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特集 ビットバレー! 再び!渋谷に集う企業群|月刊BOSSxWizBiz

再開発で注目!人材と企業が集まる街、渋谷|月刊BOSSxWizBiz

ビットバレー再始動!

2018年9月10日、東京都渋谷区内で「テックカンファレンス BIT VALLEY 2018」が開かれた。

多様な人が集う渋谷の街。それが大きな原動力となっている。

イベント中のトークセッションでは、長谷部健・渋谷区長をはじめ、GMOインターネットの熊谷正寿、ディー・エヌ・エーの南場智子、サイバーエージェントの藤田晋の各代表のほか、ミクシィの村瀬龍馬執行役員が登壇。 渋谷区に本社を構え、「顔」ともいうべき会社の首脳からは、“渋谷で事業展開したからこそここまで成長でき た”という渋谷愛が語られた。

渋谷が再びベンチャー企業の街、IT産業の集積地になってきた。

かつては「渋谷センター街」(現・バスケットボールストリート)に若者が集い、街中にある飲食店では夜な夜なサラリーマンが酒をあおる。どちらかといえば「遊ぶ街」のイメージだった渋谷。そこにITのベンチャー企業が集まり、「ビットバレー」と言われ始めたのは1990年代後半。

その誕生について、GMOの熊谷氏は次のように語る。

「『ビットバレー』は、97年か98年頃に、東急Bunkamuraの裏手(松濤)に本社を構えていたネットエイジ (現・ユナイテッド)の西川潔氏が『ビター・バレー』(渋谷)をもじって名付け、ITベンチャーの象徴になり ました。これらの企業を集めた第1回目の会合を私たちの会社の会議室で開催。まさに、ビットバレーが産声を あげる瞬間に居合わせることができて幸せでした」

渋谷がITベンチャーの街として発展できた理由。それは一言「街の持つ多様性」と経営者は口々に言う。渋谷セ ンター街や「SHIBUYA109」は若者文化やファッションの発信地として機能してきた。一方で、松濤、南平台、鶯 谷町などは、高級住宅地として年配者や富裕層からも注目される。様々な属性の人が集って作り上げているから こそ、それを受け入れる器が大きくなり、街としての多様性が増していく。

「ビットバレー自体は現在までずっと続いている認識」(熊谷氏)だったが、ここにきて関連するプロジェクト が再び活発になってきたのは、企業を受け入れるインフラの整備が急ピッチで進んだからだ。

東京急行電鉄などが主体となり「渋谷ヒカリエ」(2012年開業)をはじめ、「渋谷キャスト」(17年開業)、「渋谷ストリーム」(18年9月開業)など、大規模なオフィスビル兼商業施設を整備した。今後も「渋谷スクランブルスクエア」(東棟が19年度に竣工予定)、東急不動産による「道玄坂一丁目駅前地区」(19年秋竣工予定)などが続々完成する、一連の再開発で、東京ドーム6個分に相当する、約27.2万平方メートル(約8.2万坪) のオフィス総賃貸面積が供給される見込みだ。宇田川町では、住友 不動産が通称「アベマタワーズ」を建設中だ。

オフィス増床で、例えば米グーグルの日本法人は、「セルリアンタワー」で日本におけるビジネスをスタートしたが、事業の拡大やそれに伴う人員増によって手狭に。そのため「六本木ヒルズ」(港区)に移転していたが、このほど渋谷ストリームへ戻ってくる。

さらに、同じく事業拡大で現在の事業所では狭くなった企業が新築の大規模ビルへ移り、空いた既存物件が“出 世ビル”などと呼ばれ、成長段階に入ったベンチャーに人気が出るといった動きも出ている。

一方で、生まれたばかりのベンチャーを支えるシェアオフィスの集積も進んでおり、17年6月の段階では70カ所 以上に達する。多様性が高い渋谷で起業をすれば、様々な人から刺激を受け、ビジネスの良い肥やしとなってい くことだろう。

渋谷区役所も建て替えを進めていて、19年1月から順次新庁舎に移る。

「区役所も新庁舎建設に合わせてITインフラを充実させます。私たちも『ビットバレー』の一員に加えてもらえるよう、頑張りたい。ビットバレーからは区としても大きなパワーをもらっており、できる限り支援していきたいと考えています」

