ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

特集記事

2013年10月号より

1にお台場、2に沖縄

真っ先に手を挙げた東京都

カジノ解禁が現実味を帯びるにつれ、日本各地でカジノ誘致の動きが加速している。

経済効果だけを考えれば、カジノ誘致ほど「おいしい」話はない。何しろ、IR(統合型リゾート)施設を建設するだけで、1000億円単位の投資が行われることになる。しかも開業後は1万人以上の雇用が生まれ、世界から、そして日本各地からカジノを楽しみたいという観光客がやってくる。その落とす金も1000億円単位である。自治体に入ってくるのは税金としてだが、それでも疲弊している地方経済にとってみれば、干天の慈雨以上の恵みといっていい。

夏休み、多くの人を集めるお台場。カジノができればさらに多くの人で賑わうことに。

何より大事なのが、周辺の道路整備などは別として、カジノ建設や運営に、自治体は一切お金を出さなくていいということだ。財政難の自治体にしてみれば、是が非でも誘致したいところだろう。
他稿でも触れたが、日本で最初にカジノ誘致に手を挙げたのは東京都だ。石原慎太郎氏が都知事に初当選した1999年にお台場誘致構想を発表している。その後、いったん石原氏はこの構想を取り下げるのだが、カジノ解禁の機運とともにお台場構想は復活。猪瀬直樹都知事もカジノ誘致に意欲を見せている。

東京都とほぼ同時に手を挙げたのが沖縄県だ。99年、沖縄県議会は伊良部郡下地島にカジノを誘致することを決議した。下地島は宮古島から5キロほど離れた小さな島だが、空港がある。ここに誘致しようというのである。しかしここに多くの施設を建設することはむずかしいため、沖縄本島内に変更されると予想される。基地が返還されたら、その跡地をカジノにする構想もあるようだ。

東京、沖縄がカジノに手を挙げたあとは、2002年から03年にかけて、熱海市(静岡県)、珠洲市(石川県)、鳥羽市(三重県)、堺市(大阪府)などがカジノ誘致を表明した。小泉政権下のこの時期、地域ごとに規制改革を行う目的で「構造改革特区」構想が浮上する。これに応じる形で各自治体は「カジノ特区」を申請したのだ。

熱海市は、社員旅行などのニーズが減少した結果、ピーク時の半分以下に観光客数が落ち込んでいる。これを挽回する手段として、カジノに目をつけた。カジノ計画とは別に、熱海にはF1を誘致しようという動きもあり、もし共に実現すれば、熱海は日本のモナコのような存在になる。かつて日本中から人が集まった熱海に、世界中から人が集まることになる。

鳥羽市ももともと観光で成り立ってきた都市だ。しかし人口は1970年代以降、一貫して減り続けている。また観光客数も伸び悩む。そこでカジノを誘致することで、海洋リゾート+カジノを前面に押し出していこうというわけだ。

結局、特区としてカジノが認められることはなかったが、この時に手を挙げた各都市は、いまでもカジノ誘致を諦めておらず、誘致活動を続けている。

このように特区としてカジノを申請する都市が出現した頃から、日本全国でカジノ導入を目指す地方自治体が増え始めた。03年には、「地方自治体カジノ研究会」が設立され、日本におけるカジノのあり方などが検討された。同研究会は翌年には「地方自治体カジノ協議会」に受け継がれ、また03年には珠洲市で「日本カジノ創設サミット」が開催されてもいる。

長引く不況の影響を、もっとも受けているのが地方都市だ。駅前商店街がシャッターストリートになったという話は普通のこととなった。仕事もないため若者たちは地方を棄て都会に出ていく。残されるのは高齢者ばかりで、都市はさらに疲弊していく。この悪循環を断つには、劇薬が必要だ。それがカジノだった。現在、カジノ誘致を表明、あるいは検討している自治体は、北は北海道から南は沖縄まで全国に散見される。

北海道から沖縄まで

北海道は、情報交換会を発足させ、カジノ誘致を検討している。現在出ているプランだと、札幌駅の隣接地に、カジノホテルを建設するという。交通アクセスのよさが最大の魅力である。

05年に第3回カジノサミットを開いた秋田県からは、秋田市と合併した雄和町(現秋田市雄和)が、合併前から積極的に活動してきた。雄和は、秋田空港がある地区で、カジノを誘致することで、秋田空港を最大限有効活用することも可能になる。この地区を流れる雄物川は明治期まで水運が盛んだった。その水路を利用したカジノ建設を検討中だ。

千葉県も、森田健作知事を筆頭に、カジノ誘致に力を入れている。成田空港は日本でいちばん多く外国人観光客を迎えている空港だ。この隣接地にカジノを建設することで、来日時や離日時に遊んで行ってもらおうということだ。羽田空港の国際化が進み、成田空港は存在感が薄くなりつつあるだけに、カジノによって、再浮上したいところだ。

