米とも幹部もけっこう参加している」(カーディア氏)そうだ。

会合は、フェイスブックなどのSNSを通じて始まったケースが多く、米国、日本とも集会場や公園などで開かれる。集会の規模や頻度などはマチマチだ。

群馬県の、とある道の駅にある休憩室(和室)で最近実施された集会には、子供連れを含めて約30人が参加した。雪道での走行、回生を生かすための運転の仕方、リーフに対応したスマホのアプリについて、お茶を飲みながら情報交換し同時に交流を楽しむ。「1000キロ走って、電気代は1200円という書き込みがあった」といった話題も出る。

日産の社員は会合で、求めに応じて質問に答えていくが、ユーザーと直接対話し生の声を聞くことで販売やマーケティング活動、開発などに生かせる知見の確保につながっている。

「これまでのガソリン車と異なり、リーフを売るためにはお客への啓蒙と説明は不可欠。ITと親和性が高いリーフの使い方は、日々進化していくから。リーフが急に売れ出した秘密は、口コミの力だが、日産社員の参加により口コミは加速した」(ガーディナ氏)

日産では近く欧州でも、同様のプログラムを始める。現地の社員をユーザーのコミュニティへと投入していく。また、日産は、新たなスマホアプリを来年の早い段階で配布する計画でもある。
自動運転にはEVが有利

日産は16年度中にリーフを含めて4車種のEV投入を計画している。新型リーフ、小型商用車、高級車のインフィニティ、最後の1車種に関する詳細は出されていないがスポーツタイプの公算が強い。

インフィニティはテスラと競合が必至であり、「電池の性能で勝敗は決まるのでは」(ライバルメーカー)とも見られる。もっとも、150万台という計画自体があやふやであるだけに、新車投入計画もどうなるのかわからないが、三菱自工との提携から軽自動車ベースのEVも共同開発していく計画が浮上している。ガソリンなど液体燃料に比べ、電池はエネルギー密度が小さいため「EVは軽自動車など小さな車両に向く」(益子修・三菱自工社長)特性があるという。

15年には、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出規制が、世界的に厳しくなっていく。環境保全に加え原油価格も高騰に向かい、自動車を電動化させていく必要に迫られる。とりわけ液体燃料は、航空機のために安定的に確保しておかなければならない。

近い将来は、EV、HV、PHV(プラグインハイブリッド車)、レンジエクステンダー、FCV(燃料電池車)といった電動車両、さらにクリーンディーゼル車や低燃費ガソリン車など内燃機車両が、混在していく形になっていくだろう。

競争はますます激しくなるが、EVは走行中に一切の排ガスも二酸化炭素も排出しない。軽自動車の大手、スズキのユーザー調査によれば、「1日の走行距離は20キロ未満が大半」(スズキ幹部)だった。つまり、一充電で200キロも走れば、軽自動車のような小さなクルマならば日常的なことには問題なく使えるはず。また、将来の自動運転には、HVなどよりEVやFCVは向く。エンジンを使う車よりも電気を制御するほうが反応が早いからだ。

リーフが達成する見込みの3年強で販売累計10万台は、日産にとって重要なのかどうなのか。「10万台というマイルストーンを通過する意味は、やはり大きい。リーフが着実に普及しているということを、示せるのだから」と、EVを担当する志賀俊之副会長は話す。

実質的に99年から続くゴーン体制の行方とともに、日産が環境時代にEVを社会にどう普及させていくのか、その本気度も実力も、これから本当に試されていく。

T型フォード以来、「100年以上続く内燃機関車の時代からEV時代に代わっていくのは、革命的なこと」(ガーディナ氏)なのは間違いないのだから。

(経済ジャーナリスト・永井隆)

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