渋谷区の長谷部区長はこう語った。行政としてもビットバレーを支援する一方、新庁舎によってITを駆使した効 率的かつ斬新な行政運営を期待してもいいだろう。

絶えず進化し、東京23区の中でも話題性の高い渋谷について、次ページより検証してみたい。

※データ類は原則2018年9月30日現在

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“IT企業よ 渋谷を目指せ|月刊BOSSxWizBiz

GMOインターネット 会長兼社長・グループ代表 熊谷正寿

渋谷はファッションや音楽をはじめ、様々な分野で新しいカルチャーを生み出し発信し続ける街であり、「多様性」という言葉に集約される、自由な発想が許され、歓迎される場所です。

その多様性は人種や文化に限りません。新しい価値を社会に提示しようとするスタートアップやネットベンチャーを受け入れるオフィスエリアとしても最高の環境なのです。

渋谷の自由な空気を目指してエンジニアやクリエイターが自然と集まり切磋琢磨し、彼らとともに最先端の情報も集まり、結果としてITの発展に大きく貢献する場所になっている。

当社もまた、渋谷とともに発展してきた一員です。私たちがインターネット事業を開始して23年間、この渋谷の多様性がグループの成長を支えてくれた。今後も最先端の技術を追求し、No.1のサービスを提供するためにも、優秀な人財が最も集まる渋谷に本社を置くことが重要だと思っています。

そして現在。再開発に合わせ、IT・ネットビジネスの中心地として、ますます渋谷にIT企業が集積しています。

ただそれだけではなく、東急グループによる都市空間の創造や行政の協力により、企業間交流や情報共有、議論の場が自然と生まれ、また新規サービスやプロダクトの検証・実証実験などが街を挙げて行われやすくなっていくのです。

GMO、サイバーエージェント、DeNA、ミクシィの4社が立ち上げた「SHIBUYA BIT VALLEY」プロジェクトが目指す世界のIT技術拠点に向けて、渋谷の企業群は日本のIT業界の発展を牽引していくでしょう。

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経営者インタビュー

ブロックチェーンで目指す「あたらしい経済のかたち」

人を惹きつける吸引力

―― 渋谷区は1990年代からビットバレーと呼ばれてベンチャー企業が集まりやすい土壌ができてきました。こうした状況をどのようにとらえていますか。
ポジティブ以外何物でもないですね。ぜひアクティブにやっていただければ嬉しいし、町に吸引力があることは誇らしいことです。現在でこそ、積極的になっていますが、もともと、区が先導して企業を集めてきたのかと言えば、決してそんなことはなかった。

この街が非常におもしろいと思うのは、いろんなものが生まれてきていることです。ファッションもそうですし、カルチャーもそう。それは行政が仕掛けたことではなくて、多様な価値観がぶつかり合って、交わり合って生まれてきています。

長谷部区長

「渋谷区は街自体に多様性がある」と長谷部区長。

例えば私が小学生の時は、竹の子族とかロカビリー族、中学生の時はDCブランド、高校生の時にはアメカジや渋カジ、大人になってからはギャル、コギャルの登場などがありましたけど、これはストリートカルチャーです。街で様々なものが混ざり合うことで活力が生まれています。ターゲットとなる人たちが街にいて、最先端の文化が生まれる場ですから、企業はそこを価値として見出していると思います。

家賃が高騰しているのでベンチャー企業にとっては厳しくなっていると思いますが、それでも渋谷にはシェアオフィスといった環境もある。だからこそこの街のグルーヴ感というか、そういったものを求めてきてくれていると思います。街の魅力が積み重なってきているからこそ、企業が集まっている。

―― 渋谷区は、人口が約22万人と23区のなかでも少ないほう(18位)ですが、文化が集まるという意味では他の地域にはない珍しさを感じます。
人口については面積が小さいこともありますしね。原宿や渋谷あたりは確かに少ないですが、恵比寿は多いですし、甲州街道の両サイドは基本的に渋谷区です。衣食住のバランスが取れた区だと思います。

原宿や表参道と言うと、みなさんファッションストリートだと思っていますが、名前の通り「参道」なんです。多くの街が洋風に振ったなか、参道はけやきや灯籠がありますから、和の上にトッピングされている。交わり合って新しい価値を生み出している象徴ではないでしょうか。

9月13日にオープンした渋谷ストリームも、かつての東急東横線のホームを思い出させる造りになっています。そうした工夫が自然になされていて、温故知新、和洋折衷というおもしろいミックスカルチャーができていると思います。