空港立地ということでは、中部国際空港のある愛知県常滑市も同様だ。空港は沖合の人工島にあるが、その対岸部分にカジノを誘致したいとする。

中部国際空港が開港したのは05年。当時、名古屋経済が絶好調だったこともあり、多くの利用者で賑わうと思われていたが、実際には見込みほどには伸びていない。昨年から今年にかけて、ガルーダ・インドネシア航空、チャイナエアライン、エバー航空、揚子江快運航空、ジェットスター・ジャパンなどが、中部国際空港発着便の一部もしくはすべてから撤退している。また開業以来赤字が続いているため、カジノ開業に期待するところは大きい。

長崎県では佐世保市が熱心だ。佐世保市にはハウステンボスがあり、園内には3つの直営ホテルがある。これを活用し、カジノを併設することで、それほど投資することなく、しかも短期間でIRをつくることが可能になる。しかも大村空港からも至近で交通の便もよく、世界最大のカジノ愛好国、中国に近いのもセールスポイントだ。

九州ではもう1つ、宮崎県が誘致に名乗りをあげている。かつて「新婚旅行のメッカ」とも言われ、多くの観光客を集めた宮崎だが、海外旅行が一般化するに伴い、観光産業はじり貧になった。これをカジノを誘致することで救おうというのだ。しかも宮崎シーガイアを、カジノ経営に興味津々のセガサミーホールディングスが買収(次稿参照)したことで、機運はさらに盛り上がっている。

このほか、和歌山県白浜町や徳島市もカジノに関心を示している。

カジノ誘致への取り組みで忘れてはならないのが大阪府だ。

大阪府がカジノ誘致に力を入れるようになったのは、現大阪市長の橋下徹氏が大阪府知事の時代。開業が間近に迫ったシンガポールのカジノを視察した橋下氏は、帰国後、IR構想を打ち出した。

関西国際空港の対岸に位置する大阪ベイエリア。この地区の開発が大阪府・市にとって長年の課題になっている。ここにカジノを誘致すれば、その課題は一挙に解決する。橋下氏はそれを狙ったのだ。橋下氏は2010年に今度はマカオのカジノを視察、カジノの必要性をさらに強く認識するようになったようだ。

橋下氏は最近でも、維新の会代表として、「(外国人観光客を増やすには)カジノの解禁。それしかない」と語っているほどだ。

橋下氏とともに維新の会代表を務める石原氏も、冒頭に記したように熱心なカジノ解禁派。橋下氏と石原氏の関係は必ずしもうまくいっていないと言われるが、カジノ解禁に関しては一枚岩のようだ。

もう1カ所。カジノ誘致を目指しているのが宮城県だ。ただ、宮城県の誘致の仕方は、他の自治体とは少し違う。というのも、自治体が主体的に手を挙げる前に、国会議員の間でカジノ建設の動きが始まったからだ。

一昨年の東日本大震災以来、東北では復興への取り組みが続いているが、思うようには進んでいない。いまは公共工事が行われているため、この地区に大量のお金が落ちているが、真の意味での復興は、産業が回復し、それが雇用を生んでこそだ。ところが、まだまだそういう状況には至っていない。

その解決策として国会議員の間で「宮城県にカジノ誘致」が語られたのは、震災からそれほど時間がたっていない時期である。この国会議員の声に呼応する形で、県議会の議員が超党派で誘致議員連盟を結成したという経緯である。

カジノの椅子は2つだけ

以上見てきたように、日本全国で誘致合戦が起こっている。いまのところ、カジノ解禁になっても認可されるのは2カ所程度だろうと言われている。その椅子を、10以上の自治体が競うことになる。
「でも実際には、ほとんど決まっているんですよ」
と打ち明けるのは、IR議連関係者だ。「東京・お台場がまず確定。もう1カ所となると沖縄が最有力」だというのである。

「カジノ解禁の目的は外国人旅行客を増やすことです。その目的を念頭におけば、どこにカジノを置けばいちばん効果的かは自明の理。東京ならば、シンガポール以上に人を集めることも不可能ではない。

沖縄というのは、政治的な理由によるものです。基地問題で揺れる沖縄の人たちの気持ちを考えると、基地以外の産業を育てることが必要です。その点、カジノは、IRのような大型施設ができれば1万人以上の雇用が生まれるし、財政的にも潤いますからね」

確かにお台場なら、羽田空港もすぐ近くであり、これ以上の立地条件はない。またホテルも十分にあるため、カジノホテルに泊まらなくてもカジノを楽しみたいという人を収容できる。さらには東京には日本中の人が集まるため、その人たちがカジノに来て落とすお金もバカにならない。

「お台場にカジノをつくれば成功は約束されている」と言われる所以である。

こうした見方に対して地方で誘致をしている自治体からは「カジノ解禁の目的には地域の活性化もあるはず。何もかも東京一極集中しているのに、カジノまでも持っていこうというのか」という反発の声も上がっている。

果たして結末はどうなるか。カジノ推進法成立後、誘致レースは最終コーナーを迎える。

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い