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2013年6月号より

“決算のたびに上方修正不況でも増収にできる秘密

2ケタ成長を見込む

1月30日、高級ホテルの宿泊予約サイト「一休.com」を運営する一休が、2013年3月期決算の業績見通しを上方修正した。これで中間期決算につづいて2度目の上方修正となり、過去最高経常利益の14億7700万円(07年度)を上回るのは確実になった。年初に6万円台半ばだった株価は4月に入り12万円に迫る水準まで上昇している。

「もともと3カ年計画で、いったんしゃがみこんでからジャンプしようと考えていました。そのために大規模なシステム増強を行い、広告費もかけてきたわけですが、震災等の影響で効果が出るのに時間がかかってしまった。ようやく12年度になって実を結んできました」

こう語るのは一休社長の森正文氏。現在の好業績は、過去の投資の成果だと分析。前期は取扱金額、取扱室数、1室当たり平均単価のすべての数字が上昇していることから、「このトレンドは数年つづくと思っています」と胸を張る。

株価データは2012年11月5日から13年4月12日までの週足。株式分割した会社は調整値。

2000年5月の「一休.com」オープン以来、現在まで、一休の営業収益は右肩上がりで増収をつづけている。05年度には経常利益率が60%を超える高収益な状況になったが、森氏は当時をこう振り返る。

「60%を超える利益率は異常でした。人が少ないなかで収益だけが先に走っていった感じで、木にたとえれば、1本ひょろひょろと痩せた状態で高くなっていただけでした。どこかでもう一度、地中で根を広げ、水分や養分をしっかり吸収でき、幹を太くしたなかで成長トレンドに入れていく必要があったわけです」

一休は07年度に最高益を記録したあと、10年度まで増収減益を繰り返す。システムの大改修とともに、テレビCM、新サイト開設等、先行投資を繰り返したからだった。10年度に、上場来で最低の経常利益6億5400万円まで目減りした。

「この時はテレビCM等、広告宣伝費を5億円計上しました。3カ年計画で投資をしましたので、この翌年から大きく飛躍させるはずだったのですが、東日本大震災が起きてしまった」

震災後、日本は自粛ムードに包まれる。一休はテレビCMの効果もあって、認知度は向上し、売り上げは大きく伸ばしたのだが、想定ほどの伸びではなかったのだという。

しかし、12年度に入ってから状況は一変する。新規会員の増加とともにリピーターも増え、ポイントサービス等の囲い込み施策も奏功する。また、これまでは宿泊予約サイトに利益のほとんどを依存する収益体質だったが、徐々に他のサービスも収益に貢献するようになってきている。

「最近、伸びてきたのがレストランの予約サイトです。高級ホテルの施設内や隣接していることが多いことから、営業担当の人数をそれほど増やすことなく収益に貢献するようになってきました。ホテルに宿泊するとなると、休みを取らなければいけなかったり、ちょっとした贅沢も大袈裟になってしまいます。レストランだと、夜の数時間を使うだけで済みますから、気軽に予約することができる。20代の女性の利用も増えてきています。メインの宿泊予約も堅調ですから、4月以降の今期、来期は2ケタ成長が見込める成長トレンドに入ってきました」

経常利益率も20%台と高い収益性を維持しており、今後もさらに高めていくつもりだ。

従業員に一律50万円支給

好業績に伴って大きく株価も上がったが、森氏は現在のアベノミクス相場には左右されないビジネスを志向している。

「先行投資が成長トレンドに繋がった」と森氏。

「アベノミクスで順調に景気が回復すれば、収入が増えたり投資などの不労所得が入り、たまにはいいホテルに行ってみようとか、旅行やレストランでも背伸びをするようになってきますので、その意味では我々はフォローの風を受けると思います。しかし、これから投資家は、日本の景気がよくなることが前提で伸びている会社と、景気に左右されずビジネスモデルが優れているから伸びている会社を区別するようになっていくでしょう。つまり、持続性を持った経営ができるかどうか。

一休の場合は、不況になると高級ホテルに空き室が出ますから、単価が下がって室数が出てくるので増収になりますし、景気が好くなると室数が減っても単価が高くなりますから、結果的に増収になる。景気に左右されにくいモデルです」

4月8日には「一休.com」の登録会員数が300万人を突破した。会員数と宿泊施設数を増やし続けることができれば、成長トレンドを維持することが可能になる。逆に言えば、サイトに人が集まるかどうかこそが、最大のリスク要因になる。

「インターネットのサイトはどこでもそうなんですが、集客力を維持できるかどうかが重要になってきます。ネットの場合、ユーザーの目先はすぐに変わりますし、競合も簡単に現れる。ネットサービスはすぐに飽きられてしまいます。ですから、常に仕掛けを考え、顧客満足度の数字は常に意識しています。

また、ネット企業にとってのリスクには、ハッカーなどによるサイバー攻撃が常にあります。何らかの要因でサイトが止まってしまうのは怖い。それ以上にリスクなのは、外部に個人情報が流出して悪用されること。サイトが攻撃されて個人情報が盗まれると、企業は被害者にもかかわらず叩かれ、悪者にされて信用を失ってしまいます。人が離れることが一番の問題ですから、セキュリティには投資を続けていかなくてはいけません」

一休は1月の第3四半期決算の際に株主還元として配当を1100円から1300円に増配している。配当性向4割はかなり高い水準だ。これに加え、3月末、全従業員に特別賞与を一律50万円支給した。もちろん最高益に対する労いなのだが、1月に発表された通期予想よりも、確実に上振れた決算になる見込みが立ったことも後押ししたようだ。

森氏は、好業績のうちに次の柱となるサービスを模索する。

「来期以降、時期は未定ながら海外の高級ホテルの予約を始めることを考えています。海外のホテルは1泊あたりが高く、多くは連泊しますので費用がかかるんですね。私どもがそれを安く提供し、利用していただければ、WIN・WIN・WINの関係ができます」

昨年12月には全日空と提携し、航空券と宿泊施設をパッケージ販売する商品の展開も始めた。旅行業界での存在感も増していることから、中期的な成長に期待できる企業だと言える。

(本誌・児玉智浩)

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