―― 企業に対する支援策はありますか。
支援オフィスを区が用意してということはありませんが、商工会館などはそうした方向でリニューアルしていこうと思っています。また、渋谷未来デザインという一般社団法人では行政も出資していますが、十数社の民間企業も出資しています。こちらでは代々木公園でのスタジアムアリーナ構想を発表させていただきましたが、社会実験を含め、官だけじゃできないこと、民だけではできないことを一緒に取り組んでいく、それも違和感なくできるというのが渋谷区のよさでしょう。

商圏エリアの拡大

―― 東急グループが中心になって進めている再開発についてはいかがですか。
順調に進んでいます。急がせているわけではありませんが、願いとしては早く出来上がってほしい(笑)。今回の開発では、渋谷を中心とした商圏のエリアが繋がって広がります。いままでも原宿~表参道~渋谷が繋がっていて、例えば表参道で降りて渋谷から帰る、渋谷から降りて原宿、明治神宮前から帰るという方が多いです。渋谷ストリームの開発で恵比寿、代官山まで回遊ができるようになったり、街が広がっていくと思います。恵比寿のほうが食は充実していたりしますので、ナイトタイムエコノミーみたいなのが大きなテーマになってくるなか、原宿~渋谷~恵比寿が繋がると、東京、日本のエンジンになり得るのではないかと期待しています。

基本構想を手に取りやすい冊子に。

基本構想を手に取りやすい冊子に。

―― 恵比寿には企業も多く、人が集まる街になっていますね。
恵比寿駅周辺は、私が高校生くらいのときまでは山手線のなかでも特徴がない駅でしたが、恵比寿ガーデンプレイスの開発以降、昼間人口が増え、それを目当てに飲食店が増え、ファッションも入ってきて、現在では住みたい街ナンバーワンと言われる街に変化してきました。

同潤会アパートなど開発で寂しい思いをする部分もありますが、渋谷区はずっと景色が変わり続けています。他の自治体でこんな速度で変わる街はないと思いますし、我々はそれを武器として、表参道のように守るべきところは守りながら変化をしていけば、唯一無二の街になっていけるのではないかなと。

―― 渋谷区の場合、地域によってのカラーがぜんぜん違います。それぞれに人が集まるのもおもしろいですね。
町会のブロックで言うと、11ブロックに分かれています。笹塚ブロックと西原ブロックなどぜんぜん違う。幡ヶ谷もそうですが、笹塚と松濤も異なりますし、原宿と恵比寿も違う。高級住宅街と言われる広尾と上原も似ていない。街自体が多様ですね。インバウンドも増えてきたなかで、いろいろなハイブリッドが起きやすい街なのでしょう。歴史的にもそれはずっと続いてきたことです。

基本構想に基づいた提案を

―― 渋谷区は基本構想として「ちがいをちからに変える街」を打ち出しています。
多様性、インクルージョンみたいなことを多分に織り込んだ基本構想、それを象徴する言葉です。すべての政策はその言葉に紐づくように作る。基本構想に紐づいた提案だったら、僕らも受けやすい。区としてはどんどん提案が欲しいんですよ。だから基本構想を読んでもらいたいし、知ってもらいたい。

―― 一見、絵本のような基本構想の冊子も配布していますね。
基本構想や基本計画は、自治体はすべて持っています。政策の最上に置く重要なものです。ところが、基本構想を開いていない方が多い。確かに基本構想は最大公約数を取っているために、どの自治体も似たような形になりがちです。文化を継承しましょう、産業を育成しましょうといったものです。もちろん渋谷区にもそういったことは織り込まれていますが、もう少しそれをエモーショナルに伝えたい。

「ちがいをちからに変える街」を形成するためにABCDEFGの7つがあり、子育てや福祉など、それぞれに文章があり、その言葉から新しいことを発想できるような言葉をちりばめた作りにしています。

多様な人が集まるのが魅力。

多様な人が集まるのが魅力。

―― 今後はどのような取り組みをしていきますか。
もっと渋谷の街は、エンタメとかクリエイティブとかインキュベーションとか、そういったものがもっと似合う、フィットする街へと、進んでいくように舵は切っていこうと思っています。そこに行政ができることは限界があって、結局主役になるのは人や企業ですから、基本構想にもとづいてご提案いただければタイアップした事業もあり得ると思うし、アクティブに活動してほしいなと思います。

私自身、この街に生まれて、住民として「渋谷区に住んでていいね」と言われて育ってきました。こういう評価が渋谷の活力です。常に先端で変化して、リードしていくのが、この街の誇りだと思っています。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

経営者インタビュー

いつでも、どこでも、だれでも利便性を追求するコンビニ銀行

長谷部区長

舟竹 泰昭 セブン銀行社長
ふなたけ・やすあき 1956年生まれ。80年東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。2001年セブン銀行入社。10年常務、13年専務、16年副社長を経て、18年6月社長に就任。

セブン‐イレブンに入ると必ず設置されているセブン銀行のATM。いまや駅や商業施設など、人が集まるところにも多く見かけるようになってきた。ATMのビジネスに重きを置いた経営はセブン銀行ならではの独自スタイル。そのコンビニ銀行にローソンも正式に参入を決め、ようやく競争が始まる。そこで6月に就任した新社長の舟竹泰昭氏に、今後のセブン銀行展開を聞いた。

ATM2万4392台

―― セブン銀行のATM設置台数は2万4392台(3月末現在)、そのうち3000台弱はコンビニ以外の場所に置かれています。メガ3行をはじめ他の銀行がATMを減らすなか、拡大を続けています。
セブン‐イレブンの店舗が広がるのはもちろんですが、それ以外の場所でも、お客様が使いやすいところについては増やしていこうと考えています。「流通」「交通」「観光」の3つのキーワードで場所を探しては設置をしていくスタンス。流通はショッピングセンター、交通は空港や駅、観光は観光施設、こういったところにATMを置いて、みなさんに使っていただく。これは今後も広げていきます。

―― メガバンクが支店を減らしてリストラを進めるなか、コンビニATMには社会インフラとしての責任も求められますね。
可能であれば、提携金融機関は自分たちのATMを減らしていって、我々のような銀行のATMを活用していただければ。規模の利益で効率的にやっていけるところがやればいいのではないかなと。

―― そうなると、提携金融機関とより深い関係になりますか。
すべての金融機関とお話はしていますが、金融機関同士で効率化して一本化しようというところもありますし、地元銀行同士がATMを共同化しようとしているところもあり、私たちのATMに興味を持っている金融機関もあります。でもなかなか進んでいないですね。慎重に判断されているようです。

―― 銀行の支店が減るなかで、コンビニATMの需要は増えていると思いますが、一方でキャッシュレス化が進み、現金をおろす必要がなくなる可能性もあります。
キャッシュレス化は政府がどんどん推進していますからね。極端に言えば、かつての公衆電話と同じで、ある日気がついたら町中からATMがなくなっているかもしれません。スマートフォンと電子マネーで決済でき、チャージもスマホのなかでできてしまいますから、現金を介在させなくても済んでしまう。

半面、そんなにすぐには変わらない、特に日本は変わらないという話もあります。日本は現金志向が強く、また災害大国ですから、停電になるとデジタル決済が使えなくなる。レジも動きませんし、スマホも電池切れだと何もできなくなってしまいます。結局、財布やタンスに入っている現金が必要になる。ですから、日本のような自然災害が多い国では、そのたびごとに現金の必要性がリマインドされますので、なかなかなくならないのではないか。

―― 北海道胆振東部地震ではまさに停電が影響しました。
デジタルはまったく使えないですね。しかしながら、デジタル化は着実に進んでいますので、我々のATMは現金の入出金にいつまでも頼っていては成長性がありません。新しいデジタル化の波、キャッシュレス化と言われるなかで、このATMは新しいチャネルになり得るのではないかと、いろいろと新しい機能も付加しています。

その1つとして、10月からSuicaやEdyなどの電子マネーをセブン銀行のATMでチャージできるようにしました。交通系電子マネーは、現金でチャージしようと思うと、駅にいかなくてはいけなかったんです。ATMでチャージできるようにしてほしいというニーズがあったので、そうしましょうと。これも現金が介在しているわけですが、過渡期にはそういうニーズがありますので、しっかり掘り起こしていく。他のペイメントでもチャージや出金をするチャネルとしてセブン銀行のATMを使いたいというニーズはあります。デジタルの決済事業者も一気にデジタルで完結できませんから、やはりATMとの接点を求める声はあります。こうしたところにも私たちはサービスを提供していこうと、ATMの位置づけ自体を変えていこうとしています。

外国人の利用も急増

―― セブン銀行で海外送金を行うなど、外国人の利用者も増えているそうですね。
我々は「いつでも、どこでも、だれでも、安心して」使えるATMサービスを作り上げてきました。セブン‐イレブンに来るお客様は日本人もいれば外国人もいますし、健常者もいれば障がい者も、お子さんもいればお年寄りもいます。その方たちみんなが使える端末にしていこうとUI/UXもユニバーサルデザインにしていますし、外国人観光客の方でも使えるように画面は12言語対応にしています。また、今後は日本で働く方も増えるでしょう。その時に、日本語の画面しかなければ使えないですし、コールセンターも9言語対応にして不自由なく使えるようにしています。

―― 現在はどれくらいの割合で訪日外国人に使われているんですか。
我々のATMは平均1日に200万人に使われていまして、そのうち1%が外国人のお取引です。2万人の人が使っていることになります。全国で平均して1%ですから、都心部や観光地はもっと高い割合でしょう。日本に来られている外国人、特に観光客の半分以上は私たちのATMを使っています。というのも多言語対応したATMを持っているのはゆうちょ銀行さんと我々だけですし、訪日外国人の方にとっては郵便局を探すよりセブン‐イレブンを探すほうが圧倒的に楽でしょう。外国人はこれからますます増えると言われていますから、利用もさらに増えていくと思います。

―― 多言語対応のほかにも、スタートアップ企業を巻き込んだイノベーション企画にも積極的ですね。「セブン・ラボ」は注目が高いです。
もともと5人で始まったものですが、スタートアップ企業を回ったりしながらアイデアを募集し、身軽に動いています。オープンイノベーションとして、私たちのATMを使って商売をしたい方は提案してくださいというと、たくさん集まってきます。選抜しながらも、いくつかやってみようという提案もあり、広がってきました。社内では一定の制約のなかでアイデアを考えてしまうのですが、社外からはまったく違う発想でアイデアが出てきます。スタートアップ企業と直接話をすると、担当する社員たちがすごく刺激を受けてくる。社員の能力、意識を底上げする意味でもすごくいい効果が出てきています。

―― 舟竹社長から見て、おもしろいアイデアはありましたか。
銀行法の制約があって、いまは実現できないのですが、ATMで健康をチェックしましょうとか。1日200万人の顔画像があるわけですから、なにか見えてくる。そういう分析に使えないかとか。また、カメラを使って本人確認ができないかなど、検討しています。

ATMを軸に据えたビジネスモデルは銀行業界でも特異なスタイル。ローソンはどう動くか。

ATMを軸に据えたビジネスモデルは銀行業界でも特異なスタイル。ローソンはどう動くか。

こうした試みは他の金融機関では難しい気がします。銀行員は、まず銀行口座を使ってどんなサービスができるだろうと考えます。ところが、私たちの持っている最大の強みはATMの端末、マシンです。マシンは店舗に行けば目に見えるものですから、これを使って何かをやりたいというアイデアを持った人が出てくる。ふつうの銀行ですとATMが1万、2万とあるわけではありません。銀行口座はセキュリティの面からも難しいことが多く、外からは見えないものです。目に見えるマシンを使ってどうするか、スタートアップの方もイメージしやすいのでしょう。まずセブン‐イレブンの店舗を活用できないか、それからATMを活用できないか、こういう話がたくさん集まってきます。

―― 前社長の二子石さん(現会長)は、技術オリエンテッドになるなと言われていました。
お客様のニーズが先です。それがないと自己満足で終わってしまう。フィンテックといえば技術オリエンテッドの発想。お客様ニーズから入って技術を活用し、新しい世界を開こうとするスタートアップもいらっしゃるので、見極めながら進めていかなくてはいけません。

―― 中期経営計画では多角化を打ち出していますし、新しいサービス開拓にはこうした銀行以外の視点も重要ですね。
ATMのマシンをベースにビジネスをし、特にいままでは現金が介在するサービスを実装してきました。しかし、このマシンの強みは今後も活かしながら、必ずしも現金に関係がないようなサービスも検討しています。先ほどの本人認証をできるようにして住民票の登録もできるとか。コンビニエンスを追求していくわけです。また、スマホが身近な端末になったなかで、従来の他の銀行との関係を活かしながら、金融商品が売れるようなプラットフォームを作っていくことも考えられます。

―― 決済口座事業でのサービスも強化すると?
銀行口座サービスの機能強化も考えなくてはいけません。最近は銀行でなくても、電子決済代行業者といいますが、銀行免許がなくても銀行の口座に指示を出すことができるサービスも広まってきています。私たちも銀行口座よりお客様に身近なところに新しいプラットフォームをつくって、銀行口座のアカウントを動かせるような、便利なサービスを広めていきたいと考えています。

―― LINEPayや楽天Payのようなペイメントサービスを検討しているとか。
スマホアプリで使えるようなサービスを提供できるよう、セブン・セブン銀行とセブン・フィナンシャルサービスが出資をしてセブン・ペイという会社を作りました。いまは構想を描きながら進めようという段階です。ATMで現金のビジネスはさらに磨き上げていきますが、一方で現金が使われなくなったとしても、私たちのサービスが成り立つようにスマホをベースにした新しい世界にも展開していこうと思っています。

コンビニ銀行業界の誕生

―― このタイミングでローソンが銀行をつくったのは興味深いですね。コンビニ銀行として初めての競合相手です。
我々もいままで1人で道を歩いてきたわけですから、ライバルであり抜かれないようにと、いい緊張感が出るのではないでしょうか。でも同じ道を歩く人が現れたことは、同業者という仲間のような意識もあります。ようやくコンビニ銀行という業界ができた。

―― 最初はマネされる部分も多いかもしれない。
すでにローソンATMネットワークさんがATMを置いていますので、お客様からすると変化を感じないかもしれませんね。銀行になったことでどのような商売をベースにするかでしょう。

セブン銀行は口座を広げるのではなく、ATMというプラットフォームを軸にして、口座での商売は提携銀行の脅威にならないように普通預金と定期預金、簡単なローン程度で、住宅ローンなどはやっていません。同じ流通系でもイオン銀行さんは住宅ローンをはじめ金融商品をなんでも扱っていらっしゃる。

―― ローソン銀行のカードでもセブン銀行のATMで下ろせるようになるんですか。
どうなるんでしょうね(笑)。我々はいつでも、どこでも、だれでも、というスタンスですから、カードはよろしければ使ってくださいという考えですね。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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問い合わせ殺到のQRコード決済 日本でも進むキャッシュレス化 アララ社長 岩井 陽介

中国では当たり前のように見られるようになったQRコード決済。日本ではまだまだ現金での支払いが主流のなか、QRコードを開発したデンソーウェーブとアララが高セキュリティを実現した決済方法を提案した。

中国では急成長

今年3月に行われた「リテールテックJAPAN2018」で、デンソーウェーブのブースに登場し、注目を集めたのがQRコードRを活用したキャッシュレス決済技術だった。これは電子マネーなどのソリューション事業を手掛けるアララの決済技術と、デンソーウェーブが開発したセキュリティ機能を高めたQRコードの技術をもとに共同で開発するもので、本格的に導入されればスマートフォンを使った決済の幅が大きく広がることになるという。アララ社長の岩井陽介氏は次のように話す。

QRコード決済について解説するアララ社長の岩井氏(右)と取締役の竹ヶ鼻氏。

「これまで日本では、磁気カードやSuica、楽天EdyなどのICチップを使った電子マネー決済が主流でした。ところが世界的にスマートフォンが主流になり、QRコードを読み取ることで決済ができるようになっています。Felica(フェリカ)チップを使わず、低コストでキャッシュレスのシステムができることで、中国などで非常に伸びてきています。中国ではAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウイチャットペイ)の2つに集約され、お店は初期の導入費がかからないため、小さなお店でもQRコード決済が伸びてきています」

今回、展示されたものは、POSで金額を打ち込むと、レジのサブ画面にQRコードが表示され、それをユーザが自分のスマホで読み取り、タップすることで決済が終了するというものだ。ただし、中国などで使われているQRコードとはセキュリティ面などで大きく異なる仕様となっている。

「今回、提供させていただいたのは、デンソーウェーブ社が独自開発した『フレームQRR』やセキュリティ機能を持つ『SQRCR』を活用したもので、有効期限付きのワンタイムQRコードにすることでより安全性を高めています」(岩井氏)

従来のQRコードは、デンソーウェーブが1994年に発表し、仕様を公開、誰でも作成でき、誰でも使える環境になっている。そのため中国では、偽のQRコードを利用したなりすましや詐欺事件など、悪用されるケースも発生した。アララ取締役の竹ヶ鼻重喜氏は決済のセキュリティについて次のように話す。

「中国ではお店に貼られたQRコードをユーザが読み込み、金額を打ち込んで決済ボタンをタップし、決済完了の画面を店員に見せることで支払いを済ませるスタイルを取り入れている店舗があります。ところが、お店に貼っているQRコードの上に偽物のQRコードを貼られ、ユーザがスキャンをしたら別の個人の口座に送金されるという事件が実際に起きました。

フレームQRは、デンソーウェーブの専用デコードエンジンでなければ読むことができません。さらに通常のQRコードはアプリ内のエンジンが解析するのですが、フレームQRではいったん通信をしてサーバーでデコードをし、それをスマホに戻しています。つまりサーバーにログが残るのでいつ誰がどこでデコードをしたのか、きちんと発行したQRコードなのか、サーバー上でチェックできる仕組みになっています。また『SQRC』もサーバー通信しますが、これはふつうのQRコードリーダーで読めば『A』という表示しかされませんが、専用のリーダーで読めば裏側の『B』という情報も読めるものです。偽造をしようにも表面の『A』しか読めないため、改竄ができない仕組みになっています」

デンソーウェーブとアララが共同開発したQRコードリーダー「Q」のダウンロードはこちらから。

サーバーと通信することで、お店側とユーザ側がともに確定することができ、電子レシートが発行され、履歴も残るという。ユーザがタップして送金した情報が、その場でレジにも届き確認できるのが理想だ。

日本ではカードにしろスマホアプリにしろ、Suicaや楽天Edyをはじめ、Felicaチップを採用した電子マネーが一般的だ。しかしQRコード決済を前提にした決済方法も増えてきている。NTTドコモの「d払い」はスマホに表示されたバーコード(QRコード)を見せて店側に読み取らせる形、Origami Payはレジ側のQRコードをユーザが読み取って決済する形を採用した。楽天ペイ、LINEペイなども実店舗での決済はバーコードあるいはQRコードを使っており(d払いと同じ方式)、仮想通貨のビットコインでもビックカメラなどで買い物をする際はQRコードを使った決済(Origami Payと同じ方式)が採用されている。

「内閣府の『未来投資戦略2017』では27年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度に増やす発表がされるなど、日本自体がキャッシュレスを進める動きになっています。キャッシュレス化が進めば店舗のオペレーションも簡略化され、便利な世の中になるはずです」(竹ヶ鼻氏)

「我々の提供するハウス電子マネーサービスに繋げることもできますし、クレジットカード、デビットカード、口座引き落としなど、複数の手段に対応することを想定しています。外国人観光客も増え、お店も様々なペイメントに対応しなければならないなか、QRコードを使うことで煩雑さを減らせるソリューションを提供していきたいですね」(岩井氏)

QRコード決済で、日本にもキャッシュレス化の波が一気に押し寄せることになるかもしれない。

        レジ横の画面に表示された「フレームQRR(R)」を読み込む。                 ユーザが支払い確定のタップをすることで決済完了。

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【BOSS×WizBiz】増える会員企業  18万社の悩みと対峙

新谷 哲 ウィズビズ社長

新谷 哲 ウィズビズ社長
しんたに・さとる 1971年東京生まれ。大学卒業後、ベンチャー・リンク入社。仙台支店長、東日本事業部長、執行役員を歴任。その後、常務執行役に就任し、経営コンサルティング部門や営業部門、サービス提供部門を統括。2010年に独立し、WizBizを設立。18万社の会員企業を持つ経営者向けネットメディア「WizBiz」を運営している。

2年間の成果

―― 2012年にスタートした弊誌とWizBizのページも、最終回となります。前回、新谷社長の登場は16年でした。70万人の会員企業・メディアで扱うサイト数を100まで増やすことを目標に掲げていましたね。
当社の創業は10年。企業の悩みを解決するビジネス・マッチングサイトです。

前回インタビュー時の会員数は15万人でしたが、現在は18万人を超えたところ。

サイトの数ですが、絶対数が増えるだけでなく、活用するメディアが拡大しています。「YouTube」「ポッドキャスト」「LINE@」「Facebook」などを含めるとコンテンツはすでに200以上です。

当社の収益の柱は広告です。宣伝もFAXやテレマーケティングといった従来の手法と、「Twitter」や「Instagram」などの新しい広告を使い分けています。

―― 会員は中小・零細企業が中心です。全会員の約8割を占めている。
当社も含め、日本全体の企業のうち8割は従業員20人未満の企業ですから、平均値に近いということです。WizBizの大きな使命は「世界の経営者のことを一番わかってあげられる存在」になること。

当社では社員に副業を奨励していますが、これは社員に社長の苦労を思い知って、経営者に共感できるようになってもらいたいからでもあります。

―― 中小企業の悩みと言えば、人材不足。採用の難しさが思い浮かびます。
現在の大企業の有効求人倍率は0.69倍です。一方で、中小のIT企業では6倍以上、建設業では9倍を超えている。

採用とは、自分の会社を面白がってくれて、入社後に活躍できる人材を集めないといけないわけです。しかし、雇う側の会社も、就職する側の人間も、たとえば66大学を出て安定した大企業で働くような社員像を求めてはいないでしょうか?

大企業では相談を受けたときに指示を出して、それ以外は座っているような部長や役員がたくさんいます。その下に頭が良くて作業は早いけれど決断はしないサラリーマンがいるという組織です。しかし、中小企業では自分で考えて動く人間しか働けません。社長自ら営業し、契約書を作成し、仕事を決めていかねばならないのです。大企業と同質の人材を欲するわけがない。

まず、自社で活躍できる人材は誰なのか、どこにいるのかをマーケティングする必要があるのです。そこを見定めて面接の質問なども決めていくべきですが、そうした採用戦略をとっている会社は極めて少ない。それほど自分の会社の本質を理解することは難しいということです。

―― WizBizの採用事情はいかがですか。
当社は社員数20名弱です。慶応大学卒業の高学歴者から、ホスト経験者まで様々な経歴の社員が働いていますが、安定を求めて就職した人間はいません。むしろ社会からあぶれてしまった人間こそ採用したいですね。

当社がお付き合いする経営者は、規範や標準におさまらない人がほとんどですから、順風満帆に生きてこれなかった人間のほうが向いています。コミュニケーションや日本語力は入社後に教えればいい。それも社長の仕事です。

創業者の役割

―― 前回のインタビューでは、「社長にはなりたくなかった」と話していましたね。
今でも同じ気持ちですよ。創業時から今まで、私が社長をやるべきだから続けているだけです。やる気の有無で社長をしていたら、会社が潰れてしまうでしょ(笑)。ですから、経営者にとって怖いのは、その地位に驕りを持つことかも知れませんね。

いずれは、プロ経営者や、社内から育てた役員なりに後を任せたい。自分の子供に継がせるつもりは全くありません。

―― 経営者の資質とはどのように培われると考えますか。
ひとつの要素としては、強い組織風土・企業文化が、それを体現する経営者を育てるということです。歴史ある企業には必ず「家訓」があります。企業理念・綱領・クレドともいいますが、家訓を持つ企業は、何度経営者が変わり、買収されようと継続していく。創業者の重要な役割のひとつは「家訓」をつくることだと言えます。

次の通過点に向けて

―― 今後の展望はどうですか。
前回のインタビューでIPOを視野に入れていると話しましたが、準備が進んでいます。またリーマンショックのようなことが起こらなければ、早ければ来年にも上場することになるでしょう。上場は資金を集め、有効な宣伝にもなる。会員数を大幅に獲得するためにも重要な通過点です。

いまは私がひとりでがむしゃらに動かなくても組織全体で収益があがるモデルができあがり、自然体でも上場できそうな段階まで来ました。

しかし、気を抜くとすぐに時代が変わり、取り残されてしまうのがITビジネスです。まだ我々のサービスは事実上のオンリーワンに近いナンバーワンですが、やがてライバルも出てくるはずです。

だから理想は持ちません。会社経営は、常に上を目指さざるを得ない。設定された理想に到達して満足した瞬間、崖から突き落とされるような世界でしょう?

目下のビジョンは会員数70万社。「世界の経営者のことを一番わかってあげられる存在」になるには、まだ遠いですよ。上場はスタートラインですらないのです。

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